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夏の日の本谷有希子「本当の旅」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日から8月14日まではクリニックは夏季の休診です。
8月15日は通常の診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
夏の日の本谷有希子.jpg
今や芥川賞作家の本谷有希子さんが、
3年ぶりに演劇の舞台に帰って来ました。

前回は飴屋法水さんとのコラボで、
飴屋さんの作品という色が濃いものでしたが、
今回は本谷さんの短編小説を演劇化したもので、
本谷さんは演出に当たり、
11人の小劇場演技派役者陣が、
それぞれの個性で舞台を飾っています。

1時間20分くらいのお芝居で、
ほぼほぼ原作の短編小説がそのまま舞台に再現されます。
小空間で随所に工夫が凝らされた楽しいお芝居でした。
ただ、正直この作品に関して言えば、
原作の小説の方が、
舞台版よりはるかに面白いと思いました。

でもね、
基本的に本谷有希子さんの作る舞台は大好きなので、
また是非続けて頂けることを期待したいと思います。

以下少しネタバレを含む感想です。

鑑賞予定の方は鑑賞後にお読みください。

内容はSNSで結び付いた、
子供のごとく生きている中年に差し掛かった3人の男女が、
マレーシアの安旅に出掛けて怖い目に遭う、
というお話です。

友達の投稿を通してしか、
生のリアルを感じることが出来ず、
嫌な感情はすべて消去してないものとしているうちに、
自分が本当に何を考えているのかも、
喪失してしまうという心理がリアルに描かれていて、
自分が死の危機に直面していることは理解していても、
生物としてそれに抗うという本能すら失い、
ヘラヘラ笑いながら死を迎えるのです。

これがまあ、原作の小説です。

今回の舞台版はストーリーはそのままに、
帽子や眼鏡をイコンとして活用して、
複数のキャストが同じ3人を連鎖的に演じる、
という趣向になっています。
こうした仕掛けによって、
個々の役柄は記号になる訳です。

なんか、野田秀樹みたいな演出ですね。

それ以外にSNSの投稿を壁面に映したりもしています。

ただ、SNSの動画や投稿を舞台に映すようなお芝居は、
最近多いと思うのですが、
あまり成功したという印象はありません。

何か、舞台面がごちゃごちゃして、
見づらくなるだけですよね。

今回は特に壁面が茶色いので、
あまりクリアに画像は投影されず、
それで余計に中途半端な印象がありました。

原作は3人の主人公の1人である、
ハネケンという人物の視点から全編が綴られていて、
その背景なども語られて効果を上げています。
一方で今回の舞台は台詞としては原作から採られた、
ハネケン目線のものが多いのですが、
作品的には3人の主人公の複数目線になっているので、
そのバランスがやや悪い、という感じがありました。

原作のシンプルさが、
複数キャストのごちゃごちゃした動きによって、
失われてしまっている、という感じがありましたし、
ハネケンの独白が小説の台詞であって、
決して舞台の台詞にはなっていないのに、
それをそのまま語らせているので、
聞いていて違和感がありました。

本谷有希子さんは演劇がそのスタートですから、
当然こうした小説と演劇の差異については、
プロ中のプロである筈ですが、
今回のお芝居に関しては、
せっかく原作の小説が完成度の高い、
読者に訴える力の強いものなのに、
それをわざわざ下手くそに劇化して、
失敗しているように思えてなりません。

原作のラストは死の間際に自撮りをして、
フラッシュが焚かれた瞬間に終わるという、
それ自体映像的で鮮やかなものですが、
舞台はそこはうやむやにして、
最後に全員でスピッツの曲を合唱するというものになっていて、
これも失敗であるように感じました。

また、タイアップとして会場でアジア風のカツサンドを売っていて、
それが劇中にも登場するのですが、
原作の屋台料理はもともとあまり美味しくない、
という設定なので、
ここでタイアップする商品を出すのは如何なものかしらと、
どうでも良いことながら、
その点にもぎくしゃくしたものを感じました。

