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慢性の虚血性心疾患患者に対するコルヒチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コルヒチンの心血管疾患予防効果.jpg
Circulation誌に2022年2月22日掲載された、
リサーチレターですが、
痛風発作に使用する抗炎症剤を、
虚血性心疾患の予後改善に使用するという、
興味深い試みについての内容です。

動脈硬化の発生と進行において、
組織障害から炎症性サイトカインなどで惹起される炎症が、
中心的な役割を果たしていることは間違いがありません。

そうであるならば、
動脈硬化の進行予防や心血管疾患の再発予防のために、
炎症を抑えるような治療が必要である筈です。

しかし、
実際にはスタチンや低用量アスピリンなど、
その主作用以外に抗炎症作用のある薬が、
治療に使用されていますが、
直接的に炎症を抑えることが主作用の薬剤が、
臨床に応用されている、
ということはありません。

炎症性サイトカインの代表である、
インターロイキン1βを阻害するカナキヌマブという薬剤を、
慢性の虚血性心疾患に使用した臨床試験の結果が、
2017年のNew England…誌に掲載されましたが、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞などを併せたリスクは、
15%有意に低下したものの、
重篤な感染症のリスクを増加させており、
心血管疾患によるリスクの低下も、
主に非致死性の心筋梗塞の低下のみで、
満足のゆく結果とはなりませんでした。

コルヒチンという薬があります。

主に痛風発作の初期段階の治療に使用されている薬剤ですが、
この薬は細胞内にある微小管と呼ばれる構造の、
機能を低下させるという特殊な作用を持ち、
白血球の活動も低下させて炎症を抑制する働きがあります。

つまり、抗炎症作用のある薬です。

そこで最近になり、
急性心筋梗塞後30日以内の患者さんに対して、
通常治療に上乗せしてコルヒチンを使用する臨床試験(COLCOT研究)と、
慢性の虚血性心疾患で治療中の患者さんに対して、
通常治療に上乗せしてコルヒチンを使用する臨床試験(LoDoCo2研究)が施行されました。

そのうちのCOLCOT研究の臨床試験結果は、
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に論文が掲載され、
掲載時期にブログ記事にしています。

急性心筋梗塞を起こして30日以内の患者さん、
トータル4745名を患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを1日0.5mg使用継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で22.6か月の経過観察を行なっています。

その結果、
心血管疾患による死亡と心停止、心筋梗塞、脳卒中、
カテーテル治療を要する狭心症を併せたリスクは、
偽薬と比較してコルヒチン群では、
23%(95%CI; 0.61から0.96)有意に低下していました。

個別のリスクで見ると、
脳卒中のリスクが74%(95%CI: 0.10から0.70)、
カテーテル治療を要した狭心症が50%(95%CI: 0.31から0.81)と、
いずれも有意に低下していましたが、
それ以外のリスクは有意な低下はありませんでした。
コルヒチンの有害事象は主に下痢で、
感染症の発症については両群で有意差はありませんでした。

もう1つのコルヒチン関連の臨床試験は、
LoDoCo2研究として報告され、その長期の有効性を解析したのが、
今回のリサーチレターです。

慢性の虚血性心疾患を持ち、
最低でも6ヶ月は安定した状態にある35から82歳の5522名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを1日0.5mg使用して、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で28.6ヶ月の経過観察を行なっています。

その結果、
観察期間中に心血管疾患による死亡、急性心筋梗塞、
虚血性脳卒中、虚血性心疾患のカテーテル治療を併せたリスクは、
1年毎の解析でコルヒチン群で有意なリスク低下を認めていて、
4年目までのトータルな解析では、
そのリスクは47%(95%CI:0.33から0.87)有意に低下していました。

