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赤堀雅秋「神の子」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は大みそかでクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
神の子.jpg
今年も大活躍の赤堀雅秋さんですが、
年の瀬に下北沢の本多劇場で、
大森南朋さんを主役とした新作を上演しています。

赤堀さんの劇作は、
2017年の「鳥の名前」と「流山ブルーバード」が素晴らしくて、
それからは欠かさず足を運ぶようにしています。

食い詰めの中年男達が、
どうしようもない蟻地獄のような世界で、
虚無的な闘いを繰り広げるようなドラマから、
最近は岩松了さんを思わせるような、
何気ない日常会話の往来の中に、
密やかな情念を成長させ、
それが事件を起こすというような、
奥行のある作劇に変化を見せています。

今回は大森南朋さん、田中哲司さん、でんでんさんという、
工事現場の誘導員の仕事をしながら、
パチンコと仕事とスナックを往来するだけの、
無為な人生を過ごしている3人の中年男が、
長澤まさみさん演じる謎の女性に関わり、
ボランティアの清掃活動を行うことから、
人生の何かを変えようとする姿を描きます。

現実の事件を彷彿とさせるような、
無差別殺人実行を口走る、
赤堀さん演じる、
危険な中年男なども登場しますが、
結果として事件が起こるというようなことはなく、
田中哲司さんの人生にのみ変化が起こりますが、
他の2人の人生はそのままに、
ひょっとして長澤さんの存在自体、
大森さんの妄想だったの?
という気配を漂わせつつ物語は終わります。

語り口は平明で笑いもある台詞も軽快に流れ、
底流にある雰囲気は現代を反映してかなり重いのですが、
比較的リラックスして観ることが出来ます。

そこにもう少し、
観客の心に食い入るような部分や、
予想外の人物の行動や展開などが、
あれば良いというようには思うのですが、
今回の作品はやや消化不良のまま、
予定調和的に流れてしまった、
という印象です。

長澤さんの役柄も掘り下げのないままに、
ただ謎めいているだけで終わってしまいますし、
途中で歌を歌ったり、
バレエを踊ったりするのも、
あまり考えた上での構成とは思えず、
細部を詰めないまま、
見切り発車した、
という印象を持ちました。

そんな訳で今回は完成度が低く、
今ひとつではあったのですが、
こうしたこともあるのでしょうから、
また次作に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い大晦日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「家族を想うとき」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は年末年始の休診中です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
家族を想うとき.jpg
イギリスのガチガチの社会派ケン・ローチ監督の新作、
「家族を想うとき」を観て来ました。

前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」で、
監督引退を表明していたのですが、
それを撤回しての新作ということのようです。

イギリスの田舎町に暮らす4人家族の物語で、
キレやすくて建設作業の仕事がなかなか続かなかったお父さんが、
フランチャイズの宅配ドライバーの仕事を始めるのですが、
時間に追われて管理され次第に疲弊して、
息子は問題児で次々とトラブルを起こし、
家族の絆も崩壊寸前になるというつらいお話しです。

ただ、語り口は平明で柔らかく、
一部の日本映画のような過剰な暗さはないので、
意外にリラックスして観ることが出来ます。

これは結構観る人を選ぶ感じの映画ですね。

映画の描くフランチャイズ制度などを、
当然の仕組みとして考えると、
不良息子が悪いだけで、
上手く立ち回ればお父さんも大丈夫、
というようにも思えます。

ただ、ケン・ローチ監督の主張は勿論そうではなくて、
スマホに息子は囚われているし、
お父さんは仕事を管理する端末の奴隷になっていて、
そうした機械に支配され管理されていること自体が、
人間性を剥奪している不幸の元凶だ、
という考え方なのです。

でも、スマホなんて当たり前と思っているでしょ。
そうすると問題の本質が見えなくて、
何やってんだよこの家族、
もっと要領よくやればいいのに、
と思ってしまうのです。

