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インフルエンザ(H7N9)の臨床的な特徴について [インフルエンザ(H7N9)]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
H7N9の疫学NEJM.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌電子版に掲載された、
中国で多数の死者を出している、
鳥インフルエンザ由来と思われる、
H7N9というタイプのインフルエンザについての、
主に疫学的特徴をまとめた論文です。

これ以外にも明日ご紹介するLancetの論文もありますし、
最初の報告が確認されてから、
1ヶ月も経たないうちに論文ラッシュで、
ちょっと複雑な思いにも捉われます。

論文の内容はしっかりしているのですが、
中国の医療レベルの高さや、
対応の迅速さ、
研究機関のレベルの高さなどを、
強くアピールするような内容になっていて、
かなり戦略的なものを感じますし、
先日ご紹介したNew England…には初期の3例の報告があり、
Lancetにはそれとは別個の4例の報告があって、
内容もそう違うものではないので、
ある種有名医学誌に、
同時期に振り分けて論文を出した、
という感じもある訳です。

新型インフルエンザの発生源という立場を、
逆転させて、
科学技術大国としての、
中国の立場をアピールするのですから、
そのしたたかさに舌を巻く思いもし、
その力に圧倒される思いもします。

それはともかく…

上記の文献では今年の4月17日までに判明した、
この新型インフルエンザウイルスの、
82例の患者さんを解析しています。

中国においては、
原因不明の肺炎の事例を報告するシステムがあり、
それにより664例の入院患者さんが、
3月25日から4月17日の間に登録され、
そのうちの12.2%に当たる81名の患者さんの検体から、
今回問題になっているインフルエンザH7N9ウイルスが検出された、
という結果です。

一方でインフルエンザの監視のためのシステムとして、
インフルエンザ様の症状を呈した外来の患者さんのうち、
5551名の同時期の検体のチェックでは、
1名の患者さんからH7N9ウイルスが検出されました。

つまり、
このインフルエンザH7N9の感染は、
その殆どが重症の肺炎を呈していて、
軽症の事例は極めて少ない、
ということが分かります。

感染の確定した患者さんでは、
家族やその患者さんを診察した医療者など、
濃厚な接触の疑われる患者さんの、
接触者検診が行なわれます。

接触者検診を行なった人数は1689名で、
このうち1251名は1週間の経過を観察することが可能で、
その間に呼吸器症状は19名に出現しましたが、
H7N9ウイルスの感染はその19名からは1人も確認されませんでした。

人から人に簡単に感染が起こるものなら、
接触者の中から感染者が少なからず生まれる筈です。

従って、
この結果からは、
このウイルスの人から人への感染は、
極めて起こり難い、
ということが確認されるのです。

一方で感染者同士に関連のあるケースが、
この論文で検証された範囲で2つ存在しています。

こちらをご覧下さい。
ヒトヒト感染疑いの2例.jpg
図の上の部分は上海市の感染の事例ですが、
同一家族で3名の患者さんが出ています。
下の部分は江蘇省の事例ですが、
2名の患者さんが連続して発症しています。

こうした事例があるので、
人から人への感染が、
現時点では完全に否定は出来ないのです。

ただ、
家族発症ではありますが、
実際には別個に鳥などの動物との接触により、
感染した可能性も否定は出来ないのです。

個人的には、
人間への感染が成立しているのですから、
人から人への感染が、
完全に起こらない、
ということはないと考えます。
一定の条件が整えば、
人から人への感染も起こり得るのだけれど、
現時点ではそれはかなり限定的にしか起こらない、
と考えた方が合理的だと思います。

ただ、勿論上記の事例は家族内感染の証明にはなりません。

接触者検診の結果から見て、
接触者に感染する可能性は、
現状では極めて低い、
と想定して間違いはなさそうです。

次にこちらをご覧下さい。
H7N982例のまとめ.jpg
82例の事例の疫学的な情報のまとめです。

患者さんの平均年齢は63歳で、
そのうちの73%が男性です。

この明瞭な性差と年齢の偏りとが、
現時点での大きな謎の1つです。

5歳未満の患者さんが2名カウントされています。
このお子さんはいずれも軽度の呼吸器症状に留まっている、
と記載されています。

つまり、
小児にはこのウイルスは軽症の症状を出し、
重症化することは極めて少ないのに対して、
成人、特に65歳以上の高齢者では、
重症の肺炎や多臓器不全を来す可能性が、
極めて高い、
ということが想定されます。

軽症の小児の事例が確認されていることは、
実際には症状のない、
不顕性感染の事例が、
多く存在する可能性を疑わせます。

接触者検診においては、
症状の出現したケースのみ、
ウイルスの検出が行なわれていますから、
無症状の事例が引っ掛からなくてもおかしくはないのです。

2009年の新型インフルエンザ騒動の時もそうでしたが、
高齢者に感染者が偏ると、
「抗体依存性免疫増強現象」が疑われ、
若年者に重症の事例が多いと、
過去の免疫の影響や、
サイトカインストームの影響などが指摘されます。

しかし、
実際には2009年の論争でも、
色々な説は出ても明快は結論はありませんでしたから、
こうした偏りのある疫学データに関しては、
単純な結論に飛び付くような愚は、
避けた方が良いように思います。

発病者は現時点では都会に多く、
家禽との接触が、
全体の58%で確認され、
何らかの動物との接触が、
77%では確認されています。

明日ご紹介する論文で書かれているように、
このウイルスと家禽や鳥から検出されたウイルスとの間には、
99%を越える遺伝子の相同性があり、
家禽からの感染が、
少なくともその一部であることは間違いがありません。

しかし、
それではそれだけなのか、
と考えると、
動物との接触の確認されない事例も少なからずあり、
必ずしもある市場や農場の周辺で大量発生、
というような経緯ではないので、
感染源については、
安易に結論を出すのは早計だと思います。

それでは次をご覧下さい。
H7N9の臨床事例の特徴のまとめ.jpg
臨床的な特徴のまとめです。

82例中81例は入院の事例です。
死亡の事例はこの時点で17名で21%です。

症状出現時から平均で1日後には、
医療機関を受診していますから、
初期から重症感が強いということが分かります。
4日後くらいには、
呼吸困難などが出現して、
入院となり、
7日後には集中治療室に入り、
11日後には亡くなるというのが、
重症の事例の平均的な経過です。

タミフルやリレンザなどの抗ウイルス剤の使用は、
現状は症状発症後数日以降に行なわれているので、
その臨床的な効果の有無は、
現時点では不明です。

現状の理解としては、
この感染症は動物を介して人間に感染し、
概ね1週間以内の潜伏期を持って、
成人では初期から高熱や痰絡みの咳で始まり、
肺炎や呼吸困難、
多臓器不全に移行します。
特にご病気を持っているような、
高齢者で重症化する傾向が高く、
より注意が必要と考えられます。

上記論文には記載はありませんが、
現行使用されている、
インフルエンザの迅速診断キットは、
H7タイプの動物インフルエンザ抗原にも、
反応することが添付文書上は記載されていて、
その感度は何とも言えませんが、
日本の現状で考えると、
動物との接触や中国からの帰国や渡航後に、
急性の呼吸器症状が出現した場合には、
速やかに迅速診断は施行することと、
状況により速やかに保健所に相談して対応することを、
末端の診療所の医者としては、
心掛けたいと考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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