総じて面白いし意欲的なのですが、
原作の良さを却って減じてしまったようなところがあり、
あまりすっきりした出来栄えにはなっていませんでした。

それでも、最初に書きましたように、
僕は本谷さんの演劇が大好きなので、
今後もとてもとても期待して、
次の機会を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ダイナー」(2019年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ダイナー .jpg
平山夢明さんの同題の小説を、
蜷川実花さんが監督した映画が、
今公開されています。

これも評判はかなり悪いし、
蜷川実花さんの映画は、
あまり好きでもないので、
それほど見たかったという訳ではないのですが、
空いている時間に嵌まる映画がこれしかなかったので、
朝の時間に観て来ました。

思っていたほどは悪くありませんでした。

これは殺し屋がいっぱい出てきて、
互いに殺し合いをするという映画で、
鈴木清順監督が「殺しの烙印」をリメイクした、
「ピストルオペラ」みたいな感じです。
要するにイメージ先行でトータルには意味不明で、
ただ、独特のムードと美意識、
そしてディテールを楽しむ種類の作品です。

それに加えて今回の作品には裏設定があって、
監督の父親でもある、
亡くなった演出家の蜷川幸雄さんが、
劇中でも亡くなった殺し屋のボスとして、
遺影のような姿で出演しています。

映画では蜷川幸雄の薫陶を受けた役者さんが多数出演し、
極めつけは「身毒丸」のオーディションで世に出た、
蜷川組生え抜きの藤原竜也さんが、
後半で「俺はボス(蜷川幸雄さんのこと)に見いだされて育てられた」
というようなセリフを言います。

これは言ってみれば、
娘の蜷川実花さんによる、
父親追悼の映画なのです。

劇中では結構残念な登場を含めて、
多くの俳優さんが登場していますが、
マザコンで破滅キャラの窪田正孝さんが良く、
彼の登場場面は見ごたえがあります。
一方で後半のボスの跡目争いは、
かなりグズグズの感じとなり、
盛り上がりに欠けたのは残念ではありました。

アクションが意味不明でしょぼかったり、
狂言回し的な玉城ティナさんの設定が弱かったり、
セットが意外に安っぽかったりと、
悪口を言えばキリがないのですが、
鈴木清順監督のイマイチレベルの作品と同じと割り切って観れば、
そう悪くないというのが個人的な感想でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脂肪細胞と終末糖化産物受容体との関係について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
脂肪細胞と終末糖化産物.jpg
2019年のCell Reports誌に掲載された、
終末糖化産物と脂肪細胞との関連についての興味深い報告です。

終末糖化産物(AGEs)というのは、
蛋白質が糖化反応により糖と結合して生じる物質で、
一種の変性した蛋白質です。

糖尿病では血糖値が増加することにより、
この終末糖化産物が増加します。
血糖コントロールの指標として測定されるHbA1cというのは、
血液のヘモグロビンが糖化した物質の割合のことです。
この終末糖化産物は細胞の老化や炎症の発生に大きな影響を与え、
糖尿病の血管合併症の原因であるとも考えられています。

また、喫煙は終末糖化産物を増やしますし、
動物性の脂肪を加熱すると終末糖化産物が増えるので、
高脂肪食やお菓子、加工食品などによっても、
体内で増加します。

このように多くの病気と関連する終末糖化産物ですが、
肥満との関連については、
これまでそれほど明確なことが分かっていませんでした。

血液中で終末糖化産物が増えると、
その結合する受容体も増加します。
その受容体の1つであるRAGEという蛋白質は、
脂肪細胞において多く発現しています。

今回主にネズミの脂肪細胞を使用した実験で明らかになったことは、
脂肪細胞で増えたRAGEに終末糖化産物が結合すると、
それが細胞内の代謝を調節して、
脂肪の燃焼を強力に阻害します。

つまり、終末糖化産物はRAGEを介することによって、
脂肪細胞を「燃焼出来ない状態」に変える働きがあるのです。

今回の研究において、
このRAGEの遺伝子を働かなくしたネズミを作成したところ、
そのネズミは高脂肪食で飼育しても、
肥満になりませんでした。

つまり、
肥満で血液中の終末糖化産物が増加した状態では、
脂肪を燃焼する働きがないので、
脂肪はどんどんたまる一方になって、
これが肥満の患者さんがやせることが難しい、
大きな要因であると想定されます。