このように精度の高い2種類の臨床試験において、
虚血性心疾患患者の予後改善に、
コルヒチンの有効性が確認された意義は大きく、
これが今後の診療ガイドラインなどに、
反映されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ほりぶん 第9回公演「かたとき」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
夜はいつものようにRT-PCR検査の電話掛けに、
クリニックには行く予定です。
最近は休みの日もあまり家で寝ることがありません。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
かたとき.jpg
最近は芸人さんとの仕事も多い、
ナカゴーの異能の人、鎌田順也さんですが、
今回別ユニットのほりぶんの第9回公演は、
紀伊國屋ホール初進出で、
ゲストにはきたろうさん、又吉直樹さん、
猫背椿さんが加わるという豪華版です。

これは下町の祭りの夜を舞台にした、
13歳の少女を不審者から助けようとする、
警官と自警団と不審者との抗争を描いた物語ですが、
不審者にも一分の理はあり、
自警団も警官もそれなりにイカれているので、
当然まともな戦いになるということはなく、
ワンピースの女性陣はいつものように絶叫しつつの大暴れになりますし、
又吉さん演じる警官が、
同じことわざを大声でしつこくしつこく説明しまくるという、
とても又吉さんのキャラクターからは、
想像を絶する様な展開となります。

同じような連続する2夜の物語になっていて、
その繰り返しと微妙な差異が、
鎌田さんの作品としては、
古典的で端正な感じに仕上がっています。
まあ「ゴドーを待ちながら」のパターンですね。
インタビューで鎌田さんはカルトホラー「マグノリア」が大好きと言っていて、
そうそうあれは確かにナカゴー的な怪作だよね、
と思いましたが、
そうした奇怪さやグロテスクさは今回の作品にはなく、
鎌田さんの最近の傾向として、
かなりウェルメイドな仕上がりとなっています。
かつての「野鳩」にかなり似て来たな、
という感じもします。

中劇場の空間は結構巧みに使っていました。
最初に登場人物がずらりと並んで、
物語のあらすじを説明してしまうという、
普通に考えると「そんなことしなくていいのに」という趣向も、
いつもながらにあって、
でも結構贅沢な絵面になるので悪くありませんでした。
いつもはセットもなく照明効果なども殆どない、
という即席感の強い舞台でしたが、
今回はちゃんと夜店と盆踊りの屋台のセットがあり、
音響や照明の効果もプロが仕事をしているという感じです。

ただ、鎌田さんのかつてのシュールでグロテスクで、
とんでもなく非常識な感じを知っている者としては、
この上品な世界は矢張りちょっと物足りない、
という感じは否めません。
でも今後は貴重なコント作家の1人として、
吉本絡みのお仕事が増えてゆくような気もしますね。
それで成功して生活も安定するのであれば、
良いことのようにも思いますし、
小劇場の暴れん坊の感じが、
失われてゆくのはちょっと悲しいような気もします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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新型コロナワクチンの2回目接種のアレルギーリスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療から産業医面談、
企業の新型コロナワクチンの3回目接種と続いて、
夜はまたRT-PCR結果の電話掛けと健康観察となる予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナワクチンのアレルギー.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年2月21日ウェブ掲載された、
新型コロナワクチン初回接種後にアレルギーが見られた場合の、
2回目接種のアレルギー反応重症化のリスクについての論文です。

新型コロナの2種類のmRNAワクチンについては、
トータルな安全性は高いことが、
ほぼ実証されていますが、
その接種開始の当初から、
そのリスクが問題視されていたのが、
アナフィラキシーなどの全身性また重篤なアレルギー反応です。

その頻度は、
重篤なものについては100万接種当たり7.9件と算出されていますから、
他のワクチンと比較して多いものではありませんが、
初回の接種で蕁麻疹などの反応のあった場合、
2度目の接種でより重症化して、
アナフィラキシーになるのではないか、という危惧があり、
初回にアレルギー反応があった場合の2回目接種は、
慎重に行うようにガイドラインにも記載されています。

