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妊娠性肝内胆汁うっ滞症に対するウルソデオキシコール酸の有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ウルソの妊娠中使用.jpg
2019年のLancet誌に掲載された、
妊娠中に起こる肝臓の病気に対して、
経験的に使用されている薬の効果を、
厳密な方法の臨床試験で検証した論文です。

妊娠性肝内胆汁うっ滞症というのは、
妊娠の後期において、
胆汁が肝臓の中に溜まることによって、
血液中の胆汁酸が増加し、
それが早産や子宮内胎児死亡を引き起こすという病気です。
通常の肝機能の数値は比較的軽度の上昇に留まり、
皮膚のかゆみで気付かれることもあります。
血液の胆汁酸の測定が診断には不可欠ですが、
通常ルーチンで行う検査ではないので、
胎児の異常で初めて診断されることも多いという記載もあります。

この病気の治療のために、
国内外を問わず使用されているのが、
ウルソデオキシコール酸という、
胆汁の排泄促進や胆石溶解作用のある薬剤で、
人間の体内にも少量存在している胆汁酸の一種です。
副作用は少なく安全性の高い薬剤ですが、
その有効性についてはデータは少なく、
経験的に使用されている側面が多いのが実際です。
2012年に発表されたメタ解析の結果では、
胆汁酸の低下や皮膚のかゆみの改善については、
一定の効果が確認されましたが、
肝心の胎児の合併症や予後については、
明確な改善は確認されませんでした。

そこで今回の研究ではイギリスにおいて、
33カ所の専門病院で診断された妊娠性肝内胆汁うっ滞症の患者さん、
トータル605名をくじ引きで2つの群に分けると、
本人にも主治医にも分からないように、
一方はウルソデオキシコール酸を1日1000mg(日本の使用量は600mg)使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
お子さんの出生時まで継続してその効果を比較検証しています。

その結果、胎児死亡や早産、4時間以上の新生児集中治療室での治療、
を併せたリスクは、
ウルソデオキシコール酸使用群と偽薬群との間で、
有意な差は認められませんでした。

これをもってウルソデオキシコール酸によるこの病気の治療が、
有効性の全くないものとは言い切れませんが、
少なくとも全例に第一選択として使用している現状の治療指針は、
見直される必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーと心房細動リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コーヒーと心房細動リスク.jpg
2019年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
コーヒーの摂取と心房細動リスクについての論文です。

コーヒーを1日3から4杯程度まで飲むことが、
心血管疾患リスクを低下させ、
生命予後にも良い影響を与えることは、
これまでの多くの臨床データや疫学データにおいて、
ほぼ確定的な事実です。

ただ、個別の病気においては、
たとえば大動脈弁狭窄症がややコーヒー多飲で増加するなど、
コーヒーの悪影響を示唆する報告もあります。

心房細動は高齢者に多い不整脈で、
脳卒中や心不全の原因となることから、
その予防や治療に多くの研究が行われています。

高血圧や甲状腺機能亢進症、虚血性心疾患や心不全、
肥満や糖尿病などが心房細動のリスクとなることが知られていますが、
コーヒーなどのカフェインを含む飲み物も、
その心臓の刺激作用から、
心房細動のリスクになるのではない、
という指摘があります。

ただ、これまでの臨床データからは、
その関連を疑わせる報告がある一方、
無関係とする報告もあってその結果は一致していません。

今回の研究は、
アメリカの男性医師を対象とした、
大規模疫学研究のデータを活用したもので、
平均年齢66.1歳のトータル18960人を、
中間値で9年間観察した結果、
コーヒーを飲まない人と比較して、
1日1杯飲む人は15%(95%CI: 0.74から0.98)、
1日2から3杯飲む人は14%(0.76から0.97)、
それぞれ有意に新規の心房細動の発症リスクが低下していました。
1日4杯以上飲む人は、
コーヒー摂取量と心房細動リスクとの間に、
有意な関連は認められませんでした。

カフェインの摂取量と新規心房細動発症リスクとの間にも、
有意な関連は認めらませんでした。

コーヒーなどのカフェイン含有飲料が、
心疾患に無害とも言い切れませんが、
少なくとも1日コーヒー2から3杯程度までの摂取が、
心房細動のリスクになるという根拠は、
ほぼないと考えて大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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入浴が睡眠に与える効果について(2019年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
入浴の睡眠改善効果.jpg
2019年のSleep Medicine Reviewsに掲載された、
入浴やシャワーがその後の睡眠に与える影響についての論文です。

