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インフルエンザ(H7N9)の中国感染事例を考える [インフルエンザ(H7N9)]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
H7N9ウイルスの感染事例.jpg
先月の31日以降、
中国において鳥インフルエンザ由来と思われる、
H7N9というタイプのA型インフルエンザウイルスが、
人間に感染する事例が相次いで報告され、
確認された事例は4月21日時点で100例を越えています。
実際の感染は今年の2月の下旬から始まっているのです。

そして、
このうち2割近い患者さんが亡くなっています。

上記の文献は、
今月のthe New England Journal of Medicine誌の電子版に掲載された、
その初期の3例の死亡事例の報告と、
そのウイルスの解析を行なったものです。

最初の患者さんが医療機関を受診してから、
概ね1ヶ月後には、
ウイルスの全遺伝子が解析されているのですから、
非常に迅速な対応が取られたことが分かります。

今日はそこから、
3人の感染事例をご紹介します。

こちらをご覧下さい。
H7N9事例のまとめ.jpg
字が小さくて読み辛いかと思いますが、
初期に感染した3例の死亡事例を表にしたものが、
こちらになります。

事例1は87歳の男性で、
慢性の肺の病気と高血圧の持病があり、
上海市での感染の事例です。

明確な鳥との接触は明らかではありません。

2月18日頃より咳と痰などの症状が出て、
それから1週間程度して高熱や呼吸困難へと移行しています。
ARDS(急性呼吸促迫症候群)を来たし、
3月4日に亡くなっています。
死因は呼吸不全です。

事例2は27歳の男性でB型肝炎の持病があり、
精肉業で市場において死んだ鳥との接触が、
想定されています。
矢張り上海市の事例です。

高熱と咳症状で発症し、
発症は2月27日で3月4日に入院し、
矢張り重症の呼吸不全を来して3月10日に亡くなっています。
死因は呼吸不全です。

事例3は35歳の女性で専業主婦で、
うつ病とB型肝炎の持病があります。
安き省(Anhui)の住民です。

矢張り高熱と咳で発症し、
発症1週間前に鳥肉を扱う市場を訪れています。
3月19日に入院し、
20日には集中治療室に移り、
敗血症と急性呼吸促迫症候群、
急性腎不全、脳炎、横紋筋融解症、二次性の細菌感染症と、
全身的に重篤な内臓障害を併発し、
4月9日に亡くなっています。

次にこちらをご覧下さい。
H7N9ウイルス感染事例の検査所見.jpg
今度は3例の事例の臨床データを示したものです。

事例はいずれも、
咳と高熱で発症しています。

重症化するまで、
1週間程度の経過のあるものもありますが、
数日で急激に悪化している事例もあります。

事例1では通常の白い痰絡みの咳が、
1週間程度続いてから呼吸困難に至っていますが、
事例3は最初から高熱で、
5日後には呼吸困難に至り血性の痰が見られています。

鼻水や鼻詰まりの所見はなく、
下痢も見られていません。

季節性インフルエンザでは、
比較的鼻水は多く認められ、
H5N1の鳥インフルエンザでは、
下痢が多く認められるとされています。
つまり、
3例だけで云々は出来ませんが、
ウイルスが初期に増殖する場所が、
どうも他のインフルエンザウイルスとは、
違う可能性がありそうだ、
というところが、
1つのポイントと考えられます。

検査データでは、
白血球はむしろ低下していて、
特にリンパ球が減少傾向にあり、
重症の細菌感染で上昇する、
プロカルシトニンも低値に留まっています。
これは一般的なウイルス感染症の検査値です。

事例2と3では横紋筋融解症を併発していて、
筋肉の破壊を示す数値は上昇していますが、
事例1においてもCPKやLDHといった、
細胞の破壊に伴い上昇する数値は高値を示していて、
これは勿論単純に多臓器の障害を起こしたからとも思えますが、
仮に初期から上昇していたとすれば、
この感染症の特徴の1つである可能性もあります。

肺のレントゲンやCT所見においては、
スリガラス様の陰影のようなウイルス肺炎像から、
肺全体に水が溜まる、
ARDSと呼ばれる病態へと移行しています。

全例でタミフルが使用されていますが、
発症後7~8日目からの使用ですから、
この感染に効果があるかどうかは、
現時点では未知数です。

論文には明記されていませんが、
入院早期からタミフルが使用されている点から考えて、
簡易検査でA型インフルエンザの反応は、
陽性に出た可能性が高いように思います。

それではここまでのまとめです。

中国で感染が拡大している、
これまで人間での感染の確認されていない、
おそらくは鳥インフルエンザ由来と推定される、
H7N9タイプのA型インフルエンザの感染症は、
1週間以内の潜伏期を持って、
比較的急性の痰絡みの咳と発熱を持って始まり、
高熱と共に、
かなり早い経過で、
ウイルス肺炎と敗血症などの合併症を来して、
ARDS(急性呼吸促迫症候群)と呼ばれる病態に移行し、
呼吸困難を来します。
早期から適切な治療が行われないと、
致死的な経過を取る可能性が高いと想定されます。

明日はこの原因ウイルスについて、
現時点で分かっていることを、
整理しておきたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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