そうした僕達の先入観に挑戦しているのが、
この映画の肝なのだと思います。

ケン・ローチ節健在という感じで、
監督のファンの方であれば文句なく良いと思える映画です。

その反面監督作品初鑑賞という方の中には、
違和感を感じる方が多いかも知れません。

まあでも、そうした映画があってもいいですよね。

僕はラストも含めて割合と好きです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース「荒れ野」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは年末年始の休診となります。
年始は1月6日(月)からの予定です。

ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
荒れ野.jpg
2017年に初演され、
その年一番と言って良い感銘を受けた傑作舞台「荒れ野」が、
同一キャストで今回再演されました。

初演があまりに素晴らしかったので、
再演で却ってガッカリしたらいやだな、
と思って、
行くかどうか迷っていたのですが、
桑原さんの原作による映画「ひとよ」も良かったので、
矢張り見なければと思い急遽駆けつけることにしました。

とてもとても良かったです。

初演は今回より小さな空間で、
舞台を取り込こむように客席があったのですが、
今回は会場はスズナリで、
舞台と客席は向かい合うという、
オーソドックスなセットになっています。

これがまず良かったと思います。
初演は壁やガラス戸が取り払われたセットで、
臨場感はある一方、
ガラス戸で2つの空間を仕切るという意味合いが、
分かりにくくなってしまったきらいがありました。

今回の方が正解だったと思います。

細部は結構忘れていたのですが、
それでも最初の「あなたならどうする」の歌から、
作品世界に一気に引き込まれ、
最後まで間然とするところのない構成に酔いしれました。

改めて思いますが、
これだけの芝居はざらにありません。

昔銀座の並木座で、
黒澤明監督の作品の特集上映に足を運び、
「生きる」を観たのですが、
通常はいびきをかいている高齢者が殆どの客席が、
その時だけは皆身を乗り出すようにして、
映画を観ていたことがありました。

なるほど、名作というのはこういうことかと、
得心がいったような思いにとらわれたことを、
今でもはっきり覚えています。

今回の舞台も僕が鑑賞した時には、
僕より年長の観客が大部分でしたが、
通常ならいびきの大行進になるところが、
ほぼ全員の観客が矢張り食い入るように、
舞台を見つめていました。

これぞ名作なのです。

キャストは手練れで素晴らしく、
特に小林勝也さんの飄々たる存在感には、
今回も圧倒されました。
小林さんの唯一無二の演技を観るだけでも、
この作品を観る意味はあると感じました。
ただ、一部のキャストの芝居には、
若干の「やり過ぎ感」は今回感じました。
受ける部分をもっと大袈裟にやろう、
というような意識が垣間見えて、
初演時よりややオーバーアクトになっていたのです。
その辺りに同一キャストによる再演の、
負の部分を少し感じました。
この芝居はともかく戯曲が素晴らしいので、
演技は台詞に奉仕するという意識で、
抑制的であるべきなのです。
その点でも小林さんの芝居はさすがでした。

もう上演は終わってしまいとても残念ですが、
またの再会を期待したいと思います。
この芝居はまたキャストが変わると、
別の魅力が浮上するようにも思います。
作品の底流にあるエロチックな部分が、
この上演ではかなり抑えられているのですが、
それがより明確化したような上演も、
それはそれでありかな、
というようにも思えるからです。

いずれにしても、
年末に最高の芝居に出逢えてまずは幸せでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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月刊「根本宗子」第17号「今、出来る、精一杯。」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
今、出来る、精一杯..jpg
根本宗子さんが自身の10周年の記念公演として、
2013年に初演され、2015年に再演された、
根本さんの劇作の代表作の1つ「今、出来る、精一杯。」を、
装いも新たに音楽劇としてリニューアルし、
おそらく根本さんが公演を行なった中で、
最も大きな劇場である、
新国立劇場中劇場で上演しました。

