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胃食道逆流症リスクと飲み物 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
逆流性食道炎と飲み物.jpg
2019年のClinical Gastroenterology and Hepatology誌に掲載された、
習慣的に飲んでいる飲み物と、
胃食道逆流症との関連についての論文です。

胃食道逆流症は、
胃の入り口の筋肉の緩みや胃酸過多、
肥満や円背などを原因として、
胃酸が食道に逆流し、
胸やけや吐き気などの原因となり、
悪化すると食道粘膜のびらんや出血などの変化を伴う病気です。

この病気の主な治療は、
胃酸の分泌を強く抑制する薬を、
継続的に使用することですが、
原因を治すというものではない上に、
主に使用されるプロトンポンプ阻害剤の、
長期使用に伴う多くのリスクが最近問題視されていて、
薬に頼らない治療の選択肢が求められています。

胃食道逆流症は生活習慣との関連が深く、
その中で議論になっていることの1つが、
常用している飲み物との関連です。

胃酸分泌を促進するような飲み物は、
胃食道逆流症のリスクを増加させる可能性があり、
その観点からはカフェインを含むコーヒーやお茶、
炭酸飲料などはその可能性が指摘されています。
しかし、これまでにあまり精度の高い研究結果は、
報告されていません。

そこで今回の研究では、
アメリカで看護師を対象とした大規模な疫学研究のデータを活用して、
この問題の検証を行なっています。

対象となっているのは、
登録時に胃食道逆流症の症状がなく、
癌の既往もなく、
胃酸抑制剤の使用もされていない、
看護師の女性48308名で、
長期の経過観察により、
そのうちの7961名が胃食道逆流症を発症していました。

常用している飲み物との関連を調べたところ、
その飲み物を全く飲まない場合と比較して、
1日6杯以上飲んでいる人では、
胃食道逆流症を発症するリスクが、
コーヒーで34%(95%CI: 1.13から1.59)、
紅茶で26%(95%: 1.03から1.55)、
炭酸飲料で29%(95%: 1.05から1.58)、
それぞれ有意に増加していました。
一方で牛乳、水、柑橘を含むジュースの摂取回数と、
胃食道逆流症の発症との間には、
明確な関連は認められませんでした。

通常カフェインが悪者のように想定されますが、
今回の検証ではコーヒーと炭酸飲料のリスクは、
カフェインの含有量ではあまり影響されず、
紅茶に至ってはカフェインを含まない方が、
むしろリスクが増加しているという、
解釈の困難な結果になっていました。
また、これまでの研究では柑橘系のジュースは、
胃食道逆流症のリスクを上げると考えられていましたが、
今回の結果ではそうした関係は認められませんでした。

飲み物による胃食道逆流症のリスクは、
喫煙やアルコールなどと比較すれば軽微で、
あまり重く考える必要はないと思いますが、
胸やけなどが生じやすい人では、
コーヒーや紅茶、炭酸飲料の多飲は避けた方が良く、
今回のデータでは1日そうした飲み物は、
3杯程度までにしておくのが、
無難な選択であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
前半でカフェインを誤ってニコチンと表記していました。
コメントでご指摘を受け修正しました。
(令和1年12月11日午後5時50分修正)
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ソフトドリンクと喘息リスク(2019年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ソフトドリンクと喘息リスク.jpg
2019年のBMJ Openに掲載された、
ソフトドリンクの摂取と喘息リスクとの関連についての論文です。

気管支喘息の発症や増悪には、
ストレスや大気汚染、花粉症など、
環境要因が大きな影響を与えることが知られています。

その中で最近時々指摘されることがあるのが、
ソフトドリンクの摂取習慣と喘息リスクとの関係です。

砂糖などの糖質を含むジュースなどの甘い飲み物が、
血糖値を上昇させて肥満の原因となり、
糖尿病や心血管疾患のリスクとなって、
生命予後にも悪い影響を与えることは、
これまでにも複数の疫学データで指摘をされていて、
そうした健康リスクを背景に、
イギリスでは砂糖税が導入されていることは、
これまでにも話題にしたことがあります。

