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新規骨粗鬆症治療薬オダナカチブは何故開発中止されたのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
保育園の健診などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オダナカチブ.jpg
2019年のLancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載された、
新規骨粗鬆症治療薬の臨床試験結果をまとめた論文です。

骨粗鬆症の治療薬は、
最近長足の進歩を遂げていますが、
癌のリスク上昇の可能性や、
非定型的骨折や顎骨壊死と言った有害事象、
長期の安全性が未確立と言った問題はあり、
安全で有効と太鼓判を押せるような薬はないのが実際です。

端的に言えば、
骨量の減少に結び付く骨吸収を、
強力に抑える薬はあるのですが、
健康な骨を増やす、
と言えるような薬はないのが実際なのです。

そのため、現在でも多くの薬が研究され、
開発される途上にあります。

今日ご紹介するオダナカチブ(odanacatib)も、
そうした新薬候補の1つです。

オダナカチブは、
カテプシンK阻害剤と呼ばれる薬です。

カテプシンKというのは、
骨を壊す働きを持つ破骨細胞で産生されている酵素で、
骨の構成成分の1つである1型コラーゲンを、
強力に分解するような作用を持っています。

要するに骨を溶かす酵素です。

この酵素を阻害することにより、
破骨細胞の骨を壊す働きが弱まり、
結果として事粗鬆症の進行が予防され、
骨の量が増加する、
と考えられます。
この仕組みはこれまでの骨粗鬆症治療薬とは異なり、
破骨細胞自体を攻撃するものではないので、
骨吸収は抑えても、
骨の健康な新陳代謝は妨害せず、
骨形成にも影響を与えないと想定されました。

もしそれが本当であれば、
これまでにない画期的な骨粗鬆症治療薬となる筈です。

初めてのカテプシンK阻害剤であるオダナカチブの開発は進められ、
臨床試験が開始されました。

ところが…

2016年にオダカカチブの臨床開発は中止されました。

行なわれていた第3相臨床試験において、
骨折予防効果と骨量増加の効果は認められたものの、
偽薬と比較して脳卒中の発症率が、
有意に増加していることがその理由とされました。

臨床試験自体はそのまま継続され、
その結果をまとめた論文が今日ご紹介するものです。

臨床試験は世界40か国の388の医療機関において、
閉経後5年以上を経過した65歳以上の女性で、
椎骨の骨折の既往があるか骨量が減少している16071名で、
対象者にも施行者にも分からないように、
くじ引きで2つのグループに分けると、
一方はオダナカチブを1週間に一度経口で50mg使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
延長期間を含め中間値で47.6か月の経過観察を行なっています。

その結果、
偽薬と比較してオダナカチブ投与群では、
椎骨の骨折のリスクが54%(95%CI: 0.40から0.53)、
椎骨以外の骨折のリスクも23%(95%CI: 0.68から0.87)、
大腿骨頸部骨折のリスクが47%(95%CI: 0.39から0.71)、
それぞれ有意に低下していました。

その一方で脳卒中のリスクは、
32%(95%CI:1.02から1.70)有意に増加していました。

何故オダナカチブで脳卒中が増加したのか、
そのメカニズムは不明ですが、
コラーゲンは血管においても重要な働きがあり、
それが影響した可能性は否定出来ません。

確かに骨折予防効果は認められていますが、
現行使用されている複数の薬剤を、
明確に凌駕しているというほどではなく、
有害事象が否定出来ないということであれば、
この薬の臨床使用が中止されたことは、
当然の結果であったようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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