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夜の明かりと乳癌リスクとの関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2918年の乳がんと夜の明かり.jpg
2018年のBritish Journal of Cancer誌に掲載された、
夜寝ている時の明かりと乳癌リスクとの関連についての論文です。

乳癌は先進国で多い癌として知られています。
この事実はおそらく社会的要因や環境要因が、
乳癌の発症に大きく関連していることを示唆しています。

その環境要因の1つとして指摘されているのが、
夜間の照明による体内時計の乱れです。

1978年にLancet誌に掲載された論文(Cohen et al)によると、
睡眠リズムの乱れにより血液中のエストロゲン濃度が上昇し、
それが乳癌リスクの増加に結び付いていると指摘されています。
また、1987年のAmerican Journal of Epidemiology誌に掲載された論文(Stevens)によると、
最近の乳癌発症率の上昇は、
夜間の人工的な照明の普及で説明することが可能だ、
という結論になっています。
その理屈は周りが暗くなることによって上昇する、
メラトニンという体内時計の調整ホルモンが、
分泌不全になるためとも説明されています。

さて、それでは夜部屋の明かりを点けて寝ることや、
発達した都市などで不夜城と呼ばれるように、
家の外の暗闇がほとんどなくなったような環境が、
どの程度乳癌の発症リスクと関連しているのでしょうか?

その点については、
実際には実証的な研究が少なく、
疫学データの解釈も様々で、
必ずしも統一した見解が得られていません。

比較的最近のものでは以下のような論文もあります。

こちらです。
2014年の乳がんと夜の明かり.jpg
これは2014年のEpidemiology誌に掲載されたものですが、
アメリカの女性の教職員を対象としたもので、
夜間睡眠中の家の明かりと、
その地域の戸外の人工的照明の明かりの強さと、
その後の乳癌発症との関連を検証しています。

その結果、
屋内の明かりでは特に関連はなかった一方、
屋外の夜の明かりが強い地域では、
トータルで12%(95%CI: 1.00から1.26)、
閉経前の女性では34%(95%CI: 1.07から1.69)、
乳癌の発症リスクが増加していました。

今回の2018年の研究では、
イギリスにおいて105866名の乳癌の既往のない女性を対象として、
20歳の時と登録時の夜間の部屋の照明などの状態を聞き取りし、
平均で6.1年の経過観察を行っています。
登録時の年齢の平均は46.5歳です。

その結果、
トータルで見ても、乳癌のタイプ毎に検討しても、
夜の室内の明るさと乳癌の発症リスクとの間には、
明確な関連は認められませんでした。
更に20歳の時点で夜間に明るい部屋で起きていることは、
閉経前の乳癌発症リスクを、
26%(95%CI: 0.55から0.99)有意に低下させていました。

今回のデータでは意外なことに、
20歳くらいでは夜間に光を浴びていた方が、
言い換えれば夜更かしをしていた方が、
乳癌の予防につながるという、
これまでの常識とは反対の結果が得られています。

ただ、これはかなり条件を限定した上での結果で、
条件に当て嵌まる乳癌の発症ケースもごく少数なので、
これをもって夜更かしが乳癌を予防する、
というように言えるものではありません。

いずれにしても、
夜の明かりや都市の明るさや生活習慣と乳癌リスクとの関連は、
データによっても違いが大きく、
現時点で確実と言える知見はないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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