ソフトドリンクの多飲による肥満は、
呼吸機能を低下させて喘息のリスクを高める可能性があり、
ソフトドリンクに含まれる糖質は、
炎症を惹起して、これも喘息の発症に、
結び付く可能性があります。

しかし、これまでの疫学データの内容は、
あまり精度の高いものではありませんでした。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析ですが、
トータルで468636名の対象者の、
5万例を超える喘息事例を検証したところ、
ソフトドリンクを殆ど飲まない人と比較して、
最も多く飲む人は、
大人で37%(95%CI: 1.23から1.52)、
子供でも14%(95%CI: 1.06から1.21)それそれ有意に増加していました。

このように今回の検証でも、
ソフトドリンクを多く飲むことは、
その後の喘息の発症と結びついていました。

ただ、精度の高い研究は実際には少なく、
この問題は今後より厳密な方法で、
検証される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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non-HDLコレステロールと心血管疾患リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
nonHDLコレステロールと心血管疾患リスク.jpg
2019年のLancet誌に掲載された、
non-HDLコレステロールという指標の、
心血管疾患予防に関する有効性を検証した論文です。

血液の脂質の測定値のうちで、
最も広く使用され、
動脈硬化のリスクとの関連が検証されているのは、
総コレステロール値と、
悪玉コレステロールと言われることのある、
LDLコレステロール値です。

総コレステロールやLDLコレステロールが高くなると、
心血管疾患、特に虚血性心疾患のリスクが上昇し、
スタチンによってその数値を低下させると、
そのリスクの低下に結び付くことは、
ほぼ実証された科学的事実です。

ただ、疫学データを元にして、
こうしたコレステロールの目標値を設定しても、
必ずしも予測された予防効果は認められない、
という問題があります。

総コレステロール値は、
LDLコレステロール以外に、
善玉と言われるHDLコレステロールや、
中性脂肪の影響を受けます。
特に中性脂肪は変動の非常に大きな数値なので、
純粋にリスクを反映していない、
という欠点があります。
LDLコレステロール値については、
その測定の精度や解釈に議論があり、
元々比重による便宜的な分類に過ぎない、
という問題があります。

ここで総コレステロールやLDLコレステロールに代わる指標として、
non-HDLコレステロールという数値を用いる、
という考え方があります。

non-HDLコレステロールというのは、
総コレステロールからHDLコレステロールを引き算したもので、
中性脂肪の影響を受けにくく、
LDLコレステロールが高いことと、
HDLコレステロールが低いことの両者を、
1つの数値で反映させているという利点があります。
また、その測定系に問題のあるLDLコレステロールの直接測定を用いないことで、
より安定性のある指標となり易い点もポイントです。

しかし、心血管疾患予防に対する長期の評価は、
どの程度のものなのでしょうか?

今回の研究では、
これまでの44の臨床データをまとめて解析することで、
non-HDLコレステロール値とその後30年という、
長期の心血管疾患発症リスクとの関連を検証しています。

その結果、
non-HDLコレステロールが100mg/dL未満では、
その後30年に心血管疾患を発症するリスクが、
女性で7.7%、男性で12.8%であったのに対して、
220mg/dL以上であると、
女性で33.7%、男性で43.6%に上昇していました。
このリスクの増加は75歳以上の年齢層でも同じように認められましたが、
この数値を低下させることによる予防効果は、
年齢が若いほどより大きくなっていました。

これはまだ、1つの推定に過ぎませんが、
もう少し精度の高いデータが積み重なれば、
LDLコレステロールに代わって、
non-HDLコレステロールがクローズアップされることに、
なるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「Q:A Night At The Kabuki」(NODA・MAP第23回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。
終わるといいな…

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
Q.jpg
野田秀樹さんの新作が、
今池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演されています。

これはクイーンの「オペラ座の夜」をモチーフにしたもので、
その楽曲がそのまま使われ、
内容は野田版の「ロミオとジュリエット」で、
年齢の違う2人のロミオとジュリエットを、
上川隆也さんと志尊淳さん、
松たか子さんと広瀬すずさんが演じるという豪華版です。

一体どんな舞台になるのかしら、
と思って出かけると、
いきなりお話は「俊寛」から始まり、
源平盛衰記のような設定のもとに、
ロミオとジュリエットの物語が、
ほぼ原典通りに展開されます。
後半は何故かシベリア抑留物語になります。

