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セオドア・ロスコー「死の相続」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも代診となります。

土曜日は趣味の話題です。

今日はこちら。
死の相続.jpg
パルプ作家で日本では長く無名であった、
アメリカのセオドア・ロスコーの、
日本唯一の翻訳長編ミステリーです。

これはかなり前に買ったのですが、
長く積読としていました。
今回「屍人荘の殺人」を読み、
そう言えば…と思って読んでみたものです。

これはなかなか面白かったです。

1935年という本格ミステリーの黄金時代に発表されたものですが、
ハイチを舞台として、
農園を経営する資産家が奇怪な遺言状を残して変死し、
そこにアメリカ人の若いカップルが巻き込まれて、
24時間の血で血を洗う惨劇が展開されます。

そこに更に政府転覆を狙う暴動が起こり、
超自然的現象まで起こって、
事件は混沌とした様相を呈します。

この、とても解決しないように思える、
大風呂敷を広げ過ぎたように思える事件が、
ラストには見事に解決するのです。

そのさすがの手際には感心します。

複数の不可能犯罪と密室トリックが含まれていて、
そのトリック自体はやや他愛のないものなのですが、
事件の最も大きな真相と、
トリックが有機的に結び付いているというところに、
この作品の優れた点があります。

正直「屍人荘の殺人」の10倍くらい面白い作品でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ヘアカラーと縮毛矯正剤の乳癌リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
白髪染めと乳癌リスク.jpg
2019年のInternational Journal of Cancer誌に掲載された、
ヘアカラーなどの使用と乳癌リスクとの関連についての論文です。

アメリカにおいて、
乳癌は全ての女性に多い癌ですが、
特に黒人での増加が近年目立っています。

その原因は何でしょうか?

ヘアカラーや縮毛矯正剤は、
アメリカでは18歳以上の女性の3分の1が使用している、
という推計があるほど多く使用されていますが、
女性ホルモン系に影響を与えるものを含めて、
多くの発癌リスクに結び付く可能性のある、
多種の化学物質を含んでいます。
また、黒人が使用するタイプの製品は、
その作用が強力で有害性も高い可能性が指摘されています。

それでは、
ヘアカラーや縮毛矯正剤の使用と、
乳癌の発症リスクとの間には、
どのような関連があるのでしょうか?

今回の研究は、
別個の大規模臨床試験のデータを活用して、
登録時に35歳から74歳の46709名の女性を、
平均で8.3年観察し、
ヘアカラーや縮毛矯正剤の使用と、
その後の乳癌リスクとの関連を比較検証しています。

その結果、
ヘアカラーの使用は黒人では乳癌発症リスクを、
45%(95%CI1.10から1.90)有意に増加させていて、
白人では7%(95%CI: 0.99から1.16)増加する傾向を示していました。
また縮毛矯正剤も乳癌リスクを増加させる傾向を示しました。

今回のデータはまだ推測の域を出るものではありませんが、
黒人においてヘアカラーのリスクが非常に高い、
という今回の知見は興味深く、
今後の更なる検証を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ステロイド治療と認知症リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ステロイド治療と認知症リスク.jpg
2019年のJournal of Alzheimer's Diease誌に掲載された、
ステロイド治療が認知症の予防に繋がるかも…
という興味深い内容の論文です。

神経組織の炎症が、
アルツハイマー型認知症の発症において、
重要な役割を果たしているという知見は、
最近注目されている考え方の1つです。

仮に炎症がアルツハイマー型認知症の発症要因であるとすれば、
炎症を抑えるような治療により、
その発症が抑えられる可能性が浮上します。

今回その点で注目しているのがステロイドです。

ステロイド(糖質コルチコイド)は、
強力に炎症を抑え免疫を抑制する作用があり、
その性質から気管支喘息、膠原病、アレルギー性鼻炎、皮膚炎など、
多くの病気の治療薬として使用されています。

それでは、
このステロイド使用と、
その後の認知症の発症との間には、
何か関連が見られるのでしょうか?

