SSブログ

血液のトロポニン濃度と生命予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
トロポニン濃度と生命予後.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
急性心筋梗塞などの早期診断に用いられる血液検査と、
患者さんの生命予後との関連を検証した論文です。

トロポニンという血液検査があります。

主に急性心筋梗塞の早期診断に使用されていて、
インフルエンザのような迅速診断のキットが販売されているので、
クリニックなどでも使用が可能で、
胸痛の患者さんの診断目的で、
臨床にも広く使用されています。

測定されている心筋トロポニンというのは、
心筋トロポニンIと心筋トロポニンTがあり、
いずれも心臓の筋肉である心筋由来の蛋白質で、
通常は血液中には殆ど存在していませんが、
心筋梗塞などにより心臓の筋肉が損傷すると、
そのために血液中に流出してその濃度が上昇します。

このために、
血液のトロポニンの測定は、
急性心筋梗塞などの急性冠症候群の、
早期診断に使用されているのです。

ただ、この検査値の上昇の程度と、
患者さんの生命予後との関係、
また年齢とその病的意味との関連などについては、
まだあまり明確なことが分かっていません。

そこで今回の研究では、
イギリスの5カ所の循環器専門病院のデータを活用して、
何等かの理由でトロポニンの測定を行った、
トータル257948名の大規模なデータの解析を行なっています。

その結果、
血液中のトロポニン濃度と生命予後には有意な関連があり、
年齢に関わらずトロポニン濃度が高いほど、
死亡リスクも増加しているという関係が認められました。
急性冠症候群である場合と、
結果としてそうでなかった場合に分けて検証すると、
急性冠症候群ではなく、トロポニンの上昇自体は軽度であっても、
明確な生命予後の悪化が認められました。
その一方で急性冠症候群における検証では、
トロポニン濃度が高度に増加すると、
むしろ生命予後は改善するという、
予想外の結果も得られました。

この結果の原因は不明ですが、
1つの可能性としてはトロポニン濃度が高度では、
重症の心筋梗塞の事例が多く、
集中的な治療が行われたために、
それが予後に影響を与えたという可能性が想定されます。
つまり、治療により助かったケースが多く、
結果として重症ではあったが予後は改善した、
ということです。

このように、
トロポニン濃度の上昇は、
結果として急性心筋梗塞などの急性冠症候群は否定されても、
その後数週間の死亡リスクを増加させる要因となるため、
患者さんの慎重な観察が必要であると考えられます。

今後こうした軽度の上昇の意義については、
より詳細な検証が必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0)