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佐藤正午「鳩の撃退法」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
鳩の撃退法.jpg
佐藤正午さんは「ジャンプ」を読んで、
あまりに素晴らしいのでびっくりして、
それから大好きな小説家になりました。

ただ、そのレトリックには結構癖があって、
かなり回りくどい表現も多いので、
幾つかの作品はどうしても読み進めることが出来ずに、
途中で断念してしまったものもあります。
「ジャンプ」以外では、
ラストが投げ出した印象はありますが「5」が目くるめく展開で面白く、
「アンダーリポート」もまずまず、
「身の上話」もなかなかでした。

この「鳩の撃退法」は最高傑作との呼び声も高く、
帯で糸井重里さんが絶賛されていたので、
「これはもう傑作に違いない。勿体ないのでもう少し経ってからじっくり読もう」
というように思っていて、
本を買ってはあったのですがそのままに寝かせていました。

それが、2021年に映画が公開ということになり、
これは映画を見る前に読んでおかねば、
と思って読むタイミングを伺っていたのですが、
結局読んだ時には映画は終わっていて間に合いませんでした。

小説はちょっと期待とは違っていました。

ともかく回りくどくて長いのです。

ハードボイルド小説のような犯罪物語が核にあって、
それに巻き込まれた、
かつて直木賞を取った今は書けない小説家が、
その現実を自分の小説で虚構化しよう、
というようなお話です。

主人公が小説家で作者が投影されていると言うと、
「5」がそうでしたし「Y」もひねっているけれど同じ感じ、
私小説にフィクションを絡めるという点では、
「永遠の2分の1」にかなり近い感じもあります。

ただその過去作と比較しても、
ダラダラとしたレトリックが異様に長くて、
本題がなかなか進まない感じがイライラします。

それから現実そのものと、
それに対する主人公の推測の部分、
そしてそこから構想された小説としての部分が、
非常に複雑に組み合わされている上に、
そのフィクション化される過程を、
物凄く回りくどくしつこつ説明するので、
段々うんざりしてしまいます。

上巻のラストで、
道ならぬ恋に堕ちた2人を、
情感を籠めて描写する件があり、
そこはなかなか魅力的なので、
このまま怒涛の展開になってくれ、
というように思うのですが、
その後はまだ主人公がバーテンになったりして、
ダラダラする展開が続き、
ラストまで結局そのままで終わってしまいました。

正直脱力して、
糸井重里さんの絶賛の文章を読み返したのですが、
結局この作品の何処が良いのか、
と言う点については、
あまり明確に記載はされていませんでした。

一番良くないと思うのは、
核になるミステリー的な事件が、
正直凡庸で詰まらないのですね。
そこに登場する町を牛耳る悪党というのが、
また魅力の欠片もない薄っぺらな造形ですよね。
これじゃ駄目なのじゃないかしら。
偽札が何枚あって何処に行った、という謎にしたって、
確かに良く考えられてはいますが、
読者としてはどうでもいいですよね。
少なくとも個人的にはどうでもいいな、
と思いました。

内容的には「永遠の2分の1」に近いんですね。
あのお話が更に引き延ばされてダラダラ続くという感じ。
「ジャンプ」に近い設定の部分もあるのですが、
全体に埋没して良く分からない感じに終わっていました。

そんな訳で期待が大きかっただけに、
結構失望の残る読後感だったのですが、
好きな作家であることは間違いがなく、
読み残した作品に意外な傑作が隠れているかも知れないので、
これからも時に触れて初読再読を繰り返したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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