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非アルコール性脂肪肝炎の新薬の効果(レスメチロム) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
NASHの新薬の臨床試験.jpg
2019年のLancet誌に掲載された、
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の新薬の、
第2相臨床試験の効果についての報告です。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
アルコール性の肝障害と非常に似通った病態が、
お酒を飲まない人にも生じるというもので、
従来の脂肪肝という概念とは異なり、
進行性で肝硬変に移行することも稀ではないのが特徴です。

その病態は内臓肥満やメタボと関連が深く、
高血圧や糖尿病、高脂血症などと高率に合併し、
インスリンの効きが悪くなってインスリンの濃度が高くなる、
インスリン抵抗性がその土台にあると考えられています。

非アルコール性脂肪肝炎というのは、
メタボの内臓に与える影響の1つの現れで、
単独でも肝硬変などの命に関わる病気に繋がる一方、
他の動脈硬化性疾患や糖尿病など、
メタボに関連する病気とも、
密接に結びついているのです。

さて、現時点で減量や運動療法などの生活改善以外に、
特効薬のような治療薬のない非アルコール性脂肪肝炎ですが、
ビタミンEやインスリン抵抗性改善剤であるピグリタゾンなどが、
一定の有効性があるという報告があります。
ただ、その効果は限定的で、
たとえばアメリカのFDAが、
現時点でその有効性を認めている治療薬はありません。

以前FGF19という一種の増殖因子の誘導体の新薬の効果を、
ご紹介したことがありましたが、
今回ご紹介するのはそれとは別個の、
レスメチロム(Resmetirom)という薬です。

この薬は甲状腺ホルモンのβ受容体の刺激剤です。
甲状腺ホルモンが細胞で働く時の、
受容体は窓口のようなものですが、
この受容体にはαとβの2種類があり、
それぞれの組織で少しずつその働きも違います。

肝臓の細胞においては、
甲状腺ホルモンのβ受容体が多く発現していて、
その代謝に深く関連していて、
その発現が非アルコール性脂肪肝炎においては低下している、
という報告があります。

そこでその刺激剤に脂肪肝炎の改善効果があるのでは、
と推測されたのです。

そこで今回の臨床試験においてはアメリカの複数施設において、
肝生検にて非アルコール性脂肪肝炎と診断された、
84名の患者さんをくじ引きで2つの群に分けると、
一方はレスメチロムを1日80ミリグラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
36週間の経過観察を行っています。

その結果、偽薬と比較してレスメチロム群では、
血液のトランスアミナーゼは有意に低下し、
肝臓内の脂肪含量にも有意な低下が認められました。
有害事象は下痢や吐き気が認められました。

この薬の有効性は、
まだ今後の臨床試験の進捗をみないと、
何とも言えないところがありますが、
甲状腺ホルモンの末梢の代謝を改善するという、
そのメカニズムは非常に興味深く、
他の疾患にも応用出来る可能性も秘めているように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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