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興福寺南円堂(リニューアル) [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
レセプト作業が追い込みで間に合わないので、
泊まり込みでクリニックにいます。
泣きそうです。

日曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
南円堂.jpg
これは興福寺の南円堂です。

先日奈良に行きましたが、
その主な目的な興福寺の南円堂でした。

興福寺には南円堂と北円堂という2つの対象的なお堂があり、
北円堂は毎年春と秋の一定期間開扉されていますが、
南円堂は1年に1回10月17日にしか開扉されません。

そのために南円堂は一度は拝観したいと思いながら、
ようやくそれが叶ったのは6年前で、
この時は特別に何か名目がついて、
一定期間開扉がされたのです。

とてもとても感銘を受けました。

今回はそれ以来のもので、
10月17日から11月上旬まで開扉されました。

北円堂は運慶工房による仏像が有名ですが、
南円堂は運慶の父の康慶が主導した諸仏で有名です。

本尊は不空羂索観音の巨像で、
それを取り巻くように、
四天王像と法相六祖像という、
名僧6人の座像が安置されています。

これは鎌倉時代に作られた時からの配置です。

ただ、法相六祖像に関しては、
かなり以前に国宝館に移されて展示され、
前回6年前の御開帳の時も、
既にお堂の中にはいらっしゃいませんでした。
それが今回はお堂の中に再び安置されているのです。
感涙ものですね。

また、四天王像については、
以前から運慶工房によると思われる像が安置されていて、
おそらく四天王像の最高傑作と思われる名像ですが、
その像が再興された中金堂に移り、
以前は中金堂にあった像が、
移動する形でこちらに移されています。
これが平成29年以降のことのようです。

これは最近の研究により、
中金堂像がもともとの南円堂像であったことが、
ほぼ確認されたためで、
おそらくは100年以上ぶりに、
南円堂の諸像は元の配置に戻った、
ということになる訳です。

その成果は素晴らしく、
6年前を超える興奮と感銘を、
今回は受けることになったのです。

興福寺は、
せっかく森の中に古堂が佇むという風情が良かったのに、
どんどん樹を切り倒して、
真新しい建築をドカドカ建てるという、
薬師寺方式は気に入りませんが、
仏像の見せ方については、
LEDによるライティングや仏像の配置の歴史を踏まえた変更、
なるべく間近で拝観出来るような工夫など、
仏像マニアの心をつかむ発想と実行力が素晴らしく、
これからも幾度も足を運びたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ドクター・ホフマンのサナトリウム」(ケラ新作) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドクター・ホフマンのサナトリウム.jpg
神奈川芸術劇場のプロデュース公演として、
ケラさんの新作が上演されています。

これはカフカが療養生活をして亡くなったオーストリア(多分)で、
カフカの未発表の最後の長編が記されたノートが発見され、
そのノートを巡るドタバタと、
その作品自体の物語が並行して描かれて、
現代の2人の男がカフカの時代に迷い込むことによって、
2つの時代が繋がります。

カフカ自身も登場し、
最後の長編の内容が自伝的なものでもあるので、
カフカの人生自体もそこに重ねあわされるという重層的な趣向です。

15分の休憩を挟んで3時間半と、
例によって長大なお芝居ですが、
今回はお話自体は基本的に分かり易くシンプルで、
幻想的で凝りに凝ったビジュアルと、
語り手的役割の渡辺いっけいさんと大倉孝二さんの、
軽快な掛け合いの魅力も相まって、
それほど時間を感じることなく楽しく観ることが出来ました。

振付の小野寺修二さんは、
僕はあまり好みではないのですが、
今回はオープニングなど、
かなり意識的に寺山修司の世界を再現していて、
懐かしくもありましたし、
その最新の舞台技術の粋を集めて、
現代の天井桟敷を再現した完成度の高さには、
素直に拍手を送りたい気分になりました。
寺山芝居のファンの方は必見です。

ただ、緊張感が濃密で純度の高いのは最初だけで、
次第に雰囲気はまったりした感じのものになります。
後半は同じことをやっていても、
明らかに緊張感はなく、
結局何がやりたかったのかしら、
とちょっと疑問に感じる点はありました。