これはねえ、今一つという感じでしたね。

キャストは豪華ですし舞台面は美しく、
衣装も綺麗で布などを使った演出も、
さすがに洗練されています。

ただ、途中15分の休憩を入れて3時間というのは、
野田秀樹さんの作品としては如何にも長いですよね。
その長さの主な原因はクイーンの楽曲にあって、
クイーンの曲を基本的にそのまま流していて、
その部分はあまり何もしないんですよね。
従って、クイーンの曲の分上演時間が長くなってしまった感じ。

これじゃ、正直あまりやる意味がなかったのではないかしら。
むしろ、ミュージカル仕立てにして、
せっかく松たか子さんも出ているのですから、
歌い上げて欲しかったと思うのですが、
これは多分クイーン側の許可が下りなかったのかな、
とは推察します。

内容もね、ロミオとジュリエットが2人ずついる意味が、
あまりあるように思えませんでした。
オープニングを見ると、
中年のおじさんおばさんが、
思いの遂げられなかったかつての恋を再構成して、
自分達の手でハッピーエンドに改変したい、
という「君の名は」的なお話に思えるのですが、
ほぼ原典通りの展開になって、
過去改変の面白みは皆無な感じですし、
後半は今度は若い2人はあまり登場せず、
死んだことにされた大人の2人の恋の顛末、
という感じになるので、
中途半端に物語が分割されてしまった、
という感じしかないのです。

2つの鏡の表裏のような世界を往還したり、
過去と未来を相対化したり、
少女の自由な無謀さが世界をかき乱したりするのは、
これまでに何度も表現された野田さんの得意の世界ですが、
今回はどうもあまり冴えたところがなく、
ギャグや言葉遊びも面白いものがありませんし、
展開にハッとするようなところもありません。

キャストでは広瀬すずさんは、
なかなかフレッシュで動きが美しく、
声も綺麗で良かったと思います。
昔の宮沢りえさんにそっくりでした。
野田さんも多分意識して寄せている感じがしましたね。
松たか子さんは今最も脂の乗っている女優さんだと思いますが、
今回くらいの出番ではもったいないと思いました。
矢張りジュリエットを2人に分けたのが、
とても残念で失敗だったと思います。

そんな訳でとても豪華な紙芝居を見せられているような、
やや平板で平面的な舞台でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ドクター・スリープ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ドクタースリープ.jpg
スティーブン・キングが2013年に発表した、
「シャイニング」の続編が、
ユアン・マクレガーの主演で映画化され公開されています。

「シャイニング」は、
キングのホラー代表作の1つで、
そのキューブリック監督による映画化も、
大きな話題となりました。

僕自身もとてもワクワクしながら、
ロードショーに足を運びました。
ただ、その原作を大きく改変した映像は、
独特のムードはありましたし、
面白いところもあったのですが、
とても原作のファンを納得させるようなものではありませんでした。

特にラスト殺人鬼になったニコルソンが、
外で凍えてあっさり死んじゃうでしょ。
何のこっちゃ、という感じでしたよね。

今回はどんな感じになるのかしら、
予告編など見る限りでは、
何かもったいぶった分かりにくい映画になるのかなあ、
などと恐る恐る鑑賞したのですが、
実際にはちっとも怖いところはないけれど、
B級ホラーアクションという感じの、
なかなか面白く楽しい作品に仕上がっていました。

これね、
超能力者と悪の吸血鬼集団が、
バトルを繰り広げる話なんですよね。
それで「シャイニング」のお化け屋敷を、
主人公が武器として使うという、
かなり凝ったほら話です。
正確には吸血鬼ではなく、
人間の生気を吸い取るという存在ですが、
まあほぼ同じなので「吸血鬼」として以下も表記します。

雰囲気としては、
クローネンバーグの「スキャナーズ」や、
デ・パルマの「フューリー」みたいな感じ。
僕は両方とも大好きな映画なので、
今回はかなりツボでした。

タランティーノの「ワンスアポンアタイム・イン・ハリウッド」
にもちょっと似たセンスの映画なんですよね。
でも、両方比べたら、
僕は「ドクター・スリープ」の方がずっと好きです。

