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新型コロナウイルス感染症の入院実現への困難 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

高齢者の新型コロナウイルス感染症の入院必要事例について、
かなりの困難と疲弊を感じたので記録として残しておきます。

基本事実を元にしていますが、
守秘義務及び患者の特定を避ける観点から、
事実を一部改変、省略などをしている点を予めご理解下さい。

患者さんはBさん、
90代の女性で認知症による入院歴があります。
高血圧や骨粗鬆症の持病も持っています。
施設入所をしてクリニックで訪問診療をしていました。
土日は家族のところに外泊していたのですが、
戻った後で家族の感染が確認され、
その2日後に施設内でBさんが発熱しました。

あーっ、何で…
と後で絶句するような状況です。

発熱の翌日に家族から連絡があり、
病状をお聞きしました。

発熱は38度台で、元気はないけれど、
何とか食事は取れている状態、と言う話でした。

これは迅速に診断して、
出来れば早急に入院に結び付けたい、
と判断しました。

ただ、その日に訪問して検査するのは、
時間的に厳しい状況でした。
それで別の場所にいる家族に唾液採取用のチューブをお渡しして、
検体を採取して持ってきてもらう方針としました。

ところが…
午後の診察の時間になって家族から電話が入り、
唾液が取れないという連絡です。
もう少し早く言ってくれれば、
昼の空き時間に訪問して鼻腔からの検査も出来るのに、
と煩悶するようなタイミングの悪さでした。

家族にパルスオキシメーターを渡し、
私用の携帯番号もお教えしました。
それで健康観察を指示し、
体調悪化時は連絡するようにお願いしました。

それから色々あって、
訪問出来たのは2日後の昼でした。土曜日です。
2日前の発熱が38度で酸素飽和度が98%、
それが翌日には94%に低下していました。
土曜日の訪問時には酸素飽和度は91%で、
意識は清明に近い状態でしたが、
痰がらみが強く、食事は殆ど摂れない状態が続いていました。
取り急ぎ鼻腔から検体を取って抗原検査を施行し、
陽性が確認されたので、
HER-SYSに発生届けを送りました。
この時点で新型コロナウイルス感染症と確認された、
ということになります。

超高齢で基礎疾患もあり、
酸素飽和度も低下して、
発症から3日の時点で改善傾向がないのですから、
これは迅速に入院が必要な事例と考えました。

ただ、問題はそのための方法です。

こうした場合の救急要請の相談窓口に相談し、
入院が必要なので調整をして欲しいと依頼しました。

すると、医療機関からの依頼はこちらからは受け付けていない、
保健所も東京都の担当部署も、
土曜日は休みなので入院調整は出来ない、
という驚くような返答でした。

保健所には電話をしましたが、連絡は付きません。

近隣の新型コロナの受け入れ病院に電話をしましたが、
満床で受け入れは出来ない、という返事です。

困ってしまいました。

それで、救急隊員をしている知人に相談すると、
その状況であれば直接救急車を要請して、
病院を探してもらっても止むを得ないのではないか、
というアドバイスでした。

それで119番にクリニックから連絡して、
事情を説明の上救急車を要請しました。

その後現場に到着した救急隊から連絡が入ったのですが、
現状明確な呼吸困難という状態ではないので、
近隣の病院は殆ど受け入れ困難という状況を考えると、
入院先を見つけることは難しいが、
それでも入院が必要と考えるのか、
という質問でした。

個人的には90代で持病があり、
呼吸苦を訴えていて3日経っても病状は改善していないのですから、
入院は当然必要ではないかと理解していたのですが、
今の深刻な状況では、
そうした常識は通用しないのが現実であるようでした。

それでも入院は必要と思うと答えると、
それでは探してみましょう、というお返事でした。

それからクリニックは午後の診察に入り、
救急隊から再度の連絡が入ったのは3時間後のことでした。

結論として60カ所以上に連絡をしたものの、
受け入れ先は未だに見付かっていない、とのことでした。

それで、駄目元とは思ったのですが、
Bさんが以前入院していた総合病院に連絡をして、
今の窮状を相談すると、
それなら何とか受け入れましょう、
というご返事が頂けました。
地獄に仏とはこのことです。

