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新型コロナウイルス感染症の入院実現への困難 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

高齢者の新型コロナウイルス感染症の入院必要事例について、
かなりの困難と疲弊を感じたので記録として残しておきます。

基本事実を元にしていますが、
守秘義務及び患者の特定を避ける観点から、
事実を一部改変、省略などをしている点を予めご理解下さい。

患者さんはBさん、
90代の女性で認知症による入院歴があります。
高血圧や骨粗鬆症の持病も持っています。
施設入所をしてクリニックで訪問診療をしていました。
土日は家族のところに外泊していたのですが、
戻った後で家族の感染が確認され、
その2日後に施設内でBさんが発熱しました。

あーっ、何で…
と後で絶句するような状況です。

発熱の翌日に家族から連絡があり、
病状をお聞きしました。

発熱は38度台で、元気はないけれど、
何とか食事は取れている状態、と言う話でした。

これは迅速に診断して、
出来れば早急に入院に結び付けたい、
と判断しました。

ただ、その日に訪問して検査するのは、
時間的に厳しい状況でした。
それで別の場所にいる家族に唾液採取用のチューブをお渡しして、
検体を採取して持ってきてもらう方針としました。

ところが…
午後の診察の時間になって家族から電話が入り、
唾液が取れないという連絡です。
もう少し早く言ってくれれば、
昼の空き時間に訪問して鼻腔からの検査も出来るのに、
と煩悶するようなタイミングの悪さでした。

家族にパルスオキシメーターを渡し、
私用の携帯番号もお教えしました。
それで健康観察を指示し、
体調悪化時は連絡するようにお願いしました。

それから色々あって、
訪問出来たのは2日後の昼でした。土曜日です。
2日前の発熱が38度で酸素飽和度が98%、
それが翌日には94%に低下していました。
土曜日の訪問時には酸素飽和度は91%で、
意識は清明に近い状態でしたが、
痰がらみが強く、食事は殆ど摂れない状態が続いていました。
取り急ぎ鼻腔から検体を取って抗原検査を施行し、
陽性が確認されたので、
HER-SYSに発生届けを送りました。
この時点で新型コロナウイルス感染症と確認された、
ということになります。

超高齢で基礎疾患もあり、
酸素飽和度も低下して、
発症から3日の時点で改善傾向がないのですから、
これは迅速に入院が必要な事例と考えました。

ただ、問題はそのための方法です。

こうした場合の救急要請の相談窓口に相談し、
入院が必要なので調整をして欲しいと依頼しました。

すると、医療機関からの依頼はこちらからは受け付けていない、
保健所も東京都の担当部署も、
土曜日は休みなので入院調整は出来ない、
という驚くような返答でした。

保健所には電話をしましたが、連絡は付きません。

近隣の新型コロナの受け入れ病院に電話をしましたが、
満床で受け入れは出来ない、という返事です。

困ってしまいました。

それで、救急隊員をしている知人に相談すると、
その状況であれば直接救急車を要請して、
病院を探してもらっても止むを得ないのではないか、
というアドバイスでした。

それで119番にクリニックから連絡して、
事情を説明の上救急車を要請しました。

その後現場に到着した救急隊から連絡が入ったのですが、
現状明確な呼吸困難という状態ではないので、
近隣の病院は殆ど受け入れ困難という状況を考えると、
入院先を見つけることは難しいが、
それでも入院が必要と考えるのか、
という質問でした。

個人的には90代で持病があり、
呼吸苦を訴えていて3日経っても病状は改善していないのですから、
入院は当然必要ではないかと理解していたのですが、
今の深刻な状況では、
そうした常識は通用しないのが現実であるようでした。

それでも入院は必要と思うと答えると、
それでは探してみましょう、というお返事でした。

それからクリニックは午後の診察に入り、
救急隊から再度の連絡が入ったのは3時間後のことでした。

結論として60カ所以上に連絡をしたものの、
受け入れ先は未だに見付かっていない、とのことでした。

それで、駄目元とは思ったのですが、
Bさんが以前入院していた総合病院に連絡をして、
今の窮状を相談すると、
それなら何とか受け入れましょう、
というご返事が頂けました。
地獄に仏とはこのことです。

その旨を救急隊に連絡し、
その後無事Bさんは総合病院に入院されました。

今回の事例の教訓は幾つかあります。

まず、土日の入院依頼は駄目だ、ということです。
これは救急センターの方も救急隊の方も言っていたので、
おそらくは事実だと思いますが、
クリニックのある区の保健所も東京都も、
土日は新型コロナウイルス感染症患者の入院調整を、
やっていない、というのです。
そんな馬鹿な話があるのだろうか、
病気に日曜も祝日もない筈なのに、
というようには思いますが、
そうした考えは行政には通用はしていないようです。

入院調整は月曜から金曜の間に、
何が何でも依頼しないと駄目だ、
というのが教訓の第一です。

2つめは、
救急隊に依頼するのは、
今にも呼吸が止まりかねない、というような、
本当の緊急事態のみで、
入院が必要な新型コロナウイルス感染症患者であっても、
まずは自前で連絡をして、
病院を探してから依頼をしないと駄目だ、
ということです。

近隣の病院で受け入れが難しく、
複数の関係者に相談したところ、
「その場合は救急要請でやむを得ない」という判断をしたのですが、
現実には刻一刻と状況は変化していて、
自力で探そうという気持ちで当たらないと、
救急隊の時間を無用に拘束してしまう結果になるからです。

救急隊の皆さんには、
今回本当にご迷惑をお掛けしたと思っています。
大変申し訳ありませんでした。

今後感染対策の主戦場は、
高齢者の新型コロナ感染に移ると思われ、
重傷者が増加すれば救急医療全体が崩壊する事態になりかねません。

微力ですが、
気を引き締めて、
なすべきことを無理のない範囲で続けたいとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症はなし崩しに5類相当になっている、ということ [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

新型コロナウイルス感染症の現状について、
また少し別の切り口から考えてみます。

新型コロナウイルス感染症は、
今なし崩しに季節性インフルエンザと、
殆ど変わらない対応にシフトしていると思います。

新型コロナウイルス感染症は2類相当の感染症とされており、
そのため全例把握のための検査が行われています。
新型コロナウイルス感染症を診断した医師は、
直ちに結果を保健所に届け出る義務が生じます。
保健所や医療機関には、
原則として患者の健康観察を連日行う義務も生じます。

今のオミクロン株による感染拡大は、
感染力が強く患者数の増加が急激である一方、
多くの特に持病のない若い感染者では、
普通の風邪程度の症状しかない、
という特徴があり、
2類相当の感染症として扱うことは、
過大ではないか、
たとえば季節性インフルエンザと同じ、
5類相当に変更するべきではないか、
というような意見があります。

この議論はまだ解決していませんが、
その一方で現実には、
新型コロナウイルス感染症は、
対応としては季節性インフルエンザと同等に、
シフトしているのが現状です。

ただ、それはかなり現場無視の、
歪みを伴った形でなされているので、
僕のような末端の医療機関の医師としては、
納得のゆかない部分を感じていることも事実です。

以下その内容をお話します。

季節性インフルエンザは毎年流行しますが、
その感染者数は、
定点観測と言って、
一部の登録された医療機関での、
検体の分析のみで集計され推測されています。
クリニックでもインフルエンザの診断をしていますが、
それは遺伝子診断ではなく、
通常は抗原検査のみで行っています。
これは健康保険が適応となっていますが、
遺伝子検査での確定診断が必要と感じても、
それを保険診療の範囲内で行うことは出来ません。
遺伝子診断は通常行政の機関などのみで施行されているのです。
〇〇株が流行しています、
というような報道も、
一部の検査のみをその根拠としているのです。