今回の研究ではドイツの大規模な健康保険の医療データを活用して、
50歳以上の176485名がその後に認知症を発症するリスクと、
ステロイド治療の有無との関連を検証しています。

その結果、
ステロイド剤を使用していない場合と比較して、
ステロイド使用者では認知症の発症リスクが、
19%(95%CI: 0.78から0.84)有意に低下していました。

ステロイドの使用経路毎の解析では、
吸入ステロイドの使用者では、
認知症発症リスクは35%(95%CI: 0.57から0.75)、
点鼻ステロイド使用者では24%(95%CI: 0.66から0.87)、
経口ステロイド使用者では17%(95%CI: 0.78から0.88)、
それぞれ有意に低下していました。

今回の検証では、
介入試験のような厳密な方法ではありませんが、
かなり明確にステロイド使用者において、
認知症発症リスクの低下が認められました。

意外なことに、
用量的には経口や注射より遥かに少ない、
吸入や点鼻での使用において、
そのリスクの低下は大きくなっていました。

吸入ステロイドは主に喘息の治療に用いられ
点鼻ステロイドは花粉症やアレルギー性鼻炎の治療に用いられますから、
その適応疾患がこの結果に関連している可能性は否定出来ません。
ただ、嗅神経を介して、
より直接的に脳に作用したという可能性も否定は出来ません。

いずれにしても大変興味深い知見であることは間違いなく、
今後介入試験などを含めて、
より実証的な検証が行われることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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体温と死亡リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
体温と死亡リスク.jpg
2017年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
体温と死亡リスクについての論文です。

体温は高い方が良いのでしょうか、
それとも低い方が良いのでしょうか?

これはまだ解決されていない問題です。

この問題は体温が何を指すのかによっても違います。

人間の脳や内臓の中心部の温度は、
深部体温と言って、ほぼ人種で一定に保たれている、
という考え方があります。

その一方で通常測定されている体温の大部分は、
皮膚の表面の温度で、
これは外気温によっても大きく左右されますし、
人間は深部体温を一定に保つために、
表面温度を上下させるので、
それを測定して評価することは、
実際には非常に難しいのです。

今回の研究はアメリカの病因の大規模な医療データを活用して、
感染症の診断や抗菌剤の処方がされておらず、
体温が正常範囲の中にある35488名の体温(体表温)と、
病気のリスクや生命予後との関連を検証しています。

その結果、
体温の平均値は36.6度(95%CI: 35.7 から37.3)で、
年齢が10年上がるごとに0.021度ずつ低下しています。
人種差でみると白人種に比較して、
アフリカ系アメリカ人は0.052度有意に上昇していました。
甲状腺機能低下症では0.013度体温は低下していて、
癌では体温が0.02度上昇、
BMIが1上がる毎に体温は0.002度上昇していました。
脈拍や血圧も体温上昇と正の関連を示していました。

この人種差や病気、BMIや脈拍血圧などの計測値は、
体温の数値の個人差のうち、
8.2%しか説明することは出来ず、
説明困難な体温の個人差と、
最も関連を持っていたのは死亡リスクでした。
体温が1.49度上がると、
1年間の死亡リスクは8.4%有意に増加していました。

今回の大規模データにおいては、
原因は明確ではありませんが、
体温の基礎値と死亡リスクが関連を持っていました。

基本的に体温は年齢と共に低下しているので、
やや矛盾した要素があるようにも思いますが、
通常測定された体温が、
多くのリスクと関連を持っているという結果は大変興味深く、
今後より詳細な知見に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高齢者の測定部位による体温の差 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
高齢者の体温測定.jpg
1991年のAge and Aging誌に掲載された古い論文ですが、
測定部位による体温の違いを検証したものとして、
今も論文によく引用されている研究です。