独立した臨床研究ではなく、
これまでのデータをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析による検討です。

寝る前にお風呂やシャワーを利用することが、
その後の眠りを改善するというのは、
ほぼ常識として捉えられている考え方です。

ただ、入浴が健康に良いという考え方は、
古代ギリシャのヒポクラテスの見解に既にあり、
16世紀のヨーロッパでは温泉が傷の治りを早くする、
というような考え方は見られますが、
寝る前の入浴がその後の睡眠に良い影響を与える、
という考え方自体は意外に新しく、
20世紀に入ってからのもののようです。

その後多くの臨床研究が発表され、
大部分は入浴が睡眠に与える影響を、
肯定的に捉えていますが、
個々の研究の条件はまちまちで、
個別の対象者数もそれほど多いものではないので、
現状入浴の睡眠への効果は、
確定的とは言えないのが実際です。

そこで今回の研究では、
これまで発表された報告のデータを、
まとめて解析する手法で、
この問題の現時点での評価を検証しています。

その結果、
湯温が40から42.5℃のお湯を利用した、
入浴やシャワー、足浴を、
睡眠の1から2時間前に10分以上行うことにより、
入眠までの時間が短縮し、
睡眠の質にも良い影響が見られることが確認されました。

暖かいお湯で適度に皮膚の表面を暖めることにより、
皮膚表面に近い部分の血流が増加し、
それに伴い深部の体温はむしろ低下します。
この深部体温の低下が睡眠を誘導するので、
スムースに睡眠に入りやすくなるというメカニズムが想定されています。

これ以上高い温度になると、
交感神経が緊張して深部体温も上昇するので、
睡眠には入りづらくなり、
これより低い温度では血流の移行や、
皮膚からの熱の発散がスムースに起こりません。

ただ、こうした知見はそれそれには、
少数の事例で検証されているだけなので、
入浴が睡眠に与える影響を科学的に実証するには、
より条件を一定にして例数を増やした検証が、
必須であると考えられました。

よく入浴による睡眠誘導の説明としては、
身体が一旦温められてそこから冷えるので、
その時に睡眠に入りやすいという説明がなされますが、
今回の論文に書かれていることはそうではなくて、
入浴は皮膚表面に血流を移動させることによって、
むしろ深部体温は低下させるので、
それが入眠の誘導に有効ということであるようです。

入浴にはその温度や時間や入浴法によっても、
様々な生理的変化の違いがあり、
睡眠への効果も決して一定のものではないようです。

ただ、一般の皆さんにとっては、
入浴により心地良く眠りに入れればそれで良いので、
こうした科学的検証は、
蘊蓄以上の意味はないものかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アガリスクエンターテイメント「発表せよ!大本営!」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アガリスク 大本営.jpg
シチュエーションコメディを一貫して上演し続け、
熱烈なファンも多いアガリスクエンターテイメントの新作公演が、
今下北沢の駅前劇場で上演されています。

作・演出の冨坂友さんは、
学校での君が代斉唱問題も、
ナチスドイツのユダヤ人問題も、
平気でシチュエーションコメディにしてしまい、
何らそこに特定の思想性を持ちこまない、
という離れ業を涼しい顔で行う新時代の劇作家です。

今回は日本が惨敗して、
その後の太平洋戦争の行く末を決定付けた、
ミッドウエイ海戦の結果を、
強引に改ざんして報道した、
悪名高い「大本営発表」の史実を、
これまた大胆にシチュエーションコメディ化しています。

一体どんなことになるのかしらと、
ちょっと危惧する思いもあったのですが、
実際に鑑賞してみると、
いつも以上に互いに反発する、
異なった意見をもつキャラクター達が、
「大本営発表」という1つのゴール(?)を目指して、
悪戦苦闘する姿が活き活きと描かれ、
人間の愚かしさと愛らしさと切なさとが、
いつも以上に感じられる作品に仕上がっていました。