インフルエンザを診断しても、
別に届け出をする必要はなく、
隔離の期間も発症から5日以降経過して、
2日以上無症状であった時、
というように規定されていますが、
各自の自主的な判断に任されている部分があるので、
守る人もいれば守らない人もいます。

インフルエンザが問題となり、
保健所が関わるのは、
施設や学校などで、
クラスターと規定されるような集団感染が、
起こった時のみです。
こうした場合に施設や学校が保健所に相談しないと、
「何故届け出なかったのか?」
などと報道でつるし上げされたりすることがあります。

インフルエンザに感染しても、
その治療は健康保険の通常の負担が必要となります。

一方で新型コロナウイルス感染症では、
医師は原則として診断した全ての事例を、
原則その日のうちに保健所に届け出をしなければいけません。
保健所も全例を把握して全例に連絡をし、
連日の健康観察を施行する必要があります。
その診断は当初は行政検査として、
RT-PCR検査のみで行われ、
その後抗原検査などでの診断も、
許可されるようになりました。
行政検査としてのPCR検査の費用は無料で、
診断後の感染症に対する医療費も、
原則無料となります。

この仕組みの中で、
紆余曲折はありながら、
2021年までは診療体制は維持されて来たように、
個人的には考えています。

それが最近になり大きく揺らいでいます。

まず報告の部分ですが、
当初は保健所にファックスして報告し、
個別に電話で担当者に説明もする、
というのがスタンダードであったものが、
HER-SYSというシステムの導入以降、
医療機関でもっぱらHER-SYSに報告を挙げ、
保健所に個別の連絡は迷惑なのでしないで欲しい、
という方針となりました。
保健所からの報告も、
電話から軽症者ではショートメッセージにシフトし、
若年者では自分でHER-SYSに打ちこみをして、
それを経過観察とみなすという方針に転換されました。

前回の記事で説明しましたように、
診断の部分も大きく変わり、
自費検査や市販の抗原検査での陽性のみで、
医師が報告することも可とされました。
濃厚接触者などでは、
検査をしなくても症状のみで、
医師が診断しても可とされました。
行政検査による診断との整合性をどうするのかと思っていると、
疑義症患者として登録すべしという通達がありました。
経過観察自体も自分やればそれで可とされました。

こうなると、
医療機関など受診しなくても、
自分でみなしで療養し経過をみれば良い、
ということになりますから
実際的には登録をする患者は減り、
全例報告と患者把握という当初の方針は、
既に崩壊してしまった、
というのが実際ということが分かります。

つまり、今後の患者数の数字は、
全くあてになるものではなくなります。

保健所は家族以外の濃厚接触者の認定を止め、
その役目は事業所や管理医師などに丸投げされました。
保健所が意識的にかかわるのは、
施設でのクラスターの事案のみです。

この状況を客観的にみてみると、
患者把握はクラスターでしかされず、
全例検査もされず、
症状のみでの診断も可となったのですから、
季節性インフルエンザと、
何ら変わらない状況となっていることが分かります。

違いがあるのは、
「形式上」全例の届け出が必須、
という状況が残っている点のみです。
その負担のみが診断した医療機関に、
むなしく重くのしかかっているのです。

これは法律を変えずに、
中身を骨抜きにするという、
行政の得意な詐術そのものですが、
これでは虚偽の報告が増えるだけの結果になり、
表に出た数字には何の意味もないということにもなりかねません。

もう、こうした現状があるのであれば、
一刻も早く全例報告を止め、
現実に合った枠組みに一時的にせよシフトすることが、
まっとうな行政の在り方なのではないでしょうか?

対面のみを守り、
現場に負荷のみを掛けるような行政は、
変わって欲しいと切に願います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「自己検査だけで診断が可能」の実態 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
ただ、夜は昨日のRT-PCR結果が送られて来る予定なので、
クリニックで説明の電話と届け出に当たる予定です。

ここ数日がとても色々なことがあって、
ブログも現状について下書きは書いていたのですが、
書いている途中で行政の方針が急に変わったり、
診療を巡る状況も変わったりするので、
そのままアップできずに、
外来、トラブル、電話、トラブル、往診、トラブル、検査、トラブル、結果説明、トラブル、
といった荒波に飲み込まれていました。

それが、1月29日の午後5時4分に保健所からメールが届きました。

以下それを抜粋します。
 平素、大変お世話になっております。  新型コロナ感染者急増(激増)に伴い、感染者及び、濃厚接触者への対応が変更となりました。 今般、厚生労働省より下記2点について対応変更の通知が発出されましたので、お知らせします。 いずれも大きな方針変更ですので、内容把握の上、変更後の対応について、よろしくお願いします。 ○自宅待機中の濃厚接触者に症状が出現したら、『検査せずに診断可能』  併せて、有症状の患者が自ら抗原検査キットで陽性と申し出たら(写真確認含む)検査せずに診断が 可能となります。 (この場合の診断は、電話診療、オンライン診療を活用し、対面せずに診断することが出来ます。)

その前日でしたか、
厚労大臣の発表が報道されていて、
そこでは感染により医療が逼迫したような地域においては、
濃厚接触者は発熱などの症状が出た時点で、
検査なく医師の裁量で診断をしても良い、
というようなものがありましたから、
早晩そうした連絡はあるのだろうなあ、
とは思っていたのですが、
メールの内容はより踏み込んだもので、
全ての新型コロナウイルス感染症の患者さんについて、
患者さんが自宅で抗原検査を自分で施行し、
それが陽性であると本人が確認すれば、
それで電話のみで医療機関が、
患者さんが新型コロナウイルス感染症であると診断し、
届け出を出して良いということになっています。

ちょっと呆然としてしまいました。

ただ、そこに添付された、
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの、
2022年1月24付の通達では、
そのニュアンスはやや異なっています。

以下そちらを抜粋します。
今後感染がさらに継続して急拡大した場合に備え、患者の症状や重症化リスク等に応じて、 適切な医療の提供が確保されるよう、自治体(都道府県又は保健所設置市)の判断で 下記の対応を行うことが可能であることをお示しします。あわせて、管内市町村、関 係機関等への周知をお願いいたします。 記 1.地域の感染状況に応じて、診療・検査医療機関への受診に一定の時間を要する状 況となっている等の場合 当該場合には、自治体の判断で、以下①~③の対応を行うことが可能であること。 ①発熱等の症状がある場合でも、重症化リスクが低いと考えられる方につ いては、医療機関の受診前に、抗原定性検査キット等で自ら検査していただいた上で受診することを呼びかけること。この場合に、医師の判断で、受診 時に再度の検査を行うことなく、本人が提示する検査結果を用いて確定診断を行 って差し支えない。 ただし、本人が希望する場合には検査前でも医療機関への受診は可能であるこ とや、症状が重い場合や急変時等には速やかに医療機関を受診するよう、併せて 呼びかけること。また、重症化リスクが高い方については、これまでどおり医療 機関を受診していただき、適切な医療が受けられるようにすること。 ②地域の診療・検査医療機関以外の医療機関の協力も得て、電話診療・オンライン 診療の遠隔診療を積極的に活用すること。

一番の違いはこの措置は、
流行状況に併せて自治体によりその適応の有無が決められる、
というように元の文書では記載されているのですが、
保健所からのメールでは、
そういう通達が国から出ているのでそれを周知せよ、
というように書かれているだけです。

つまり、当該の自治体としてそうした決定をしたのか、
具体的には品川区として、
もう個人の抗原検査の結果だけで、
診断可能という決定をしているのか、
それとも、今後そうした対応に移る可能性があるので、
その点を周知するというだけなのか、
メールを読んでもその点が明確ではありません。
メールの最初には「変更になりました」と書かれているので、
決定されたのかと思いますが、
その後に書かれているのは、
国から通達があった、という内容のみで、
その通達では「自治体」が個別に判断する、
というように書かれているので、
結局どうなの、そう決まったの、まだ検討中なの?
と五里霧中の感じになってしまうのです。