もう公演は終わっていますが、
その上演に先日足を運びました。

「今、出来る、精一杯。」は、
ちょっと三浦大輔さんの影響は感じるものの、
根本さんの個性が良く表れた魅力的な作品で、
特に後半の言葉と展開には迫力があり、
小劇場の傑作と呼ぶに恥じない劇作です。

僕は2013年の初演は観ていませんが、
2015年の再演には足を運び、
ささやかな女の幸せを、
偏執狂的にかつ科学実験のように冷徹に、
追求し続けるような姿勢に感嘆し、
車いすに乗った根本さんの独白から、
ラストに至る展開には身震いをするような感銘を受けました。

僕が観た根本さんの劇作の中では、
最高傑作と言って過言ではありません。

ただ、今回の企画はどうでしょうか?

ミュージシャンの清流人さんとタッグを組んで、
随所に歌が挿入されて音楽劇に構成しているのですが、
原作の台詞はほぼほぼそのまま使われているのに、
それに更に歌を追加しているので、
もともと2時間強の作品が、
休憩を入れて3時間近い長尺に引き伸ばされてしまっています。

本来は音楽劇というのは、
ストレートプレイに歌を足したようなものではなく、
歌がドラマと有機的に結び付いた、
別種の表現形式である筈です。
そのために、良く出来た音楽劇やミュージカルは、
同じ内容のストレートプレイより、
むしろ圧縮され短くなるのです。
「レ・ミゼラブル」をストレートプレイでやれば、
ミュージカル版の倍の時間は掛かる筈です。
それを歌の活力で圧縮して構成しているのが、
名作ミュージカルと言われるゆえんなのです。

一方で今回の作品は、
完成された戯曲に更に歌を追加しているので、
歌の部分が確実に間延びしてしまっています。

これではいけないと思います。

この作品はスーパーの店員控室とアパートの一室が舞台の、
非常に凝集されたミニマルなお芝居です。。
それを大きな回り舞台のセットを作って、
新国立劇場の大舞台で上演するというのは、
かなり無理があるのではないでしょうか?

そのために、
凝集された結晶体のような名作が、
空虚で間延びした作品に変貌してしまったような気がします。

多分根本さんも、
元々は新国立劇場の公演には、
別のお芝居を掛けるつもりではなかったのではないと思います。

「今、出来る、精一杯。」は名作で、
再演の意義もある作品ですが、
それはもっと小さな空間で演じられるべきで、
こんな大きな劇場で、
間延びした音楽劇として上演されることは、
この作品を原作者自ら、
破壊してしまうような行為のように僕には思えました。

そんな訳で今回はかなりガッカリであったのですが、
根本さんは現代を代表する劇作家の1人であることは間違いがなく、
来年以降の活動を期待して待ちたいと思います。

頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの認知症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと認知症リスク.jpg
2016年のNutrition誌に掲載された、
コーヒーと認知症リスクとの関連についての論文です。

コーヒーの健康効果は多くの病気において報告されていますが、
認知症との関連についてはまだクリアな結論が出ていません。

コーヒーをよく飲む人の方が認知症が少なかった、
という報告がある一方で、
あまり関連がなかった、
という報告もあるからです。

今回の研究はこれまでの主だった、
前向きコホート研究と呼ばれる疫学研究のデータを、
まとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析という手法で、
この問題の検証を行なっています。

11のコホート研究に含まれている、
トータルで29155名のデータをまとめて解析したところ、
トータルではコーヒーの摂取量と認知症や認知機能低下のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。

しかし、サブ解析においては、
アルツハイマー病のリスクが、
コーヒーの摂取が最も多い群において少ない群と比較して、
27%(95%CI: 0.55から0.97)有意に低下していました。

このように、肝臓癌や心血管疾患、糖尿病などの、
同種のデータと比較するとやや弱いのですが、
コーヒーの摂取量とアルツハイマー病との間には、
一定の逆相関が認められ、
コーヒーはアルツハイマー病の予防につながる可能性が、
示唆される結果とはなっているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーのHIV・HCV重複感染における死亡リスク低下作用 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーとHIV死亡リスク.jpg
2017年のJournal of Hepatology誌に掲載された、
コーヒーの摂取量と、
HIVとHCVのウイルス感染を併発した患者さんにおける、
生命予後との関連を検証した論文です。