また、意外にお話はあまりカフカ的ではありません。

たとえば、
この作品のカフカを、
チェーホフやトルストイに置き換えても、
そのまま成立してしまいそうな感じがあります。

以前ケラさんには「世田谷カフカ」という作品があり、
カフカの「失踪者」や「城」を素材にアレンジした、
カフカダイジェスト的なお芝居でしたが、
こちらの方がよりカフカ的なお芝居になっていました。

それが意図的なものだったのかどうかは分かりませんが、
ケラさんの作品の中でも今回はあまりシュールではなく、
重層的な構造の中に、
死と生の問題を深く読み解こうとするような、
真面目なお芝居になっていたように思います。

そんな訳で「カフカの発見されなかった長編」というには、
ちょっと方向性が違っていたかな、というようには思いますが、
ともかくその技術的な完成度は素晴らしく、
矢張りケラさんの今の舞台は、
現在日本の演劇作品の1つの頂点と言って、
過言ではないもののように思います。

個人的にはちょっと物足りない、
でも凄い芝居です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新規骨粗鬆症治療薬オダナカチブは何故開発中止されたのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オダナカチブ.jpg
2019年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
新規骨粗鬆症治療薬の臨床試験結果をまとめた論文です。

骨粗鬆症の治療薬は、
最近長足の進歩を遂げていますが、
癌のリスク上昇の可能性や、
非定型的骨折や顎骨壊死と言った有害事象、
長期の安全性が未確立と言った問題はあり、
安全で有効と太鼓判を押せるような薬はないのが実際です。

端的に言えば、
骨量の減少に結び付く骨吸収を、
強力に抑える薬はあるのですが、
健康な骨を増やす、
と言えるような薬はないのが実際なのです。

そのため、現在でも多くの薬が研究され、
開発される途上にあります。

今日ご紹介するオダナカチブ(odanacatib)も、
そうした新薬候補の1つです。

オダナカチブは、
カテプシンK阻害剤と呼ばれる薬です。

カテプシンKというのは、
骨を壊す働きを持つ破骨細胞で産生されている酵素で、
骨の構成成分の1つである1型コラーゲンを、
強力に分解するような作用を持っています。

要するに骨を溶かす酵素です。

この酵素を阻害することにより、
破骨細胞の骨を壊す働きが弱まり、
結果として事粗鬆症の進行が予防され、
骨の量が増加する、
と考えられます。
この仕組みはこれまでの骨粗鬆症治療薬とは異なり、
破骨細胞自体を攻撃するものではないので、
骨吸収は抑えても、
骨の健康な新陳代謝は妨害せず、
骨形成にも影響を与えないと想定されました。

もしそれが本当であれば、
これまでにない画期的な骨粗鬆症治療薬となる筈です。

初めてのカテプシンK阻害剤であるオダナカチブの開発は進められ、
臨床試験が開始されました。

ところが…

2016年にオダカカチブの臨床開発は中止されました。

行なわれていた第3相臨床試験において、
骨折予防効果と骨量増加の効果は認められたものの、
偽薬と比較して脳卒中の発症率が、
有意に増加していることがその理由とされました。

臨床試験自体はそのまま継続され、
その結果をまとめた論文が今日ご紹介するものです。

臨床試験は世界40か国の388の医療機関において、
閉経後5年以上を経過した65歳以上の女性で、
椎骨の骨折の既往があるか骨量が減少している16071名で、
対象者にも施行者にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分けると、
一方はオダナカチブを1週間に一度経口で50mg使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
延長期間を含め中間値で47.6か月の経過観察を行なっています。

その結果、
偽薬と比較してオダナカチブ投与群では、
椎骨の骨折のリスクが54%(95%CI: 0.40から0.53)、
椎骨以外の骨折のリスクも23%(95%CI: 0.68から0.87)、
大腿骨頸部骨折のリスクが47%(95%CI: 0.39から0.71)、
それぞれ有意に低下していました。