ユアン・マクレガーがね、
アル中のおじさん超能力者で、
超能力少女が仲間になって、
敵はヒッピーみたいな放浪吸血鬼集団で、
ボスがレベッカ・ファーガソンの美魔女なんですよね。

レベッカ・ファーガソンの女吸血鬼、
最高ですよね。
こういうのは、僕は大好物なので、
とてもとてもウキウキしました。

キング作品の怪物との対決というのは、
かなり間抜けなことが多いのですが、
今回はかなり良かった部類じゃないかしら。
案の定、結構弱弱しい怪物なのですが、
邪悪な感じはしますし、
ともかくレベッカ・ファーガソンが踏ん張っていたので、
なかなか盛り上がったと思います。

キューブリックの「シャイニング」が公開された時、
都築道夫さんが「原作のラストをちゃんとやっていない」
とかなりご立腹だったんですよね。
原作はラストにボイラー室が吹っ飛ぶんです。
今回それをリベンジみたいに映像化しているんですよね。
そんなところも好感が持てました。
キューブリックの映画もちょっと使っていて、
ほぼ同じ構図も幾つかあります。
ニコルソンのそっくりさんも使っていて、
それはちょっとご愛敬なのですが、
これは多分ニコルソンの許可が出なかったんでしょうね。
本当なら、CGで登場してもらいたいところです。

そんな訳で超能力対決映画が好きな方には、
とても楽しいのでお勧めです。

一方で純粋なホラーを期待している方や、
もっと格調の高い映画を期待されている方、
キューブリック版の「シャイニング」が好きな方は、
落胆されることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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乳製品と生命予後(2019年アメリカの大規模疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
乳製品と生命予後.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
乳製品の摂取量と生命予後との関係についての論文です。

乳製品の健康への影響という問題については、
これまでに相反するデータがあり、
まだ結論に至ってはいません。

乳製品は吸収の良いカルシウムが豊富で、
リンやビタミンDも含んでいるため、
骨粗鬆症の予防に良いとかつては言われていましたが、
最近の疫学データにおいては、
乳製品の摂取で骨粗鬆症のリスクが、
明確に低下するというような結果は得られていません。

一方で乳製品は動物性脂肪を主体とする食品ですから、
脂質代謝に悪影響を与える可能性があり、
その摂取によりコレステロールが増加した、
というようなデータもあります。
このため心血管疾患の予防という観点からは、
現行のガイドラインにおいて、
その摂取の一定の制限が推奨されています。

チーズやヨーグルトなどの乳製品由来の発酵食品は、
生乳とは異なって動脈硬化に悪影響を与えず、
認知症予防にも良い効果が期待できるのでは、
というような報告もあります。

2018年のLancet誌に掲載された、
世界5大陸で13万人以上を解析した大規模疫学データでは、
乳製品の摂取量が多い群では未摂取と比較して、
心血管疾患による死亡と心筋梗塞、脳卒中、心不全を併せたリスクが、
16%(95%CI: 0.75から0.94)有意に低下していました。
総死亡のリスクも17%(95%CI: 0.72から0.96)と有意に低下し、
心血管疾患による死亡のリスクは14%(95%CI:0.58から1.01)、
有意ではないものの低下する傾向を示しました。

今回の研究はアメリカの医療従事者を対象とした、
3つの大規模な疫学データを、
まとめて解析することにより、
登録時に心血管疾患や癌のない168153名の女性と、
49602名の男性を、
30年余という長期間観察したものです。

その結果、
最も乳製品の量が少ない(平均して牛乳1日80ml程度)群と比較して、
1日平均280mlまでのグループでは、
乳製品の摂取量と総死亡のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんでした。
ただ、最も乳製品の摂取量が多い(平均して牛乳1日420ml)群は、
最も少ない群と比較して、
総死亡のリスクが7%(95%CI: 1.04から1.10)
有意に増加していました。
ただ、個別のリスクでみると、
心血管疾患による死亡リスクも、
癌による死亡リスクも、
有意な差はありませんでした。