複数の大規模な疫学データにおいて
コーヒーが生命予後に良い影響を与えることは、
ほぼ実証された事実です。

ただ、個別の病気の患者さんにおいて、
どの程度の効果があるかについてはまだ不明の点が多く残っています。

HIV感染症の治療は格段の進歩を遂げていますが、
その中で問題となることの1つが、
C型肝炎ウイルス(HCV)との重複感染です。

HIVとHCVは、
いずれも血液を介して感染する病気なので、
その両者を持っている患者さんが多いことが知られています。

そして、
HIV感染症の患者さんの死亡原因として、
慢性C型肝炎を原因とする、
肝臓癌や肝不全、肝硬変が、
免疫自体の低下による感染症などより、
増えているという現実があるのです。

勿論今ではC型肝炎もHIVも、
有効な治療のある病気です。
しかし、それでも重複感染の予後は、
一定レベル以上改善していないのが実際であるようです。

コーヒーには抗酸化作用と抗炎症作用とがあり、
脂肪肝炎などの改善効果や、
C型慢性肝炎の進行抑制、
また肝臓癌の予防効果などにおいても、
有効であったというデータが複数存在しています。

それでは、
コーヒーの習慣のあるなしにおいて、
HIV・HCV重複感染の患者さんの生命予後には、
差があるのでしょうか?

今回の研究はフランスにおいて、
1028名のHIV・HCV重複感染の患者さんを登録して、
中間値で5.0年の経過観察を行なっています。
その結果、年間患者100人当たり1.64人が死亡していて、
1日3杯以上コーヒーを飲む人は、
1日3杯は飲まない人と比較して、
総死亡のリスクが50%(95%CI: 0.3 から0.9)、
有意に低下していました。

それを図示したものがこちらです。
コーヒーとHIV死亡リスクの図.jpg

この問題はまだ明確な結論が出ている、
とは言えませんが、
たった3杯のコーヒーで、
これだけの予後の差が見られたという今回の結果は、
非常に興味深く、
今後の更なる検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーの骨粗鬆症予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと骨粗鬆症.jpg
2019年のJournal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に掲載された、
コーヒーと骨代謝との関係についての論文です。

コーヒーの健康効果については、
総死亡リスクや心血管疾患リスク、
パーキンソン病や糖尿病、一部の癌リスクなどを、
低下させるという結果が、
大規模な疫学データで報告されています。

その一方で骨代謝や骨粗鬆症とコーヒーとの関連については、
相反するような報告があって一定していません。

コーヒーに含まれる、
代表的な活性物質であるカフェインには、
カルシウム吸収の抑制やカルシウム排泄の促進など、
骨量の減少や骨粗鬆症の発症に結び付くような作用が、
報告されています。
一方で疫学データにおいては、
コーヒーを多く飲む人は骨量が少ない、
という報告がある一方で、
むしろ増加するというような報告もあります。

つまり、この問題はまだ解決していないのです。

そこで今回の研究では、
骨粗鬆症についての香港の疫学研究のデータを活用して、
コーヒーの摂取量と骨量との関連を比較検証しています。

6053名を中間値で14.88年経過観察し、
453名はコーヒーの含有成分の多くの代謝産物を測定して、
その代謝物と骨量との関連も検証しています。

その結果、
有意ではないものの、
コーヒーの摂取量が多いほど、
骨折のリスクは低い傾向があり、
脊椎と大腿骨頸部の骨塩量は、
コーヒーの摂取量が多いほど、
有意に高くなっていました。

更にコーヒーに含まれる生理活性物質である、
カフェインやクロロゲン酸などの12の代謝産物の濃度は、
コーヒーの摂取量と相関していて、
そのうちの一部は骨量とも正の相関を示していました。