体温計による体温測定というのは、
100年以上の歴史がありますが、
その測定法や正常値については、
あまり定まったものがありません。

通常測定されることが多いのは、
脇の下に体温計を挟んで測定する腋下測定ですが、
脇が汗で濡れていたりすると、
その水分により測定値は低くなってしまいます。

また、そもそもこれは皮膚の表面温の測定であり、
体調の指標として重要なのは、
内臓や脳の深部体温ですから、
測定の意義がそれほど高くない、
ということも言えます。
人間の身体は深部体温を維持するために、
皮膚の温度を上げたり下げたりしますから、
表面温は必ずしも深部体温を反映するとは限らないからです。

より深部体温に近いものとして測定されるのは、
口の中の舌下測定と、赤外線で測定する鼓膜温測定です。
これは女性やお子さんを主な対象として、
簡便な体温計が販売されています。
入院中の患者さんなどで測定されることがあるのは、
センサーを肛門から注入して測定される直腸温測定で、
これは現状最も深部体温に近いものとして評価されています。

それでは、
この4種類の測定法の間にはどのような関連があるのでしょうか?

実はあまり検証されたデータがありません。

表面温はかなり外気温の影響を受けますから、
気温を一定にする必要がありますし、
年齢によっても体温は変化する筈です。
しかし、そうした点を一定に調整したようなデータが、
これまでにあまり存在していなかったのです。

そこで今回の研究では、
熱性疾患以外で入院した70歳以上の高齢者50人に、
腋下、舌下、鼓膜、直腸の4種類の部位の体温測定を行い、
その結果を比較検証しています。
室温は21度から27度で一定しています。

その結果がこちらです。
部位ごとの体温測定の表.jpg
4カ所で測定した体温を表にしたものですが、
表面温である腋下測定は、
正常範囲(±2SD)として35.5度から37.0度に分布していて、
舌下測定は36.1度から37.2度と、
それよりやや高めの数値になり。
鼓膜測定は36.5度から37.1度と舌下とほぼ同じ範囲で、
直腸温は36.8度から37.6度と表面温で高いレベルで安定しています。

次にこちらをご覧ください。
部位ごとの体温測定の図.jpg
ちょっと薄くて見づらいのですが、
部位ごとの体温分布を図にしたものです。
これを見ると一番下の腋下測定は、
測定値はばらつきがとても大きく、
簡便な測定法としては、
上から2番目の鼓膜測定が、
安定して正規分布を示していることが分かります。

実際には外耳道が曲がっていたり、
耳垢が多いと正確に測定されないという欠点がありますが、
測定が安定して可能であれば、
鼓膜温の測定が最も信頼のおける、
簡便な体温測定法であると言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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腹部大動脈瘤スクリーニングの効果(2019年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
腹部大動脈瘤の予防効果.jpg
2019年のJAMA誌に掲載された、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの効果を検証した論文です。

2018年のLancet誌に掲載された、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの効果を検証した論文です。

腹部大動脈瘤は主に動脈硬化と高血圧に伴う、
お腹の太い動脈の「腫れ」で、
血管が破裂すればお腹の中に大出血を起こし、
命にかかわるような事態となります。

そのリスクは高齢の男性で高く、
大動脈瘤破裂の家族歴と喫煙もリスク因子となります。

この大動脈瘤のチェックは、
お腹の超音波検査によって、
比較的簡単に発見することが出来るので、
リスクの高い高齢男性に、
腹部大動脈瘤の検診を行うことにより、
大出血が未然に防がれて、
生命予後の改善に結び付くのでは、
という想定が可能です。

その立証のために、
これまで幾つかの介入試験が行われています。

このうち2009年に発表されたイギリスの臨床試験では、
65歳から74歳の男性に対して、
腹部大動脈瘤のスクリーニングを行い、
その効果を13年に渡って観察したところ、
死亡リスクが42%(95%CI; 31から51%)有意に低下しました。

また、同様に施行されたデンマークの臨床試験では、
65歳から73歳の男性を対象として、
14年間の観察期間において、
腹部大動脈瘤のスクリーニングにより、
死亡リスクが66%(95%CI; 43から80%)有意に低下していました。

一方でオーストラリアにおいて、
65歳から83歳というより広い年齢層の男性に対して行われた、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの長期効果を検証結果では、
明確な生命予後の改善は確認されませんでした。