その一方で脳卒中のリスクは、
32%(95%CI:1.02から1.70)有意に増加していました。

何故オダナカチブで脳卒中が増加したのか、
そのメカニズムは不明ですが、
コラーゲンは血管においても重要な働きがあり、
それが影響した可能性は否定出来ません。

確かに骨折予防効果は認められていますが、
現行使用されている複数の薬剤を、
明確に凌駕しているというほどではなく、
有害事象が否定出来ないということであれば、
この薬の臨床使用が中止されたことは、
当然の結果であったようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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妊娠中のアセトアミノフェンの使用と胎児への影響 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アセトアミノフェンの妊娠中の影響.jpg
2019年のJAMA Psychiatry誌に掲載された、
現状妊娠中に最も安全に使用可能と考えられている、
解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンに、
胎児の自閉症などの発達障害を増加させるリスクがあるのでは、
という気になる報告です。

アセトアミノフェンは、
妊娠中の発熱や疼痛の治療薬として、
世界的に広く使用されている薬剤です。

その安全性はほぼ確立されていると考えられていましたが、
最近幾つかの疫学データにおいて、
妊娠中のアセトアミノフェンの使用と、
自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連が、
指摘されて問題となっています。

アセトアミノフェンは胎盤を通過することが確認されていて、
胎児への神経毒性や、
胎児の男性ホルモン産生を阻害するような働きが、
実験的にはあることも報告されています。

ただ、これまでの疫学データにおいては、
単純に妊娠されている女性への聞き取りで、
アセトアミノフェンの使用が推測されているだけなので、
実際に胎児がどの程度薬剤の影響を受けているのかについては、
確実であるとは言えませんでした。

今回の研究はアメリカにおいて、
996名の母親と子供のペアを対象とし、
出産時の臍帯血における、
アセトアミノフェンの代謝物の濃度と、
その後の自閉症やADHDの発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
アセトアミノフェンの臍帯血濃度を3分割すると、
最も少ない濃度と比較して、
最も多い濃度ではADHDと診断されるリスクは、
2.86倍(95%CI: 1.77から4.67)有意に増加していました。
自閉症スペクトラム障害についても、
同様に3.62倍(95%CI: 1.62から8.60)、
アセトアミノフェンのが代謝物が最も多い群で有意に増加していました。
2つの病気とも、
アセトアミノフェンの曝露量が多いほど、
そのリスクが増加するという関係が見られたのです。

今回のデータは薬剤の曝露量を、
臍帯血で確認している分信頼性の高いもので、
今後妊娠中のアセトアミノフェンの使用については、
その量を含め適切な使用のガイドライン作りが急務であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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レストランでのカロリー表示の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カロリー表示の効果.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
レストランのカロリー表示の効果を検証した論文です。

世界的に肥満による健康リスクの増加が、
大きな社会問題となっています。

その原因の1つと考えられているのが、
ファストフードを含む外食の、
カロリーが高く糖質を多く含む、
口当たりが良く癖になりやすい食品の存在です。

こうした食品の摂取量を抑える目的で、
国内外で導入されている方策の1つが、
食品のカロリー表示の義務化です。

食品をレストランなどのメニューで選ぶ際に、
そのカロリーが表示されていると、
「こんなにあるのか、もう少し控えよう」という意識が働き、
カロリーの少ない食品を選ぶ、
という効果が期待されたのです。

しかし、このようなカロリー表示は、
実際にどの程度のカロリー制限効果があるのでしょうか?

今回の検証はアメリカのもので、
カロリー表示の導入前後で、
104のフランチャイズのレストランにおける、
消費者の動向を調査しています。

その結果、
カロリー表示の導入後に、
1つの注文当たり60キロカロリー程度の、
軽度のカロリー制限効果が認められました。
しかし、その後1週間に0.71キロカロリーのペースで、
カロリーはむしろ増加に転じ、
1年を経過した時点ではカロリー表示のカロリー制限効果は、
相殺されてしまっていました。

このように、
外食のカロリー表示の効果は、
あっても一時的なもので、
長期的なカロリー制限の維持には、
実際には繋がっていないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の治療効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はクリニックは、
午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
80歳以上における甲状腺機能低下症の治療効果.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
高齢者における潜在性甲状腺機能低下症の治療効果についての論文です。