つまり、
やや間接的ではありますが、
コーヒーを多く飲む人は骨量が多く、
骨折にもなりにくい可能性が高い、
という結果です。

コーヒーが現行最強の健康飲料であることは、
これまでのデータの蓄積からほぼ間違いがなく、
胃酸過多や胸やけなど欠点もあるので、
ほどほどの摂取がお勧めですが、
その有効性はほぼ確立したものと言って良いと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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超加工食品と2型糖尿病リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ウルトラ加工食品と糖尿病.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
超加工食品と糖尿病との関連についての論文です。

超加工食品(ultra-processed foods)というのは、
2016年に国連の関連する食品についての会議で提唱されたもので、
食品をその加工の度合いによって、
4種類に分類するNOVA分類がその元になっています。

このNOVA分類では、
食品をその加工度によって、
第1群;加工されていないか、最小限しか加工されていない食品
第2群;加工された調味料
第3群;加工食品
第4群;超加工食品
の4つに分類しています。

第1群は果物や野菜や肉、豆は牛乳など、
その由来が見て分かるような食品のことです。
第2群は砂糖や塩などの加工された調味料です。
第3群は一定の加工をされた食品のことで、
たとえば缶詰の桃や自然の製法で作ったパンやチーズ、
ミックスナッツやミックスベジタブルなどがそれに当たります。

そして、第4群の超加工食品は、
通常5種類以上の食品が組み合わされ、
そこに複数の調味料などが加えられたものを意味しています。
こうした食品は他の群の食品では、
使用されないような添加物や化学物質が添加されることが通常です。

これは要するに、
僕達がお店などで手に入れることの出来る、
食事の材料となる食品の分類なのです。

たとえばラーメンを食べようと思った時に、
その材料として、
自然の岩塩などを調味料に使い、
自然の小麦や豚肉、野菜などを調達して、
それを組み合わせて調理すれば、
第1群のみを使用したことになりますし、
塩や砂糖などの調味料は市販の物を使うと、
第2群も使用したことになります。
袋詰めの麺を買い、
スーパーの焼き豚などを買って、
それを組み合わせてラーメンを作ると、
第3群も使用したことになり、
最初からカップ麺やインスタントラーメンを買って、
それを使用すると第4群を使ったことになるのです。

健康のためには、
極力超加工食品を減らそう、
というのがこの国連の会議の、
基本的な考え方です。
超加工食品は料理の手間を減らしてくれますから、
確かに便利ですが、
最初からパッケージ化されているので、
その成分を確認することは出来ませんし、
栄養バランスの調節も難しくなります。

添加物を全て危険視するような考え方にも問題はありますが、
人間の手間を省くために、
本来は必要のない物質を、
多く使用してそれを食べるということ自体が、
人間本来のあり方ではないことも、
また事実だと思います。

それでは実際に超加工食品を多く食べることで、
健康上の害はどの程度あるのでしょうか?

2018年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
10万人以上の住民の栄養調査の結果と、
その後の癌の発症との関連を検証したフランスの疫学データでは、
トータルな癌と乳癌の発症リスクは、
超加工食品の摂取量が10%増加すると、
概ね10%有意に増加することが確認されました。
大腸癌と前立腺癌については、
同様の関連は認められませんでした。

更に2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された論文では、
同じ疫学データを元にして、
今度は超加工食品の摂取と、
心血管疾患のリスクとの関連を検証してします。

その結果、
105159名を中間値で5.2年観察したところ、
食品中の超加工食品が10%増加すると、
心血管疾患のリスクは12%(95%CI: 1.05から1.20)
有意に増加していました。
食品の中では特に塩辛いスナック菓子が、
1日100グラム余計に摂取することで、
そのリスクが2.03倍(203%)という最も大きな増加を示していました。