仮にこれが事実であるとすれば、
RAGEの阻害剤を開発することにより、
脂肪の燃焼を正常に戻し、
肥満の患者さんを無理なくダイエットする、
というようなことが可能になるかも知れません。

最近新しい知見の多いこの分野ですが、
次のブレイクスルーや画期的な新薬は、
この辺りから生まれる可能性が高そうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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加工肉の摂取と慢性閉塞性肺疾患(COPD)リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COPDと加工肉.jpg
2019年のE Clinical Medicine誌に掲載された、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)と、
加工肉の摂取量との関連についての論文です。

COPDというのは、
以前の肺気腫と慢性気管支炎を併せたような概念で、
主に喫煙によって起こる進行性の肺の変化のことです。
ただ、喫煙以外を原因とするものも、
一部含まれてはいます。

COPDの最大のリスクは勿論喫煙です。

ただ、喫煙者の5割以上は、
喫煙を続けていてもCOPDが進行していないので、
喫煙以外にも、
COPDを進行させるリスクは存在している筈です。

生活習慣的に考えると、
喫煙者が○○の習慣を持っていると、
よりCOPDが進みやすい、
という相加的な効果が想定されるのです。

そうしたリスクの中で、
上記文献の著者らによって、
これまでにも報告されているリスクが、
ソーセージやサラミなどの加工肉の摂取です。

加工肉は動脈硬化性疾患などとの関連も多く指摘されています。

何故加工肉が通常の赤身肉より健康上のリスクが高いのか、
という点については、
明確に実証されたメカニズムがある訳ではありませんが、
発色剤などとして使用されている亜硝酸塩などの窒素化合物が、
胃や小腸で吸収される際にアミノ酸と結合し、
炎症を惹起したり発癌作用のある、
有害なN‐ニトロ化合物に変化するためではないか、
という仮説が有力とされています。

さて、今回の研究では、
Nurses’s Health Studyという、
アメリカの有名な看護師を対象とした大規模疫学データを活用して、
中年女性が加工肉を多く摂ることが、
その後のCOPDの発症にどのように影響するかを検証しています。

加工肉はベーコンが13グラム(2枚)、
ホットドッグが45グラム(1本)、
サラミやソーセージは28グラム(1本)が、
1サービング(1人前)として計算されています。

87032名の中年女性(登録時の年齢の中間値36.8歳)を、
長期間観察した結果として、
加工肉を1人前以上食べている人は、
食べていない人と比較して、
その後のCOPDのリスクが29%(95%CI:1.00から1.65)、
増加する傾向が認められました。

これを喫煙者と非喫煙者で解析すると、
喫煙者においてはCOPDのリスクは37%(95%CI:1.01から1.86)、
より明確に増加していて、
非喫煙者群では有意な増加は見られませんでした。

また、加工肉以外の食生活が、
動物性脂肪や砂糖加糖飲料が多いなど、
不健康であるかどうかで分けて解析すると、
食生活が不健康である場合のCOPDのリスクが、
これも39%(95%CI:1.04から1.85)と、
より明確に増加していました。

つまり、中年期の女性が加工肉を多く摂取すると、
それはCOPDの将来的なリスクにつながり、
特に喫煙者や不健康な食生活をしている場合には、
相乗効果でよりそのリスクは高まる、
という結論になっています。

加工肉が身体に悪いことは、
ほぼ確定的な事実と言って良く、
少なくとも習慣的な摂取については、
健康のためには避けるのが賢明であると、
そう言い切ってもいいように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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第46回健康教室のお知らせ [告知]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はいつもの告知です。
こちらをご覧下さい。
第46回健康教室.jpg
次回の健康教室は、
8月17日(土)の午前10時から11時まで(時間は目安)、
クリニック2階の健康スクエアにて開催します。

今回のテーマは「真夏の病気の最新知識」です。

昨年と同様梅雨明けと共に猛暑が続いています。

これが異常な事態だということは、
誰もが認識はしていますし、
熱中症で何人が救急搬送された、
というような話はありますが、
それが本質的な意味で、
どのような影響を健康に与えているのか、
というような点については、
あまり抜本的な議論はないようです。

