SSブログ

新型インフルエンザ(H7N9)111例の臨床経過 [インフルエンザ(H7N9)]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

風疹の単独ワクチンは既に枯渇しましたが、
風疹と麻疹の混合ワクチンのMRワクチンも、
診療所でも毎日10名近い患者さんへの、
接種を継続していますが、
昨日問屋さんからは、
そろそろ供給が厳しい、
というお達しがありました。

つまり、早晩枯渇します。

こうした状況になるのは、
最初から分かっていた筈なのに、
「全国民にMRワクチンを!」
のような扇情的な発言を繰り返す、
自称専門家の方が多いのには、
本当に驚きます。

会社員をターゲットにして、
ワクチンを打ちまくるようなことを、
自らの使命のように主張されている方もいますが、
それでワクチンが枯渇したら、
どうすれば良いのでしょうか?

緊急輸入すれば良いと、
言われる方もいますが、
それはインフルエンザワクチンより、
遥かにハードルが高いように思います。
MMRワクチンの問題も解決していませんし、
ワクチン株も海外とは異なります。
それを強引に輸入するのは、
それこそが安全軽視の最たるものではないでしょうか?

以前は僕も厚労省の悪口を随分書きましたが、
昨今の経過を見ると、
今はむしろお役人様が、
非常にお気の毒に思えます。

今は矢張り、
優先順位を作って、
限りのあるワクチンを有効に使うのが、
最善の策なのではないですか?
でも、それを言うと、
「そんなことで妊娠された方の感染を防げるのか?」
と攻撃するのですから目も当てられません。
あっちからこう言われ、
こっちからはこう言われ、
入口も出口も塞いだ上に両手両足を縛り上げ、
それで出口戦略がないようなことを言われるのですから、
どうすりゃいいんだ、
という感じです。

風疹の流行は、
本当にワクチン接種率の低さだけが原因でしょうか?
何か他にも疫学的に、
検証するべき点があるのではないでしょうか?

急に患者さんが増えたように言われますが、
それは必ずしも事実ではないと思います。

大々的に報道されるまでは、
「風疹疑い」の患者さんの報告を挙げても、
集団感染以外は、
あまり取り合ってはもらえない感じだったからです。
要するにこれまでは、
決して全ての事例が報告されているのではなかったのに、
問題になると今度は挙って報告を挙げるので、
それで急増したように見える、
という側面もあるのではないでしょうか?

すいません。
しかられそうなので、
これくらいで今日の話題です。

今日はこちら。
新型インフルエンザH7N9の臨床.jpg
鳥インフルエンザ由来の、
新型インフルエンザ(H7N9)の人間への感染が、
落ち着きつつはあるものの、
まだ中国で続いています。

今年の3月下旬の発生以降、
中国発の多くの論文が一流誌の紙面を飾り、
その対応の早さや、
遺伝子の解析結果の精度の高さなどで、
世界に中国の科学技術レベルの高さを、
印象付けました。
この辺りはさすがと言うべきか、
非常にしたたかです。

今回の文献は、
今年の5月10日までの時点で、
遺伝子レベルで感染が確認されている、
この新型インフルエンザの患者さん全131名のうち、
84.7%に当たる111名の患者さんの臨床経過を解析したものです。

これまで小出しに発表された、
個別の患者さんの事例は、
基本的には全て含まれています。

内容はこれまでに発表されたものが殆どですが、
それでも、今の時点で、
100例を越える患者さんの経過を、
整理しておくことは意義のあることだと思います。

それでは、
掻い摘んで内容をご説明します。

患者さんの平均年齢は61歳で、
14歳以下は2名のみ、
65歳以上が47名で全体の42.3%です。
性別は女性が35人で31.5%です。

この年齢と性別分布の不均衡については、
まだ明確な結論が出ていません。

上記文献においては、
感染者が高齢者に多い理由として、
仕事を引退後の高齢者は、
鳥や家禽と接触する機会が多い、
ということと、
高齢者は他の疾患の合併が多く、
同じ感染機会があっても、
より重症化し易かったのではないか、
と言う推測が記載されています。
実際患者さんのうちの61.3%は、
高血圧や心臓病などの、
基礎疾患を持っていました。