ただ、本当に初回接種でアレルギー反応が生じた場合に、
次の接種で重症化のリスクが高くなるのかについては、
その時点で明確な根拠があった訳ではありません。

今回のデータは、
これまでのデータをまとめて解析したメタ解析で、
この問題の現時点での検証を行っています。

これまでの新型コロナmRNAワクチンの22の臨床データにおいて、
初回接種でのアレルギー反応事例トータル1366例を、
まとめて検証したところ、
2度目の接種での重篤なアレルギーの発症率は、
0.16%に留まっていました。
また初回接種で重篤なアレルギー反応を来した78例のうち、
2回目接種でも同じような重篤な症状が出現したのは、
4.94%に当たる4名のみでした。

このように、
現時点でハチ毒のように、
2回目の抗原刺激でより強いアレルギーが生じる、
という根拠は現時点ではなく、
アレルギー反応のリスクは、個別の接種において、
個別に判断するという方針で、
現時点では良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の既往とワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナの既往とワクチン接種の有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年2月16日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の既往と、
その後に接種するワクチンの有効性についての論文です。

これは結論的には以前から指摘されていた事項を、
裏打ちする内容ですが、
臨床的に確認したという点で意義のあるものです。

今3回目の新型コロナウイルスワクチン接種が、
急ピッチで進められています。
クリニックでも連日接種を行なっていますが、
今はオミクロン株の大流行期でもあります。

そこで予約をされていても、
「昨日感染したので打つことが出来なくなりました」
のような連絡が入ることがしばしばあります。

それでは、実際に感染した場合にその後のワクチン接種については、
どのように考えれば良いのでしょうか?

以前には実際に感染した場合の免疫は強いので、
ワクチンをその後接種する必要はない、
という意見もありましたし、
1回のみの接種で問題ない、という意見もありました。

またワクチンを接種するにしても、
感染してからすぐに打つと副反応が強くなるので、
1ヶ月、もしくは3ヶ月以上間を開けて、
接種することが望ましい、という意見もありました。

ただ、現行の日本で行なわれている3回目接種では、
特に感染後のワクチン接種について、
どのくらい開けるべきかと言うような、
明確な規定はありません。

今回の検証はイスラエルにおいて、
大規模な医療データを解析したものですが、
新型コロナウイルス感染症に罹患して回復した149032名のうち、
56%に当たる83356名が感染から270日以内にワクチン接種をしていました。
ワクチンは全てファイザー・ビオンテック社のmRNAワクチンです。
このワクチン接種は全て感染者では感染3ヶ月以降に施行され、
初感染から100日以上経過後のRT-PCR検査陽性事例を、
再感染と定義しています。
すると、
ワクチン接種者のうち再感染は354名に生じており、
毎日10万人当たり2.46件と算出されました。
一方で感染後ワクチン未接種の場合、
再感染は2168名に生じており、
その頻度は毎日10万人当たり10.21件と算出されました。

これにより、感染後のワクチン接種の有効率は、
年齢が16から64歳では82%(95%CI:80から84)、
65歳以上では60%(95%CI:36から76)と算出されています。
この有効率にはワクチンの1回接種と2回接種で差は認めらませんでした。

これはデルタ株が主流に感染拡大している時期のデータですが、
実際の感染後においても、
その3ヶ月以降に少なくとも1回のワクチンを接種することにより、
一定レベルの再感染予防効果が、
自然免疫のみと比較して確認されています。
ただ、その免疫賦活の有効性は、
65歳以上の年齢層では減弱しているようです。

現行の新型コロナウイルス感染症は、
1回罹ればそれで終了、というようなものではなく、
再感染も稀ではないところに厄介さがありますが、
感染後であってもワクチンを少なくとも1回接種することにより、
その後の再感染抑制効果が高まることは、
事実として認識しておいて良いようです。
その場合のワクチンの回数や接種間隔、接種時期については、
もう少し明確な指針が作成される必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ハウス・オブ・グッチ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で祝日のため休診です。
夜はまたクリニックでRT-PCR検査の結果説明の予定です。