その旨を救急隊に連絡し、
その後無事Bさんは総合病院に入院されました。

今回の事例の教訓は幾つかあります。

まず、土日の入院依頼は駄目だ、ということです。
これは救急センターの方も救急隊の方も言っていたので、
おそらくは事実だと思いますが、
クリニックのある区の保健所も東京都も、
土日は新型コロナウイルス感染症患者の入院調整を、
やっていない、というのです。
そんな馬鹿な話があるのだろうか、
病気に日曜も祝日もない筈なのに、
というようには思いますが、
そうした考えは行政には通用はしていないようです。

入院調整は月曜から金曜の間に、
何が何でも依頼しないと駄目だ、
というのが教訓の第一です。

2つめは、
救急隊に依頼するのは、
今にも呼吸が止まりかねない、というような、
本当の緊急事態のみで、
入院が必要な新型コロナウイルス感染症患者であっても、
まずは自前で連絡をして、
病院を探してから依頼をしないと駄目だ、
ということです。

近隣の病院で受け入れが難しく、
複数の関係者に相談したところ、
「その場合は救急要請でやむを得ない」という判断をしたのですが、
現実には刻一刻と状況は変化していて、
自力で探そうという気持ちで当たらないと、
救急隊の時間を無用に拘束してしまう結果になるからです。

救急隊の皆さんには、
今回本当にご迷惑をお掛けしたと思っています。
大変申し訳ありませんでした。

今後感染対策の主戦場は、
高齢者の新型コロナ感染に移ると思われ、
重傷者が増加すれば救急医療全体が崩壊する事態になりかねません。

微力ですが、
気を引き締めて、
なすべきことを無理のない範囲で続けたいとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症はなし崩しに5類相当になっている、ということ [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

新型コロナウイルス感染症の現状について、
また少し別の切り口から考えてみます。

新型コロナウイルス感染症は、
今なし崩しに季節性インフルエンザと、
殆ど変わらない対応にシフトしていると思います。

新型コロナウイルス感染症は2類相当の感染症とされており、
そのため全例把握のための検査が行われています。
新型コロナウイルス感染症を診断した医師は、
直ちに結果を保健所に届け出る義務が生じます。
保健所や医療機関には、
原則として患者の健康観察を連日行う義務も生じます。

今のオミクロン株による感染拡大は、
感染力が強く患者数の増加が急激である一方、
多くの特に持病のない若い感染者では、
普通の風邪程度の症状しかない、
という特徴があり、
2類相当の感染症として扱うことは、
過大ではないか、
たとえば季節性インフルエンザと同じ、
5類相当に変更するべきではないか、
というような意見があります。

この議論はまだ解決していませんが、
その一方で現実には、
新型コロナウイルス感染症は、
対応としては季節性インフルエンザと同等に、
シフトしているのが現状です。

ただ、それはかなり現場無視の、
歪みを伴った形でなされているので、
僕のような末端の医療機関の医師としては、
納得のゆかない部分を感じていることも事実です。

以下その内容をお話します。

季節性インフルエンザは毎年流行しますが、
その感染者数は、
定点観測と言って、
一部の登録された医療機関での、
検体の分析のみで集計され推測されています。
クリニックでもインフルエンザの診断をしていますが、
それは遺伝子診断ではなく、
通常は抗原検査のみで行っています。
これは健康保険が適応となっていますが、
遺伝子検査での確定診断が必要と感じても、
それを保険診療の範囲内で行うことは出来ません。
遺伝子診断は通常行政の機関などのみで施行されているのです。
〇〇株が流行しています、
というような報道も、
一部の検査のみをその根拠としているのです。

インフルエンザを診断しても、
別に届け出をする必要はなく、
隔離の期間も発症から5日以降経過して、
2日以上無症状であった時、
というように規定されていますが、
各自の自主的な判断に任されている部分があるので、
守る人もいれば守らない人もいます。

