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高濃度乳房へのMRI検査追加の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳腺のMRI検査.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
乳癌検診の考え方についての論文です。

乳癌検診において、
国際的にその有効性が認められているのは、
乳房を押しつぶすようにしてレントゲン撮影を施行する、
マンモグラフィ検査による検診のみです。

ただ、マンモグラフィは乳腺内に脂肪の少ない、
所謂「高濃度乳房」では、
病変が見つかりにくく、
癌があってもマンモグラフィ上は所見なしと判定されることが、
多いという点が問題として指摘されています。

つまり、高濃度乳房では、
マンモグラフィだけでは乳癌検診としては不十分なのです。

その点ははっきりしています。

しかし、それでは高濃度乳房と診断された場合には、
どのような検査を追加で行うべきなのでしょうか?

その点はまだコンセンサスが得られていません。

2016年にJ-STARTという日本の臨床研究が、
Lancet誌に発表されています。
ここでは高濃度乳房の対象者に対して、
マンモグラフィに加えて超音波検査を施行し、
一定の有効性が確認されています。

今回の研究は高濃度乳房の対象者に対して、
乳腺のMRI検査を追加で行うことの有効性を検証したものです。

オランダにおいて、
50から75歳でマンモグラフィは所見なしで、
かつ高濃度乳房と診断された40373名を、
クジ引きで1対4に分けると、
8061名は追加でMRI検査行うことを勧める案内を出し、
32312名は案内は出さずにマンモグラフィのみを行なって、
2年毎のマンモグラフィ検診を繰り返します。

その結果、
マンモグラフィ検診で所見なしと診断されてから、
次の検診までの期間に発見された癌は、
MRI推奨群では対象者1000人当たり2.5件であったのに対して、
マンモグラフィ単独群では5.0件で、
MRI検査の推奨は、
この検診の間に発見される癌を有意に低下させていました。

2年間で存在しなかった癌が急に出現することは、
実際には殆どありませんから、
これはマンモグラフィで見つからなかった癌を、
それだけ多くMRI検査により見つけることが出来た、
という結果を意味しています。

この試験ではMRI検査を推奨した8061名のうち、
59%に当たる4783名がMRI検査を実施し、
その結果9.5%に当たる454名が精密検査となり、
300名が生検を施行。
最終的に79名が乳癌と診断されました。

マンモグラフィで所見なしとされたグループから、
これだけの癌が見つかったのです。

ただ、このうちの大部分の72例は早期癌で、
70例はリンパ節転移もありませんでした。

このように、
超音波検査と同様、
MRI検査を高濃度乳房に適応すると、
マンモグラフィでは見落としてしまう乳癌を、
一定数発見する効果が確認されます。

ただ、その殆どはごく早期の乳癌で、
仮に見落としたとして、
そのうちのどの程度がその人の命に関わるような、
影響をもたらすかは今回の試験では確認出来ません。

また、MRIで異常があり生検が施行された300例中、
実際に癌であったのは26%程度で、
それ以外の多くの人は、
結果として検査をして不安を感じ、
振り回されただけに終わった、
という言い方も可能です。

ここにおいて超音波検査もMRI検査も、
高濃度乳房の追加検査として、
ほぼ同程度の有効性が確認されました。

今後はより長期の観察において、
被験者の生命予後や癌による死亡のリスクが、
改善するかどうかの検証が必要で、
それが明らかになって初めて、
高濃度乳房の女性における追加検査の方針が、
定まることになるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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