色々ときついことが多くて、
何か虚しくもなりますし心が折れそうにもなりますが、
昨日は1つだけ良いこともあったので、
何とか気を引き締めて、
1人1人の患者さんに誠実に対応することに、
今は専念したいと思っています。

でも、怒られてばかりなんですよね。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ハウスオブグッチ.jpg
「グッチ」の創業者一族を巡るスキャンダルを、
「ゴッドファーザー」のような外連味たっぷりの描写で描いた、
リドリー・スコットの大作です。

リドリー・スコットとしては、
久しぶりに本領発揮の作品と感じました。

レディー・ガガにアダム・ドライバー、
ジャレット・レト、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズと、
曲者揃いのキャストが、
それぞれにこちらも本領発揮の熱演を繰り広げています。

アダム・ドライバーは、
「最後の決闘裁判」に続いてのスコット作品登板ですが、
どちらも企みを巡らして最後は酷い目に遭うという、
同じようなゲス男を演じていて、
ちょっと可哀想な気がします。

イタリアの話なのに、
台詞はイタリア語を混ぜ込んだ英語で、
今時これじゃなあ、と思うところですが、
それも含めて「昔風」の映画なのだと思います。

面白いことは面白いのですが、
ファッションの世界の話の割には、
ファッションの面が殆ど作品には登場しません。
権力争いの部分のみが前面に出るのは、
無理矢理「ゴッドファーザー」にしようとしているようで、
やや違和感がありました。
向こうはマフィアの抗争ですからバタバタ人は死にますが、
こちらは殺人事件はあるにしても、
そんなにドンパチがある訳ではなく、
大仰な割に盛り上がらない、という感じがありました。

そんな訳で今ひとつの部分もあるのですが、
名優達の演技合戦は間違いなく楽しく、
昔のハリウッド映画の好きな方なら、
まずまず楽しめる1本ではあったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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市中肺炎患者におけるインフルエンザ検査の意義 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
インフルエンザの検査と肺炎の予後.jpg
Chest誌に2022年2月5日ウェブ掲載された、
インフルエンザの検査と肺炎の予後についての論文です。

新型コロナウイルス感染症が流行しているため、
やや蔭が薄くなってしまった感じはありますが、
通常の時期の2月と言えば、
インフルエンザの流行がピークの時期です。

今年はただ、
検査をしても殆どインフルエンザが陽性になることがありません。
これは去年と同じ傾向で、
新型コロナウイルスとの一種の干渉がある可能性もありますし、
マスクや手洗いなどの感染対策が、
インフルエンザに対してより有効に機能しているのかも知れません。

ただ、それでもインフルエンザが、
なくなってしまった訳ではありませんから、
今の時期気をつけるべき感染症であることは間違いがありません。

インフルエンザの検査を、
どのくらいするべきかについては色々な議論があります。

検査が必要であるかどうかは、
その検査をしない場合に比べて、
検査をした方が患者の予後に、
良い影響があるかどうかで決まります。

今回の研究はアメリカの179カ所の病院において、
市中肺炎の診断で入院した166268名の患者を対象として、
インフルエンザ検査の有無と予後との関連を検証しているものです。

その結果、
全体の23.3%に当たる38703名がインフルエンザの検査を施行されていて、
そのうちの11.5%が陽性と判定されています。
この場合の検査は迅速の抗原検査や遺伝子検査などが含まれています。

インフルエンザの検査をして陽性が確認された肺炎患者が、
入院当日にオセルタミビル(タミフル)を使用した場合、
使用しないか投与が遅れた場合に比較して、
14日の院内死亡リスクが25%(95%CI:0.59から0.96)有意に低下し、
集中治療室への入室などの他の重症化リスクも低下していました。
医療コストも減少し、入院期間も短縮、
不必要な抗菌剤の使用も抑制されていました。

