コデインによるモルヒネ中毒とそのメカニズム [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2012年のPediatrics誌に掲載された、
お子さんの扁桃腺切除手術後に、
疼痛緩和目的で使用されたコデインによる、
2例の死亡事例と、
1例の重症事例とを、
紹介して考察を加えた文献です。
この文献が大きなきっかけとなり、
昨年アメリカのFDAは、
扁桃腺切除後のお子さんへのコデインの使用に、
警告を出しました。
コデインは麻薬性鎮痛薬の一種ですが、
その10%程度が代謝されてモルヒネに変換され、
鎮痛作用を現わします。
つまり、
モルヒネの10分の1の効果という、
非常に弱い麻薬です。
このため、
このコデインは痛み止めや咳止めとして、
麻薬の処方でなくても使用が可能です。
現行日本においては、
コデインそのものが処方されることは少なく、
その誘導体で同様の作用を持つ、
ジヒドロコデインが専ら使われています。
ブロチンコデインシロップは、
ッジヒドロコデインが1回量で15~20mg含まれていますし、
フスコデやカフコデには、
1回量で9mg程度のジヒドロコデインが含まれています。
こうした薬剤は、
用量は少し違いますが、
薬局で販売されている市販薬にも含まれていますし、
その中にはお子さんにも使用の可能なものもあります。
海外ではイギリスのように、
コデインの一般への販売が規制されている国もありますから、
日本はこうした依存性のある薬剤の使用について、
安全を重視した立場には、
基本的に立っていない、
ということが分かります。
コデインは基本的には非常に弱い麻薬なので、
その安全性には大きな問題はない、
と考えられています。
そのため、
アメリカやカナダでは、
お子さんに対する鎮静薬としても、
使用されていたのです。
ところが…
扁桃腺の摘出手術後の疼痛緩和目的の使用において、
お子さんが急変する事例が、
複数報告される事態になりました。
上記の文献にある事例1は、
カナダで扁桃腺摘出の手術を受けた、
体重27.6キログラムの4歳の男児で、
手術後コデインシロップ1回量8mgを、
1日5回を限度に屯用で使用したところ、
退院の2日後に心肺停止で見付かりました。
死後の採血では、
通常の治療量上限の2倍近い濃度の、
コデインが検出されました。
1回8mgという使用量は、
海外の通常の体重換算の使用量です。
それで何故こんなことが起こったのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
コデインの代謝を示した図です。
コデインの代謝経路は複数ありますが、
そのうち肝臓の薬物代謝酵素である、
CYP2D6による代謝を受けると、
それがモルヒネになります。
代謝酵素の活性に特に問題がない場合、
モルヒネに変換されるのは、
コデインの10%程度です。
しかし、
CYP2D6には代謝酵素の活性の違う、
遺伝子の変異のあることが知られています。
このうち日本人に比較的多い変異は、
代謝活性のないもので、
この変異を仮に2つ持っている人は、
このCYP2D6の代謝が行なわれず、
この酵素で代謝される薬剤は、
身体に蓄積してしまいます。
その一方で、
頻度的には稀ですが、
通常よりずっと代謝活性の高い変異が、
存在しているとされていて、
今回のコデインによる重篤な中毒症状の、
多くでこの変異が、
確認をされています。
この活性型の変異は、
日本人や中国人では人口の1%未満ですが、
中東や北アメリカでは人口の15%以上存在する可能性がある、
とされています。
代謝活性が高い変異の場合、
通常は10%のモルヒネへの変換が、
もっと多く行なわれるため、
より多くのコデインを服用したのと、
同じことになり、
それにより中毒症状が出現したものと考えられたのです。
ただ、
現状こうした中毒の事例は、
扁桃腺の切除術の後の事例のみが、
圧倒的に多く報告されていて、
それが何故であるのか、
と言う点については、
まだ解明がされていません。
日本においては、
コデインの使用は、
お子さんの扁桃腺の手術後には、
行なわれてはいないようですし、
ジヒドロコデインのリスクを、
コデインと同様に考えることは出来ませんが、
コデイン自体の管理は非常に甘い面があり、
この薬の問題点を把握した上で、
