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腹部大動脈瘤スクリーニングの効果(2019年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腹部大動脈瘤の予防効果.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの効果を検証した論文です。

2018年のLancet誌に掲載された、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの効果を検証した論文です。

腹部大動脈瘤は主に動脈硬化と高血圧に伴う、
お腹の太い動脈の「腫れ」で、
血管が破裂すればお腹の中に大出血を起こし、
命にかかわるような事態となります。

そのリスクは高齢の男性で高く、
大動脈瘤破裂の家族歴と喫煙もリスク因子となります。

この大動脈瘤のチェックは、
お腹の超音波検査によって、
比較的簡単に発見することが出来るので、
リスクの高い高齢男性に、
腹部大動脈瘤の検診を行うことにより、
大出血が未然に防がれて、
生命予後の改善に結び付くのでは、
という想定が可能です。

その立証のために、
これまで幾つかの介入試験が行われています。

このうち2009年に発表されたイギリスの臨床試験では、
65歳から74歳の男性に対して、
腹部大動脈瘤のスクリーニングを行い、
その効果を13年に渡って観察したところ、
死亡リスクが42%(95%CI; 31から51%)有意に低下しました。

また、同様に施行されたデンマークの臨床試験では、
65歳から73歳の男性を対象として、
14年間の観察期間において、
腹部大動脈瘤のスクリーニングにより、
死亡リスクが66%(95%CI; 43から80%)有意に低下していました。

一方でオーストラリアにおいて、
65歳から83歳というより広い年齢層の男性に対して行われた、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの長期効果を検証結果では、
明確な生命予後の改善は確認されませんでした。

更に、
2018年のLancet誌に掲載されたスウェーデンの研究では、
65歳以上の男性で、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの対象となった25265名を、
年齢をマッチさせたコントロールと比較して、
スクリーニングの効果を検証しています。

スクリーニングは1回のみの腹部超音波検査を行なうもので、
その径が30ミリ以上を動脈瘤と診断しています。
診断された事例は専門施設で経過観察を行い、
概ね径が55ミリ以上で予防的手術の対象とされています。

6年の経過観察の結果、
スクリーニングによる死亡リスクの低下は24%と算出されましたが、
有意ではなく(95%CI: 0.38から1.51)、
これはスクリーニングを受けた1万人当たり、
2名の死亡を予防する効果と算出されます。
一方で過剰診断は同じ1万人当たり49人に認められ、
そのうちの19名はスクリーニングをしなければ、
有害な手術を回避出来たと推測されました。
スクリーニングによる死亡リスクの低下は、
スクリーニング未施行群との比較で検証したところ、
喫煙の有無の影響による可能性が高いと想定されました。

2014年にアメリカ予防医学作業部会(USPSTF)がまとめた、
腹部大動脈瘤スクリーニングのガイドラインでは、
60歳から75歳の年齢で喫煙歴のある男性において、
1回のみ超音波検査によるスクリーニングを行なうことを、
Bランクの推奨としています。

ただ、これを喫煙歴のない男性に拡大することは、
スクリーニングの利益が不利益を上回るかどうかが不確定として、
より低いCランクの推奨に留めています。

今回のUSPSTFの主導による研究では、
前回のガイドライン作成以降の、
主だった精度の高い臨床データをまとめて解析する手法で、
この問題の再検証を行っています。

50の臨床研究のトータル323279名の対象者のデータを、
まとめて解析した結果、
65歳以上の男性に、
1回のみの腹部超音波検査のスクリーニングを行うことにより、
12から15年の観察期間における腹部大動脈瘤の死亡リスクは、
35%(95%CI: 0.57から0.74)、
腹部大動脈瘤が破裂するリスクは、
38%(95%CI: 0.55から0.70)、
それぞれ有意に低下していました。
その一方で総死亡のリスクについては、
スクリーニングによる明確な低下は認められませんでした。

また、4つの臨床試験のトータル3314名のデータを解析した結果、
現状治療方針が明確でない、
最大径が3.0から5.4センチの動脈瘤に、
積極的な手術による治療を行っても、
総死亡リスクや大動脈瘤による死亡リスクには、
明確な差は認められませんでした。

このように、
今回の検証結果を見る限り、
現状の高齢男性に1回のみのスクリーニングを行い、
5.5センチ以上の動脈瘤には手術を検討するという方針は、
概ね妥当なものであるように思います。

一方でより大きさが小さな動脈瘤の治療方針や、
喫煙歴などを含めて、
よる有効な対象群の絞り込みをどうするか、
というような点については、
まだ定まった方針と言えるものはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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