インフルエンザが問題となり、
保健所が関わるのは、
施設や学校などで、
クラスターと規定されるような集団感染が、
起こった時のみです。
こうした場合に施設や学校が保健所に相談しないと、
「何故届け出なかったのか?」
などと報道でつるし上げされたりすることがあります。

インフルエンザに感染しても、
その治療は健康保険の通常の負担が必要となります。

一方で新型コロナウイルス感染症では、
医師は原則として診断した全ての事例を、
原則その日のうちに保健所に届け出をしなければいけません。
保健所も全例を把握して全例に連絡をし、
連日の健康観察を施行する必要があります。
その診断は当初は行政検査として、
RT-PCR検査のみで行われ、
その後抗原検査などでの診断も、
許可されるようになりました。
行政検査としてのPCR検査の費用は無料で、
診断後の感染症に対する医療費も、
原則無料となります。

この仕組みの中で、
紆余曲折はありながら、
2021年までは診療体制は維持されて来たように、
個人的には考えています。

それが最近になり大きく揺らいでいます。

まず報告の部分ですが、
当初は保健所にファックスして報告し、
個別に電話で担当者に説明もする、
というのがスタンダードであったものが、
HER-SYSというシステムの導入以降、
医療機関でもっぱらHER-SYSに報告を挙げ、
保健所に個別の連絡は迷惑なのでしないで欲しい、
という方針となりました。
保健所からの報告も、
電話から軽症者ではショートメッセージにシフトし、
若年者では自分でHER-SYSに打ちこみをして、
それを経過観察とみなすという方針に転換されました。

前回の記事で説明しましたように、
診断の部分も大きく変わり、
自費検査や市販の抗原検査での陽性のみで、
医師が報告することも可とされました。
濃厚接触者などでは、
検査をしなくても症状のみで、
医師が診断しても可とされました。
行政検査による診断との整合性をどうするのかと思っていると、
疑義症患者として登録すべしという通達がありました。
経過観察自体も自分やればそれで可とされました。

こうなると、
医療機関など受診しなくても、
自分でみなしで療養し経過をみれば良い、
ということになりますから
実際的には登録をする患者は減り、
全例報告と患者把握という当初の方針は、
既に崩壊してしまった、
というのが実際ということが分かります。

つまり、今後の患者数の数字は、
全くあてになるものではなくなります。

保健所は家族以外の濃厚接触者の認定を止め、
その役目は事業所や管理医師などに丸投げされました。
保健所が意識的にかかわるのは、
施設でのクラスターの事案のみです。

この状況を客観的にみてみると、
患者把握はクラスターでしかされず、
全例検査もされず、
症状のみでの診断も可となったのですから、
季節性インフルエンザと、
何ら変わらない状況となっていることが分かります。

違いがあるのは、
「形式上」全例の届け出が必須、
という状況が残っている点のみです。
その負担のみが診断した医療機関に、
むなしく重くのしかかっているのです。

これは法律を変えずに、
中身を骨抜きにするという、
行政の得意な詐術そのものですが、
これでは虚偽の報告が増えるだけの結果になり、
表に出た数字には何の意味もないということにもなりかねません。

もう、こうした現状があるのであれば、
一刻も早く全例報告を止め、
現実に合った枠組みに一時的にせよシフトすることが、
まっとうな行政の在り方なのではないでしょうか?

対面のみを守り、
現場に負荷のみを掛けるような行政は、
変わって欲しいと切に願います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「自己検査だけで診断が可能」の実態 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
ただ、夜は昨日のRT-PCR結果が送られて来る予定なので、
クリニックで説明の電話と届け出に当たる予定です。

ここ数日がとても色々なことがあって、
ブログも現状について下書きは書いていたのですが、
書いている途中で行政の方針が急に変わったり、
診療を巡る状況も変わったりするので、
そのままアップできずに、
外来、トラブル、電話、トラブル、往診、トラブル、検査、トラブル、結果説明、トラブル、
といった荒波に飲み込まれていました。