ただ、今ではなくても、
早晩そうした事態になり、
患者さんからもそうした質問や依頼が来ることは、
これはもう間違いのないことのように思います。

そのための準備は、
今日のうちにしておかなくてはいけません。

ここ数日のクリニックへの電話で多かったのは、
「熱が出たのでかかりつけ医に連絡したら、
『うちではPCR検査はしていないので対応が出来ない。
北品川藤クリニックに相談して検査をしてもらって下さい』
と言われたので検査をして欲しい」
というものや、
「木下グループのPCR検査で陽性の疑いと言われたので、
発熱センターに連絡したら、もう一度確認の検査が必要と言われたので、
PCRの出来る医療機関として紹介された」
というもの、
また「抗原検査を買って家で検査をしたら陽性だった。それで発熱センターに連絡したら、
もう一度検査が必要と言われて紹介された」
というものでした。

これらについて、
可能な範囲で対応して、
時間の許す限りで来て頂いて、
検査をして結果を連絡し、
無理な場合にはかかりつけ医への、
もう一度の相談を指示する、
というのが昨日までの基本的なフローでした。
勿論手が足りなくてバタバタの状態でしたので、
失礼なお断りの対応をしてしまったり、
お怒りを買ってしまったような方もいらっしゃいました。
大変申し訳ありませんでした。

ただ、このフローは激変することになります。

まず、かかりつけ医のいる方は、
その医療機関がPCR検査や発熱外来に対応していなくても、
自分で自費のPCRなり、自費の抗原キットで検査をして、
それが陽性であれば、
かかりつけ医に電話してもらえばそれでいいことになります。
もう一度検査をする必要はなく、
かかりつけ医の判断で、
発生届を「疑義症患者」として出してもらえばそれで良い、
ということになる訳です。
濃厚接種者の発熱であれば、
検査自体も必須ではありません。
わざわざ発熱外来を受診する必要はなく、
かかりつけ医の裁量で判断が可能だということになるのです。

ただ、自費検査の結果を持ってこられて、
それで診断をして欲しいと言われたケースは、
正直対応に悩むのが実際です。

自費検査の精度をこちらで把握することは出来ませんし、
初診の患者さんに電話のみで、
症状を把握しろ、というのも実際的ではありません。

出来ればもう一度クリニックで責任を持てる形で検査をして、
しっかりと診断をした上で、
治療や療養につなげたいというのが、
臨床医としての切なる思いですが、
一旦こうした通達が出た以上、
それが通用しない状況になるのは明らかです。

家での抗原検査というのはより不確かなもので、
鼻からの検体採取の方法によっては、
感染していても陰性となることもありますし、
他のウイルス抗原との干渉によって、
感染していなくても陽性となることもあります。
オミクロン株では検出が不正確となる点があることも、
実際に報告されていて、ブログ記事にもしています。

ただ、一度こうした通達が出てしまえば、
多くの患者さんにとっては、
わざわざもう一度医療機関を受診して、
確認のために検査をしましょうと言われても、
そんな面倒なことをさせられて、
おまけにお金をとられるなどあり得ない、
と思われるのは必定です。

それを強要するようなことをすれば、
今の世の中患者さんの怒りを買って、
どのような目に遭わされるかも分かりません。

それでは、患者さんの言うことを全てそのまま受け入れて、
電話の話だけで新型コロナと診断し、
そのまま疑義症患者として発生届を連発するべきなのでしょうか?

ずるいことに役所の通達では、
「医師の判断により」診断すると書かれています。
これは都合の良い決まり文句で、
家での抗原検査だけで診断した場合、
それはその医師の責任である、ということになるのです。
これは拒否する自由はあるという建前ですが、
実際にはその患者さんにとって、
もう一度医療機関を受診して検査をすることのメリットは、
全くないと言って過言ではありませんから、
そうした選択をすればその医者が恨まれるのは必定ということになります。

この仕組みは性善説に基づいているので、
悪く考えると、
本当は感染していなくて、
症状のない人でも、
検査で陽性になったと言って、
電話でその確認を求める、というような事態も想定されます。

そんな行為に意味があるのか、
と思われる方があるかも知れませんが、
今はコロナ用の保険もありますし、
傷病手当などの対象にもなるので、
幾らでも悪用の理由は考えられます。

仮に悪用されてそれが問題になったとしても、
責任があるのは診断した医師だ、
ということになるのですから、
これはもう安易に出来ることではありません。

本来はもし緊急避難的にこうした仕組みを導入するのであれば、
専用の窓口を自治体が作って、
そこに医師や看護師も常駐させ、
自治体の責任で診断と療養の確認に当たるのが筋だと思います。

実際に神奈川県が導入しているスキームは、
医療機関を介さない方法を取っていて、
無用な混乱や医療機関の負担に繋がらないためには、
そうした方法を取る方が適切であると思います。

現状品川区のホームページにはそうした点についての明確な記載はなく、
(2022年1月30日午前11時43分現在)
どのように対応したら良いのか、
混乱の中頭を悩ませるだけの状況となっています。

自治体の良し悪しによって、
このように無用の混乱が生じるのが正しいことでしょうか?

一篇のメールで方針変更が通達され、
それで混乱しても不利益を被っても、
それは全て自己責任ということなのでしょうか?

このようになし崩しに自己診断が可能となるのであれば、
これまでの発熱外来での苦労は、
一体何だったのでしょうか?

今日は観察期間は10日と説明していたのに、
明日は7日と説明しなければならず、
今日は自費検査だけでは診断は出来ませんと説明していたのに、
明日は自費検査を見せるだけでも大丈夫になりました、
ただし当院ではそうした対応は困難です、
というような説明をしなければならないのです。

専門会議の専門家の方が、
こうした決定をされた趣旨は分かるのです。
地域医療を混乱させるために決めた訳ではなく、
発熱された患者さんが、
医療機関に押し寄せて対応困難になる事態を、
回避するために出されたことは理解はしています。

しかし、これでは逆効果です。

医者は患者さんを正確に診断したいのです。
極力受診可能な方は受診して頂いて、
適切に検査をして診断がしたいのです。
勿論迅速な診断が必要な場面では、
抗原検査のみで届け出を出したり、
濃厚接触者の感染で症状が明らかであれば、
擬似症患者として登録するようなことは、
既に実地にやっているのです。

しかし、こうした通達を一旦出されてしまうと、
医師のそうした裁量などと言うものは、
一瞬にして吹っ飛んでしまうのです。
抗原検査が陽性であった患者さんは診断のみを求め、
陰性であった患者さんも、
実際には感染の可能性はあるのですが、
「陰性なので問題ない」と、
感染対策なく受診をされるようになるのです。

厚労省の通達には、
こうした特例の措置を施行するには、
自治体はそれなりの準備をするべきだと記載されています。
そこには、抗原検査の無料配布や、
パルスオキシメーターの、
疑義症患者への迅速な配布の体制整備、
などの記載もあります。

しかし、今の時点でそうした対応が、
当該自治体で取られているのかどうか、
全く情報は入って来てはいません。

長々と駄文を連ねましたが、
最後に自治体の方に言いたいことは以下です。

「自己検査のみで診断可能」を決めるのであれば、
誰がどのような責任を担うのかについて、
きちんとした通達を出して下さい。
個々の医療機関が対応するのではなく、
「自己検査による診断」のための窓口を用意して、
そこで一元化して診断と届け出を行って下さい。
そうでないと個々の医療機関がより疲弊するだけです。
その責任は自治体が持つと明言して下さい。
指示の主体が東京都なのか区なのか、
その線引きも明確にして下さい。