ここで乳製品の種類を分けて検討すると、
生乳は最も死亡リスクが高く、
その摂取が50ml増えるにつれ、
総死亡のリスクが11%(95%CI: 1.09から1.14)、
心血管疾患による死亡リスクが9%(95%CI:1.03から1.15)、
癌による死亡リスクが11%(95%CI: 1.06から1.17)、
それぞれ有意に増加していました。

ここで乳製品をナッツや豆類、
全粒穀物に同カロリーで置き換えると、
死亡リスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉に置き換えると、
死亡リスクはより増加する結果になりました。

要するに、
乳製品を多く摂ることは、
僅かながら生命予後に悪影響を与えていて、
その影響は牛乳で1日500mlくらいで明確になります。
特に乳製品の中でもリスクが高いのは生乳で、
チーズやヨーグルトでは明確なリスクの増加は確認されません。
そして、脂質と蛋白源として、
生乳をナッツや豆類に置き換えるとリスクは低下する一方、
赤身肉や加工肉は、
より悪影響を与える食品であることも確認されました。

大人になったら乳製品は、
なるべくヨーグルトやチーズを利用して、
牛乳の摂取は1日コップ1杯程度に留めることが、
健康面では妥当な考え方であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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抗凝固療法と骨折リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ワルファリンと骨折リスク.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
心房細動に対する抗凝固療法が、
骨に与える影響を薬剤毎に比較した論文です。

心房細動というのは、
生涯で5人から3人に1人は発症する言われるほど、
年齢と共に多く見られる不整脈です。

この不整脈が持続することによる一番の問題は、
心臓の中で血栓が出来やすくなり、
それによって起こる脳塞栓症などの塞栓症の発症です。

この脳塞栓症などの予防のために、
抗凝固剤と呼ばれる薬剤が使用されています。

経口抗凝固剤というのは、
血液が固まる仕組みの一部を抑えることによって、
脳塞栓症や肺血栓塞栓症などの、
血栓塞栓症を予防するために使用されている薬です。

歴史があり現在でも使用されているのがワルファリンで、
最近では直接作用型経口抗凝固剤として、
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンなど多くの薬剤が、
その利便性から広く臨床で使用されています。

こうした薬のリスクとして、
最も注意するべきなのは、
脳内出血などの出血系の合併症ですが、
それとは別個にワルファリンの有害事象として、
以前から指摘されることが多いのが、
骨粗鬆症とそれに伴う骨折リスクの増加です。

ワルファリンはビタミンKの作用を阻害しますが、
このビタミンKは凝固だけではなく、
骨の代謝においても重要な働きをしているので、
ワルファリンを使用継続することにより、
骨量は減少し骨折リスクが増加することが想定されます。

しかし、これまでの疫学データにおいては、
ワルファリンの使用で骨折リスクが増加した、
とする報告がある一方、
明確な増加はなかったという報告もあって一定していません。

直接作用型経口抗凝固剤はビタミンK非依存性なので、
理屈からはそうした骨折リスクとは無関係と思えます。

ただ、2019年に発表されたメタ解析の論文では、
ワルファリンと直接作用型経口抗凝固剤との比較において、
明確な骨折リスクが差がありませんでした。

そこで今回の研究では、
アメリカの健康保険の医療データを活用して、
トータル167275名の心房細動の患者さんを対象に、
平均で16.9か月の観察期間中の骨折の発症と、
新規の抗凝固剤の使用との関連を検証しています。

その結果、
ワルファリンの使用と比較して、
直接作用型経口抗凝固剤を使用した場合には、
入院を要する骨折のリスクが13%(95%CI: 0.79から0.96)、
全ての臨床的骨折のリスクが7%(95%CI: 0.88から0.98)、
それぞれ有意に低下していました。
ただ、大腿骨頸部骨折単独では、
有意なリスクの低下は認められませんでした。

個別の直接作用型経口抗凝固剤の比較では、
アピキサバンが最も骨折予防効果が高く、
ワルファリンの使用と比較して、
入院を要する骨折のリスクを40%(95%CI: 0.47から0.78)、
臨床的骨折のリスクを14%(95%CI: 0.75から0.98)、
大腿骨頸部骨折のリスクを33%(95%CI: 0.45から0.98)、
それぞれ有意に低下させていました。