まあ、大本営発表がゴールでいいのか、
というのはちょっとあるのですね。
三谷幸喜さんの「笑の大学」でも、
その辺はちょっと逃げてるでしょ。
最後に「戦争は良くないよ」という、
ステレオタイプなことを言うことで、
無難にまとめている、というようなところがありますね。
あの作品も、制約があるだけ、苦労があるだけ、
それをかいくぐろうと人間は燃える、
というところが肝にある訳で、
その背景はどうでもいいというのが、
「喜劇」としての立場だと思います。
笑えないものは喜劇としては余計なのです。
ただ、なかなかそこは徹底するのは難しいところだと思います。
冨坂さんはその辺りの割り切りが凄くて、
最初に前説で「戦争で日本が負けた、ということだけ覚えておいて下さい」と言い、
作品のオープニングで後の反省をチラと見せるだけで、
後は批評性や思想性を持ち込むことなく、
「大本営発表」を喜劇にすることだけを目指して、
徹底してその世界を遊んでいます。

批判的な意見もあるでしょうが、
個人的にはシンプルに凄いと思いました。

数年前と比べると役者さんのレベルが上がっていて、
安心してその世界に身を委ねることが出来るようになっています。
セットも巧みな配置に出来ていてセンスがありますし、
後半テンポを上げてクライマックスの大本営発表本番に向け、
グイグイ盛り上がる辺りは小劇場演劇の快感がありました。
役者さんは皆さん良かったのですが、
特に今回主役と言って良い活躍の津和野諒さんが、
抜群の力量と存在感で舞台をまとめていました。

以前は大倉孝二さんのコピーみたいな感じもあった、
津和野諒さんですが、
今回の熱演に関しては、
間違いなく今の大倉孝二さんを超えていました。

そんな訳で非常に見応えのあった本作ですが、
正直なところを言えば、
かなり窮屈な設定であったことは確かで、
もっと自由度の高い設定であった方が、
冨坂さんの劇作とこの劇団の楽しさは、
もっと開放されるのではないか、
というようにも感じました。

次回も期待を込めて待ちたいと思います。

頑張って下さい!

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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本谷有希子「静かに、ねえ、静かに」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
静かに、ねえ、静かに.jpg
本谷有希子さんが2018年に刊行した、
3つの短編からなる作品集を読みました。

これはつい先日この本の巻頭にある、
「本当の旅」という作品を元にした、
本谷さん自身の演出によるお芝居を、
鑑賞したので興味を持って読んでみたものです。

本谷さんは演劇の人という思いがありましたし、
食わず嫌いで小説は読んだことがなかったのですが、
この作品はとても面白くて一気に読んでしまいました。

以下少しネタバレしますので、
作品を読了後にお読み下さい。
面白いです。

これは3つの連作的な短編集なのですが、
いずれも比較的最近世間を賑わした、
「事件」を想定して、
そこに至るまでの当事者の心理を、
繊細かつやや扇情的に綴ったものです。

海外であまりに無防備な旅をした若者が、
被害に遭ってしまうお話と、
酔っ払って車の下で寝ていた家族を、
ひき殺してしまう話、
そしてファミレスで不潔な行為をわざわざして、
それを動画で拡散してしまうという話。

そのいずれもが、
テレビやネット、週刊誌で記事を見れば、
「なんでまあ、そんな馬鹿なことを」とか、
「ちょっと考えれば駄目だと分かりそうなものなのに」
と条件反射的に思ってしまうような、
DQNネタ的なものです。

それを心理的に丹念に分析し解きほぐして、
ひょっとしたら自分の人生にも、
こうした落とし穴が掘られているのかも知れない、
と思わせてしまうのが本谷さんの技巧の鮮やかさです。

特に「本当の旅」の、
他人の善意を信じる、という執着、
そして「でぶのハッピーバースデー」の、
自分は幸福になってはいけない、という執着は、
読了後に生々しく後を引きます。

こうして読むと傑作と言って良い「本当の旅」なのですが、
この間観た舞台版は、
何か無理に若者の気持ちを理解しようとして、
それを老人に対して、
「ほら、今の若者というのはこうした奴らですよ、馬鹿でしょ」
と媚びているようで、
ちょっと鼻持ちならない感じがしたのです。

小説は決してそんな感じはしないのに、
生の役者が演じる舞台というのは不思議だなあと、
見比べてそんなことを思いました。

こうしたところが、
芝居と小説の本質的な違いなのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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紫外線はどう浴びるのが健康に良いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビタミンDと紫外線リスク.jpg
2016年のInternational Journal of Dermatology誌に掲載された、
日焼けによる皮膚の害と、
その健康に良い作用であるビタミンD産生との、
バランスについて検証した論文です。