それから自費のPCR検査で診断OKであるなら、
その診断の責任は検査をした機関や事業所で、
担うように指示をして下さい。
自費検査のみで診断可能であるなら、
その診断は自費検査を担当した事業所が、
責任を持つのが当然ではないでしょうか?
その責任を、どうして関係のない医療機関が、
自前では検査もせずに担わないといけないのですか?
そんな謂れは全くない筈です。

今日は新型コロナの検査と診断を巡る混乱の話でした。

もうほとほと疲れ果てました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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何故発熱外来は斯くも渋滞を生じているのか? [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
夜はまた、いつ来るとも知れぬ検査報告を待つ予定です。

今日は新型コロナウイルス感染症を巡る、
最近最も怒りを覚えた事例をご紹介します。

基本的には事実の記載ですが、
守秘義務及び患者さんの特定を避けるという観点から、
一部事実を変えたり、省略して記載している部分のあることを、
予めご了解下さい。

患者さんはAさん。
30代の男性で、
炎症性腸疾患の既往がありました。
ストレスとも関連が深く、
下血して貧血になったり、
腹痛を繰り返したりするような難病です。
ただ、数年前には完治(寛解)したと主治医より告げられ、
その後は特に治療はせず、
経過観察のみ施行されていました。

Aさんは地方の出身で、
地元の病院で長く診てもらっていたのですが、
昨年になって仕事のために東京に引っ越しをしました。
本来は炎症性腸疾患の経過観察は、
続けるべきではあったのですが、
症状は何もない状態がもう2年以上続いていたので、
東京に来てから医療機関を受診することはありませんでした。
これはもう通常のことだと思います。

ところが…

仕事のストレスがきっかけであったのかも知れません。
今年の1月の初めからお腹の不調が再燃するようになりました。
下血があったり腹痛が時々起こるようになりました。
それでも、もう少し様子をみようと医療機関の受診はしないでいると、
ある日微熱と咳と共に、
身を捩るような強い腹痛が襲いました。

そこでAさんは、
田町にある○○クリニック田町という、
都内で複数の分院を手広く展開しているクリニックを受診して、
東京都「無料」PCR検査を受けました。

この検査は都が無料で行なっているもので、
そのクリニックが配布したチラシによると、
対象は「感染に対する不安があり、検査を希望する「全て」の「東京都在住の方」」と書かれていて、
かつ「無症状の人も、無料PCR検査の対象となります」
とも補足されています。

この文章を読む限り、
発熱などの症状のある人も、
この検査を受けて問題がないように思います。

ただ、その元となっている、
東京都の「PCR等検査無料化事業」では、
そのニュアンスは少し違います。

その対象者の記載を以下引用します。こちらです。
(1)ワクチン・検査パッケージ制度又は対象者全員検査及び飲食、イベント、旅行・帰省等の  活動に際して、陰性の検査結果を確認する必要がある無症状の方 (2)発熱などの症状のない 無症状の都民の方で、下記に該当する方 感染している可能性に不安を抱える方 あらかじめ感染不安を解消しておきたい事情がある方   たとえば、以下のような方が想定されます。  ・感染者の周辺で保健所により濃厚接触者とされなかった方のうち、感染不安を抱える方  ・高齢者施設を訪問する予定がある方など、あらかじめ感染不安を解消しておきたい事情がある方  ・感染拡大傾向時においても対人接触の機会が多い環境にある方

このように、元の文面は明確に無症状の人に、
対象を限っているのですが、
医療機関の文書は、有症状であっても、
検査は可能と謳っています。

何故こうした詐術が可能であるかと言うと、
この医療機関は新型コロナウイルス感染症の検査や診療を行う医療機関でもあって、
公費の行政検査も可能であるからです。

本来はそれと無料PCR検査はそもそも趣旨が違うので、
混同するような記載は医療の倫理に反すると思いますが、
この医療機関にとっては、
そんなことはどうでもいいようです。

それで問題が生じなければ、
勿論文句を言う筋合いはありません。

しかし、実際にはこれがトラブルの元になりました。

Aさんは今の体調不良がコロナが原因かそうでないか、
それを調べる目的でその検査を受けました。
医療機関であるので、何かあればアフターフォローも万全、
というように思ったのです。
ネットでホームページを見れば、
確かに多くの病気に対応している上に、
新型コロナ感染症の経口薬の投与にも対応、
というように記載されています。

Aさんは唾液を採取して結果を待ちました。

すると採取翌日の夜にメールで結果が届きました。
「陽性」という結果です。
そこには「陽性者は医療機関を受診して下さい。
当院の予約受付はこちら」というような文言がありました。
それで、Aさんはただちに電話でクリニックに連絡したのですが、
大企業によくある録音で番号を入力するタイプのもので、
入力しても何度もたらいまわしになるだけで、
何度やっても肉声の電話には繋がりません。
メールも出しましたが返信はありません。

そのうちに体調はより悪化して、
熱は上昇しますし、腹痛はひどくなる一方です。
それで、Aさんは発熱センターに電話をして相談しました。
すると、担当者は無料のPCR検査ではコロナの診断にはならないので、
もよりの発熱外来を受診して、
もう一度検査を受ける必要があると説明。
発熱外来のある医療機関を複数紹介しました。
そのうちの1つとして、
Aさんはクリニックを受診されたのです。

受診されたAさんは強い腹痛で七転八倒の状態です。
当座の薬を出しRT-PCR検査はしましたが、
この状態で検査結果が出るのを待つというのも、
とても酷な感じです。

それで近隣のコロナ患者も受け入れている病院に依頼して、
これこれの状態であるけれど、
入院前提に診療をしてもらえないかとお願いしました。
しかし、その時点では、
もうコロナ用の病床はほぼ埋まっている状態で、
受け入れる余地はない、という返答でした。
医師会にもその旨相談しましたが、
コロナの届け出前に病状悪化時は、
救急車を要請するしか手がない、
という返事です。

それでその旨Aさんには説明して、
翌日のRT-PCR結果を待つことにしました。

結果のファックスは翌日の夜10時過ぎに届きました。
検体数が多く、結果はどんどん遅れているのです。
それから電話をしましたが、
幸いにもAさんはその時点では腹痛も軽快していました。
それで陽性の説明をして、
その場でHER-SYSというシステムを使って、
発生届を送信しました。

この事例は本来は、
〇〇クリニック田町で責任を持って診るべきだと思うのです。

薬局などで行なっている検査ではなく、
保健医療機関で、
それも行政検査も可能な医療機関で行なっている検査なのですから、
それが東京都の無料検査のフォーマットで行なわれたものであっても、
陽性となった事例については自院で責任を持つのが、
医療機関の倫理であると思います。
それを意図的に自費検査と行政検査を混同させる手法で、
検査だけはやりまくり、
結果としてAさんのような、
「感染難民」を作り出しているのです。

行政検査をして診療もしていながら、
発生届すら自院では出さずに放置するのですから、
これほど酷いあり様はないと、
個人的には思います。

このように、検査数は多くなり、
検査を受けること自体は簡単になったのですが、
それほど高い陽性率を想定している枠組みではそもそもなく、
「陰性で安心」を提供するための仕組みである点が、
今の混乱を生み出しているのです。
クリニックでは連日6割を超える患者さんが陽性となっています。
自院の検査だけで手いっぱいで、
毎日電話説明だけで3時間以上掛かる状態ですが、
それで自費検査を同時に行うなど、
そもそも不可能なのです。