それが、1月29日の午後5時4分に保健所からメールが届きました。

以下それを抜粋します。
 平素、大変お世話になっております。  新型コロナ感染者急増(激増)に伴い、感染者及び、濃厚接触者への対応が変更となりました。 今般、厚生労働省より下記2点について対応変更の通知が発出されましたので、お知らせします。 いずれも大きな方針変更ですので、内容把握の上、変更後の対応について、よろしくお願いします。 ○自宅待機中の濃厚接触者に症状が出現したら、『検査せずに診断可能』  併せて、有症状の患者が自ら抗原検査キットで陽性と申し出たら(写真確認含む)検査せずに診断が 可能となります。 (この場合の診断は、電話診療、オンライン診療を活用し、対面せずに診断することが出来ます。)

その前日でしたか、
厚労大臣の発表が報道されていて、
そこでは感染により医療が逼迫したような地域においては、
濃厚接触者は発熱などの症状が出た時点で、
検査なく医師の裁量で診断をしても良い、
というようなものがありましたから、
早晩そうした連絡はあるのだろうなあ、
とは思っていたのですが、
メールの内容はより踏み込んだもので、
全ての新型コロナウイルス感染症の患者さんについて、
患者さんが自宅で抗原検査を自分で施行し、
それが陽性であると本人が確認すれば、
それで電話のみで医療機関が、
患者さんが新型コロナウイルス感染症であると診断し、
届け出を出して良いということになっています。

ちょっと呆然としてしまいました。

ただ、そこに添付された、
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの、
2022年1月24付の通達では、
そのニュアンスはやや異なっています。

以下そちらを抜粋します。
今後感染がさらに継続して急拡大した場合に備え、患者の症状や重症化リスク等に応じて、 適切な医療の提供が確保されるよう、自治体(都道府県又は保健所設置市)の判断で 下記の対応を行うことが可能であることをお示しします。あわせて、管内市町村、関 係機関等への周知をお願いいたします。 記 1.地域の感染状況に応じて、診療・検査医療機関への受診に一定の時間を要する状 況となっている等の場合 当該場合には、自治体の判断で、以下①~③の対応を行うことが可能であること。 ①発熱等の症状がある場合でも、重症化リスクが低いと考えられる方につ いては、医療機関の受診前に、抗原定性検査キット等で自ら検査していただいた上で受診することを呼びかけること。この場合に、医師の判断で、受診 時に再度の検査を行うことなく、本人が提示する検査結果を用いて確定診断を行 って差し支えない。 ただし、本人が希望する場合には検査前でも医療機関への受診は可能であるこ とや、症状が重い場合や急変時等には速やかに医療機関を受診するよう、併せて 呼びかけること。また、重症化リスクが高い方については、これまでどおり医療 機関を受診していただき、適切な医療が受けられるようにすること。 ②地域の診療・検査医療機関以外の医療機関の協力も得て、電話診療・オンライン 診療の遠隔診療を積極的に活用すること。

一番の違いはこの措置は、
流行状況に併せて自治体によりその適応の有無が決められる、
というように元の文書では記載されているのですが、
保健所からのメールでは、
そういう通達が国から出ているのでそれを周知せよ、
というように書かれているだけです。

つまり、当該の自治体としてそうした決定をしたのか、
具体的には品川区として、
もう個人の抗原検査の結果だけで、
診断可能という決定をしているのか、
それとも、今後そうした対応に移る可能性があるので、
その点を周知するというだけなのか、
メールを読んでもその点が明確ではありません。
メールの最初には「変更になりました」と書かれているので、
決定されたのかと思いますが、
その後に書かれているのは、
国から通達があった、という内容のみで、
その通達では「自治体」が個別に判断する、
というように書かれているので、
結局どうなの、そう決まったの、まだ検討中なの?
と五里霧中の感じになってしまうのです。