このように、
肺炎の入院患者において、
迅速にインフルエンザの検査を施行し、
早期のタミフル使用を行なった場合、
患者の予後は改善し、
不必要な治療や医療コストも抑制されることが確認されました。

闇雲に多くの検査を行なうことが適切ではありませんが、
入院を要する肺炎の事例においては、
迅速に検査を施行して迅速に抗ウイルス剤を使用することに、
多くのメリットがあることは間違いがないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ノイズ」(2022年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
夜はいつものようにRT-PCR検査の結果説明と届け出に、
クリニックに行く予定です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ノイズ.jpg
筒井哲也さんの漫画が、
藤原竜也さん、松山ケンイチさん、神木隆之介さんという、
豪華なキャストで映画化され今公開されています。

鳴り物入りで公開されましたが、
もうロードショーは縮小していて、
来週で終了のところが多いようです。

これは大失敗ですね。

原作は単行本では3冊で完結のコミックで、
その意味では長編劇映画として過不足のない分量です。

ただ、画力で読ませるというタイプの作品なんですね。
物語の構成はかなり弱い部分があります。
また、悪党が生まれながらの凶悪犯という設定で、
人間性の欠片もないのですが、
それはコミックとしては成立しても、
実際に役者さんがそれを演じるということになると、
倫理的な面も含めて、かなりハードルが高くなるんですね。
猟奇的な場面もあるのですが、
今回の作品はおそらくレイティングなしの公開が決まっていたのだと思うので、
そこにかなり無理があったように思います。

要するに相当思い切って原作を改変しているのですが、
それが上手くはいっておらず、
原作の毒を削いでその魅力をなくし、
詰まらない設定変更や入れ事をして、
全てを台無しにしてしまった、という感じです。

まず原作の山間の田舎町を孤島にしていますよね。
でも、ただの思いつきなので、
孤島であることの意味がまるでありません。
藤原竜也さんの役柄は原作では離婚調停中なのですが、
映画は夫婦仲が良いという設定になり、
原作では主人公とは無関係の青年警官が、
映画では主人公達の幼なじみとなっています。
夫婦関係が良いのでは主人公2人の間の緊張感が出ませんし、
警官が幼なじみでは、
こちらも緊張感がないし、打ち合わせをしているのが見え見えですよね。
これは無関係だからこそ良いのですね。
駄目だなあ、という感じです。

映画を観て意味不明なところがありますよね。
子供の作文も良く分からないし、
最初に凶悪犯が何をしていたのか分からないし、
殺してしまう段取りも良く分からないし、
途中で急に死体が増えるのも唐突で不自然だし、
ラストのどんでん返し的な部分も良く分からないですよね。

これは全部原作にはない、
映画の入れ事か改変部分なんですね。
原作の構成もかなり荒いところはあるのですが、
こうした不自然な疑問を感じるような部分はないのです。

どうも「ファーゴ」みたいなものをやりたかった、
という感じは見えるのですね。
でも原作のタッチは決してそうしたものではないのに、
強引に「ファーゴ」にしているのが無理があるんですね。
また、演出がとても凡庸ですよね。
最初に島を俯瞰で見せて「田園」を流すでしょ。
何だろう、これ以上ないくらいの凡庸さですね。
重要な登場人物が途中で自殺するのですが、
死の直前の録画映像をワンカットで流しておいて、
銃を取り出すとカットを割るんですね。
それ、絶対駄目なやつでしょ。
銃を撃つところまでカットを割らないから、
こうした場面は意味があるのです。
本当にただの段取りだけで撮った映画だな、
という感じがします。

キャストもとてももったいないですよね。
脇に黒木華さんとか酒向芳さんとか迫田孝也さんとか、
曲者役者さんが沢山いるのに、
皆さん殆ど活躍しないのです。
詰まらないですよね。