これは皆さんが素朴に疑問を感じることを、
科学的に検証したとても興味深い研究です。

今は真夏で紫外線が非常に強い時期です。

こうした時期にはなるべく紫外線を浴びない方が健康に良い、
というように言われます。
紫外線は皮膚癌の原因となり、
皮膚の免疫力を低下させ、
しみやそばかすの原因にもなります。

こうした観点から言えば、
紫外線など一切浴びない方が良く、
完全にUVカットをした方が良い、
ということになります。

その一方で骨粗鬆症の予防のためには、
なるべくお日様を浴びましょう、
というような健康指導もしばしば行われます。

これはどういう意味かと言うと、
骨の健康を維持するために必須のビタミンであるビタミンDは、
皮膚で紫外線を浴びることにより産生される、
という仕組みがあるからです。

従って、なるべくお日様を浴びた方が、
骨の健康のためには良いということになる訳です。

要するに、
お日様の紫外線は皮膚の健康には害になるけれど、
骨の健康のためには必要なのです。

じゃあ、一体どうすればいいのよ!

と誰でも疑問に思うところです。

この間とある健康番組を見ていたら、
肌の健康のためにはなるべく日焼けしないのがいい、
という話を専門家と称する方がしていて、
ゲストのタレントが、
「でも紫外線は骨のためにはいいんでしょ」
と当然の疑問をぶつけると、
「でも、皮膚のためには日焼けしない方がいいんです」
とあまり答えになっていない受け答えをしていました。

これは実際どう考えるべきなのでしょうか?

紫外線にはその波長によってA波、B波、C波、
という3種類があります。
このうち主に地上に降り注いでいるのは、
波長の長いA波と短いB波の2種類です。
B波の波長が280から315nm、
A波の波長は315から400nmとされています。

このうちA波は真皮にまで達してその深い部分の細胞に障害を与え、
それが皮膚癌のうち主に扁平上皮癌や基底上皮癌の原因となります。

一方でB波はより皮膚の表層に影響を与え、
強い刺激は所謂「日焼け」という火傷の原因となります。
過剰なB波はメラノーマという皮膚癌の原因となります。
そして、ビタミンDの産生は主にこのB波の働きによっています。

このB波は昼間の日差しが強い時には、
ほぼA波と同じくらい吸収されるのですが、
朝や夕のような紫外線の少ない時期には、
比率的にはかなり少なくなっている、
という特徴があります。

ここで主に文献的検証を行ったところ、
皮膚の癌化に結び付くダメージを最小限にして、
ビタミンDの産生を最も活発に行うためには、
正午くらいの日差しが強い時間に、
日焼けをしない程度にお日様を浴び、
それ以外の時間は極力UVカットするというのが、
最もバランス的に健康に良い紫外線の浴び方である、
という結論を上記文献では導き出しています。

面白いですよね。

普通に考えると昼間を避けて、
日差しの弱い時間に活動した方が、
紫外線の害は防げるように思うでしょ。

それが違うのです。
短時間でなるべくB波を主体に浴びて、
A波を浴びないことが最も良いので、
こうした理屈になるのです。
B波を浴びすぎると日焼けになるので、
皮が剥けるような日焼けは避けつつ、
昼間に日差しを浴びるのが正解なのです。

科学は時に常識を裏切るような結果を出すのが、
面白いところですね。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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どの血圧測定が最も有用なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧測定と生命予後.png
2019年のJAMA誌に掲載された、
血圧の測定法と生命予後や心血管疾患予後との関連を検証した、
国際共同研究の結果をまとめた論文です。

日本からは岩手県の大迫研究という、
住民データが活用されています。

血圧が高いことが、
動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高め、
不整脈や心機能、腎機能にも影響を与えることで、
その患者さんの生命予後にも大きな影響を与えることは、
これまでの多くの疫学データや実験的なデータから、
間違いなく実証された事実です。

ただ、血圧というのは他の血糖値などの検査値とは違って、
その測定法にはかなり大雑把な部分があり、
1日のうちでの変動も大きいので、
どの数値を指標にすれば良いのか、
という点についてはまだ定まった見解がありません。