つまり、これまでの解析により、
超加工食品が一部の癌のリスクと、
心血管疾患のリスクに関連がある、
という結果が示されたのです。

今回の研究は同じ疫学データを叩き台として、
今度は2型糖尿病の発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
中間値で6年の経過観察において、
食品中の超加工食品が10%増加すると、
2型糖尿病のリスクは15%(95%CI:1.06から1.25)
有意に増加していました。
この関連は他の糖尿病のリスク因子を補正しても、
同じように有意な関連は認められていました。

このように、
いささか論文毎に小出しに解析している、
という感じは否めないのですが、
癌、心血管疾患、糖尿病と、
主だった環境要因の関与が大きい病気のリスクが、
超加工食品の摂取量と関連している、
というデータが出そろったことになり、
今後別個の大規模疫学データにおいて、
同様の結果が得られることになれば、
この問題はよりクローズアップされることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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食事のコレステロールと心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コレステロールと心血管疾患リスク.jpg
2019年のCirculation誌に掲載された、
食事のコレステロールの摂取量と心血管疾患リスクについての、
アメリカ心臓病協会による提言です。

コレステロールの摂取量を減らすことは、
長く心血管疾患予防のための栄養指導の柱でした。

概ね1日コレステロールの食事からの摂取量が、
300ミリグラムを超えないようにすることが、
健康のためには重要であるとされてきました。

ところが、
2013年以降のアメリカ心臓協会とアメリカ心臓学会によるガイドライン
(AHA/ACCガイドライン)においては、
コレステロールの摂取目標値を設定せず、
2015年から2010年アメリカ政府機関が作成する、
アメリカ人のための食生活指針(DGA)においても、
同様の方針が踏襲されました。

健康のためにコレステロールを制限するという考え方は、
かなり明確に否定されたのです。

その説明は現行の臨床データや疫学データにおいて、
コレステロールの摂取量そのものと、
心血管疾患のリスクとの間に、
明確な関連があるという根拠が認められなかったから、
と説明されています。

今回の論文では、
その根拠となったデータが解説されています。

この考え方はちょっと誤解を招くところがあるのですが、
コレステロールは幾ら沢山摂っても良い、
ということではなく、
現代のアメリカ人一般への健康指導として、
コレステロールを制限するということの意義は薄い、
ということを示しているのです。

その点をもう少し細かく説明してみます。

まず、アメリカにおける成人のコレステロール摂取量は、
平均で1日293ミリグラム(95%CI: 284から302)で、
ほぼ摂取上限量とされる300ミリグラムを、
クリアしていることが分かります。
主なコレステロールの摂取源は、
肉類(シーフードを含む)、卵、穀類、乳製品となっていて、
このうち卵の摂取量についてはかなりのばらつきがあり、
コレステロールの摂取量が多い人では、
卵の摂取量がそこに大きく影響していることが示唆されています。

多くの観察研究と呼ばれる手法による疫学データでは、
コレステロールの摂取量と心血管疾患のリスクとの間には、
明確な関連が認められていません。
介入試験と呼ばれる厳密な手法を用いた臨床試験のデータを解析すると、
確かにコレステロールの摂取量と心血管疾患リスクとの間に、
一定の関連が認められますが、
501から1415ミリグラムという、
かなり極端に多くのコレステロールを摂取していて、
通常の平均的な食生活のレベルにおいては、
こうしたリスクの増加は問題にはならないと思われます。

ただ、今年発表されたアメリカのコホート研究の結果を、
まとめて解析したメタ解析の論文では、
1日半個の卵を余計に食べると、
心血管疾患のリスクは6%有意に増加する、
という結果になっていました。

このように、
臨床データは必ずしも一致していないのですが、
少なくとも通常のコレステロールの摂取量の範囲においては、
明かな心血管疾患のリスクの増加はない、
というのがこれまでの結論であるようです。

卵については、
1日1個までの摂取については、
ほぼノーリスクと考えて良いようですが、
それを超える摂取については、
問題ないという報告がある一方、
心不全などのリスクが増加する、
という報告もあるので注意が必要です。