更に、
2018年のLancet誌に掲載されたスウェーデンの研究では、
65歳以上の男性で、
腹部大動脈瘤のスクリーニングの対象となった25265名を、
年齢をマッチさせたコントロールと比較して、
スクリーニングの効果を検証しています。

スクリーニングは1回のみの腹部超音波検査を行なうもので、
その径が30ミリ以上を動脈瘤と診断しています。
診断された事例は専門施設で経過観察を行い、
概ね径が55ミリ以上で予防的手術の対象とされています。

6年の経過観察の結果、
スクリーニングによる死亡リスクの低下は24%と算出されましたが、
有意ではなく(95%CI: 0.38から1.51)、
これはスクリーニングを受けた1万人当たり、
2名の死亡を予防する効果と算出されます。
一方で過剰診断は同じ1万人当たり49人に認められ、
そのうちの19名はスクリーニングをしなければ、
有害な手術を回避出来たと推測されました。
スクリーニングによる死亡リスクの低下は、
スクリーニング未施行群との比較で検証したところ、
喫煙の有無の影響による可能性が高いと想定されました。

2014年にアメリカ予防医学作業部会(USPSTF)がまとめた、
腹部大動脈瘤スクリーニングのガイドラインでは、
60歳から75歳の年齢で喫煙歴のある男性において、
1回のみ超音波検査によるスクリーニングを行なうことを、
Bランクの推奨としています。

ただ、これを喫煙歴のない男性に拡大することは、
スクリーニングの利益が不利益を上回るかどうかが不確定として、
より低いCランクの推奨に留めています。

今回のUSPSTFの主導による研究では、
前回のガイドライン作成以降の、
主だった精度の高い臨床データをまとめて解析する手法で、
この問題の再検証を行っています。

50の臨床研究のトータル323279名の対象者のデータを、
まとめて解析した結果、
65歳以上の男性に、
1回のみの腹部超音波検査のスクリーニングを行うことにより、
12から15年の観察期間における腹部大動脈瘤の死亡リスクは、
35%(95%CI: 0.57から0.74)、
腹部大動脈瘤が破裂するリスクは、
38%(95%CI: 0.55から0.70)、
それぞれ有意に低下していました。
その一方で総死亡のリスクについては、
スクリーニングによる明確な低下は認められませんでした。

また、4つの臨床試験のトータル3314名のデータを解析した結果、
現状治療方針が明確でない、
最大径が3.0から5.4センチの動脈瘤に、
積極的な手術による治療を行っても、
総死亡リスクや大動脈瘤による死亡リスクには、
明確な差は認められませんでした。

このように、
今回の検証結果を見る限り、
現状の高齢男性に1回のみのスクリーニングを行い、
5.5センチ以上の動脈瘤には手術を検討するという方針は、
概ね妥当なものであるように思います。

一方でより大きさが小さな動脈瘤の治療方針や、
喫煙歴などを含めて、
よる有効な対象群の絞り込みをどうするか、
というような点については、
まだ定まった方針と言えるものはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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松尾スズキ「キレイ」(2019年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
キレイ.jpg
今回3回目の再演となる、
松尾スズキさんの「キレイ」を観て来ました。

これはねえ、
とてもとても大好きな作品で、
僕は「愛の罰」の初演以降は、
松尾さんの作品はほぼ全て観ていますが、
一番好きなのは「キレイ」で、
そこは動きません。

この作品には松尾さんの全てが凝集されています。
ヴォネガットを思わせるようなSFロマネスクと、
愛すべき畸形やメンヘラのキャラ達の造形、
地下室に封印された過去の少女の自分を探しに行くという、
陶然とするような誌的な表現、
そして全ての幻想を打ち砕くような、
冷徹なリアリズムと残酷さ。

その上に伊藤ヨタロウさんの楽曲が奇跡的に素晴らしく、
ラストが崩壊してしまう松尾さんの戯曲の中では、
着地も美しく決まっていました。
少女は地下室を出て、
空を仰ぐと宇宙の果てに馬鹿が花を咲かせています。

素晴らしい!

