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生菌製剤のクロストリジウム・デフィシル菌感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファーミキュータスのデフィシル菌再発への有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年1月20日掲載された、
薬剤耐性菌による感染の再発予防への、
腸内細菌製剤の有効性についての論文です。

クロストリジウム・デフィシル菌というのは、
嫌気性有芽胞菌という分類に属する細菌で、
破傷風の原因である破傷風菌や、
食中毒の原因となるボツリヌス菌などと、
同じ仲間に属する病原体です。

この細菌は人間の腸の常在菌で、
日本人の大人の1割は持っている、
という報告もありますが、
通常は人間には悪さをしません。

それが問題になるのは、
主に抗生物質の使用時で、
抗生物質の使用により、
大腸の正常な菌叢が乱され、
腸内細菌が死滅すると、
このデフィシル菌が異常に増殖し、
偽膜性腸炎という名称の、
下痢を伴う腸炎を起こします。

ポイントは抗生物質を使用していて、
強い下痢の症状が出現したら、
すぐに薬を中止することで、
軽症であればそれで腸内菌叢が正常に復すれば、
デフィシル菌の増殖も抑えられて元に戻ります。

ただ、
実際には全身状態が悪く、
抗生物質の使用が必須の患者さんで、
こうしたことが起こると、
免疫力の低下なども相俟って、
経過は遷延して重症化することも稀ではなく、
デフィシル菌の除菌のために、
再度抗生物質を使用することも已む無し、
という事態になります。

こうした場合に使用される薬剤の筆頭は、
バンコマイシンやフィダキソマイシンと呼ばれる抗菌剤ですが、
一旦は改善しても、
再発することが多いことが知られています。
その頻度は40から60%という統計があるほどです。

このデフィシル菌による腸炎の再発予防に、
腸内細菌製剤を使用するという考え方があります。

今回のその目的で使用されているのは、
SER-109という生菌製剤で、
健康なドナーの便から抽出した、
ファーミキューテス門という腸内細菌の1分類区画を、
増殖した芽胞製剤です。

ファーミキューテス門の増加は、
肥満や糖尿病のリスク増加と関連があるとされ、
これまであまり良い腸内細菌というイメージはありませんでしたが、
デフィシル菌などの増殖を抑え、
腸の炎症を抑制するような効果が、
これまでに確認されています。

そこで今回の臨床試験においては、
アメリカとカナダの複数施設において、
1年以内にに3回以上クロストリジウム・デフィシル菌による、
感染症と診断された18歳以上の182名を登録し、
本人にも担当者にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は生菌製剤SER-109のカプセルを3日間使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
治療後8週間の再発率を比較検証しています。

その結果、
生菌製剤使用群のデフィシル菌感染の再発率が、
12%であったのに対して、
偽薬群の再発率は40%で、
生菌製剤はデフィシル菌感染の再発リスクを、
68%(95%CI:0.18から0.58)有意に低下させていました。

このように、今回の臨床試験においては、
生菌製剤の使用により、
デフィシル菌の再発が明確に抑制されており、
今後こうした生菌製剤の使用は、
デフィシル菌感染のみならず、
多くの病気の予防や治療に、
活用されることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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