このワルファリンと比較した場合の、
直接作用型経口抗凝固剤の有益な効果は、
骨粗鬆症と診断された患者においては、
より大きくなっていました。

このように、
今回の大規模な単独の疫学データにおいては、
直接作用型経口抗凝固剤、特にアピキサバンは、
ワルファリンと比較して骨折予防効果において優れることが、
ほぼ確認されています。

全ての患者さんにおいて、
ワルファリンがアピキサバンと比較して有益性が高い、
というようには言い切れませんが、
出血リスクについても、
アピキサバンの有益性を示すデータは複数あり、
少なくとも出血リスクも骨粗鬆症リスクの高い高齢者においては、
ワルファリンよりアピキサバンを選択することが、
妥当である可能性が高いとは言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第49回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
こちらをご覧下さい。
第49回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
12月21日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「体温と健康の最新知識」です。

体温というのは最も一般の方に馴染みのあるバイタルサインです。

多くの家には体温計があり、
多くの人が体温を測定しています。

クリニックなどの医療機関においても、
発熱は重要な重症度判定の指標となりますし、
一部の病気においては、
低体温が重症度の指標になります。

たとえばインフルエンザについては、
臨床的な診断は熱が38度以上あることが、
1つの条件であると記載されています。
ただ、実際にはインフルエンザ感染でも微熱程度のこともあり、
その一方で38度を超える発熱がなければ、
迅速診断を行う必要はなく、
インフルエンザを想定する必要はない、
と断言をされるような専門の先生もいます。

一体どちらが正しいのかしら、
と訳が分からなくなります。

体温というのは重要なバイタルサインではありますが、
測定法によってもかなり変動が大きく、
特に一般に使用されているような腋の下で測るような体温計では、
汗をかいて肌が湿っていると、
高熱なのに低温で測定される、
ということもしばしばあります。

こんないい加減な指標で、
臨床診断が行われていいのでしょうか?

どうもよく分かりません。

微熱が多くの体調不良の原因である、
というような本がありました。
その一方で低体温が全ての体調不良の原因である、
冷えこそ悪、というような本も売れていた記憶があります。

どっちが正しいのよ?

これもまるで分かりません。

このように不明の点が多く、
いい加減なことを吹聴する人が多い体温と健康の関係ですが、
今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
12月19日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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夜の明かりと乳癌リスクとの関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2918年の乳がんと夜の明かり.jpg
2018年のBritish Journal of Cancer誌に掲載された、
夜寝ている時の明かりと乳癌リスクとの関連についての論文です。

乳癌は先進国で多い癌として知られています。
この事実はおそらく社会的要因や環境要因が、
乳癌の発症に大きく関連していることを示唆しています。

その環境要因の1つとして指摘されているのが、
夜間の照明による体内時計の乱れです。

1978年にLancet誌に掲載された論文(Cohen et al)によると、
睡眠リズムの乱れにより血液中のエストロゲン濃度が上昇し、
それが乳癌リスクの増加に結び付いていると指摘されています。
また、1987年のAmerican Journal of Epidemiology誌に掲載された論文(Stevens)によると、
最近の乳癌発症率の上昇は、
夜間の人工的な照明の普及で説明することが可能だ、
という結論になっています。
その理屈は周りが暗くなることによって上昇する、
メラトニンという体内時計の調整ホルモンが、
分泌不全になるためとも説明されています。

さて、それでは夜部屋の明かりを点けて寝ることや、
発達した都市などで不夜城と呼ばれるように、
家の外の暗闇がほとんどなくなったような環境が、
どの程度乳癌の発症リスクと関連しているのでしょうか?

