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乳製品と生命予後(2019年アメリカの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳製品と生命予後.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
乳製品の摂取量と生命予後との関係についての論文です。

乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、
世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、
乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、
16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、
心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

今回の研究はアメリカの医療従事者を対象とした、
3つの大規模な疫学データを、
まとめて解析することにより、
登録時に心血管疾患や癌のない168153名の女性と、
49602名の男性を、
30年余という長期間観察したものです。

その結果、
最も乳製品の量が少ない(平均して牛乳1日80ml程度)群と比較して、
1日平均280mlまでのグループでは、
乳製品の摂取量と総死亡のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。
ただ、最も乳製品の摂取量が多い(平均して牛乳1日420ml)群は、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.04から1.10)
有意に増加していました。
ただ、個別のリスクでみると、
心血管疾患による死亡リスクも、
癌による死亡リスクも、
有意な差はありませんでした。

ここで乳製品の種類を分けて検討すると、
生乳は最も死亡リスクが高く、
その摂取が50ml増えるにつれ、
総死亡のリスクが11%(95%CI: 1.09から1.14)、
心血管疾患による死亡リスクが9%(95%CI:1.03から1.15)、
癌による死亡リスクが11%(95%CI: 1.06から1.17)、
それぞれ有意に増加していました。

ここで乳製品をナッツや豆類、
全粒穀物に同カロリーで置き換えると、
死亡リスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉に置き換えると、
死亡リスクはより増加する結果になりました。

要するに、
乳製品を多く摂ることは、
僅かながら生命予後に悪影響を与えていて、
その影響は牛乳で1日500mlくらいで明確になります。
特に乳製品の中でもリスクが高いのは生乳で、
チーズやヨーグルトでは明確なリスクの増加は確認されません。
そして、脂質と蛋白源として、
生乳をナッツや豆類に置き換えるとリスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉は、
より悪影響を与える食品であることも確認されました。

大人になったら乳製品は、
なるべくヨーグルトやチーズを利用して、
牛乳の摂取は1日コップ1杯程度に留めることが、
健康面では妥当な考え方であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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