甲状腺機能低下症は、
その名の通り甲状腺機能が低下した状態のことですが、
甲状腺ホルモンであるT4と、
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定して、
TSHが上昇しているもののT4が正常範囲に留まっている状態を、
潜在性甲状腺機能低下症と呼んでいます。

この潜在性甲状腺機能低下症に治療が必要かどうか、
という点には色々議論のあるところです。

多くの潜在性甲状腺機能低下症の患者さんには、
特に甲状腺機能低下による症状は見られませんが、
中には便秘や全身倦怠感、抑うつ気分などの症状が、
出るような患者さんもいます。
また、潜在性甲状腺機能低下症であっても、
心血管疾患のリスクが増加するという報告もあります。

こうした点からは、
一部の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんに対しては、
甲状腺ホルモンの補充療法が有益である、
という可能性が示唆されます。

ただ、それはどのような患者さんでしょうか?

これまでに妊娠中の女性においては、
流早産の予防などの目的のために、
潜在性甲状腺機能低下症を治療する意義が、
ほぼ実証されています。

ただ、それ以外の患者さんに対しては、
明確な結論が出ていません。

特に高齢者においては、
トータルに甲状腺機能低下症の患者さんは増える一方で、
軽度の機能低下症はむしろ生命予後に良い影響を与える、
というような報告もあるので、
よりその治療の可否については議論が大きいのです。

2017年にNew England…誌に掲載された論文では、
65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんに、
甲状腺ホルモン剤を使用した臨床試験の結果、
甲状腺ホルモンによる治療はそのQOLを改善する効果を、
確認出来ませんでした。

しかし、この臨床試験においては、
80歳を超えるような高齢者における治療効果については、
確認はされていませんでした。

そこで今回の研究においては、
オランダとスイスで行われた疫学研究、
および、オランダ、スイス、イギリス、アイルランドにおける疫学研究の、
2つの住民データから、
251名の80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の事例を抽出し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は甲状腺ホルモン製剤を使用して、
TSHがこの研究における基準値である、
0.4から4.6mIU/Lになるように治療を行い、
もう一方は偽薬を使用して同様の調整を形だけ行って、
1年の時点での甲状腺機能に関わるQOLを比較検証しています。

その結果、
甲状腺ホルモン治療は、
80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんにおける、
症状などのQOLを有意に改善しませんでした。
一方で治療による有害事象も、
両群で差はありませんでした。

今回の検証においても、
高齢者における潜在性甲状腺機能低下症の、
明確な治療効果は確認されませんでした。

ただ、事例によっては一定の有効性がある可能性も、
現時点では否定は出来ず、
心血管疾患リスクの軽減効果などについては、
今後も検証が必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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前川知大「終わりのない」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
終わりのない.jpg
ホームグラウンドのイキウメとは別に、
多彩なゲストと世田谷パブリックシアターを舞台に、
古典の再構築のような試みをしている、
前川知大さんの新作公演に足を運びました。

今回もイキウメのメンバーに加えて、
いつもの仲村トオルさん、
テレビで活躍されている山田裕喜さんや奈緒さんをゲストに、
魅力的なキャストでの公演です。

今回の作品はホメロスの「オデュッセイア」が原作ですが、
それを山田裕喜さん演じる18歳の青年の、
若くして挫折し、人生の目的を失った心の放浪に重ね合わせ、
主人公の意識が未来人の意識と交流することにより、
時空を超えた意識の旅として表現しています。

かなり哲学的で観念的な話ですが、
今回は主人公の人物像と、
その両親の人物像がしっかりと描かれていて、
未来で出会う人物にも、
森下創さん演じる老人と、
浜田信也さん演じる集合知のコンピューターに、
しっかりした肉付けがされているので、
人間ドラマとしても成立していて、
ドラマに膨らみがあります。

「2001年宇宙の旅」のような感触もありますし、
人間の意識が時空を超えて繋がるという趣向の、
演劇的な展開のさせ方は、
遊眠社時代の野田秀樹さんの作劇も彷彿とさせます。