想定されることの1つは感染症です。

今年はこの暑い時期に、
インフルエンザA型がクリニックでも複数検出されていますし、
通常は冬の風邪であったRSウイルス感染症が、
2年ほど前から夏に流行する状況となり、
今年も真夏に流行が始まっています。

気温の短期間における急激な変動は、
原因不明の全身倦怠感や、
感染症所見を伴わない感冒様症状などの、
患者さんの増加に繋がっているようにも思います。

冷房病(クーラー病)であるとか、
寒暖差疲労という表現がありますが、
確かにクーラーで身体が冷えて体調を崩したり、
寒暖差に対応出来ずに体調を崩すというようなことが、
経験的にあることは事実としても、
その生理学的医学的なメカニズムや意義については、
殆ど分かっていないのが実際だと思います。

今回もいつものように、
分かっていることと分かっていないこととを、
なるべく最新の知見を元に、
整理してお話したいと思っています。

ご参加は無料です。

参加希望の方は、
8月15日(木)18時までに、
メールか電話でお申し込み下さい。
ただ、電話は通常の診療時間のみの対応とさせて頂きます。

皆さんのご参加をお待ちしています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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長期のマクロライド治療が細菌叢に与える影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アジスロマイシンの重症喘息への効果.jpg
2019年のAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine誌に掲載された、
急性増悪を繰り返す喘息患者に対する、
マクロライド系抗菌剤の継続使用の、
気道の細菌叢に与える影響を検証した論文です。

気管支喘息というのは気道のアレルギー性の炎症により、
呼吸困難の発作を繰り返すという病気です。
その本態はアレルギー性の炎症であるという知見から、
抗炎症作用のあるステロイドの吸入剤が、
その発作の予防と治療のために、
広く使用されています。

ただ、吸入ステロイドは全ての喘息患者において、
著効を示すという訳ではなく、
充分量の吸入ステロイドを使用していても、
急性増悪と呼ばれる呼吸機能の急激な悪化を、
繰り返すような患者さんが少なからず存在しています。

最近、こうした不安定な喘息患者に対して、
アジスロマイシンというマクロライド系の抗菌剤を、
長期使用するという臨床試験が複数行われ、
一定の急性増悪の予防効果が確認されています。

アジスロマイシンに限らずマクロライド系の抗菌剤には、
その直接的な抗菌作用以外に、
身体の免疫の調整作用や抗炎症作用などがあり、
それがこうした現象のメカニズムとして想定されています。

しかし、
アジスロマイシンも抗菌剤であることには違いがありませんから、
その長期使用は薬の効かない耐性菌の増加など、
身体に悪影響を与える可能性も否定は出来ません。

そこで今回の研究では、
コントロールの不安定な気管支喘息の患者さん、
トータル61名を、
本人にも主治医にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分け、
一方は標準的な治療に加えて、
毎週2回アジスロマイシンを500mg使用継続し、
もう一方は偽薬を使用して、
48週間(ほぼ1年)の治療を継続し、
その前後で痰を採取して、
患者さんの細菌叢を比較検証しています。

その結果、
アジスロマイシン群は偽薬群と比較して、
トータルな細菌数には変化がなく、
インフルエンザ桿菌(Haemophilus Influenzea)のみが、
有意に減少していました。
他の代表的な起炎菌である、
肺炎球菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、黄色ブドウ球菌には、
変化が見られませんでした。

一方で、複数のマクロライド系抗菌剤の耐性菌は、
アジスロマイシン投与群で増加していました。

今回の検証においては、
アジスロマイシンはどうやら、
インフルエンザ桿菌を特異的に減少させることにより、
気管支喘息の急性増悪を減少させている可能性が浮上しました。
その一方で耐性菌はやはり増加させていることも確かで、
マクロライドの長期投与の是非については、
まだ結論は出ていないと、
そう考えておいた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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大豆はコレステロールを下げるのか?(2019年累積メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
大豆の健康効果.jpg
2019年のJournal of the American Heart Association誌に掲載された、
大豆のコレステロール降下作用を検証した、
メタ解析の論文です。