ただ、
男性に少ない理由については、
特にコメントはありません。

家禽との接触は55.9%に当たる62名の患者さんで確認されていて、
そのから推測される平均の潜伏期間は5日間で、
概ね2~8日の間に分布しています。

初発症状は急な発熱と咳で、
この咳はすぐに痰絡みになり、
数日で重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群、
そしてショック状態に移行します。
医療機関受診時のレントゲン所見において、
97.3%に当たる108名が肺炎を呈していました。
両肺のスリガラス様陰影と、浸潤影が典型的な所見です。
咽喉の痛みや鼻汁、結膜炎は報告されず、
下痢や吐き気も1割程度の患者さんに見られただけです。

5月10日の時点で、
30名の患者さんが死亡し、
49名の患者さんは治癒して退院し、
30名の患者さんはまだ入院中で、
そのうちの24名は集中治療室に入っています。

タミフルなどの抗ウイルス剤は、
97.3%に当たる108名の患者さんで使用されましたが、
平均の使用開始時期は、
症状出現7日後で、
使用開始はかなり遅くなっています。

急性呼吸窮迫症候群に移行するリスクは、
3日以前に抗ウイルス剤を開始した場合と比較して、
3日以降で開始した患者さんでは2.42倍に、
有意差はないものの増加していて、
咽喉からウイルスが検出されなくなるまでの期間は、
症状出現から平均11日でしたが、
抗ウイルス剤の使用後平均6日となっています。
従って、断定的には言えませんが、
ガイドライン通り症状発現より早期に使用すれば、
ある程度の抗ウイルス剤の効果は、
あるように推測はされます。

今回検証された事例は、
あくまで重症感があって、
病院を受診した患者さんのみの検証なので、
実際には軽症であったり、
症状の出ないまま経過した感染者が、
どれだけの数存在しているのかは分かりません。

北京で7歳のお子さんのお母さんが、
このウイルスの不顕性感染であることが、
確認されていますが、
そうした事例がどれだけあるのかは、
現時点ではまだ未知数なのです。

日本においては、
まだ対岸の火事という感じで、
「こんなに風疹が流行って世界に向かって顔向けが出来ない」
といったような、
新種の自虐史観のような議論の方が盛んですが、
このH7N9は終息に向かうとしても、
鳥インフルエンザの新種の流行自体は、
決して遠い世界の話ではなく、
「今ここにある危機」であることは間違いのないことなので、
こうしたデータを整理して、
末端の医者の端くれとして、
出来ることは何かを確認しておくことも、
重要なのではないかと思いまとめてみました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(25)  コメント(5)  トラックバック(0) 

nice! 25

コメント 5

simose

風疹の予防接種、たくさんされているようですが、以前のエントリーにあったように、成人の関節痛の副反応の頻度は、やはり高いように感じられますか?
by simose (2013-06-22 20:10) 

fujiki

simose さんへ
極力接種前の問診では、
関節炎のお話はさせて頂いているのですが、
現状ははっきりそうしたことを、
接種された方から聞いたことは、
今の時点ではありません。
正直実際的なその頻度は不明です。
接種ご希望の方の殆どは、
ご妊娠をお考えになっている女性の方か、
その配偶者の方ですので、
接種の必要性は、
副反応のリスクを上回る、
という判断の元に、
接種をさせて頂いています。
by fujiki (2013-06-22 20:55) 

simose

お返事ありがとうございました。

まだ確かな事は言えないのだと思いますが、ちょっとだけ不安が少なくなりました。

いつもブログ拝見させて頂いて、先端の知見を知ることができ、ありがたいです。

お仕事お忙しいと思いますが、お仕事もブログも頑張って下さい。
by simose (2013-06-23 08:40) 

suwacomame

こんにちは。興味深く読ませていただいております。
風疹は、妊婦とその周囲に限って接種費用を助成したりしているようですが、妊婦と判明した時点で受けても手遅れだろうと思うと、そんな助成はものすごく頭が悪く間違っていることのようにすら思ってしまうのですが、有効な助成なのでしょうか・・・
by suwacomame (2013-06-24 11:25) 

fujiki

suwacomame さんへ
それはこれから妊娠をお考えになる方への、
助成ということだと思います。
本来は流行する前に、
ご妊娠適齢の女性に対して、
幅広くワクチン接種を助成する、
という対策があれば、
最も有効性が高かったのですが、
それに失敗してもう既に流行してしまっているので、
「まだ妊娠されていない」女性に接種すると共に、
妊娠されている方のパートナーなどに、
接種を推奨しているのです。
ただ、接種の出来ない人の感染を防ぐために、
その周辺の人が接種する、
という方針では、
非常に効率が悪く、
極端に言えば全員でワクチンを打たないといけなくなるので、
その点の対策の遅れが、
批判されている訳です。
by fujiki (2013-06-25 08:27) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0