結果として、
陽性の患者さんが発生届も出されず、
行き場を失っているのが現状だと思います。

確かにオミクロン株感染の多くは軽症に終わります。
しかし、高齢者やAさんのように持病のある方では、
持病が悪化するケースがしばしばあり、
重症化しても結果として病院に掛かることも入院することも出来ない、
という事態が発生しているのです。

このことを是非、
皆さんにも分かって頂きたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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感染症と差別についての一考察 [身辺雑記]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。
夜は勿論RT-PCR検査の結果説明が待っています。

今週かなりつらいことがありました。

クリニックでは現在1階で通常診療を、
2階でトリアージの上発熱外来と、
RT-PCR検査など、
感染リスクのある検査を、
防護衣などで感染防御の上行なっています。

両者の患者さんが一緒になることがないように、
入り口のところでトリアージを行ない、
発熱以外にも頭痛や咽頭痛など、
感染症を疑わせる症状があった場合には、
取り敢えず外で待って頂き、
2階にご案内するような方針をとっています。

基本的には感染を疑わせる症状のある場合には、
いきなりクリニックに受診するのではなく、
まず電話で連絡をして頂き、
お時間を決めて2階にご案内するようにしています。
2階は原則は完全予約制としているのです。

ただ、実際には風邪症状で予約なく、
クリニックを訪れる患者さんは後を絶たないのが実際です。

オミクロン株の流行以前であれば、
37.5度以上の発熱というのを、
トリアージの1つの指標としてそう間違いのないところでしたが、
最近の傾向としては、
昨日急に熱が出たけれど今は症状がなくて平熱、
というような人が、
意外に感染しているというケースが多く、
そうした人は「今日は無症状だから大丈夫」
というような言い方で、
スルリと1階に入って来てしまうことがあるから大変です。

今週のある日の午後5時過ぎですが、
以前からクリニックを利用している、
外国人の一家(父親と子供2人)が、
クリニックを訪れました。

そのお父さんは以前から結構短気な性格の方なのですが、
自動ドアが開いた瞬間に、
看護師が「どうされましたか?」とお聞きすると、
「ちょっと頭痛がして身体がだるい」という返答でした。
日本での滞在は長く、
基本的に日本語は堪能な一家です。

それで看護師は、
「それじゃ入っては駄目です。外でお待ちください」
とそのお父さんを(言葉で)外に押し返しました。

するとお父さんはムッとして、
「おかしいじゃないか、他に何人も何も言わずに中に入ってるだろ」
と言い返しました。

確かにお父さんの目の前を1人の患者さんが、
すり抜けるようにしてクリニックの中に入りました。
ただ、その人は数日前にした血液検査の結果説明での受診で、
そのことは受付の事務も看護師も、
予め把握していたので通したのでした。

しかし、お父さんの怒りは収まりません。
「俺だけを外で待たせるのか、それは俺が外国人だからか!」
と言い募ります。
「そんなことはありません。
勿論すぐに拝見しますが、
風邪症状の疑われる方は少し外で待って頂いているだけなのです」
と説明しましたが、駄目でした。
押し問答の末、
最後には一緒に来ていた小学生の娘さんが、
「帰ろうよ、差別されてるんだからしょうがないよ」
と言って、
一家は診察は受けずに去って行きました。

「差別」
これが差別!?

その言葉は、
クリニックのスタッフ全員に、
とても強いショックを与えました。

クリニックには毎日外国人の方が受診をされています。
出身も国籍も様々で、
個人的には僕自身もスタッフも、
日本人であるかないかなどということには、
全く何の隔てもなく診療をしていたつもりでした。
少なくとも意図的にそうした選別をしたことなど、
それはもう一度もないと断言出来ます。

それなのに、
ちょっとした誤解から、
その家族は僕達を、
外国人であることから差別をしている、
というように理解したのでした。

ここから、僕達は幾つかのことを考えました。

まず、第一に考えたことは、
「差別」は簡単になくなることはないな、
という肌で感じた絶望のようなものです。

その家族との付き合いはかなり長く、
5年以上はあったのです。
その間そうしたトラブルは一度たりともありませんでした。
それで僕達としては、
自分達が決して差別意識などは持っていない、
ということを、
相手も理解しているだろうと、
ちょっと牧歌的な考えを心に持っていました。
しかし、実際にはそうではなくて、
その家族は僕達にも差別意識はあって、
それを隠しながら、表面的にはそれがないかのように、
振舞っているだけだと感じていたのです。
いや、今もそう思っているとは考えたくないのですが、
そのトリアージの瞬間には、
看護師がお父さんを(言葉で)押し返したその瞬間には、
家族はそのように直感的に感じたのだと思うのです。

つまり、差別は、
差別的な行為が実際に行われた時にも感じられるけれど、
実際にはそうでなくても、
受け止めた側にそうした意識が生まれた瞬間にも、
感じられてしまうことがある、
という厄介な代物なのです。

それでは何故そうした気持ちを、
その外国人の家族は持ったのでしょうか?

それはおそらく、
トリアージの行為の中には、
外国人に対する差別ではなく、
感染者に対する差別の意識が、
存在はしていたからだと思います。

これが僕達の考えたことの2点目です。

すなわち、新型コロナウイルス感染症の流行期における、
感染者の差別、という問題です。

トリアージは差別なのです。
ただ、感染流行期には社会的に止むを得ない差別です。

クリニックに来た患者さんを選別し、
感染というその時点では推測に過ぎない状態を疑い、
それに沿って疑った患者さんの、
自由を奪うような行為に至るからです。

昔大学の時にイリイチという学者にかぶれている人がいて、
そうした思想に近づきになったこともありました。
学校と病院と監獄は同じ構造を持っている、
中にいる人は必ず監視され選別され、
自由を奪われる、というような考え方です。

それは一理あるのですが、
勿論そうせざるを得ない理由というものもある訳です。

医療機関の場合は、
こうした感染症流行の時期においては、
患者さんへの感染拡大を抑えることが、
全てに優先される事項となる訳です。
そのためには、
少しでも疑いのある患者さんを選別する、
言い換えれば差別する必要が生じるのです。

それは仕方のないことですが、
差別された当人にとっては、
時に理不尽で自分という存在を傷つけられたように、
感じることもまた当然ではあると思います。

僕達にはそのことに対する理解が不足していました。

当日は予約をして来院される感染疑いの患者さんも多く、
その合間に、
発熱しているのにクリニックにそのまま入ろうとするような、
フリーの患者さんも多く来院されました。

中には90代のおばあちゃんが、
激しい咳込みをして車椅子で家族と一緒に、
予約なしに受診をされ、
外で待ってもらうのは寒くて無理だし、
車椅子でクリニックのビルにはエレベーターがないので、
2階に上がることも無理、
かと言って帰ってもらうことも忍びないし、
家が遠いので出直してもらうことも出来ない、
というような不可能と思えるような事案もありました。
結局、処置室に一旦隔離して、
窓を開け放って迅速に検査を行ない、
待合室を最短時間で通り抜けて帰って頂きましたが、
そんなことが続けばスタッフも疲弊しますし、
「人を見れば何とやら」と言うのか、
誰でも感染者のように見えてしまい、
外へと押し返す言葉にも、
ややエキセントリックな感じ、
差別的な感じが強くなっていることは否めませんでした。

つまり、僕達は知らず知らずに、
少し冷静さを失っていて、
その感情が相手にも伝わったので、
それが「差別」として認識されたのではないか、
というように理解したのです。

多分同じようなことをスタッフの皆が感じたのだと思います。
特別ミーティングなどはしなかったのですが、
翌日の患者さん対応は、
少しだけそうした刺々しさが、
減っていたように僕には感じられました。
外で待ってもらって申し訳ない、
不自由な思いをさせて申し訳ない、
というような思いが、
言外に感じられるだけでも、
手前味噌かも知れませんが、
患者さんのイライラも、
少しは軽減されたように感じました。