この作品にはまた因縁があって、
初演は実は1幕しか実際には観ていません。
幕間で電話が入り、
訪問していた患者さんが急変して、
そこに急行したのです。
最初の再演の時には、
2幕の途中で呼び出しが掛かり、
ジュッテンの目が開く場面で、
老人ホームに出動となりました。
後半はWowowの中継とDVDで補完しました。
ようやく2014年の再再演は最後まで観ることが出来ました。
そして今回、ということになります。

主人公のケガレ役は、
初演は奥菜恵さんで、
再演は酒井若菜さんの筈がドタキャンして鈴木蘭々さんになる、
という今考えてもガッカリの状況でした。
個人的な事情があったようで、
馬鹿にすんなよ、という感じです。
再再演は多部未華子さん、
実力派で期待したのですが、
歌はダメでちょっと期待外れでした。
そして今回は歌には定評のある生田絵梨花さんでした。

正直演技は今一つでしたね。
オープニングのテーマ曲は、
さすがにしっかり歌えていました。

歌で一番好きなのはテーマ曲と並んで、
1幕にあるマキシとカスミのデュエットですね。
これは名曲で素晴らしいですよね。
ただね、難曲なので歌が上手い人に歌って欲しいんですよね。
今回の近藤公園さんと鈴木杏さんのコンビは、
申し訳ないのですが一番ダメでした。

今回は松尾さんが役者として登場しません。

うーん。
やっぱり出て欲しいですよね。
滅多に帰ってこないお父さんは、
松尾さんがやらないと面白くありません。
また目を瞑ったままのお兄ちゃんは、
クドカンの初演以外は詰まらないですね。
誰かもっと違う人にやって欲しいな。
目が開くところ、
素晴らしい素敵な場面なのに、
あまり盛り上がらないのが残念です。

今回はね、
オーケストラピットに音楽家を入れて、
普通に正統的ミュージカルの仕立てでした。

それでも成立する作品であることは確かですが、
もっと音楽にも猥雑な感じ、
適当でおおざっぱで暴力的な感じが欲しいですよね。
初演はもっとミニマルなバンド演奏の感じで、
それが作品に合っていたんです。
その一方で今回の、
幕の終わりで仰々しく音楽が高鳴るような感じは、
この作品の世界観には少し合わないような、
何かよそ行きの印象は持ちました。

これはこれでいいんですけど、
本当に舞台面が「キレイ」になって、
音楽も「キレイ」になって、
役者さんもすっきりした感じの人ばかりになって、
キレイとケガレの両面という作品の世界観が、
初演と比べてかなり薄れた感じになったことは、
少し残念には感じました。

それでも、
過去に観た全てのお芝居の中でも、
間違いなく10本のうちには入れるな、
というくらい好きな作品なので、
また再演があれば観に行くと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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今村昌弘「魔眼の匣の殺人」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前中は中村医師が、
午後2時以降は石原が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
魔眼の匣.jpg
今村昌弘さんの新作ミステリー「魔眼の匣の殺人」を読みました。

ミステリ―は中学から高校の頃が、
一番のめり込んでいた感じで、
早川ミステリの絶版本を求めて、
神保町を何度も彷徨いました。

大学になって新本格と言われる、
外連味のある本格ミステリーが、
猿之助の復活歌舞伎のように復興し、
それが「金田一少年の事件簿」以降、
漫画の世界に広がることで、
その裾野は一気に拡大して今に至っています。

江戸川乱歩の「続幻影城」を読んで、
カーのミステリーの絶版を悲しみ、
早川ミステリ文庫の発刊にワクワクし、
雑誌の「幻影城」で泡坂妻夫さんの短編に驚き、
「匣の中の失楽」の連載を高校1年の孤独な春に、
読みふけったことも今では遠い思い出です。