そんな訳で魅力的な素材を、
皆よってたかって詰まらなくしてしまった、
というような感じの凡庸な映画で、
主役の役者さんのファン以外には、
とてもお勧めは出来ないタイプの作品でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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オミクロン株BA.2変異の特徴 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オミクロン株BA2の特徴.jpg
これは査読前の論文を公開している、
medRxivに2022年1月30日公開された短報ですが、
新型コロナ、オミクロン株の、
BA.1とBA.2 という変異の特徴を比較したものです。

オミクロン株の流行が続いていますが、
現行日本で流行しているBA.1という亜種以外に、
別個の変異を持つBA.2という亜種がヨーロッパなどで流行しており、
その亜種が日本でも報告されるようになって、
注目を集めています。

クリニックが提携しているRT-PCR検査機関でも、
ウイルス量の多い陽性検体ではゲノム解析を行っています。
最初にスクリーニング検査として、
デルタ株に特徴的な変異の有無のみが確認され、
その後ゲノム解析でタイプが同定されるという流れです。

と言っても、
現状デルタ株のスクリーニング陽性例は、
1月初旬の1例のみでしたから、
あまりこのスクリーニングに意味があるとは思えません。

早い時期に、
「どうしてオミクロン株のスクリーニングに切り替えないのですか?」
と検査会社の担当者にお聞きしたのですが、
「そうした要請は行政から受けていないのでやっていません」
という返答でした。

何だかなあ…という感じです。

さて、ゲノム解析は2週間以内に届く、
という予定なのですが、
現状はそれが遅れに遅れていて、
結果が届くまでには1か月くらいが掛かっています。
現状判明している中では、
今年の検体ではデルタ株が1例で、
それ以外は全てオミクロン株のBA.1という結果でした。

ステルスオミクロン、という物騒な呼称がありますが、
これは欧米のオミクロン株のスクリーニングで、
陽性とされないため、
スクリーニングを擦り抜ける可能性がある、
という点からのネーミングで、
日本ではそもそもオミクロン株のスクリーニング自体が、
それほど行われていないのに、
「全ての感染はオミクロン株として対応する」
という行政の通達のみが活きているという奇怪な状態なので、
あまり日本の臨床では意味のない名称です。

上記文献ではオランダの解析データが報告されています。

これは2021年12月下旬から2022年1月初旬のものですが、
8541名の家族内感染の1例目の経過を追い、
そのうちの2122例がBA.2由来、
1から7日の経過観察中に17945例の家族内二次感染事例が疑われ、
そのうちの5702例が確定事例とされています。
ここから二次感染率を算出すると、
BA.1が29%に対してBA.2は39%となっています。

BA.2はBA.1と比較して、
ワクチン未接種者への感染感受性が2.19倍(95%CI:1.58から3.04)、
ワクチン2回接種者への感染時感受性が2.45倍(95%CI:1.77から3.40)、
ブースター接種完了者への感染感受性も2.99倍(95%CI:2.11から4.24)と、
それぞれ有意に増加していました。

ワクチン未接種の感染者からの家庭内二次感染リスクも、
BA.2はBA.1と比較して、
2.62倍(95%CI:1.96から3.52)有意に増加していました。

このように、
BA.2亜種はBA.1と比較して、
感染力は強く、ワクチン接種による予防効果も弱い、
ということが推測されました。

ただ、ワクチン接種を2回以上施行して感染したケースでは、
そこからの感染拡大は従来亜種と同等でした。

BA.2については、
まだ査読前のデータくらいしか情報はなく、
日本での検査の遅れは腹立たしくは感じますが、
その性質についてはまだ不明の点が多いので、
慎重に経過をみたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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睡眠を延ばすことによる肥満改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
睡眠が増えると体重が減る?.jpg
JAMA Internal Medicine誌に、
2022年2月7日ウェブ掲載された、
睡眠を延長することによる肥満改善効果についての論文です。

肥満は多くの生活習慣病の原因となり、
肥満の改善は糖尿病や肝臓病など、
多くの病気の予防になることは、
多くの精度の高い臨床データによって、
実証されている事実です。