ただ、今ではなくても、
早晩そうした事態になり、
患者さんからもそうした質問や依頼が来ることは、
これはもう間違いのないことのように思います。

そのための準備は、
今日のうちにしておかなくてはいけません。

ここ数日のクリニックへの電話で多かったのは、
「熱が出たのでかかりつけ医に連絡したら、
『うちではPCR検査はしていないので対応が出来ない。
北品川藤クリニックに相談して検査をしてもらって下さい』
と言われたので検査をして欲しい」
というものや、
「木下グループのPCR検査で陽性の疑いと言われたので、
発熱センターに連絡したら、もう一度確認の検査が必要と言われたので、
PCRの出来る医療機関として紹介された」
というもの、
また「抗原検査を買って家で検査をしたら陽性だった。それで発熱センターに連絡したら、
もう一度検査が必要と言われて紹介された」
というものでした。

これらについて、
可能な範囲で対応して、
時間の許す限りで来て頂いて、
検査をして結果を連絡し、
無理な場合にはかかりつけ医への、
もう一度の相談を指示する、
というのが昨日までの基本的なフローでした。
勿論手が足りなくてバタバタの状態でしたので、
失礼なお断りの対応をしてしまったり、
お怒りを買ってしまったような方もいらっしゃいました。
大変申し訳ありませんでした。

ただ、このフローは激変することになります。

まず、かかりつけ医のいる方は、
その医療機関がPCR検査や発熱外来に対応していなくても、
自分で自費のPCRなり、自費の抗原キットで検査をして、
それが陽性であれば、
かかりつけ医に電話してもらえばそれでいいことになります。
もう一度検査をする必要はなく、
かかりつけ医の判断で、
発生届を「疑義症患者」として出してもらえばそれで良い、
ということになる訳です。
濃厚接種者の発熱であれば、
検査自体も必須ではありません。
わざわざ発熱外来を受診する必要はなく、
かかりつけ医の裁量で判断が可能だということになるのです。

ただ、自費検査の結果を持ってこられて、
それで診断をして欲しいと言われたケースは、
正直対応に悩むのが実際です。

自費検査の精度をこちらで把握することは出来ませんし、
初診の患者さんに電話のみで、
症状を把握しろ、というのも実際的ではありません。

出来ればもう一度クリニックで責任を持てる形で検査をして、
しっかりと診断をした上で、
治療や療養につなげたいというのが、
臨床医としての切なる思いですが、
一旦こうした通達が出た以上、
それが通用しない状況になるのは明らかです。

家での抗原検査というのはより不確かなもので、
鼻からの検体採取の方法によっては、
感染していても陰性となることもありますし、
他のウイルス抗原との干渉によって、
感染していなくても陽性となることもあります。
オミクロン株では検出が不正確となる点があることも、
実際に報告されていて、ブログ記事にもしています。

ただ、一度こうした通達が出てしまえば、
多くの患者さんにとっては、
わざわざもう一度医療機関を受診して、
確認のために検査をしましょうと言われても、
そんな面倒なことをさせられて、
おまけにお金をとられるなどあり得ない、
と思われるのは必定です。

それを強要するようなことをすれば、
今の世の中患者さんの怒りを買って、
どのような目に遭わされるかも分かりません。

それでは、患者さんの言うことを全てそのまま受け入れて、
電話の話だけで新型コロナと診断し、
そのまま疑義症患者として発生届を連発するべきなのでしょうか?

ずるいことに役所の通達では、
「医師の判断により」診断すると書かれています。
これは都合の良い決まり文句で、
家での抗原検査だけで診断した場合、
それはその医師の責任である、ということになるのです。
これは拒否する自由はあるという建前ですが、
実際にはその患者さんにとって、
もう一度医療機関を受診して検査をすることのメリットは、
全くないと言って過言ではありませんから、
そうした選択をすればその医者が恨まれるのは必定ということになります。

この仕組みは性善説に基づいているので、
悪く考えると、
本当は感染していなくて、
症状のない人でも、
検査で陽性になったと言って、
電話でその確認を求める、というような事態も想定されます。