さて、今村さんのデビュー作の「屍人荘の殺人」は、
2017年のミステリー界の話題をさらったヒット作で、
あるホラーなどにお馴染みの設定と、
クイーン流の犯人絞り込みのロジックの謎解きを、
組み合わせたミステリーです。
雰囲気は新本格などの館ものですが、
ミステリーのロジックとリアルでない設定を同居させた発想は、
アシモフのSFミステリーと同じです。
アシモフの「鋼鉄都市」では、
プログラム上人間を殺せない筈のロボットが、
人間を殺したとしか思えない状況が、
ミステリーとして設定されていたのですが、
それを別のテーマでミステリー化しているのです。

ただ、個人的にはあまり面白く感じませんでした。
もう脳が老化しているので、
犯人絞り込みのロジックの部分が、
ごちゃごちゃとして面倒にしか思えません。
また、超自然的な設定の方が、
館の中のチマチマした殺人より、
間違いなく大きいので、
大きな事件は解決しないのに、
チマチマした殺人のみ解決するというのでは、
本末転倒で安易であるように感じたのです。

今回はその続編ですが、
前作の設定は踏襲しつつ、
今度は「予言」をテーマにしています。

通常のミステリーでは、
予言というのは基本的にトリックなのですが、
今回はトリックとは思えない予言がバンバン出現し、
ははあ、要するにこれもミステリーと超自然のミックスなのね、
ということが分かります。

今回はラストに、
如何にもミステリー的な捻りがあるので、
前作よりミステリーとしての満足感が高いものになっています。
小さなトリックを積み上げる感じは、
クレイトン・ロースンみたいでしたね。

ただ、矢張り大枠にある謎は、
リアルにせよ超自然的にせよ解決はされないので、
モヤモヤする感じが残ることは同じです。

あと、昔流行った、
大きな木の棒が忽然と現れるという、
マジックネタを利用したトリックがあるのですが、
これはさすがにしょぼくてガッカリしました。
多分マジック好きでない方は、
本文を読まれてもなんのことか分からないと思うのですが、
実際にそうしたネタがあるのです。
ただ、これは出現であって消失の仕掛ではないので、
本文を読む限り成立しないと思いました。

こういうのは僕は嫌いです。

そんな訳で今回もあまり乗らなかったのですが、
一部は脳の老化のせいかなあ、と思うところもあるので、
久しぶりに本家のクイーンでも、
じっくり読んでみようかな、
などと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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虚血性脳梗塞後のコレステロール目標値について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脳卒中とコレステロール.jpg
2019年のths New England Journal of Medicine誌に掲載された、
脳梗塞後のコレステロールの目標値についての論文です。

心筋梗塞を起こした患者さんにおいては、
LDLコレステロールを70mg/dL未満とするような、
強力なコレステロール降下療法を継続することが、
その再発予防において有効であることが分かっています。

その一方で同じ心血管疾患であっても、
脳卒中については明確なコレステロール降下の目標値が、
定まっていません。

コレステロールを低下させることにより、
脳卒中を起こした患者さんにおいて、
その再発が予防されたという報告はありますが、
その一方で脳内出血や出血系梗塞においては、
むしろ患者さんの予後が悪化した、
というような報告もあるからです。

日本を含むアジア人種では、
出血系梗塞や脳内出血の頻度が多く、
人種間の差があるのではないか、
という考え方も根強くあります。

そこで今回の研究では、
フランスと韓国の2か国において、
虚血性梗塞を起こして3か月以内、
もしくは一過性脳虚血発作を発症して15日以内の、
2860名をクジ引きで2つの群に分けると、
一方はLDLコレステロールが90から110mg/dLを目指すという、
通常のコントロール目標を設定し、
もう一方は70mg/dL未満という、
より厳密なコントロール目標を設定して、
両者の予後を比較検証しています。

中間値で3.5年の経過観察において、
心血管疾患による死亡と、
虚血性梗塞、心筋梗塞、血流改善のカテーテル治療を併せたリスクは、
通常のコントロールと比較して強化コントロール群では、
22%(95%CI: 0.61から0.98)有意に低下していました。
脳内出血の発症率と新規に診断される糖尿病のリスクには、
両群で有意な違いはありませんでした。
これは強化治療群ではより高用量のスタチンを使用するので、
スタチンの有害事象である糖尿病が増加しないかどうかと、
コレステロールを強力に低下することにより、
出血リスクが増加するという過去データがあるので、
そのリスクについて検証しているのです。

