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「ひとよ」(2019年白石和彌監督映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ひとよ.jpg
KAKUTAの桑原裕子さんの戯曲を、
白石和彌監督が映画化しました。
3人兄弟を鈴木亮平さん、佐藤健さん、松岡茉優さんが演じ、
その母親が田中裕子さんという豪華なキャストです。

白石和彌監督は非常に人気者で多作なので、
その作品の出来にはかなりムラがあり、
僕の個人的な感じでは、
5作に一本くらいは素晴らしいと思える作品があるのですが、
それ以外は今一つかトンデモという印象です。

最近では「彼女がその名を知らない鳥たち」は傑作で、
「虎狼の血」はなかなかでしたが、
「麻雀放浪記」などはトンデモでした。

トータルな印象としては、
白石監督ご自身の企画であったり、
オリジナルの作品の時には出来にムラがあり、
原作がしっかりあってそこに奉仕したような作品は、
優れていることが多いと思います。

今回の作品は原作が桑原裕子さんで、
彼女の作品はこれまでに何度か観ていますが、
「荒れ野」は名作でしたし、
他の作品も現役の他の劇作家にはない、
独特の人間ドラマが描かれていて、
煎じ詰めれば、
愛する誰かのために、
自分を犠牲にした決断を迷いなく行った人間が、
その決断が誤りではなかったのかと、
根源的な迷いを感じる瞬間を描いているという一貫性があります。

この作品もその代表の1つで、
タクシー運転手の母親が、
家族の暴力をふるうアル中の夫を、
3人の子供を守るために、
迷いなく轢き殺して自首するのですが、
その後子供達は決して幸せな人生は送らず、
15年後に帰って来た母親は、
自分の決断の正しさを疑うことになるのです。

原作の戯曲は、
法要などで家族が集まった場所での、
日常会話を主体としてドラマが展開する、
典型的な小劇場の家族劇のパターンで、
それほどドラマチックなことは起こらないので、
そのままでの映画化には難があるのですが、
映画の台本は原作の骨の部分はそのまま活かしながらも、
人物を整理して堂下という人物の造形を膨らませるなど、
随所に工夫を凝らし、
クライマックスもある「一夜」の物語として活劇化して、
ラストはバラバラの家族が、
記念写真の中で繋がるという、
家族映画のベタな設定で締め括って、
原作とはまた異なる家族劇に仕上げています。

これは個人的にはなかなか良かったです。

物語的にはラストに無理にカーチェイスを入れて、
結局あまり意味のある展開にはなっていなかったので、
そうした点には不満もあるのですが、
キャストがともかく脇に至るまで、
非常にリアルで繊細な良い芝居をしていましたし、
特に佐々木蔵之介さんが演じた堂下のエピソードがとても切なくて、
彼が売人の正体に気づくところなどは、
その凄みのある演出に白石監督の個性が活きていました。
古い町の移動撮影も映画的で美しかったですね。

そんな訳で原作の良さは活かしながら、
監督の個性も出た素晴らしい作品で、
原作の改変の仕方には好みの分かれるところですが、
成熟した俳優たちの演技の競演を楽しむだけでも、
一見の価値のある作品だと思います。

かなりお薦めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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