そんな行為に意味があるのか、
と思われる方があるかも知れませんが、
今はコロナ用の保険もありますし、
傷病手当などの対象にもなるので、
幾らでも悪用の理由は考えられます。

仮に悪用されてそれが問題になったとしても、
責任があるのは診断した医師だ、
ということになるのですから、
これはもう安易に出来ることではありません。

本来はもし緊急避難的にこうした仕組みを導入するのであれば、
専用の窓口を自治体が作って、
そこに医師や看護師も常駐させ、
自治体の責任で診断と療養の確認に当たるのが筋だと思います。

実際に神奈川県が導入しているスキームは、
医療機関を介さない方法を取っていて、
無用な混乱や医療機関の負担に繋がらないためには、
そうした方法を取る方が適切であると思います。

現状品川区のホームページにはそうした点についての明確な記載はなく、
(2022年1月30日午前11時43分現在)
どのように対応したら良いのか、
混乱の中頭を悩ませるだけの状況となっています。

自治体の良し悪しによって、
このように無用の混乱が生じるのが正しいことでしょうか?

一篇のメールで方針変更が通達され、
それで混乱しても不利益を被っても、
それは全て自己責任ということなのでしょうか?

このようになし崩しに自己診断が可能となるのであれば、
これまでの発熱外来での苦労は、
一体何だったのでしょうか?

今日は観察期間は10日と説明していたのに、
明日は7日と説明しなければならず、
今日は自費検査だけでは診断は出来ませんと説明していたのに、
明日は自費検査を見せるだけでも大丈夫になりました、
ただし当院ではそうした対応は困難です、
というような説明をしなければならないのです。

専門会議の専門家の方が、
こうした決定をされた趣旨は分かるのです。
地域医療を混乱させるために決めた訳ではなく、
発熱された患者さんが、
医療機関に押し寄せて対応困難になる事態を、
回避するために出されたことは理解はしています。

しかし、これでは逆効果です。

医者は患者さんを正確に診断したいのです。
極力受診可能な方は受診して頂いて、
適切に検査をして診断がしたいのです。
勿論迅速な診断が必要な場面では、
抗原検査のみで届け出を出したり、
濃厚接触者の感染で症状が明らかであれば、
擬似症患者として登録するようなことは、
既に実地にやっているのです。

しかし、こうした通達を一旦出されてしまうと、
医師のそうした裁量などと言うものは、
一瞬にして吹っ飛んでしまうのです。
抗原検査が陽性であった患者さんは診断のみを求め、
陰性であった患者さんも、
実際には感染の可能性はあるのですが、
「陰性なので問題ない」と、
感染対策なく受診をされるようになるのです。

厚労省の通達には、
こうした特例の措置を施行するには、
自治体はそれなりの準備をするべきだと記載されています。
そこには、抗原検査の無料配布や、
パルスオキシメーターの、
疑義症患者への迅速な配布の体制整備、
などの記載もあります。

しかし、今の時点でそうした対応が、
当該自治体で取られているのかどうか、
全く情報は入って来てはいません。

長々と駄文を連ねましたが、
最後に自治体の方に言いたいことは以下です。

「自己検査のみで診断可能」を決めるのであれば、
誰がどのような責任を担うのかについて、
きちんとした通達を出して下さい。
個々の医療機関が対応するのではなく、
「自己検査による診断」のための窓口を用意して、
そこで一元化して診断と届け出を行って下さい。
そうでないと個々の医療機関がより疲弊するだけです。
その責任は自治体が持つと明言して下さい。
指示の主体が東京都なのか区なのか、
その線引きも明確にして下さい。

それから自費のPCR検査で診断OKであるなら、
その診断の責任は検査をした機関や事業所で、
担うように指示をして下さい。
自費検査のみで診断可能であるなら、
その診断は自費検査を担当した事業所が、
責任を持つのが当然ではないでしょうか?
その責任を、どうして関係のない医療機関が、
自前では検査もせずに担わないといけないのですか?
そんな謂れは全くない筈です。

今日は新型コロナの検査と診断を巡る混乱の話でした。

もうほとほと疲れ果てました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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