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男性ホルモン療法と静脈血栓塞栓症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロン使用と血栓症リスク.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
男性ホルモン治療と副作用としての深部静脈血栓症リスクとの、
関連についての論文です。

男性ホルモンであるテストステロンは、
性腺機能低下症の治療目的で使用されますが、
その使用が近年世界的に増加しています。
ただ、性腺機能低下症の患者さんに対して、
診断の上行われているケースは少なく、
増加分の大多数は、
性欲などの男性機能の低下や、
筋力低下、全身倦怠感などの、
その適応が明確ではない自覚症状に対して、
やや漫然と使用されているのが実際であるようです。

静脈血栓塞栓症には、
足の静脈などの深部静脈血栓塞栓症と、
肺の血管に異常が起こる、
肺塞栓血栓症があり、
テストステロンを使用することは、
そのリスクを増加させる要因として知られています。

しかし、実際に処方されている男性ホルモンが、
どのくらいそのリスクを増加させているのか、
というような点については、
あまり明確なことが分かっていませんでした。

今回の研究では、
アメリカの健康保険のデータを活用して、
男性ホルモンの処方と、
その後の静脈血栓塞栓症のリスクとの関連を検証しています。

トータルで39622名の男性ホルモン使用男性を対象として、
検証を行ったところ、
そのうち性腺機能低下症の診断がなされていたのは、
7.8%の3110名のみでした。
つまり、アメリカにおいて男性ホルモンの使用は、
その大半が性腺機能低下症とは関連なく行われています。

そして年齢を補正した結果として、
男性ホルモン治療は性腺機能低下症のある場合に、
2.32倍(95%CI: 1.97から2.74)、
性腺機能低下症のない場合に2.02倍(95%CI: 1.47から2.77)、
静脈血栓塞栓症のリスクを有意に増加させていました。

性腺機能低下症のない場合、
男性ホルモン使用3か月以内発症の静脈血栓塞栓症のリスクは、
65歳以上では1.68倍(95%CI: 0.90から3.14)であるのに対して、
65歳未満では2.99倍(95%CI: 1.91から4.68)と、
条件を限定した場合のみの結果ですが、
若年齢層でのリスクがより高い、
という結果になっていました。

このように、
男性ホルモン治療には、
明確な静脈血栓塞栓症のリスクがあり、
使用の際には充分にそのリスクを考慮した上で、
より慎重な使用が望ましいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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