ただ、たとえば国際的には過体重と呼ばれる、
BMIが25.0から29.9の軽度肥満の状態において、
どのようなダイエット(体重減少法)が有効であるのか、
というような点については、
まだ明確な指針がないのが実際です。

ダイエットのための生活習慣と言うと、
食事と運動が重要であるという点については、
科学的にも一般的にも見解は一致しています。

しかし、それ以外に、
肥満の改善や予防に関連を持ちながら、
あまり触れられることのない生活習慣があります。

それが睡眠時間です。

不眠や睡眠時間が短いことが、
過体重や肥満のリスクとなることは、
多くの疫学データにより確認されています。

2019年のメタ解析の検証では、
睡眠時間が1時間短くなると、
肥満のリスクが9%増加する、
という結果が報告されています。

それでは、睡眠時間が短い過体重や肥満の人に、
睡眠時間を長くするような介入を行うと、
それは肥満の改善や予防につながるのでしょうか?

その点についての精度の高いデータは、
これまでにあまり存在していませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの単独の専門施設において、
BMIが25.0から29.9という過体重もしくは軽度肥満の状態で、
年齢が21から40歳、
2週間の睡眠時間調査で平均の睡眠時間が6.5時間未満の80名に、
エネルギー消費量や基礎代謝量などの測定を施行。
8.5時間を目標として、
睡眠時間を長くするための指導を行い、
それを2週間継続した後に、
エネルギー消費量などの再測定を行って、
睡眠による代謝への効果を検証しています。

その結果、
睡眠時間を延ばすための指導により、
睡眠時間は平均で1日1.2時間延長。
それによりエネルギー摂取量は1日当たり270キロカロリー減少しました。
短期間であるのでそれほど体重自体には変化はありませんでしたが、
この代謝の変化がそのまま持続すると仮定すると、
3年間で体重が12キロ減少するダイエット効果が得られる、
という推計が認められました。

このように、
単純に睡眠時間が長くなるだけで、
代謝のバランスが改善して減量効果が得られる、
という今回の結果は非常に興味深く、
今後「睡眠ダイエット」が、
科学的にも推奨されるような流れになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症後の心血管疾患リスク増加 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
新型コロナの心血管系後遺症.jpg
Nature Medicine誌に、
2022年2月7日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症罹患後の、
心血管疾患リスクについての論文です。

新型コロナウイルス感染症は、
全身の血管に影響を与え、
心筋梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクを増加させる、
というような報告は以前からあります。

ただ、その殆どは肺炎などで入院した事例を対象としていて、
軽症の事例を含む、全ての有症状の新型コロナウイルス感染症の罹患後に、
そうしたリスクがあるかどうかについては、
あまり明確なことが分かっていません。

今回の検証はアメリカの退役軍人を対象とした、
健康保険データを活用したもので、
トータル153760名の新型コロナウイルス感染症患者で、
診断後30日以上の生存事例について、
発症1年後までの心血管疾患発症リスクを、
非感染のコントロールと比較しています。

その結果、
発症後1年以内の脳卒中のリスクが1.52倍(95%CI:1.43から1.62)、
心房細動のリスクが1.71倍(95%CI:1.64から1.79)、
急性心筋梗塞のリスクが1.63倍(95%CI:1.51から1.75)、
心不全のリスクが1.72倍(95%CI:1.65から1.80)など、
対象とされた心血管疾患の多くで、
非感染と比べて感染者では、
発症リスクの有意な増加が確認されました。
このリスク増加は入院を要さない患者でも認められましたが、
患者の重症度が高いほど、
そのリスクも高い傾向が認められました。

このように、
新型コロナウイルス感染症の罹患後には、
比較的軽症であっても、
心血管疾患のリスク増加が確認されていて、
そのメカニズムや予防策について、
今後早急に検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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