大豆は良質の蛋白源であると共に、
女性ホルモン様作用を持つイソフラボンを含み、
心筋梗塞や脳卒中、骨粗鬆症の予防効果などが報告されています。

アメリカのFDAは1999年に、
その時点での臨床データを検証し、
大豆にコレステロール降下作用があると認め、
「大豆は心臓に良い」という健康表示を許可しました。

ただ、その後発表された臨床データにおいては、
コレステロール低下作用はあまり明確ではなく、
2017年にはFDAは大豆の健康表示の取り消しを検討している、
という発表をしました。

今回の研究はカナダの研究者によるもので、
FDAが今回の取り消し検討の根拠としている、
臨床試験46件のデータを、
累積メタ解析という年代順にデータを1つずつ解析し、
積み上げてゆくという手法で再解析し、
その結果を検討しています。

その結果、
1999年にFDAが根拠としたデータの再解析では、
大豆の摂取によるLDLコレステロールの低下は、
中央値で6.3mg/dLでしたが、
1999年以降のデータを解析しても、
4.2mg/dLから6.7mg/dLの範囲で推移していました。

つまり、累積メタ解析という手法で検証する限り、
1999年時点では明らかであった、
大豆によるコレステロール降下作用が、
それ以降の臨床データにより否定された、
というFDAの言い分は根拠がなく、
大豆によるコレステロール降下作用は認められるものの、
スタチンのような薬の効果と比較すれば、
小さな効果に留まる、
という判断が妥当であるようです。

要するに1999年の時点では大豆の健康効果は、
FDAによりやや過大に評価されていたものの、
今回の決定は今度は過小評価につながっているというのが、
上記論文の言いたいことであるようです。

真相はどうなのでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「ゴールデン・リバー」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ゴールデン・リバー.jpg
「ディーパンの戦い」などのフランスのジャック・オーディアール監督が、
初めての英語による映画として、
アメリカでもあまり製作されなくなった、
西部劇映画を作りました。

これは日比谷シャンテでしかやっていないし、
もう終わりそうだしどうしようかな、
と思っていたのですが、
何となく気になったので無理して観て来ました。

なかなか良かったです。

本当に本格的な西部劇をガチで作っているんですよね。

それも1960年代以降の、
食詰めた男同士が世界の果てに墜ちて行くような、
ニューシネマの洗礼を受けたような、
昔のシネフィルの皆さんが絶賛して、
「映画評論」で蓮見先生が褒めるような、
そんな感じのマニアックな西部劇です。

しかもこれはヨーロッパでロケしていて、
音楽のジャカジャカした感じや、
途中でちょっと登場人物の語りになったり、
酸で身体が爛れて腕を切断したりの過激な描写にしても、
かつてのマカロニウエスタンの雰囲気も、
濃厚にたたえています。

特に今作る意味を強く感じさせるような、
そうした映画ではないんですよね。
監督が愛するかつての西部劇を、
丁寧かつ端正に再現した、
という趣の映画です。

ただ、かつてのマカロニウエスタンと比べれば、
映画技術的には遙かに高度で、
完成度の高い作品に仕上がっています。
シネスコの画面の使い方や人物の掘り下げの深さなどは、
間違いなく今の映画でもある、
という気はします。

物語はシスターズ(姉妹)という名字の、
殺し屋の兄弟がいて、
それが英語題では「シスターズ・ブラザーズ」という、
人を食ったようなタイトルの由来です。
沈着で引っ込み思案の兄と、
粗暴で考えなしの弟がいて、
弟の暴走を兄がサポートする形で、
どうにか殺し屋稼業を続けているのですが、
その地方を支配する提督の指示で、
川底にある金を検出出来るという、
特殊な薬品を開発した科学者を、
探して殺すという仕事を引き受けた時から、
微妙に2人の関係は揺らぎはじめ、
そして2人の運命を大きく変えるような出来事が、
待ち受けているのです。

沈着な兄をジョン・C・ライリー、
粗暴な弟をホアキン・フェニックスが演じていて、
古典的な西部劇では悪党として、
主人公に殺される憎まれ役のような2人が、
この映画では主人公になっている訳です。

