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ステロイド治療と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ステロイド治療と認知症リスク.jpg
2019年のJournal of Alzheimer's Diease誌に掲載された、
ステロイド治療が認知症の予防に繋がるかも…
という興味深い内容の論文です。

神経組織の炎症が、
アルツハイマー型認知症の発症において、
重要な役割を果たしているという知見は、
最近注目されている考え方の1つです。

仮に炎症がアルツハイマー型認知症の発症要因であるとすれば、
炎症を抑えるような治療により、
その発症が抑えられる可能性が浮上します。

今回その点で注目しているのがステロイドです。

ステロイド(糖質コルチコイド)は、
強力に炎症を抑え免疫を抑制する作用があり、
その性質から気管支喘息、膠原病、アレルギー性鼻炎、皮膚炎など、
多くの病気の治療薬として使用されています。

それでは、
このステロイド使用と、
その後の認知症の発症との間には、
何か関連が見られるのでしょうか?

今回の研究ではドイツの大規模な健康保険の医療データを活用して、
50歳以上の176485名がその後に認知症を発症するリスクと、
ステロイド治療の有無との関連を検証しています。

その結果、
ステロイド剤を使用していない場合と比較して、
ステロイド使用者では認知症の発症リスクが、
19%(95%CI: 0.78から0.84)有意に低下していました。

ステロイドの使用経路毎の解析では、
吸入ステロイドの使用者では、
認知症発症リスクは35%(95%CI: 0.57から0.75)、
点鼻ステロイド使用者では24%(95%CI: 0.66から0.87)、
経口ステロイド使用者では17%(95%CI: 0.78から0.88)、
それぞれ有意に低下していました。

今回の検証では、
介入試験のような厳密な方法ではありませんが、
かなり明確にステロイド使用者において、
認知症発症リスクの低下が認められました。

意外なことに、
用量的には経口や注射より遥かに少ない、
吸入や点鼻での使用において、
そのリスクの低下は大きくなっていました。

吸入ステロイドは主に喘息の治療に用いられ
点鼻ステロイドは花粉症やアレルギー性鼻炎の治療に用いられますから、
その適応疾患がこの結果に関連している可能性は否定出来ません。
ただ、嗅神経を介して、
より直接的に脳に作用したという可能性も否定は出来ません。

いずれにしても大変興味深い知見であることは間違いなく、
今後介入試験などを含めて、
より実証的な検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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