また、コレステロールを含む食品には、
健康リスクを上げることがほぼ間違いない、
飽和脂肪酸が多く含まれているものが多く、
それがコレステロールの健康リスクとされるものの、
実体ではないかという見解もあります。

いずれにしても、
コレステロールは沢山摂っても問題ない、
ということではなく、
卵も1日2個以上摂れば一定のリスクは想定されるのですが、
殆どの方にとっては意識するべきはコレステロールの量ではなく、
ナッツや青味魚を多く摂るなど、
他の脂質とのバランスを考えることが、
コレステロールのことを気にする以上に、
大切なことであるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
スターウォーズ.jpg
スターウォーズの最新作を、
初日に新宿で観て来ました。

スターウォーズのシリーズは、
劇場映画として公開されたものについては、
全て映画館でロードショー時に観ています。

矢張り最初のエピソード4の公開時が、
とても印象深くて、
日本公開はアメリカ公開の翌年で、
SFの雑誌や映画の雑誌に、
こぞって情報や感想が大々的に公開前に掲載されて、
いやが上にも期待は膨らみました。

僕はちょうど高校1年で、
数か月登校拒否で家にいた時期で、
巷にはサザンスターズの「勝手にシンドバット」が流れ、
洋楽はビリー・ジョエルと「サタデーナイトフィーバー」が注目で、
アンテナの高いマニアはボブ・マーリーにしびれ、
矢沢永吉の「時間をとまれ」がヒットしていました。
カセットで毎日ビートルズを聞きながら、
無為に過ごしてしまったそれまでの10数年の人生への後悔と、
将来への不安と絶望とにさいなまれていた時期でした。

僕の家の前には逗子の海があり、
奇妙なほどに夏を主張していたことを、
不思議に今でもありありと覚えています。

最初に観たのは有楽町の日劇で、
それから家族と一緒に横浜でも観ました。
当時は映画を真剣に観ていましたし、
脳も若かったですから、
今でもほぼ全カットを覚えています。

特撮映画の歴史の中では、
矢張り画期的な映像体験で、
その年に公開された「未知との遭遇」と共に、
SF映画の新時代到来と言われました。

最初の3部作はそれでもワクワクしながら観ました。
エピソード5は少し暗かったですね。
エピソード6は、
ああこれで終わりなのね、
という感じで、
お話も4の焼き直しみたいでしたし、
物足りない感じはありました。

それから時間が空いてエピソード1ですが、
絵的にはCG全盛になって違和感はありましたね。
1はこれもほぼ4と同じ話でしたね。
2でごちゃごちゃして暗くなって、
3はダース・ベイダーの誕生で4に繋がって終わるので、
これもモヤモヤする感じでした。

また時間が空いてエピソード7ですが、
この辺りになるともう映画と真剣に向き合う、
という緊張感はだいぶなくなっていて、
「一応見たけれど」というくらいの記憶しかありません。
ただ、7はレトロで良かったと思いました。
内容は結局また4と同じでしたね。
連続ものとはいいながらも、
結局エンドレスのリメイクになるのがこのシリーズの特徴ですね。

今回のエピソード9は、
色々長くシリーズを見続けたファンに対する、
サービス的な工夫はあり。
ラストはなるほどね、という感じで終わります。

ただ、見るべき点はそのくらいかな。

お話は茫然とするような雑な感じで、
ビジュアルもほとんど変わらないものの繰り返しですもんね。

アベンジャーズとほぼほぼ同じ感じになるのですが、
比較するとあちらの方が数段派手で迫力がありましたし、
絵的にも変化があって綺麗でしたね。
スターウォーズは暗くてモノトーンで地味だな、
という気分にどうしてもなってしまいました。

まあでもシリーズはいずれは終わるものですし、
こうした形で過去の人物なども無理なく登場しつつ、
大団円に持ち込めたことは良かったのではないでしょうか。

時間があれば、もう1回くらい観ようかしら、
というくらいの気分には今なっています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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