慎重な使用を心掛けたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2012年のPediatrics誌に掲載された、
お子さんの扁桃腺切除手術後に、
疼痛緩和目的で使用されたコデインによる、
2例の死亡事例と、
1例の重症事例とを、
紹介して考察を加えた文献です。
この文献が大きなきっかけとなり、
昨年アメリカのFDAは、
扁桃腺切除後のお子さんへのコデインの使用に、
警告を出しました。
コデインは麻薬性鎮痛薬の一種ですが、
その10%程度が代謝されてモルヒネに変換され、
鎮痛作用を現わします。
つまり、
モルヒネの10分の1の効果という、
非常に弱い麻薬です。
このため、
このコデインは痛み止めや咳止めとして、
麻薬の処方でなくても使用が可能です。
現行日本においては、
コデインそのものが処方されることは少なく、
その誘導体で同様の作用を持つ、
ジヒドロコデインが専ら使われています。
ブロチンコデインシロップは、
ッジヒドロコデインが1回量で15~20mg含まれていますし、
フスコデやカフコデには、
1回量で9mg程度のジヒドロコデインが含まれています。
こうした薬剤は、
用量は少し違いますが、
薬局で販売されている市販薬にも含まれていますし、
その中にはお子さんにも使用の可能なものもあります。
海外ではイギリスのように、
コデインの一般への販売が規制されている国もありますから、
日本はこうした依存性のある薬剤の使用について、
安全を重視した立場には、
基本的に立っていない、
ということが分かります。
コデインは基本的には非常に弱い麻薬なので、
その安全性には大きな問題はない、
と考えられています。
そのため、
アメリカやカナダでは、
お子さんに対する鎮静薬としても、
使用されていたのです。
ところが…
扁桃腺の摘出手術後の疼痛緩和目的の使用において、
お子さんが急変する事例が、
複数報告される事態になりました。
上記の文献にある事例1は、
カナダで扁桃腺摘出の手術を受けた、
体重27.6キログラムの4歳の男児で、
手術後コデインシロップ1回量8mgを、
1日5回を限度に屯用で使用したところ、
退院の2日後に心肺停止で見付かりました。
死後の採血では、
通常の治療量上限の2倍近い濃度の、
コデインが検出されました。
1回8mgという使用量は、
海外の通常の体重換算の使用量です。
それで何故こんなことが起こったのでしょうか?
こちらをご覧下さい。
コデインの代謝を示した図です。
コデインの代謝経路は複数ありますが、
そのうち肝臓の薬物代謝酵素である、
CYP2D6による代謝を受けると、
それがモルヒネになります。
代謝酵素の活性に特に問題がない場合、
モルヒネに変換されるのは、
コデインの10%程度です。
しかし、
CYP2D6には代謝酵素の活性の違う、
遺伝子の変異のあることが知られています。
このうち日本人に比較的多い変異は、
代謝活性のないもので、
この変異を仮に2つ持っている人は、
このCYP2D6の代謝が行なわれず、
この酵素で代謝される薬剤は、
身体に蓄積してしまいます。
その一方で、
頻度的には稀ですが、
通常よりずっと代謝活性の高い変異が、
存在しているとされていて、
今回のコデインによる重篤な中毒症状の、
多くでこの変異が、
確認をされています。
この活性型の変異は、
日本人や中国人では人口の1%未満ですが、
中東や北アメリカでは人口の15%以上存在する可能性がある、
とされています。
代謝活性が高い変異の場合、
通常は10%のモルヒネへの変換が、
もっと多く行なわれるため、
より多くのコデインを服用したのと、
同じことになり、
それにより中毒症状が出現したものと考えられたのです。
ただ、
現状こうした中毒の事例は、
扁桃腺の切除術の後の事例のみが、
圧倒的に多く報告されていて、
それが何故であるのか、
と言う点については、
まだ解明がされていません。
日本においては、
コデインの使用は、
お子さんの扁桃腺の手術後には、
行なわれてはいないようですし、
ジヒドロコデインのリスクを、
コデインと同様に考えることは出来ませんが、
コデイン自体の管理は非常に甘い面があり、
この薬の問題点を把握した上で、
慎重な使用を心掛けたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-06-20 08:05
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