ライリーのキャラがね、
ともかく抜群にいいんですよね。

弟を守ることが自分の使命と思って生きているんだけど、
それが少しずつ揺らいで来て、
途中で敵味方がなくなって、
立場の違う4人が1つの集団になると、
兄弟は別々になってしまうんですが、
結局人間的に大きな欠陥のある弟を、
破滅させないことは兄にしか出来ないんですよね。

それで悲劇が訪れるのですが、
とてもとても切ないのです。

演技派のライリーの芝居も、
名演と言って良い素晴らしいものでした。

僕はもう途中からは、
感情移入しまくりでしたね。
なので、人によっては甘すぎると感じるラストも、
僕にはほっとして素敵に感じました。

西部劇と言えば銃撃戦ですが、
この映画のパターンは、
ドカンドカンと重量感のある音で拳銃をぶっぱなして、
次の瞬間には誰かが倒れている、
という感じのスタイルです。
殆ど瞬間すら見せないのですが、
映画としてはそれで悪くなかったですね。
この映画の拳銃は象徴的な殺戮兵器なのです。

最近はあまりないムードのある人間ドラマで、
2時間たっぷり映画の世界に浸ることが出来ました。

とても映画らしい映画として、
昔からの映画ファンの皆さんにはお薦めしたいと思います。

最近の映画しか観ていないという方には、
ちょっと合わないかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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「アルキメデスの大戦」(2019年実写映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アルキメデスの大戦.jpg
人気漫画の「アルキメデスの大戦」が、
VFXを得意とする山崎貴監督により実写映画化されました。

これは天才数学者で帝大を退学した青年が、
ひょんなことから海軍将校となり、
独自の視点で軍を改革し戦争を阻止しようとする、
太平洋戦争前夜の時代を舞台とした物語です。

それを山崎監督は大幅にリライトし、
戦艦大和の建造を巡る海軍内部の抗争劇に的を絞って、
「戦艦大和」が主役の物語としてまとめ上げています。

これは何より原作を巧みに作り変えた脚本が良く、
VFXも尺は少ないながら迫力があって、
キャストも充実した、
日本の最近の娯楽映画としては、
出色の1本で、
それは勿論ハリウッドの大作と比べれば、
スケール感は見劣りがしますが、
そのアイデアや構想力は決して遜色のない力作でした。

最近の日本の戦争映画としても随一だと思います。

最近の山崎監督の仕事はどうもなあ、
と思われる向きにも、
いやいや今回はなかなか歯応えがありますよ、
とお薦めしたいと思います。

映画館に足を運んで、
決して損はないですよ。

以下少しネタバレを含む感想です。

これね、巻頭5分強で戦艦大和が沈むスペクタクルシーンがいきなりあり、
その後で昭和8年の海軍の巨大戦艦建造計画に、
時間が巻き戻るのですが、
その後ラストまで一切戦闘シーンはありません。

かなり、勇気のある構成ですが、
それがこの映画の場合成功していて、
余韻のあるラストに至ると、
もう一度最初から見たくなってしまうのです。

作戦勝ちですね。

巻頭の大和沈没以降は、
ほぼほぼ原作通りに話は進むのですが、
原作ではあまり目立たない山本五十六を前面に出し、
主役の数学者役の菅田将暉さんも、
その部下役の柄本佑さんも、
財閥令嬢の浜辺美波さんも、
かなり原作とは違う性質に変えられていて、
それがキャストにフィットして、
原作とは違う雰囲気をしっかり作っています。
この辺りも脚本が非常に巧みです。
また、原作ではとっかかりに過ぎない戦艦の選定会議を、
クライマックスに設定して、
そこに池井戸潤のテイストを注入して、
娯楽性を増しています。
これだけだと、ただの戦前版池井戸潤になってしまうのですが、
その後に田中泯さん演じる平山中将と、
主人公ととの対決場面を作り、
戦艦大和の完成を見せることで、
ラストは綺麗に戦争映画に帰着しているのです。
この辺りの意外性のある構成も、
とても巧みです。

キャストは、
原作より飄々とした数学オタクとして、
主人公を熱感豊かに演じた菅田将暉さんが良く、
対する平山中将役の田中泯が、
怪物的な軍人科学者を演じて出色です。

