80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の治療効果 [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日はクリニックは、
午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
高齢者における潜在性甲状腺機能低下症の治療効果についての論文です。
甲状腺機能低下症は、
その名の通り甲状腺機能が低下した状態のことですが、
甲状腺ホルモンであるT4と、
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定して、
TSHが上昇しているもののT4が正常範囲に留まっている状態を、
潜在性甲状腺機能低下症と呼んでいます。
この潜在性甲状腺機能低下症に治療が必要かどうか、
という点には色々議論のあるところです。
多くの潜在性甲状腺機能低下症の患者さんには、
特に甲状腺機能低下による症状は見られませんが、
中には便秘や全身倦怠感、抑うつ気分などの症状が、
出るような患者さんもいます。
また、潜在性甲状腺機能低下症であっても、
心血管疾患のリスクが増加するという報告もあります。
こうした点からは、
一部の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんに対しては、
甲状腺ホルモンの補充療法が有益である、
という可能性が示唆されます。
ただ、それはどのような患者さんでしょうか?
これまでに妊娠中の女性においては、
流早産の予防などの目的のために、
潜在性甲状腺機能低下症を治療する意義が、
ほぼ実証されています。
ただ、それ以外の患者さんに対しては、
明確な結論が出ていません。
特に高齢者においては、
トータルに甲状腺機能低下症の患者さんは増える一方で、
軽度の機能低下症はむしろ生命予後に良い影響を与える、
というような報告もあるので、
よりその治療の可否については議論が大きいのです。
2017年にNew England…誌に掲載された論文では、
65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんに、
甲状腺ホルモン剤を使用した臨床試験の結果、
甲状腺ホルモンによる治療はそのQOLを改善する効果を、
確認出来ませんでした。
しかし、この臨床試験においては、
80歳を超えるような高齢者における治療効果については、
確認はされていませんでした。
そこで今回の研究においては、
オランダとスイスで行われた疫学研究、
および、オランダ、スイス、イギリス、アイルランドにおける疫学研究の、
2つの住民データから、
251名の80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の事例を抽出し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は甲状腺ホルモン製剤を使用して、
TSHがこの研究における基準値である、
0.4から4.6mIU/Lになるように治療を行い、
もう一方は偽薬を使用して同様の調整を形だけ行って、
1年の時点での甲状腺機能に関わるQOLを比較検証しています。
その結果、
甲状腺ホルモン治療は、
80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんにおける、
症状などのQOLを有意に改善しませんでした。
一方で治療による有害事象も、
両群で差はありませんでした。
今回の検証においても、
高齢者における潜在性甲状腺機能低下症の、
明確な治療効果は確認されませんでした。
ただ、事例によっては一定の有効性がある可能性も、
現時点では否定は出来ず、
心血管疾患リスクの軽減効果などについては、
今後も検証が必要ではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日はクリニックは、
午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
高齢者における潜在性甲状腺機能低下症の治療効果についての論文です。
甲状腺機能低下症は、
その名の通り甲状腺機能が低下した状態のことですが、
甲状腺ホルモンであるT4と、
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定して、
TSHが上昇しているもののT4が正常範囲に留まっている状態を、
潜在性甲状腺機能低下症と呼んでいます。
この潜在性甲状腺機能低下症に治療が必要かどうか、
という点には色々議論のあるところです。
多くの潜在性甲状腺機能低下症の患者さんには、
特に甲状腺機能低下による症状は見られませんが、
中には便秘や全身倦怠感、抑うつ気分などの症状が、
出るような患者さんもいます。
また、潜在性甲状腺機能低下症であっても、
心血管疾患のリスクが増加するという報告もあります。
こうした点からは、
一部の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんに対しては、
甲状腺ホルモンの補充療法が有益である、
という可能性が示唆されます。
ただ、それはどのような患者さんでしょうか?
これまでに妊娠中の女性においては、
流早産の予防などの目的のために、
潜在性甲状腺機能低下症を治療する意義が、
ほぼ実証されています。
ただ、それ以外の患者さんに対しては、
明確な結論が出ていません。
特に高齢者においては、
トータルに甲状腺機能低下症の患者さんは増える一方で、
軽度の機能低下症はむしろ生命予後に良い影響を与える、
というような報告もあるので、
よりその治療の可否については議論が大きいのです。
2017年にNew England…誌に掲載された論文では、
65歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんに、
甲状腺ホルモン剤を使用した臨床試験の結果、
甲状腺ホルモンによる治療はそのQOLを改善する効果を、
確認出来ませんでした。
しかし、この臨床試験においては、
80歳を超えるような高齢者における治療効果については、
確認はされていませんでした。
そこで今回の研究においては、
オランダとスイスで行われた疫学研究、
および、オランダ、スイス、イギリス、アイルランドにおける疫学研究の、
2つの住民データから、
251名の80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の事例を抽出し、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は甲状腺ホルモン製剤を使用して、
TSHがこの研究における基準値である、
0.4から4.6mIU/Lになるように治療を行い、
もう一方は偽薬を使用して同様の調整を形だけ行って、
1年の時点での甲状腺機能に関わるQOLを比較検証しています。
その結果、
甲状腺ホルモン治療は、
80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症の患者さんにおける、
症状などのQOLを有意に改善しませんでした。
一方で治療による有害事象も、
両群で差はありませんでした。
今回の検証においても、
高齢者における潜在性甲状腺機能低下症の、
明確な治療効果は確認されませんでした。
ただ、事例によっては一定の有効性がある可能性も、
現時点では否定は出来ず、
心血管疾患リスクの軽減効果などについては、
今後も検証が必要ではないかと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。