内容的には、
結論の部分はそれほど目新しい感じではないのですが、
そこに至るロジックは何処かの哲学書の引用ではなく、
量子論などをベースにして多重世界を絵解きする、
純粋に前川さんのオリジナルの思考実験なので、
「孤独が人間の個性である」とか、
「喪失した無意識がひらめきの源泉である」とか、
随所にハッとするようなディテールがあって、
なかなか楽しめます。

キャストは山田裕喜さんの熱演と、
それを支えた仲村トオルさんや浜田信也さんのベテラン勢とバランスが良く、
シンプルなセットも、
巧みな音響や照明の効果で、
時空の変化を綺麗に表現していました。

そんな訳で、
今回は明らかな大成功で、
これまでの前川さんの劇作の中でも、
代表作の1つと言って良い、
充実度の高い舞台に仕上がっていたと思います。

お薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「クロール-凶暴領域-」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
クロール.jpg
才人サム・ライミが製作に携わった、
サスペンスホラー映画を観て来ました。

これはまあ、真剣に観る感じの映画ではなく、
B級以下の娯楽作ですが、
なかなかこういうものを大スクリーンで観るという機会はないので、
このタイプの映画は機会があれば足を運ぶようにしています。

監督はスタイリッシュなスリラーを得意とする、
アレクサンドル・アジャで、
「ルイの9番目の人生」という映画は観ましたが、
内容は正直詰まらなかったものの、
監督のスタイリッシュなセンスには好印象でした。

今回の作品は巨大ハリケーン直撃の最中に、
父親を探していた大学の水泳選手の娘が、
ワニ園から逃亡して繁殖した巨大なワニの群れに襲われる、
というもので、
ジョーズのバリエーションである巨大ワニと、
ハリケーンによる暴風雨と河川の氾濫、
という災害の恐怖を、
同時に組み合わせたというアイデアがなかなか面白く、
上映時間は87分という最近ではあまりない短さの中に、
次々と見せ場を盛り込んだ脚色も悪くありません。

アジャ監督の演出も、
オープニングのスタイリッシュな感じが、
まず観客を引き込んで、
1つの場所に閉じ込められた場面が長いので、
単調になりやすいところを、
多角的な画面構成で変化を付け、
ラストまで緩みなく描ききったところがなかなかです。

CGを含む特殊効果もなかなか良く出来ていて、
残酷描写やパニック描写、ショッカー演出なども、
下品になりすぎるところがなく、
ハリケーンのスケール感もまずまずでした。

物語には特に意外性のあるような展開はなく、
出て来る怪物もただのワニなので、
その点は矢張り物足りなさはあるのですが、
この作品としては、ここに更に変な怪物などが登場すれば、
台無しであったことは間違いがありませんから、
この作品単独で言えば正解であったのだと思います。

日本公開は10月11日で、
翌12日には巨大台風により甚大な被害がありましたから、
かなり微妙なタイミングではありました。
しかし、それほど話題にならないB級映画だったので、
特に注目もされなかったのは幸いでした。

ただ、ハリケーンによる堤防の決壊と浸水などが、
リアルに描写されていますから、
台風の被害に遭われたような方には、
決してお薦めは出来ない映画です。

そんな訳で、
こうしたB級やC級のホラーやサスペンスの好きな方であれば、
「なかなかの拾いものですよ」とお薦め出来る作品です。

大作映画のように思われて鑑賞すればガッカリします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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川村毅「ノート」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ノート.jpg
吉祥寺シアターに、
川村毅さんの新作「ノート」を観劇に出掛けました。

川村さんは今年で劇作40周年で還暦だそうです。
僕は正直それほどのファンではありませんが、
第三エロチカには何度か足を運びました。
アングラの薫陶は確かに受けながら、
当時としては近未来を舞台にするなど、
SF的でスケールの大きな舞台設定が魅力でした。

