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心不全を伴う糖尿病へのメトホルミンとSU剤の影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メトホルミンとSU剤の心不全への有効性.jpg
J Am Coll Cardiol.誌に2021年12月8日ウェブ掲載された、
糖尿病治療薬を心不全患者に使用した際の、
心臓への影響を検証した論文です。

糖尿病は生活習慣病の代表で、
心筋梗塞や脳卒中、心不全など多くの病気のリスクを高めます。

糖尿病の治療には多くの薬剤が使用されていますが、
こうした合併症のない場合とある場合では、
その使い方にも自ずと違いがある筈です。

たとえば心不全を合併した糖尿病の場合、
チアゾリジン系の治療薬や一部のDPP4阻害剤では、
その使用により心不全の悪化のリスクが高まった、
とするデータが報告されています。
その一方で最近使用頻度の多いSGLT2阻害剤という薬剤は、
心不全悪化のリスクを抑制すると想定されています。

ただ、それ以外に使用頻度の高い糖尿病治療薬に、
メトホルミンとSU剤がありますが、
その2種類の薬剤が心不全に与える影響については、
これまであまり精度の高いデータがありませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの高齢者医療保険のデータから、
心不全で入院した糖尿病患者で、
入院の時点ではメトホルミンもSU剤もいずれも使用していない、
トータル5852名の患者の経過を分析し、
退院から90日以内のメトホルミンもしくはSU剤の使用が、
その後1年の心不全悪化による入院もしくは死亡のリスクに、
与えた影響を比較検証しています。

対象者のうち、
454名が新規にメトホルミンの使用を開始し、
504名が新規にSU剤の使用を開始しました。
メトホルミンの使用により、
その後の心不全による死亡のリスクは19%(95%CI:0.67から0.98)、
有意に低下していました。
更に駆出率が40%を超える、
比較的軽症の事例に絞って解析すると、
心不全による死亡のリスクが32%(95%CI:0.52から0.90)、
心不全による入院のリスクも42%(95%CI:0.40から0.85)、
それぞれ有意に低下していました。

一方でSU剤開始群では、
その後の心不全による死亡のリスクが24%(95%CI:1.00から1.48)、
こちらは有意に上昇していました。
心不全による入院のリスクについては有意な差は認められませんでした。

このように、
軽症の心不全ではメトホルミンの使用は、
心不全の予後にも良い影響を与える可能性がある一方で、
SU剤の使用は心不全のリスクに、
悪影響を与える可能性が示唆されました。

最近色々な意味で、
その使用に疑義が呈されることの多いSU剤ですが、
顕性の心不全のある糖尿病患者においては、
その使用を慎重に考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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