夏の日の本谷有希子「本当の旅」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日から8月14日まではクリニックは夏季の休診です。
8月15日は通常の診療になります。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
今や芥川賞作家の本谷有希子さんが、
3年ぶりに演劇の舞台に帰って来ました。
前回は飴屋法水さんとのコラボで、
飴屋さんの作品という色が濃いものでしたが、
今回は本谷さんの短編小説を演劇化したもので、
本谷さんは演出に当たり、
11人の小劇場演技派役者陣が、
それぞれの個性で舞台を飾っています。
1時間20分くらいのお芝居で、
ほぼほぼ原作の短編小説がそのまま舞台に再現されます。
小空間で随所に工夫が凝らされた楽しいお芝居でした。
ただ、正直この作品に関して言えば、
原作の小説の方が、
舞台版よりはるかに面白いと思いました。
でもね、
基本的に本谷有希子さんの作る舞台は大好きなので、
また是非続けて頂けることを期待したいと思います。
以下少しネタバレを含む感想です。
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。
内容はSNSで結び付いた、
子供のごとく生きている中年に差し掛かった3人の男女が、
マレーシアの安旅に出掛けて怖い目に遭う、
というお話です。
友達の投稿を通してしか、
生のリアルを感じることが出来ず、
嫌な感情はすべて消去してないものとしているうちに、
自分が本当に何を考えているのかも、
喪失してしまうという心理がリアルに描かれていて、
自分が死の危機に直面していることは理解していても、
生物としてそれに抗うという本能すら失い、
ヘラヘラ笑いながら死を迎えるのです。
これがまあ、原作の小説です。
今回の舞台版はストーリーはそのままに、
帽子や眼鏡をイコンとして活用して、
複数のキャストが同じ3人を連鎖的に演じる、
という趣向になっています。
こうした仕掛けによって、
個々の役柄は記号になる訳です。
なんか、野田秀樹みたいな演出ですね。
それ以外にSNSの投稿を壁面に映したりもしています。
ただ、SNSの動画や投稿を舞台に映すようなお芝居は、
最近多いと思うのですが、
あまり成功したという印象はありません。
何か、舞台面がごちゃごちゃして、
見づらくなるだけですよね。
今回は特に壁面が茶色いので、
あまりクリアに画像は投影されず、
それで余計に中途半端な印象がありました。
原作は3人の主人公の1人である、
ハネケンという人物の視点から全編が綴られていて、
その背景なども語られて効果を上げています。
一方で今回の舞台は台詞としては原作から採られた、
ハネケン目線のものが多いのですが、
作品的には3人の主人公の複数目線になっているので、
そのバランスがやや悪い、という感じがありました。
原作のシンプルさが、
複数キャストのごちゃごちゃした動きによって、
失われてしまっている、という感じがありましたし、
ハネケンの独白が小説の台詞であって、
決して舞台の台詞にはなっていないのに、
それをそのまま語らせているので、
聞いていて違和感がありました。
本谷有希子さんは演劇がそのスタートですから、
当然こうした小説と演劇の差異については、
プロ中のプロである筈ですが、
今回のお芝居に関しては、
せっかく原作の小説が完成度の高い、
読者に訴える力の強いものなのに、
それをわざわざ下手くそに劇化して、
失敗しているように思えてなりません。
原作のラストは死の間際に自撮りをして、
フラッシュが焚かれた瞬間に終わるという、
それ自体映像的で鮮やかなものですが、
舞台はそこはうやむやにして、
最後に全員でスピッツの曲を合唱するというものになっていて、
これも失敗であるように感じました。
また、タイアップとして会場でアジア風のカツサンドを売っていて、
それが劇中にも登場するのですが、
原作の屋台料理はもともとあまり美味しくない、
という設定なので、
ここでタイアップする商品を出すのは如何なものかしらと、
どうでも良いことながら、
その点にもぎくしゃくしたものを感じました。
総じて面白いし意欲的なのですが、
原作の良さを却って減じてしまったようなところがあり、
あまりすっきりした出来栄えにはなっていませんでした。
それでも、最初に書きましたように、
僕は本谷さんの演劇が大好きなので、
今後もとてもとても期待して、