その外国人の一家は、
多分もう二度とクリニックを受診することはないと思いますが、
こうしたことを繰り返さないように、
まずは気を引き締めて、
患者さん1人1人の対応には当たろうとは思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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生菌製剤のクロストリジウム・デフィシル菌感染予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ファーミキュータスのデフィシル菌再発への有効性.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2022年1月20日掲載された、
薬剤耐性菌による感染の再発予防への、
腸内細菌製剤の有効性についての論文です。

クロストリジウム・デフィシル菌というのは、
嫌気性有芽胞菌という分類に属する細菌で、
破傷風の原因である破傷風菌や、
食中毒の原因となるボツリヌス菌などと、
同じ仲間に属する病原体です。

この細菌は人間の腸の常在菌で、
日本人の大人の1割は持っている、
という報告もありますが、
通常は人間には悪さをしません。

それが問題になるのは、
主に抗生物質の使用時で、
抗生物質の使用により、
大腸の正常な菌叢が乱され、
腸内細菌が死滅すると、
このデフィシル菌が異常に増殖し、
偽膜性腸炎という名称の、
下痢を伴う腸炎を起こします。

ポイントは抗生物質を使用していて、
強い下痢の症状が出現したら、
すぐに薬を中止することで、
軽症であればそれで腸内菌叢が正常に復すれば、
デフィシル菌の増殖も抑えられて元に戻ります。

ただ、
実際には全身状態が悪く、
抗生物質の使用が必須の患者さんで、
こうしたことが起こると、
免疫力の低下なども相俟って、
経過は遷延して重症化することも稀ではなく、
デフィシル菌の除菌のために、
再度抗生物質を使用することも已む無し、
という事態になります。

こうした場合に使用される薬剤の筆頭は、
バンコマイシンやフィダキソマイシンと呼ばれる抗菌剤ですが、
一旦は改善しても、
再発することが多いことが知られています。
その頻度は40から60%という統計があるほどです。

このデフィシル菌による腸炎の再発予防に、
腸内細菌製剤を使用するという考え方があります。

今回のその目的で使用されているのは、
SER-109という生菌製剤で、
健康なドナーの便から抽出した、
ファーミキューテス門という腸内細菌の1分類区画を、
増殖した芽胞製剤です。

ファーミキューテス門の増加は、
肥満や糖尿病のリスク増加と関連があるとされ、
これまであまり良い腸内細菌というイメージはありませんでしたが、
デフィシル菌などの増殖を抑え、
腸の炎症を抑制するような効果が、
これまでに確認されています。

そこで今回の臨床試験においては、
アメリカとカナダの複数施設において、
1年以内にに3回以上クロストリジウム・デフィシル菌による、
感染症と診断された18歳以上の182名を登録し、
本人にも担当者にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は生菌製剤SER-109のカプセルを3日間使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
治療後8週間の再発率を比較検証しています。

その結果、
生菌製剤使用群のデフィシル菌感染の再発率が、
12%であったのに対して、
偽薬群の再発率は40%で、
生菌製剤はデフィシル菌感染の再発リスクを、
68%(95%CI:0.18から0.58)有意に低下させていました。

このように、今回の臨床試験においては、
生菌製剤の使用により、
デフィシル菌の再発が明確に抑制されており、
今後こうした生菌製剤の使用は、
デフィシル菌感染のみならず、
多くの病気の予防や治療に、
活用されることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ブレイクスルー感染のワクチンによる差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ブレイクスルー感染のワクチンによる差.jpg
JAMA誌に2022年1月20日ウェブ掲載されたレターですが、
2種類のmRNAワクチン2回接種後の、
ブレイクスルー感染の頻度を比較した内容です。

新型コロナウイルスワクチンを、
規定量で2回接種していても、
新たに新型コロナウイルス感染症に罹患することを、
ブレイクスルー感染と呼んでいます。
これは正式な用語と言って良いようです。

短期的には高い有効性を示す。
ファイザー・ビオンテック社とモデルナ社による、
2種類のmRNAワクチンですが、
概ねその免疫反応は、
接種完了後半年から明確に低下すると指摘されています。
ただ、その免疫の反応低下を血液中の抗体価で判定すると、
モデルナワクチンの方がファイザーワクチンより、
高いレベルと維持している、という報告があります。

今回の調査はアメリカにおいて、
ファイザーワクチンを接種した574538名と、
モデルナワクチンを接種した62628名を解析。
更に2種類のワクチンを接種した62584名ずつをマッチングして、
接種後のブレイクスルー感染の頻度を比較したものです。

2回ワクチン接種後14日以降で発症したブレイクスルー感染の頻度を、
デルタ株優位で感染が拡大していた、
2021年7月から11月の時期で比較したところ、
11月におけるブレイクスルー感染の頻度は、
接種者1000人1日当たり、
ファイザーワクチンが2.8件に対して、
モデルナワクチンが1.6件で、
この時点でのブレイクスルー感染のリスクは、
モデルナワクチンはファイザーワクチンより、
15%(95%I:0.80 から0.85)抑制されたと、
マッチングでの解析では算定されました。
ブレイクスルー感染の予後については、
感染後60日の時点での入院リスクが、
モデルナワクチンの方が20%有意に低下していましたが、
死亡リスクなどには明確な差は認められませんでした。

このように、
モデルナワクチンとファイザーワクチンを比較すると、
その有効性や持続性において、
モデルナワクチンの方がやや上回っていることは、
これまでのデータの蓄積から、
ほぼ間違いのないことであるようです。
その一方で副反応もやや強いことは間違いがなく、
その選択はケースバイケースで考える必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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佐藤正午「月の満ち欠け」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。
日中はなるべくゆっくりと過ごして、
夜はRT-PCR結果のファックスが届く予定なので、
クリニックでまた電話掛けとHER-SYS入力に勤しむ予定です。

昨日は21件の検査をしているので、
多分夜中まで掛かってしまうかなあ、という感じです。

休みの日はいつも通り趣味の話題です。
今日はこちら。
月の満ち欠け.jpg
大好きな佐藤正午さんの直木賞受賞作を、
遅ればせながら読了しました。

これは「鳩の撃退法」と共に、
大事な時に読もうと取っておいたものなのですが、
この間「鳩の撃退法」を読んだら、
正直あまり面白いと思えなかったので、
おやおやと感じて、
この際だからとこちらも読んでみたものです。

結論から言うと、「鳩の撃退法」よりは僕好みで面白く、
ある男が途中で身を持ち崩して犯罪に至るエピソードと、
後半の疾走感はなかなかだと思いました。

ただ、生まれ変わりを主題にした物語に、
やや整合性のない感じがあって、
同じ展開の繰り返しが何度も続くのも、
どうかなあ、という気もします。
生まれ変わりには男女で差はない筈ですが、
お話としては男女が入れ替わったら成立しないと言う点も、
何かモヤモヤするところです。

物語的には東野圭吾さんの大傑作「秘密」に、
良く似たところのある作品なのですが、
「秘密」は純粋なワンアイデアで、
とてもシンプルな物語である点が成功しているのですが、
「月の満ち欠け」の方は、
お話を複雑にし過ぎて、
却ってポイントが絞り込めていないような印象がありました。

そんな訳で面白いことは面白いのですが、
少しモヤッとした感じもする作品で、
「ジャンプ」ほどの感銘は受けなかったのですが、
大好きな作家の1人ではあるので、
今後もその新作を心待ちにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2022年1月21日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

