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「ラストナイト・イン・ソーホー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日までクリニックは年末年始の休診です。
明日からはいつも通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ラストナイトインソーホー.jpg
イギリスの俊英エドガー・ライト監督による新作で、
霊感のある内気な少女が、
デザイナーを志望してロンドンに行き、
そこで60年代のロンドンに実在した、
サンディという少女の魂と交感するところから、
奇怪な事件に巻き込まれるという物語です。

これ、ストーリーとしては、
その昔、マリオ・ヴァ―ヴァやダリオ・アルジェントが得意とした、
イタリアの残酷スリラー、ジャーロ、みたいな感じなんですね。
オープニングに「サスペリア」に良く似た場面がありますし、
マネキンを不気味に使うのも「モデル連続殺人」とか、
定番の趣向ですよね。

でも、それほどドギつくはないんですね。
ティーンエイジ映画と言っても良い、
ウェルメイドな感じです。
それから、実際に主人公が鏡の中に出没するという形で、
60年代のロンドンと現在とを往還するんですね。
60年代の少女を亡霊という形ではなくて、
実際に出現させることで、
ドラマに時間テーマ的な要素を付加して、
動きを持たせているのがクレヴァ―な趣向です。
更にちょっと性の搾取的なテーマも盛り込んで、
物語を現代的にリニューアルしています。
この点やっていることは、
かつてのルシオ・フルチに近いのですが、
あちらの悪趣味上等のドギつい世界と比べれば、
遙かに洗練されてウェルメイドになっています。
勿論完成度も遙かに高くなっています。

基本的にやりたかったのは、
ジャーロの再現と、60年代ロンドンの再現の、
2つであったのだと思うのですが、
内気な主人公の造形も魅力的で、
オープニングから「愛なき世界」の流れる音効も、
抜群に素敵で格好良いのです。
アメリカでもこうした映画はありますが、
映像の雰囲気が如何にもヨーロッパ、というのがいいですね。
イギリス映画である点が肝なのです。
映像も60年代ロンドンの目くるめく感じが最高で、
それに比べると、
死霊の群れなどはちょっとステレオタイプで印象が薄い、
という側面もあります。

オリジナルの台本は抜群の完成度だと思うのですね。
犯人の設定などの骨格も、
如何にもイギリスミステリという感じなのがいいですね。
こういうお話だと、
現実でも殺人事件を起こしたくなるところでしょ。
でもそれを最後のクライマックスまで一切しないんですね。
この我慢の仕方にもセンスを感じます。
ただあまりにお行儀が良すぎるのが個人的にはやや不満で、
これ、ロマン・ポランスキーもデビット・リンチも、
アリ・アスターも好きな世界だと思うのですが、
この3人の変態巨匠(褒めています)でしたら、
スリラーとホラーの部分は、
もっと壮絶な傑作になったと思うのですね。
その点がちょっと不満。
でも、この軽いセンスが、
エドガー・ライト監督の資質だと思うので、
これはこれで良いのだとは思います。

いずれにしても、
僕が最も偏愛する世界が万華鏡のように展開される、
これはもう至福の物語で、
最初から最後まで抜群に楽しい時間を過ごすことが出来ました。
控えめに言って最高です。

皆さんも是非!
必見ですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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