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「空白」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
空白.jpg
骨太の映画に定評のある吉田恵輔監督の新作が、
今ロードショー公開されています。

予告編を見ると、
古田新太さんが怪物化して襲い掛かるような、
サイコスリラーのような印象で、
ハリウッド製のスリラーでは、
こういうのが割と良くありますよね。
最初はちょっと社会派の振りをした物語なのですが、
途中からは完全なスリラーになる、
というような感じの映画です。

でも、実際にはそんな映画ではないんですね。

今の絶望的に寛容さがなく、
冷酷無比で生き辛い世界が、
誇張はありながらもリアルに描かれていて、
ある少女の死をきっかけにして、
その世界の残酷さの餌食になった主人公達が、
その世界を少し客観的に見られるようになるまでの物語です。

今の社会と真摯に向き合って格闘している、
という意味では、
今年一番の邦画の力作であると感じました。

最初が抒情的なカットバックから始まるんですね。
これがまずちょっと意表を突きますし、
母親以外の全ての人に、
軽視され無視されている目立たない少女を演じた、
伊東蒼さんがとてもいいですよね。
その少女が小さな万引きをして逃げて、
即物的に車に轢かれて死んでしまうんですね。
最近珍しくはない表現ですが、
それでも事故の場面は衝撃的ですね。

父親の古田新太さんは粗暴な漁師で、
娘も虐待しているのに近いような有様なんですね。
それが娘を殺されたと怒り狂って、
その矛先を、
少女を追いかけたスーパーの店長に向けるのです。

店長を演じた松坂桃李さんが、
これまた上手いですよね。
全てを自分の中に覆い隠して、
卑下して謙遜しているようで、
何かふてぶてしくもあって、
その人生を投げているような感じが、
今の社会における1つの生のあり方を、
とても生々しく表現しています。

自分の中の正義にしがみつく、
おせっかいなおばさんを演じた寺島しのぶさんも凄いですし、
短い出番でその凛とした佇まいで全てをさらったような、
片岡礼子さんも抜群でしたよね。
1人1人がこの残忍で冷酷無比な世界の構成要素を、
極めて巧みに演じています。

掘り下げればそれぞれ1本の映画が出来てしまいそうなキャラを、
映画界きっての演技派が演じています。
非常に贅沢な演技の競演でしたし、
監督のバランス感覚も素晴らしいと感じました。

映画としてはラストは少し物足りなくは感じます。
その弱さは1つは古田新太さんの芝居にあるという気がしますね。
古田さんは非常に熱演だったと思いますし、
その迫力も抜群ではあったと思うのですが、
後半の心の変化のようなものは、
表現として伝わり難かったように感じました。

台本的にも唐突に絵を描き始めるというのは、
如何にも北野武映画みたいな感じでしょ。
ちょっとリアリティがなくなるんですね。
それからラス前で松坂桃李と対峙して、
映画のテーマと言っても良い大事な台詞をしゃべるんですが、
ちょっと説得力に欠けましたよね。
急にお説教を始めたような違和感がありました。
多分監督はもっと上のものを、
あの場面には期待をしていたと思うのですが、
古田さんはちょっとそこには達しなかった、
というように感じました。
(古田さん、偉そうな発言をお許し下さい)

それでも傑出した社会派の力作であることは間違いがなく、
今の社会との向き合い方を確認する意味でも、
全ての皆さんに強くお勧めしたい映画でした。

是非気合を入れて御覧下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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