通常クリニックでは手動の血圧計による測定を、
診察室で行っていますが、
大きな病院では診察前に、
自分で自動血圧計で測定し、
その結果を印字した紙を持って、
診察をする、というパターンが多くなっています。
自動血圧計による測定は、
不正確になることも多く、
特に下の血圧(拡張期血圧)はあまり当てになりませんが、
その一方で診察室で測定する血圧は、
患者さんが緊張することで高くなりやすい、
という欠点もあります。

最近では血圧の1日のうちでの変動を重要視する、
という考え方があり、
自動血圧計を患者さんに購入して頂いて、
それで毎日複数回測定した血圧を、
家庭血圧として診察室の血圧より、
重視するという診療も行われています。

また、1日を通して、決められた間隔で血圧を自動的に測定する、
ホルター血圧計による自由行動下血圧測定も、
昼夜の変動が大きいとそれだけ心血管疾患のリスクが増加したり、
早朝の血圧が急上昇する早朝高血圧のリスクなどの知見により、
注目されています。

ただ、現行のホルター血圧計というのは、
定期的に腕が締め上げられるという、
かなり患者さんにストレスの掛かる器具で、
これを全ての高血圧の患者さんに推奨するというのは、
それ自体かなり無理のある考え方です。

腕時計のようなウェアラブル端末で、
ストレスなく血圧を自動測定するような器具やアプリも、
確かに開発はされ販売もされていますが、
その精度については現行はまだ問題があり、
医療用としてお薦めはし難いのが実際です。

ここで1つ重要なことは、
高血圧の危険性とそれを治療で下げることの有用性の、
裏付けとなっているデータの多くは、
外来での診察室血圧をその指標にして取られている、
ということです。

最近の1つの流行としては、
決められた一定の方法により、
外来受診時に患者さんが自動血圧計で測定したデータを、
活用するという臨床試験も多く行われています。

従って、基本的には診察室で測定した血圧で、
高血圧を評価することの有用性は、
揺らがないものではあるのですが、
実際には非常に1日のうちでの変動が大きく、
診察室では正常血圧という人がいたり、
緊張のために診察室では高血圧になってしまうけれど、
家ではいつも正常血圧、という人もいるので、
何らかの形でそうした患者さんのリスクの評価を、
従来とは別個の方法でする必要があるのです。

それではどのような方法で血圧を測定することが、
そのリスクを最も的確に判断する方法なのでしょうか?

この問題を検証する目的で今回の世界規模の臨床研究では、
世界13地域の一般住民1135名を対象として、
通常の診察室血圧に加えて、
24時間の血圧測定を複数回施行し、
24時間の平均血圧や夜間血圧、血圧変動などの指標と、
中間値で13.8年という長期の経過観察により記録された、
生命予後および心血管疾患の発症リスクとの関連を、
比較検証しています。

その結果、
総死亡リスクおよび心血管疾患発症リスクとの関連が、
最も高かった血圧指標は、
24時間測定した血圧値とそのうちの夜間のみの血圧値で、
この数値が高いほど総死亡のリスクも心血管疾患の発症リスクも、
いずれも最も増加していました。
この場合の血圧値は、基本的には収縮期血圧が採用されています。
昼間と夜間の区分は国や地域によっても少し異なっています。

勿論診察室血圧を採用しても、
そうした相関自体はある訳ですが、
統計上はその代わりに夜間血圧や24時間血圧を用いた方が、
よりそのリスクを明確化し易い、
という結論になっています。

ただ、これをそのまま適応して、
全て人が24時間血圧や夜間の血圧測定を行うべきなのか、
ということになると、
現状はかなり疑問に感じます。

その手間が本当に意味のあるものであるのか、
ということの担保は、
まだ充分ではないという気がしますし、
仮に夜間血圧が昼間以上に重要であるとして、
それを治療のターゲットにすることが、
患者さんの予後により良い結果をもたらすとは、
まだ誰も言えないからです。

今後ウェアラブル端末による血圧値推定の精度が、
より高いものになれば、
そのデータを解析することで、
新たな健康指標が得られる可能性があると思いますが、
それは従来の血圧というものとは、
また別の指標となるような気がします。

血圧というのは人間の健康管理において、
公衆衛生的にも大きな意義のある指標であったことは、
間違いのない事実ですが、
その測定の曖昧さと測定値の不確かさとは、
科学の進歩した現在の医学の水準とは、
あまりマッチしていないもので、
私達が数値としての「血圧」を捨てる日は、
そう遠くはない、という気がします。

24時間血圧の変動率がどうたら、
収縮期と拡張期の数値の差がどうたらなどと、
物事を不必要に複雑化している専門家の方は、
血圧というものに拘り過ぎなのではないでしょうか?

