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高齢者の測定部位による体温の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢者の体温測定.jpg
1991年のAge and Aging誌に掲載された古い論文ですが、
測定部位による体温の違いを検証したものとして、
今も論文によく引用されている研究です。

体温計による体温測定というのは、
100年以上の歴史がありますが、
その測定法や正常値については、
あまり定まったものがありません。

通常測定されることが多いのは、
脇の下に体温計を挟んで測定する腋下測定ですが、
脇が汗で濡れていたりすると、
その水分により測定値は低くなってしまいます。

また、そもそもこれは皮膚の表面温の測定であり、
体調の指標として重要なのは、
内臓や脳の深部体温ですから、
測定の意義がそれほど高くない、
ということも言えます。
人間の身体は深部体温を維持するために、
皮膚の温度を上げたり下げたりしますから、
表面温は必ずしも深部体温を反映するとは限らないからです。

より深部体温に近いものとして測定されるのは、
口の中の舌下測定と、赤外線で測定する鼓膜温測定です。
これは女性やお子さんを主な対象として、
簡便な体温計が販売されています。
入院中の患者さんなどで測定されることがあるのは、
センサーを肛門から注入して測定される直腸温測定で、
これは現状最も深部体温に近いものとして評価されています。

それでは、
この4種類の測定法の間にはどのような関連があるのでしょうか?

実はあまり検証されたデータがありません。

表面温はかなり外気温の影響を受けますから、
気温を一定にする必要がありますし、
年齢によっても体温は変化する筈です。
しかし、そうした点を一定に調整したようなデータが、
これまでにあまり存在していなかったのです。

そこで今回の研究では、
熱性疾患以外で入院した70歳以上の高齢者50人に、
腋下、舌下、鼓膜、直腸の4種類の部位の体温測定を行い、
その結果を比較検証しています。
室温は21度から27度で一定しています。

その結果がこちらです。
部位ごとの体温測定の表.jpg
4カ所で測定した体温を表にしたものですが、
表面温である腋下測定は、
正常範囲(±2SD)として35.5度から37.0度に分布していて、
舌下測定は36.1度から37.2度と、
それよりやや高めの数値になり。
鼓膜測定は36.5度から37.1度と舌下とほぼ同じ範囲で、
直腸温は36.8度から37.6度と表面温で高いレベルで安定しています。

次にこちらをご覧ください。
部位ごとの体温測定の図.jpg
ちょっと薄くて見づらいのですが、
部位ごとの体温分布を図にしたものです。
これを見ると一番下の腋下測定は、
測定値はばらつきがとても大きく、
簡便な測定法としては、
上から2番目の鼓膜測定が、
安定して正規分布を示していることが分かります。

実際には外耳道が曲がっていたり、
耳垢が多いと正確に測定されないという欠点がありますが、
測定が安定して可能であれば、
鼓膜温の測定が最も信頼のおける、
簡便な体温測定法であると言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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