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「ドクター・ホフマンのサナトリウム」(ケラ新作) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドクター・ホフマンのサナトリウム.jpg
神奈川芸術劇場のプロデュース公演として、
ケラさんの新作が上演されています。

これはカフカが療養生活をして亡くなったオーストリア(多分)で、
カフカの未発表の最後の長編が記されたノートが発見され、
そのノートを巡るドタバタと、
その作品自体の物語が並行して描かれて、
現代の2人の男がカフカの時代に迷い込むことによって、
2つの時代が繋がります。

カフカ自身も登場し、
最後の長編の内容が自伝的なものでもあるので、
カフカの人生自体もそこに重ねあわされるという重層的な趣向です。

15分の休憩を挟んで3時間半と、
例によって長大なお芝居ですが、
今回はお話自体は基本的に分かり易くシンプルで、
幻想的で凝りに凝ったビジュアルと、
語り手的役割の渡辺いっけいさんと大倉孝二さんの、
軽快な掛け合いの魅力も相まって、
それほど時間を感じることなく楽しく観ることが出来ました。

振付の小野寺修二さんは、
僕はあまり好みではないのですが、
今回はオープニングなど、
かなり意識的に寺山修司の世界を再現していて、
懐かしくもありましたし、
その最新の舞台技術の粋を集めて、
現代の天井桟敷を再現した完成度の高さには、
素直に拍手を送りたい気分になりました。
寺山芝居のファンの方は必見です。

ただ、緊張感が濃密で純度の高いのは最初だけで、
次第に雰囲気はまったりした感じのものになります。
後半は同じことをやっていても、
明らかに緊張感はなく、
結局何がやりたかったのかしら、
とちょっと疑問に感じる点はありました。

また、意外にお話はあまりカフカ的ではありません。

たとえば、
この作品のカフカを、
チェーホフやトルストイに置き換えても、
そのまま成立してしまいそうな感じがあります。

以前ケラさんには「世田谷カフカ」という作品があり、
カフカの「失踪者」や「城」を素材にアレンジした、
カフカダイジェスト的なお芝居でしたが、
こちらの方がよりカフカ的なお芝居になっていました。

それが意図的なものだったのかどうかは分かりませんが、
ケラさんの作品の中でも今回はあまりシュールではなく、
重層的な構造の中に、
死と生の問題を深く読み解こうとするような、
真面目なお芝居になっていたように思います。

そんな訳で「カフカの発見されなかった長編」というには、
ちょっと方向性が違っていたかな、というようには思いますが、
ともかくその技術的な完成度は素晴らしく、
矢張りケラさんの今の舞台は、
現在日本の演劇作品の1つの頂点と言って、
過言ではないもののように思います。

個人的にはちょっと物足りない、
でも凄い芝居です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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