今日は新型コロナウイルス感染症のクリニック周囲の現状です。

この1週間は正直悪夢のようで、
ほとほと疲れ切りましたし、
精神的にも肉体的にもギリギリという感じです。

この状況を上手く皆さんにお伝え出来るかどうか分かりませんが、
出来る限り「事実」と自分で思えることを、
取り急ぎ一度は文字にして残しておきたいと思います。

混乱もしていますので、
不適切な表現があるかとも思いますが、
どうかご容赦頂きたいと思います。

➀感染の急拡大の現状
クリニックでオミクロン株の感染を、
初めて診断したのは2022年1月5日の検査からですが、
急増を肌で感じるようになったのは、
1月11日の連休明けからです。
特に14日以降は連日12名以上の検査を行って、
そのうちの5割以上が陽性、という状態が続いています。
現実にはもっと依頼は多いのですが、
対象者を隔離して検査をさせて頂くようにしているので、
濃厚接触者のご家族などは、
同時に入って頂いて検査をしていますが、
他は個別で対応せざるを得ず、
予約で時間を区切っているとこれが限界というところで、
多くの方に大変申し訳ないのですが、
お断りをしているというのが実際です。
ウイルス性胃腸炎も流行しており、
嘔吐下痢の典型的な症状の方は、
コロナではないとほぼ断定して良い感じですが、
それ以外の発熱や風邪症状は、
全て新型コロナ感染と言って、
ほぼ間違いのないような印象です。

2回のワクチン接種をしていても、
3か月以上が経過していれば普通に感染が起こっていますし、
昨年デルタ株に感染されている方も、
6か月程度が経過していると再感染しています。

つまり、ワクチンも何もない2019年春頃と、
同じくらいの感染感受性に多くの方がなっていて、
しかも当時流行していたウイルスより、
遥かに感染力自体が高いという深刻な状況です。

ただ、それでも近隣の病院には空きベッドがまだあり
(これは18日時点の情報)、
それはオミクロン株の殆どが軽症に終わる、
という性質によっているのです。

しかし、患者急増に伴い、
特に今は小児(乳幼児含む)に感染が拡大して、
それに伴い多くの地域受け入れ病院が、
野戦病院化しているようです(1月21日時点の情報)。

②検査の遅れと混乱
クリニックでは大手の検査会社にRT-PCR検査を委託していますが、
感染急拡大に伴い、
検査結果の到着が遅延しています。

当初は翌日の午後2時には結果のファックスが到着していたものが、
夕方になり夜になり、
1月14日には夜の8時を過ぎ、
1月19日には午後11時になって漸く届くという事態になりました。
それも、こちらから何度も何度も問い合わせをして、
何度も何度も催促してようやくの結果です。
遅延の原因を聞いても、
説明は二転三転して要領を得ません。

勿論懸命に検査をされているであろうことは理解していますが、
それでも何の説明もなく、
到着時間の予測も不可能というのは理不尽な感じがします。
数日前の説明では、
米軍基地関連の検査が急増していて、
その対応に追われていると言われたり、
結果は出ていても、ファックスを送信するのに、
3時間以上の時間が掛かるとも説明されるのですが
事実としてもそんな非効率な状態が、
何故改まらないのが理解に苦しみます。

1月20日からいつ頃に結果が来るのか、
担当者から事前に連絡をもらうような態勢にして、
昨日は一応それが機能して午後7時前に結果が届きましたが、
これがいつまで続くのか分かりません。

ともかくいつ来るか分からないファックを待って、
夜遅くまで待っている時間が不毛です。

③保健所の対応の混乱と相互不信の悪夢
思えば昨年夏ごろは牧歌的な時間でした。

発熱などの症状で新型コロナウイルス感染症の可能性を疑い、
患者さんの検査をして翌日に陽性の結果が届くと、
まず指定の用紙に発生届を記載して、
それを保健所の担当部署にファックスします。
患者さんには電話で説明し、
保健所からのお電話を待ち、
電話が来たらその指示に従って下さいとお話します。

勿論何か体調にご心配があれば、
遠慮なくクリニックに連絡して頂いて構わないと説明しました。

それから、保健所に電話を入れ、
ファックス1枚では伝えきれない事項、
患者さんの家族などの状況や、
病状の詳細を担当者に直接伝えます。
そうしたやり取りで、
お互いに大変ですね、頑張りましょうね、
と相手をねぎらい、
それが一緒にこの感染を乗り越えようという、
信頼感の醸成に繋がっていました。

それがデルタ株流行の後半くらいの時期になると、
電話を掛けると露骨に迷惑そうな対応をされ、
「ファックスを送って頂ければそれで結構なので電話はしないでください」
と言われるようになりました。

個人的には1人1人の患者さんを紹介するに当たり、
こちらが感じた細かいニュアンスを、
お伝えすることも大切なことですし、
ファックスをただ送るだけというのは不安がありました。
ファックスの誤送信なども皆無ではない、
という思いもありました。

ただ、そう言われてしまえば仕方がありません。

そのうちに一旦流行は収束し、
クリニックでのRT-PCR検査の陽性者は、
2021年9月下旬以降、しばらくはゼロの状態が続きました。

2022年1月5日以降、
徐々に患者さんが増加し始め、
2021年と同じように、
検査、診断、ファックスによる報告、
という一連の流れをしばらく継続した後の1月14日でした。

保健所の担当者から、
ちょっとエキセントリックな感じのメールが、
検査診断を行っている医療機関の全てに送られました。

そこには、
患者の急増により保健所の業務が逼迫しており、
このままでは早晩全ての患者の健康観察が困難となる事態が想定される、
という趣旨のことが記載されていました。

それではどうすればいいのかと言うと、
まず患者の登録は極力ファックスを使わず、
HER-SYSという専用のシステムを使用することを、
推奨していました。

以下その文面を抜粋します。
ついては陽性者全員へ保健所から連絡することは既に難しく、30歳未満で軽症の方へは「SMSでの連絡と、MY HER-SYSによる、健康観察」へ切り替える予定です。

ただ、これは1月14日の時点で切り替える予定だ、
という通知であって、
実際にいつからどのような基準において、
こうした切り替えが行われるのかが明記されていません。

いつからどう説明すればいいのか、
こちらとしては混乱を感じる文面です。

そこでこの時点以降でクリニックで検査をし、
陽性で届け出を施行する場合の感染者には、
「保健所から電話で連絡があるかも知れませんし、
ショートメッセージの連絡があるも知れないで注意して下さい」
とお伝えすることにしました。

17日になって再び保健所の担当部署からメールが入り、
そこでは医師による健康観察を選択した医療機関が、
途中で経過観察を続けることが困難となったので、
保健所に電話で連絡したところ、
その連絡が上手く保健所側に伝わらず、
結果的にその患者さんが誰からも健康観察をされずに、
放置される状態になったことが、
「医師側の過失」として、
かなり怒りを孕んだ筆致でつづられていました。

確かにそれは由々しき事態ですが、
それまで基本的に軽症者の自宅療養時の健康観察は、
保健所の仕事であった筈で、
保健所の業務が逼迫しているので、
その一部を末端の医療機関が担う、
という方針については異論はありませんが、
これまでやっていなかった作業を、
急にやれと言われるのは矢張り混乱もあるところです。
患者さんに説明するにしても、
「自宅療養時の健康観察は、
保健所で行う場合と当院で行う場合の2通りがありますが、
どちらにしますか?」
とお聞きするのはなかなか躊躇を感じるところですし、
患者さんにとってみれば、
クリニックの医師の管理より、
保健所が責任をもってくれた方が、
より安心と思うのは当然のようにも思われます。

やり玉に挙がっているのが、
何処の医療機関のことなのかは分かりませんが、
その先生にしても保健所の業務の手助けをしよう、
という思いから健康観察をされたことには間違いはなく、
やってみると慣れない仕事で結果としては難しく、
その旨を保健所に電話で申し入れたのではないかと推測します。
メールでは電話で連絡などされても、
多くの職員が電話に出るので情報が伝わらず、
結果として患者が放置されたという趣旨のことが書かれていますが、
電話を職員にしたのに、
それが正確に伝達されないことは問題ではないのでしょうか?