田中泯さんはこれまでに多くの映像作品に出演していますが、
おそらくこの作品が代表作と言って、
言い過ぎではないものだと思います。
個人的には舞踏家の割には、
動きの表現に冴えがないなあ、と思っていたのですが、
今回の自分の非を認め、一瞬で虚脱するような演技など、
舞踏家としての本質が垣間見える見事な芝居でした。
この映画の田中泯さんは凄いです。

そんな訳でかなり質の高い、
アイデアのユニークな、
最近出色の日本戦争映画の快作として、
多くの皆さんに是非観て頂きたいと思います。

なかなかですよ。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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プロの運動選手は長生きなのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
メジャーリーガーと生命予後.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌のレターですが、
メジャーリーガーの寿命と病気を調べて、
一般男性と比較したユニークな研究です。

プロのスポーツ選手が健康かどうか、
というのはよく議論になるところです。

運動は健康習慣の柱の1つであることは間違いがなく、
その意味では運動を仕事にしているスポーツ選手は、
普通の人より健康的であると言えます。

この場合の健康というのは、
生活習慣病にならないということですから、
結果として健康長寿になる、
ということになります。

その一方でスポーツ選手は体を酷使するので、
怪我が多く、むしろそのために、
健康を害することが普通の人より多いのでは、
という可能性も指摘されています。

仮にこちらの要素の方が大きいとすると、
スポーツ選手は却って短命で病気も多い、
という可能性もある訳です。

果たしてどちらが正しいのでしょうか?

それは勿論、スポーツの種類やランクによっても、
違う事項であると想定されます。

今回の研究はアメリカのメジャーリーガーを対象としたもので、
歴代の16637名の選手を対象とした、
このジャンルでは非常に大規模なものです。

平均的なアメリカ男性とメジャーリーガーを比較したところ、
メジャーリーガーの総死亡のリスクは、
平均的アメリカ男性と比較して、
24%(95%CI; 0.73から0.78)有意に低下していました。

個別の病気による死亡リスクについても、
認知症などの神経変性疾患を除いては、
一般男性よりメジャーリーガーではリスクが低下していました。

メジャーリーガーとして活躍する期間が長いほど、
総死亡のリスクは低下していましたが、
肺癌、血液系の癌、そして皮膚癌については、
期間が長いほどリスクが増加する傾向を示していました。
これは排気ガスの吸引や、日光を浴びる時間が長いことが、
関連している可能性が示唆されますが、
明確な原因までは今回の検証からは分かりません。

ピッチャーやキャッチャーなどのポジションと、
死亡リスクとの関連を見てみると、
ピッチャーと比較した時、
ショートとセカンドの内野手は、
総死亡のリスクが19%(95%CI: 0.72から0.91)、
癌による死亡のリスクが22%(95%CI:0.62から0.98)、
呼吸器疾患による死亡のリスクが44%(95%CI: 0.37から0.84)、
それぞれ有意に低下していました。
また、キャッチャーはピッチャーと比較して、
泌尿生殖器系の疾患による死亡リスクが、
2.52倍(95%CI:1.19から5.35)有意に増加していました。

このように概ねメジャーリーガーは、
そのキャリアが長いほど、
多くの病気のリスクが低下しており、
長生きである傾向が認められました。
ただ、神経変性疾患に関してはそうした傾向はなく、
またキャリアが長いと一部の癌のリスクは増加していました。
ポジション毎の比較では、
比較的怪我の少ないポジションである内野手の死亡リスクが低く、
骨盤周囲の外傷を受けやすいキャッチャーでは、
泌尿生殖系の病気による死亡リスクが、
ピッチャーの2倍以上という高値を示していました。

このように習慣的な運動が生命予後に良いことは、
ほぼ間違いがないのですが、
ハードな練習や試合を行なうアスリートにおいては、
怪我なども多く、
ホコリなどの吸引や紫外線の曝露も多いために、
病気によっては一般の人よりそのリスクが増加する、
ということもあるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(補足)
論文の画像が間違っていました。
コメントでご指摘を受け取り急ぎ修正しました。
(令和1年8月2日午後10時)
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