その後紆余曲折はありながら、
演劇を現役で作り続けている、
その創作力とエネルギーには感心させられます。

最近では唐組と東京乾電池のコラボ公演に書き下ろした芝居が、
とても洒脱で味わいの深い作品で印象に残っています。

今回の新作はオーム真理教事件に真っ向から取り組んだ群像劇で、
記憶を失ったかつての幹部の1人が、
かつての教団幹部や関わり合いになった人々とのディスカッションの中で、
その記憶を思い出して行くという仕掛けにより、
あの事件を忘却してしまった多くの観客に対して、
主人公を媒介にその記憶に向き合ってもらうことを意図した、
骨太のお芝居です。

台詞の熱量においては、
久しぶりに第三エロチカ時代を彷彿とさせるものがあり、
論旨も明快でまずは水準を超える台詞劇になっていました。
基本的に動きのないセットですが、
プロジェクションマッピングで、
床や壁に抽象的な模様のようなものを映し、
その動きで時代の雰囲気のような部分を、
表現するという趣向も成功していたと思います。

ただ、真面目に取り組まれている分、
面白みに乏しい感じ、
全てが規格内に収まっているような感じはあります。
役者さんもある種の役割として存在している感じで、
人間ドラマとしての要素は希薄です。

もう少し血と肉のある個人の葛藤やドラマが、
事件の背後に浮かび上がって来ると、
より切実な作品になるように感じました。

これまでにも再演やリクリエーションにより、
作品に磨きを掛けることの多かった川村さんですから、
この作品についてもこれで完成形ではなく、
これからより深化した作品に、
進んでゆくことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの胆石発作予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと胆石症.jpg
2019年のJournal of Internal Medicine誌に掲載された、
コーヒーと胆石症との関連についての論文です。

コーヒーに心血管疾患予防などの、
健康効果のあることは、
これまでにも何度もご紹介した通りです。

ただ、そうした報告の多くは、
メカニズムが明確ではない疫学データが殆どです。

そのうちの1つとして、
胆石発作の予防効果のあることが、
複数の研究者により報告されています。

推測としては、
コーヒーの成分に、
胆嚢の動きを活発にして、
胆汁の排泄を促すような働きがあり、
それが胆石症の症状を軽減しているのではないか、
というような考え方があります。
ただ、明確に立証されたものではありません。

コーヒーを飲む人に多い生活習慣が、
胆石発作の予防に結び付いている、
という考え方もあります。
その場合は直接コーヒーが胆石症軽減の原因ではない、
ということになる訳です。

果たしてどちらが正しいのでしょうか?

今回の研究はデンマークにおいて、
まず一般住民104493名を対象とし、
中間値で8年の経過観察を行なって、
コーヒーの摂取量と胆石発作の発症リスクとの関連を、
再度検証しています。

その結果、
コーヒーを多く飲むほど、
胆石症の発症リスクは低下していました。

そのリスク低下は、
コーヒーを1日3杯以上で統計的に有意となり、
1日6杯以上では、
23%(95%CI: 0.61から0.96)有意に低下していました。

ここまではこれまでの疫学データに合致する結果です。

次にメンデル無作為化解析という手法を用いて、
これがコーヒーの直接の効果によるものか、
それとも間接的な影響によるものかを検証しています。
カフェインの代謝に関わる遺伝子変異があると、
それだけコーヒーの摂取量が多いことが知られています。
これを利用して、
遺伝子の変異と胆石発作の発症リスクとの関連を検証します。
遺伝子変異自体は全くの偶然で生じると考えられるので、
これで同じような関連があれば、
直接の関係であると推測が可能なのです。

その結果、
コーヒーの摂取量に関わる遺伝子変異と、
胆石発作のリスクとの間には負の相関があり、
今回の検証からは、
コーヒーが胆石発作のリスク軽減に、
直接的に関連している可能性が示唆されました。

メンデル無作為化解析という手法は、
最近多くの論文で活用されていますが、
内容はやや疑問を感じるようなものもあります。

今回の結果もこれだけでコーヒーの直接効果とは、
決めつけられないように思いますが、
胆石発作の予防効果が確認されたことは興味深く、
今後もコーヒーの健康影響については、
話題は尽きないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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