その点については、
実際には実証的な研究が少なく、
疫学データの解釈も様々で、
必ずしも統一した見解が得られていません。

比較的最近のものでは以下のような論文もあります。

こちらです。
2014年の乳がんと夜の明かり.jpg
これは2014年のEpidemiology誌に掲載されたものですが、
アメリカの女性の教職員を対象としたもので、
夜間睡眠中の家の明かりと、
その地域の戸外の人工的照明の明かりの強さと、
その後の乳癌発症との関連を検証しています。

その結果、
屋内の明かりでは特に関連はなかった一方、
屋外の夜の明かりが強い地域では、
トータルで12%(95%CI: 1.00から1.26)、
閉経前の女性では34%(95%CI: 1.07から1.69)、
乳癌の発症リスクが増加していました。

今回の2018年の研究では、
イギリスにおいて105866名の乳癌の既往のない女性を対象として、
20歳の時と登録時の夜間の部屋の照明などの状態を聞き取りし、
平均で6.1年の経過観察を行っています。
登録時の年齢の平均は46.5歳です。

その結果、
トータルで見ても、乳癌のタイプ毎に検討しても、
夜の室内の明るさと乳癌の発症リスクとの間には、
明確な関連は認められませんでした。
更に20歳の時点で夜間に明るい部屋で起きていることは、
閉経前の乳癌発症リスクを、
26%(95%CI: 0.55から0.99)有意に低下させていました。

今回のデータでは意外なことに、
20歳くらいでは夜間に光を浴びていた方が、
言い換えれば夜更かしをしていた方が、
乳癌の予防につながるという、
これまでの常識とは反対の結果が得られています。

ただ、これはかなり条件を限定した上での結果で、
条件に当て嵌まる乳癌の発症ケースもごく少数なので、
これをもって夜更かしが乳癌を予防する、
というように言えるものではありません。

いずれにしても、
夜の明かりや都市の明るさや生活習慣と乳癌リスクとの関連は、
データによっても違いが大きく、
現時点で確実と言える知見はないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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毎日体重を測るだけのダイエットの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
毎日1回体重を測ることの効果.jpg
2015年のJ Acad Nutr Diet誌に掲載された、
毎日体重を測定するだけのダイエットの、
効果を検証した論文です。

ダイエットには様々な方法が考案されていますが、
最も簡単かつシンプルで、
科学的にもその有効性が確認されているのは、
毎日体重を測定するという方法です。

これは体重を測って、
それに基づいて何かをする、
ということではありません。
単純に体重を決められた時間に測定し、
それを記録するというだけです。

しかし、それをするかしないかで、
間違いなくその後のダイエットに影響があるのです。

何故そうしたことが起こるのでしょうか?

それはおそらくは、
セルフモニタリングの効果だと想定されています。

体重を毎日測ることにより、
「自分は太っている」という自覚や、
「ああ、昨日食べ過ぎたので太ってしまった」という反省が、
「体重を減らすために努力しよう」という自覚や、
「今日は食事を減らそう」という目標に繋がり、
その積み重ねがダイエット効果をもたらすという想定です。

ただ、これは推測に過ぎず、
今回ご紹介する研究以前には、
あまりそのメカニズムを検証するようなデータは、
存在していなかったのが実際でした。

そこで今回の研究では、
ダイエットに関する臨床試験のデータを二次解析して、
アメリカでBMIが25以上の過体重の男女47名に、
6か月間毎日体重を測定するよう指示し、
毎日体重が測定出来た場合とそうでない場合で、
体重減少効果と体重減少に結び付くような生活改善に、
どのような違いがあったのかを比較検証しています。

その結果、
47名中51%に当たる24名は毎日の体重測定を欠かさず行っていましたが、
残りの23名は時々さぼっていました。(回数は週に5.4±1.2日)
ここで毎日測定した人とさぼった人を比較すると、
毎日測定した人の方が、
半年後の体重は6.1キロ(95%CI:-10.2から-2.1)
有意に低下していて、
体重減少に結び付く行動を37項目で調査すると、
毎日測定した人が17.6±7.6項目を実行していたのに対して、
さぼった人は11.2±6.4項目しか実施していませんでした。

具体的には、
間食や摂取カロリーを控えること、
外食の回数を減らすことなどの項目に、
明確な差が認められました。

このように、
毎日欠かさず体重を測定するという習慣は、
食事量の減少や間食の制限などの行動を介して、
体重減少効果をもたらしている可能性が高い、
という結果が得られました。

勿論、体重を測るだけでは不十分な部分もありますが、
最も簡便なダイエットとしては、
毎日欠かさず体重を測定することには、
科学的にも一定の有効性があるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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