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抗凝固療法と骨折リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワルファリンと骨折リスク.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
心房細動に対する抗凝固療法が、
骨に与える影響を薬剤毎に比較した論文です。

心房細動というのは、
生涯で5人から3人に1人は発症する言われるほど、
年齢と共に多く見られる不整脈です。

この不整脈が持続することによる一番の問題は、
心臓の中で血栓が出来やすくなり、
それによって起こる脳塞栓症などの塞栓症の発症です。

この脳塞栓症などの予防のために、
抗凝固剤と呼ばれる薬剤が使用されています。

経口抗凝固剤というのは、
血液が固まる仕組みの一部を抑えることによって、
脳塞栓症や肺血栓塞栓症などの、
血栓塞栓症を予防するために使用されている薬です。

歴史があり現在でも使用されているのがワルファリンで、
最近では直接作用型経口抗凝固剤として、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンなど多くの薬剤が、
その利便性から広く臨床で使用されています。

こうした薬のリスクとして、
最も注意するべきなのは、
脳内出血などの出血系の合併症ですが、
それとは別個にワルファリンの有害事象として、
以前から指摘されることが多いのが、
骨粗鬆症とそれに伴う骨折リスクの増加です。

ワルファリンはビタミンKの作用を阻害しますが、
このビタミンKは凝固だけではなく、
骨の代謝においても重要な働きをしているので、
ワルファリンを使用継続することにより、
骨量は減少し骨折リスクが増加することが想定されます。

しかし、これまでの疫学データにおいては、
ワルファリンの使用で骨折リスクが増加した、
とする報告がある一方、
明確な増加はなかったという報告もあって一定していません。

直接作用型経口抗凝固剤はビタミンK非依存性なので、
理屈からはそうした骨折リスクとは無関係と思えます。

ただ、2019年に発表されたメタ解析の論文では、
ワルファリンと直接作用型経口抗凝固剤との比較において、
明確な骨折リスクが差がありませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの健康保険の医療データを活用して、
トータル167275名の心房細動の患者さんを対象に、
平均で16.9か月の観察期間中の骨折の発症と、
新規の抗凝固剤の使用との関連を検証しています。

その結果、
ワルファリンの使用と比較して、
直接作用型経口抗凝固剤を使用した場合には、
入院を要する骨折のリスクが13%(95%CI: 0.79から0.96)、
全ての臨床的骨折のリスクが7%(95%CI: 0.88から0.98)、
それぞれ有意に低下していました。
ただ、大腿骨頸部骨折単独では、
有意なリスクの低下は認められませんでした。

個別の直接作用型経口抗凝固剤の比較では、
アピキサバンが最も骨折予防効果が高く、
ワルファリンの使用と比較して、
入院を要する骨折のリスクを40%(95%CI: 0.47から0.78)、
臨床的骨折のリスクを14%(95%CI: 0.75から0.98)、
大腿骨頸部骨折のリスクを33%(95%CI: 0.45から0.98)、
それぞれ有意に低下させていました。

このワルファリンと比較した場合の、
直接作用型経口抗凝固剤の有益な効果は、
骨粗鬆症と診断された患者においては、
より大きくなっていました。

このように、
今回の大規模な単独の疫学データにおいては、
直接作用型経口抗凝固剤、特にアピキサバンは、
ワルファリンと比較して骨折予防効果において優れることが、
ほぼ確認されています。

全ての患者さんにおいて、
ワルファリンがアピキサバンと比較して有益性が高い、
というようには言い切れませんが、
出血リスクについても、
アピキサバンの有益性を示すデータは複数あり、
少なくとも出血リスクも骨粗鬆症リスクの高い高齢者においては、
ワルファリンよりアピキサバンを選択することが、
妥当である可能性が高いとは言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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