すいません。

後半は大分個人的な意見が入りました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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金屋の石仏 [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日までクリニックは夏期の休診です。
明日15日はいつも通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日は昨日に続いて奈良の石仏を観て頂きます。

今日はこちら。
金屋の石仏.jpg
俗に「金屋の石仏」として知られている石仏で、
石仏として稀少で重要文化財の指定を受けています。

非常に高い技術で作られた、
線描に近い浅い浮き彫りの、
藝術性の高い石仏です。

石仏としては非常に有名なものの1つですが、
あまりご縁がなく、
今回初めて拝観しました。

場所は奈良の桜井市で、
山辺の道の途中大神神社のそばにあります。

もとは近くの平等寺というお寺にあり、
明治の廃仏毀釈で周辺の村人が守り伝えて現代に至る、
というところは判明していますが、
一体どのような目的で誰が彫り上げたのか、
といった点については明確なことが分かっていません。

石棺の蓋が利用されているようで、
こうした作例は長岳寺の石棺仏など、
他にも存在していますが、
その目的は矢張り不明です。

作られた年代についても、
奈良時代から鎌倉時代と、
極めて幅のある推測しかされていません。

こうした線描の絵画的な石仏というもの自体、
極めて作例が少ないので、
年代の推測も困難です。
大きなものは大野寺の磨崖仏や、
その元になった笠置寺の、
今は後背の形のみ残る磨崖仏などがありますが、
もっと大味で別種のものです。
唯一柳生街道地獄谷の石窟にある磨崖仏が、
かなり近い絵画的なフォルムの線描仏で、
おそらく同じ年代のものと考えると、
平安時代の後期というのが、
妥当なところかも知れません。

ただ、そのフォルムの風格は、
天平仏や当時の絵画に近い雰囲気があり。
奈良時代と言われても否定はしがたいものがあります。

石仏は2駆あり、
右側のものが釈迦如来、
左が阿弥陀如来と言われています。

お顔の部分をもう少し拡大してみましょう。
こちらから。
金屋の石仏釈迦如来.jpg
こちらはお釈迦様で、
お顔の細かい部分まで見て取ることが出来ます。
ただ、下の方はかなりカビが覆っていて、
衣紋など判別し難くなっています。

それでは次を。
金屋の石仏阿弥陀仏.jpg
こちらは阿弥陀様ですが、
お顔は殆ど判別が出来ない状態に摩耗しています。
ただ、お身体のカビはむしろお釈迦様により被害は少ない印象です。

この石仏は小さなお堂の中にあって、
格子を通して拝観するという格好になっています。

採光は良く、格子の大きさも結構大きいので、
それほどストレスを感じることなく拝観することが出来ます。

ただ、以前拝観した方のお話などを見ると、
摩耗は最近になってより進行しているようで、
異常気象の昨今を考えると、
そろそろ室内で換気なども配慮された場所にお移り頂くのが、
望ましいようにも思いました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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夕日観音再訪(2019年8月定点観測) [仏像]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは明日14日まで休診です。
15日木曜日は通常通りの診療になります。
ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

毎年のことで妻と一緒に奈良に行って、
今帰って来たところです。

今日は奈良を訪れる度に一度はお参りをしている、
最も偏愛する石の仏様を観て頂きます。

こちらです。
夕日観音遠景2019.jpg
柳生街道の滝坂道の街道沿いの岩に刻まれた、
通称「夕日観音」と呼ばれている磨崖仏のお姿です。

平安後期から鎌倉前期のものと思われます。

石仏の場合正確な年代判定というのは、
非常に困難ですが、
室町時代の前期くらいまでのものと、
それ以降特に戦国時代以降のものでは、
全く意味合いは変わっていて、
戦国時代以降は石仏の工房のようなものがあり、
亡くなった武士の供養の側面もあったのでしょう、
同じフォルムのお地蔵様や観音様などが量産され、
一種の大量生産品として流通するようになります。