この研究は実際には資金的な事情で早期に終了しているので、
結果もまた不充分なものではありますが、
虚血性梗塞や一過性脳虚血発作の発症早期であれば、
より強力なコレステロール低下療法にメリットがある、
という結果は大変興味深く、
今後更なる研究の積み重ねを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高濃度乳房へのMRI検査追加の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳腺のMRI検査.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
乳癌検診の考え方についての論文です。

乳癌検診において、
国際的にその有効性が認められているのは、
乳房を押しつぶすようにしてレントゲン撮影を施行する、
マンモグラフィ検査による検診のみです。

ただ、マンモグラフィは乳腺内に脂肪の少ない、
所謂「高濃度乳房」では、
病変が見つかりにくく、
癌があってもマンモグラフィ上は所見なしと判定されることが、
多いという点が問題として指摘されています。

つまり、高濃度乳房では、
マンモグラフィだけでは乳癌検診としては不十分なのです。

その点ははっきりしています。

しかし、それでは高濃度乳房と診断された場合には、
どのような検査を追加で行うべきなのでしょうか?

その点はまだコンセンサスが得られていません。

2016年にJ-STARTという日本の臨床研究が、
Lancet誌に発表されています。
ここでは高濃度乳房の対象者に対して、
マンモグラフィに加えて超音波検査を施行し、
一定の有効性が確認されています。

今回の研究は高濃度乳房の対象者に対して、
乳腺のMRI検査を追加で行うことの有効性を検証したものです。

オランダにおいて、
50から75歳でマンモグラフィは所見なしで、
かつ高濃度乳房と診断された40373名を、
クジ引きで1対4に分けると、
8061名は追加でMRI検査行うことを勧める案内を出し、
32312名は案内は出さずにマンモグラフィのみを行なって、
2年毎のマンモグラフィ検診を繰り返します。

その結果、
マンモグラフィ検診で所見なしと診断されてから、
次の検診までの期間に発見された癌は、
MRI推奨群では対象者1000人当たり2.5件であったのに対して、
マンモグラフィ単独群では5.0件で、
MRI検査の推奨は、
この検診の間に発見される癌を有意に低下させていました。

2年間で存在しなかった癌が急に出現することは、
実際には殆どありませんから、
これはマンモグラフィで見つからなかった癌を、
それだけ多くMRI検査により見つけることが出来た、
という結果を意味しています。

この試験ではMRI検査を推奨した8061名のうち、
59%に当たる4783名がMRI検査を実施し、
その結果9.5%に当たる454名が精密検査となり、
300名が生検を施行。
最終的に79名が乳癌と診断されました。

マンモグラフィで所見なしとされたグループから、
これだけの癌が見つかったのです。

ただ、このうちの大部分の72例は早期癌で、
70例はリンパ節転移もありませんでした。

このように、
超音波検査と同様、
MRI検査を高濃度乳房に適応すると、
マンモグラフィでは見落としてしまう乳癌を、
一定数発見する効果が確認されます。

ただ、その殆どはごく早期の乳癌で、
仮に見落としたとして、
そのうちのどの程度がその人の命に関わるような、
影響をもたらすかは今回の試験では確認出来ません。

また、MRIで異常があり生検が施行された300例中、
実際に癌であったのは26%程度で、
それ以外の多くの人は、
結果として検査をして不安を感じ、
振り回されただけに終わった、
という言い方も可能です。

ここにおいて超音波検査もMRI検査も、
高濃度乳房の追加検査として、
ほぼ同程度の有効性が確認されました。

今後はより長期の観察において、
被験者の生命予後や癌による死亡のリスクが、
改善するかどうかの検証が必要で、
それが明らかになって初めて、
高濃度乳房の女性における追加検査の方針が、
定まることになるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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