SSブログ

急性心筋梗塞後のコルヒチン使用の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コルヒチンの急性心筋梗塞後の有効性.jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
痛風発作の古くからある治療薬を、
急性心筋梗塞後の予後改善に用いるという、
興味深い臨床試験の結果をまとめた論文です。

動脈硬化の発生と進行において、
組織障害から炎症性サイトカインなどで惹起される炎症が、
中心的な役割を果たしていることは間違いがありません。

そうであるならば、
動脈硬化の進行予防や心血管疾患の再発予防のために、
炎症を抑えるような治療が必要である筈です。

しかし、
実際にはスタチンや低用量アスピリンなど、
その主作用以外に抗炎症作用のある薬が、
治療に使用されていますが、
直接的に炎症を抑えることが主作用の薬剤が、
臨床に応用されている、
ということはありません。

炎症性サイトカインの代表である、
インターロイキン1βを阻害するカナキヌマブという薬剤を、
慢性の虚血性心疾患に使用した臨床試験の結果が、
2017年のNew England…誌に掲載されましたが、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞などを併せたリスクは、
15%有意に低下したものの、
重篤な感染症のリスクを増加させており、
心血管疾患によるリスクの低下も、
主に非致死性の心筋梗塞の低下のみで、
満足のゆく結果とはなりませんでした。

コルヒチンという薬があります。

主に痛風発作の初期段階の治療に使用されている薬剤ですが、
この薬は細胞内にある微小管に呼ばれる構造の、
機能を低下させるという特殊な作用を持ち、
白血球の活動も低下させて炎症を抑制する働きがあります。

つまり、抗炎症作用のある薬です。

そこで今回の研究では、
急性心筋梗塞を起こして30日以内の患者さん、
トータル4745名を患者さんにも主治医にも分からないように、
クジ引きで2つの群に分けると、
一方はコルヒチンを1日0.5mg使用継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で22.6か月の経過観察を行なっています。

その結果、
心血管疾患による死亡と心停止、心筋梗塞、脳卒中、
カテーテル治療を要する狭心症を併せたリスクは、
偽薬と比較してコルヒチン群では、
23%(95%CI; 0.61から0.96)有意に低下していました。

個別のリスクで見ると、
脳卒中のリスクが74%(95%CI: 0.10から0.70)、
カテーテル治療を要した狭心症が50%(95%CI: 0.31から0.81)と、
いずれも有意に低下していましたが、
それ以外のリスクは有意な低下はありませんでした。
コルヒチンの有害事象は主に下痢で、
感染症の発症については両群で有意差はありませんでした。

今回の検証では、
コルヒチンにより急性心筋梗塞後の、
急性期の狭心症や脳卒中のリスクが、
明確に低下していました。

これは通常のアスピリンやスタチンなどの薬剤は、
使用されている上での上乗せの効果ですから、
かなり画期的な効果と言って良いと思います。

ただ、この臨床試験においては、
1.9%の患者さんは最後まで経過を追えず、
19%の患者さんは途中で薬の使用を中断しています。
この高い中断率が結果に影響を与えた可能性は否定出来ません。

今後この知見は検証を重ねる必要がありますが、
古くからある安い薬に、
高価な新薬をしのぐ効果があるという結果は、
とても興味深いもので、
今後のデータの積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(3)  コメント(0)