作品としては安定する一方で、
藝術性はかなり後退していますし、
その仏様に対する思いというようなものも、
あまり強いものではなくなっている、という気がします。

ご覧頂いたこちらは、
正真正銘の古仏の風格のあるものです。

もう1枚近景のお姿を観て頂きます。
こちらです。
夕日観音近景2019.jpg

素晴らしいでしょ。

今回誰かは存じませんが、
表面を丁寧に洗ってくれた方がいたようで、
遠方からでも金色に近く仏様のお姿が輝いていました。

とても奇特なことです。

ただ、この岩自体はいつ崩落してもおかしくはないもので、
実際この場所の少し下で、
昨年の大雨で土砂崩れが発生していました。

最近の異常気象の影響は恐るべきもので、
柳生街道の始まりの場所にある2駆の石灯籠のうちの1つも、
災害後には崩れ落ちてしまっていました。

この夕日観音と同じ岩の別の側面にある、
こちらも素晴らしいフォルムの地蔵磨崖仏のお姿は、
今回はもう立木に紛れて、
完全に見えなくなっていました。

このようにとても儚く、
消滅していつかは無に帰す宿命であるからこそ、
何よりも美しく心に迫るのが、
石仏の魅力なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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シベリア少女鉄道「ココニイルアンドレスポンス」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

昨日からクリニックは夏季の休診中です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
シベリア少女鉄道.jpg
孤高の劇団シベリア少女鉄道が、
先日まで新宿THERTER BRATSで新作公演を上演しました。

この劇団の公演はネタバレ厳禁なので、
いつも公演が終わってから感想を書いています。

今回のキャストは手練れの4人で、
まず1人ずつ出てきて、
見えない相手に対して語り掛けるような、
1人芝居の小芝居をして見せます。

それが一通り終わってから、
今度はその4人が地下の喫茶店で一同に会するのですが、
そこに次々と見えない登場人物が出現して増えてゆき、
登場人物は20人を超えてしまいます。

おまけにその見えない人物の設定が、
「こう見えたが実はこうだった」というような反転があり、
見えている4人についても、実は…というような設定が連発するので、
いつものように世界は混乱しつつ膨張して、
観客の感覚と知能を全開にするクライマックスに至るのです。

今回もいつもの、
「演劇のお約束事を逆手に取る」というスタイルのもので、
見えない相手とお芝居をする、
というのは1人芝居などの演技の定番ですが、
それを逆手に取って、
見えない人物を作り出せるという演劇の異常さを、
存分に活用してスペクタクルに仕上げています。

いつもながらの鮮やかな手際です。

特に最近は昔とは格段に役者さんの演技レベルが向上しているので、
とても安定感がありますし、
作者のたくらみを十全に感じることが出来ます。
以前の作品では、
「多分こうしたことがやりたいんだろうな。でもこの演技レベルじゃなあ…」
というようなことも多かったのですが、
今回はそうしたストレスなく、
作者の企みと観客の理解が一致しているのです。

これでなくちゃね。

ただ、1つだけ最近のシベリア少女鉄道の不満を言えば、
以前はもっと虚無的なラストというか、
観客の甘い幻想に冷や水を掛ける、
というような感じがあったのですが、
最近の作品はやや楽観的な「オチ」としてラストがあるだけで、
虚無の感じはほとんどなくなっているという点です。
たとえば、今回の作品なら、
ラストで見えていた4人が消えてしまって、
見えない人の声だけが延々と聞こえていたりとか、
そんなラストでもいいでしょ。
昔はそうした方が普通だったんですよね。
でも、そうしたことを最近はやらなくなりましたね。
だから、昔はカーテンコールがないのが、
自然という感じがしたのですが、
今は普通のお芝居のようなオチになるので、
カーテンコールがないのが、
逆に不自然な感じがしてしまうよね。

おそらく、作者の土屋さんの心の中が、
以前よりはずっと安定し平穏になっているのが、
その原因ではないかと思われますが、
それが土屋さんにとって良いことであるのは百も承知の上で、
もう少し虚無的で不穏なお芝居も観たいなあ、
という我儘を言いたいのが、
ひねくれた1ファンの今の偽らざる思いでもあるのです。

それからもう1つ今回の不満としては、
あの劇場の前の方の席はひどいなあ。
せまくてきつくて、指定席であれはないのじゃないかしら。
再考をお願いしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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