メールを見る限り、
全ては「愚鈍な医師」の責任のように書かれていますが、
そうした一方的な記述が、
公的な機関の文書として出されていることには、
何か釈然としないものを感じます。

1月18日には20時から、
オンラインで医師会の説明会が開催されました。

保健所のこうした対応について医師会はどう考えているのだろう、
と思って参加したのですが、
担当理事の方は、
真っ先に「保健所を助けるために皆さんの協力をお願いします」
という発言から開始され、
徹頭徹尾保健所が正しく、
医師会の医師はそれに100%従うのが当然だ、
という内容だったので正直納得のいかないものを感じました。

保健所は非常に大変な状態なので、
個別のことについて電話で相談するようなことは、
迷惑になるので一切するな、
というような発言もありました。

個々の患者さんに対しての保健所の方針について、
疑義があってもそんなことを尋ねてはいけないと言うのです。

ただ、その日の話を聞いていても、
どのような患者の健康観察をクリニックの医師がやるべきで、
どのような患者さんの対応は保健所でやるべきなのか、
自己観察の対象となるような、
20代で軽症の事例を受け持つべきなのか、
それとも重症化リスクのあるような事例を、
積極的に受け持つべきなのか、
そうした区分けの基準や考え方が、
全く見えて来ません。

言われていることは、
「保健所の職員が大変なので、医師会の医師は、
それを助けるために全力を尽くすべきだ」
という方針があるだけです。

しかし、私達は保健所の業務を助けるために、
存在しているのでしょうか?

助けることが悪いのではありません。
ただ、助けるというより、
協力して難局に当たる、という姿勢が正しいのではないでしょうか?
助けるべきは感染している患者さんであって、
患者さんを助けるために、
保健所と医師会が協力するべきなのではないでしょうか?
しかし、不思議なことに、
その時の医師会の会合の何処にも、
そうした視点は全くと言って良いほど存在してはいませんでした。

協力するのであれば、
もっと健康観察対象の患者さんの、
明確な線引きが必要なのではないでしょうか?
個々の患者さんについて、
もっと保健所の担当者と医師の1人1人が、
相談の上決めるようなスキームが、
必要なのではないでしょうか?

その時の話し合いにも、
保健所からの一方的なメールにも、
そうした視点は皆無であったように思います。

④医療者と患者の相互不信の沼
こうした混沌の中で、
感染された方から非難されることもありました。
18日に検査をされて19日の夜に陽性が確認され、
この時点ではHER-SYSではなく、
ファックスで発生届けを提出した方がいて、
保健所のからの連絡は電話の場合とメールの場合があるので、
両方を確認して下さい。
連絡がないようであればクリニックにご連絡下さい、
と説明をしていたのですが、
20日にお怒りの電話がクリニックに入り、
お話を聞くと、
「メールだけで連絡が来たので、
保健所に電話で相談をすると、
『もう電話などしていません。メールだけです』
と言われた。お前は電話もあると言ったが、
それは嘘だ。嘘つきだ」
というお話でした。

その方は20代であったので、
メールのみの連絡となる可能性はあり、
それは説明済みでしたが、
「電話で連絡のある可能性もある」
という言い方が、
「電話もあります」
というように誤解をされてしまったようです。

ただ、実際には現時点で、
どのような患者さんの線引きの元に、
どの患者さんがメッセージのみの対応となっているのか、
明確な説明は末端の医療機関には届いていません。

その通りのことを説明して、
否定され非難されるのですから、
もう何のために何をやっているのが分からない、
そうした絶望をその時は感じました。

⑤今後の状況について
1月20日分からは入力はファックスから、
HER-SYSに完全に切り替えました。
健康観察については、
クリニックでも可能な旨は感染者への説明の際には、
補足的に行なうようにしています。
本当はもっと関係部署には相談をして、
個別の事例に当たりたいのですが、
「電話をするな。忙しいので迷惑だ」と言うお話なので、
探りながら解決してゆくよりありません。
昨日は14名の検査結果が午後7時に届き、
それから説明の電話をしてHER-SYSに入力して、
終わったのは3時間後でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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フルボキサミンの新型コロナウイルス感染症への有効性(ブラジルの臨床研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フルボキサミンの新型コロナ重症化予防効果.jpg

the Lancet Global Health誌に、
2021年10月21日ウェブ掲載された、
SSRIのフルボキサミンが、
新型コロナ重症化予防に有効の可能性があるという、
興味深い報告です。

これは昨年11月にJAMA誌の論文をご紹介していて、
それはアメリカのデータだったのですが、
今回のものはブラジルで施行された、
より大規模な臨床試験の結果です。

実際にはウェブ掲載は同時期であったのですが、
こちらの文献はその時はスルーしていました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、
その多くは軽症のまま回復しますが、
一部の事例では急性の臓器不全などを起こして重症化し、
致死的となる場合があります。

こうした重症化は、
病気が発症してから1週間程度してから、
通常8から10日以内で出現することが多く、
それはウイルス自体の増殖にょるより、
身体の免疫系の過剰な反応により、
引き起こされている可能性が高いと考えられています。

従って、抗ウイルス剤の開発と共に、
そうした過剰な免疫反応を抑制するために、
免疫抑制剤の使用などが試みられています。
ただ、その使用のタイミングなどは非常に難しく、
現状一定の有効性が確認されているのは、
ステロイド剤やIL6受容体拮抗薬など、
それほど多くはありません。

2019年のScience誌に、
この点についての興味深い知見が報告されました。
重症感染症の代表である敗血症の実験モデルにおいて、
細胞の小胞体という器官に発現している、
σ1受容体(S1R)が過剰な免疫を調整し抑制するような、
働きを持っていることが明らかにされたのです。
更に興味深いことは、
SSRIと呼ばれる抗うつ剤の1つであるフルボキサミン(商品名ルボックスなど)に、
このS1Rを刺激するような働きがあり、
動物実験のレベルでフルボキサミンの使用により、
ネズミの敗血症の重症化が抑制されることが確認されたのです。

それでは、
フルボキサミンを病初期から使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の重症化が予防されるのでしょうか?

今回の臨床試験はブラジルの複数の医療機関において、
外来で診察された新型コロナウイルス感染症の患者で、
重症化のリスク因子があるトータル9803名を登録し、
症状出現から7日以内にくじ引きで2つの群に分けると、
一方はフルボキサミンを1日200㎎で10日間使用し、
もう一方は偽薬を同じように使用して、
登録後28日間の予後を比較検証しています。

試験は両群の差が明確となったので早期で中止となり、
解析されているのは、
フルボキサミン群が741名で、
偽薬群が756名です。

その結果、
救急病床での6時間以上の治療や三次救急病院への入院は、
フルボキサミン群では11%に当たる79名で見られたのに対して、
偽薬群では16%に当たる119名で見られていて、
フルボキサミンの使用は、
こうした救急入院のリスクを、
32%(95%CI:95%CI:0.52から0.88)有意に低下させていました。

このようにJAMA誌のアメリカのデータと、
ほぼ同じ結果が、
より例数の多い今回のブラジルのデータでも、
確認されています。

つまり、フルボキサミンに、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防について、
一定の有効性のあるという可能性は、
より高まったとは言えそうです。

現状経口薬を含め多くの新薬が登場していますから、
フルボキサミンが治療の優先的な選択肢となることは、
可能性は低そうですが、
今後もその研究結果には注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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