次の機会を待ちたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日から8月14日まではクリニックは夏季の休診です。
8月15日は通常の診療になります。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
今や芥川賞作家の本谷有希子さんが、
3年ぶりに演劇の舞台に帰って来ました。
前回は飴屋法水さんとのコラボで、
飴屋さんの作品という色が濃いものでしたが、
今回は本谷さんの短編小説を演劇化したもので、
本谷さんは演出に当たり、
11人の小劇場演技派役者陣が、
それぞれの個性で舞台を飾っています。
1時間20分くらいのお芝居で、
ほぼほぼ原作の短編小説がそのまま舞台に再現されます。
小空間で随所に工夫が凝らされた楽しいお芝居でした。
ただ、正直この作品に関して言えば、
原作の小説の方が、
舞台版よりはるかに面白いと思いました。
でもね、
基本的に本谷有希子さんの作る舞台は大好きなので、
また是非続けて頂けることを期待したいと思います。
以下少しネタバレを含む感想です。
鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。
内容はSNSで結び付いた、
子供のごとく生きている中年に差し掛かった3人の男女が、
マレーシアの安旅に出掛けて怖い目に遭う、
というお話です。
友達の投稿を通してしか、
生のリアルを感じることが出来ず、
嫌な感情はすべて消去してないものとしているうちに、
自分が本当に何を考えているのかも、
喪失してしまうという心理がリアルに描かれていて、
自分が死の危機に直面していることは理解していても、
生物としてそれに抗うという本能すら失い、
ヘラヘラ笑いながら死を迎えるのです。
これがまあ、原作の小説です。
今回の舞台版はストーリーはそのままに、
帽子や眼鏡をイコンとして活用して、
複数のキャストが同じ3人を連鎖的に演じる、
という趣向になっています。
こうした仕掛けによって、
個々の役柄は記号になる訳です。
なんか、野田秀樹みたいな演出ですね。
それ以外にSNSの投稿を壁面に映したりもしています。
ただ、SNSの動画や投稿を舞台に映すようなお芝居は、
最近多いと思うのですが、
あまり成功したという印象はありません。
何か、舞台面がごちゃごちゃして、
見づらくなるだけですよね。
今回は特に壁面が茶色いので、
あまりクリアに画像は投影されず、
それで余計に中途半端な印象がありました。
原作は3人の主人公の1人である、
ハネケンという人物の視点から全編が綴られていて、
その背景なども語られて効果を上げています。
一方で今回の舞台は台詞としては原作から採られた、
ハネケン目線のものが多いのですが、
作品的には3人の主人公の複数目線になっているので、
そのバランスがやや悪い、という感じがありました。
原作のシンプルさが、
複数キャストのごちゃごちゃした動きによって、
失われてしまっている、という感じがありましたし、
ハネケンの独白が小説の台詞であって、
決して舞台の台詞にはなっていないのに、
それをそのまま語らせているので、
聞いていて違和感がありました。
本谷有希子さんは演劇がそのスタートですから、
当然こうした小説と演劇の差異については、
プロ中のプロである筈ですが、
今回のお芝居に関しては、
せっかく原作の小説が完成度の高い、
読者に訴える力の強いものなのに、
それをわざわざ下手くそに劇化して、
失敗しているように思えてなりません。
原作のラストは死の間際に自撮りをして、
フラッシュが焚かれた瞬間に終わるという、
それ自体映像的で鮮やかなものですが、
舞台はそこはうやむやにして、
最後に全員でスピッツの曲を合唱するというものになっていて、
これも失敗であるように感じました。
また、タイアップとして会場でアジア風のカツサンドを売っていて、
それが劇中にも登場するのですが、
原作の屋台料理はもともとあまり美味しくない、
という設定なので、
ここでタイアップする商品を出すのは如何なものかしらと、
どうでも良いことながら、
その点にもぎくしゃくしたものを感じました。
総じて面白いし意欲的なのですが、
原作の良さを却って減じてしまったようなところがあり、
あまりすっきりした出来栄えにはなっていませんでした。
それでも、最初に書きましたように、
僕は本谷さんの演劇が大好きなので、
今後もとてもとても期待して、
次の機会を待ちたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。