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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも中村医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ワンスアッポンアタイム.jpg
レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットがダブル主演を務めた、
クェンティン・タランティーノ監督の新作映画が、
今ロードショー公開されています。
その公開初日に足を運びました。

これは1969年のハリウッドを舞台にして、
ディカプリオ演じる落ち目のアクションスターと、
そのスタントマン役のブラッド・ピットの関係を軸に、
その時代のハリウッドの雰囲気をノスタルジックに描き、
そこに実際に起こったシャロン・テート惨殺事件を絡めた作品です。

タランティーノ監督としては原点回帰というのか、
かつての「パルプ・フィクション」に近い感覚の映画です。
ストーリーよりもこだわりのあるディテールや語り口が面白く、
緩急自在、真面目に見ていると、
「これ冗談でした」みたいに梯子を外されるような感じもあります。

今回の作品も、
今の映画のスピード感で編集すれば、
1時間半くらいで終わってしまうようなストーリーです。
それをわざわざ引き延ばして、
2時間40分にしてしまうのです。

そこが、いいじゃない、と感じるか、
ダラダラして詰まらん、騙された、
と感じるかは見る人によって分かれるところです。

宣伝の著名人の感想で、
「ラストに涙が出た」とか、
「ラスト13分の衝撃は映画史に残る」みたいなのがあるのですが、
それはちょっと言い過ぎではないかしら。
一般の人が泣けるようなラストではないですし、
面白いし愛すべき作品ではあると思いますが、
映画史に残るようなラストではないよね。
こんなことを言ってしまって、
後々恥ずかしくなることはないのかしら、と、
他人ごとながら心配してしまいます。

個人的なラストの感想は、
まあ「肩すかし」というか「拍子抜け」という感じです。

ただ、タランティーノ監督の、
これは1つの特質でもあると思うので、
お好きな方にとってはこれでいいのだと思います。

僕はラストはもう少し盛り上げて欲しいな、
それで2時間以上も伏線を張ってもったいぶっているんだから、
というようにはちょっと思ってしまう方です。
あの事件の段取りはあれでもいいと思うんですよね。
変化球は監督の持ち味だし。
でも、それでそのまま終わってしまうのはさすがになあ、
というようには思ってしまいました。
もう一押しはあって然るべきですよね。
物足りなくてお腹が余計空いてしまう、
という感じです。

ただ、ディテールはさすがと言うか、
本当に1969年に撮ったとしか思えないような、
画面の質感が素晴らしいですし、
車がハイウェイを疾走する感じもいいよね。
シャロン・テートが、
自分の出演している「サイレンサー破壊部隊」を、
ぶらりと訪れた映画館で見るところとか、
さりげないけれど楽しいですよね。
僕はこの映画はテレビで何度か見ているので、
本物の映像にシャロン・テートの部分のみマーゴット・ロビーをはめ込む、
細かい技巧も楽しめました。
ブルース・リーが指導したキャットファイトの場面とか、
監督のオタク趣味全開ですね。

シャロン・テートは抜群の美女ですが、
出演作には恵まれていなくて、
「サイレンサー破壊部隊」は、
007のパクリのB級スパイ映画ですが、
彼女はそこで主人公を助けるコメディエンヌとして、
結構印象に残る活躍をしています。
従って、ある意味この映画はシャロン・テートの代表作で、
こんな他愛のない映画が代表作であるという辺りに、
彼女の存在の切なさがあるのですが、
その辺りをタランティーノはさすがに巧みに掬い取っています。
映画館の前の本屋で「テス」の初版本を買うのですが、
これは当時ポランスキーが映画化をもくろんでいて、
その主役がシャロン・テートになる可能性があったのですよね。
結果的には別の主役でずっと後になって映画化されるのですが、
ここにも切なさが表れています。
ただ、こうした伏線を張っているのにラストがあれじゃな、
とどうしてもそう思ってしまいますね。
ブルース・リーの仰々しい登場も、
その扱いは神格化されている方にとっては、
違和感のあるものかもしれませんが、
僕は嫌いではない、という程度なので、
楽しんで観ることが出来ました。

また、2大スターの共演というのが、
単なる顔見世ではなくて、
がっちり4つに組んでの熱演なので、
その点も好感が持てました。

そんな訳でタランティーノ監督のファンであれば、
懐かしく楽しめる作品に仕上がっていたと思います。
ファンでない方にはきつい部分があります。
また、監督の最高傑作という評もあるのですが、
個人的には賛成はしません。
「パルプ・フィクション」の方が、
矢張りいいのじゃないかな。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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猛暑に扇風機は有効なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

少し和らいだもののまだ暑い日が続いています。

最近の猛暑はこれまでとは確実に次元の違うもので、
エアコンの使用は必須と言って良いのですが、
エアコンが嫌いという方もご高齢の方では多く、
そうした場合に活躍するのが扇風機です。

扇風機の活用は熱中症の予防に有効でしょうか?

これはまだ解決されていない問題です。

扇風機で身体に風を吹き付けることは、
発汗を促しその汗の気化も促進するので、
その意味では体温を下げるために有効であると思われます。
その一方で体温を大きく上回るような温風を、
身体に当てることは、
むしろ体温を上昇させることに繋がる、
というようにも思われます。

温度以外に問題となるのは湿度の影響で、
湿度が高くなると汗の気化は起こりにくくなるので、
それだけ体温は上昇しやすくなります。

それでは、42度というような高温の環境において、
扇風機は有効でしょうか、それとも無効なのでしょうか?

この問題を検証したレターが、
2015年のJAMA誌に掲載されています。
それがこちらです。
扇風機の猛暑での有効性若者.jpg
この研究では年齢が中間値で23歳の健康な男性8名を対象に、
温度が36℃と42℃の環境下で、
扇風機を使用した場合としない場合とで、
部屋の湿度を上昇させて、
どの湿度を超えると体内温度や心拍数が上がるのかを検証しています。

その結果、
42℃の環境下においても、
扇風機を使用することで、
深部体温や心拍数の増加は、
より高い湿度にシフトして認められました。

つまり、42℃という体温より高い環境でも、
扇風機を使用することにより、
熱中症に抵抗性になるということを意味しています。

猛暑においても扇風機には一定の有効性が認められたのです。

しかし、これは若い男性のみのデータです。

熱中症になりやすい高齢者においても、
扇風機には同様の効果が期待出来るのでしょうか?

2016年の同じJAMA誌に、
それについてのレターが掲載されています。
それがこちらです。
扇風機の猛暑での有効性高齢者.jpg
こちらは60歳から80歳の9名の男女を対象として、
42℃の環境下で湿度を上昇させたところ、
扇風機を使用することにより、
使用しない場合よりも深部体温も脈拍数も、
より低い湿度から上昇していました。

つまり、発汗量の少ない高齢者では、
42℃という高温において、
扇風機の使用はむしろの熱中症のリスクを上げ、
その予防には逆効果である可能性が高いと考えられます。

扇風機の体温より高い気温の猛暑における有効性は、
発汗量が多く代謝の活発な若者では一定レベルはあるのですが、
高齢者では逆効果なる可能性が高く、
ケースバイケースでその使用は慎重に行う必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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多価不飽和脂肪酸と糖尿病との関連について(2019年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オメガ3系脂肪酸と糖尿病との関係.jpg
2019年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
食事由来の多価不飽和脂肪酸と糖尿病との関連についての論文です。

この2日間の記事でご紹介したように、
多価不飽和医脂肪酸、特に青身魚の脂の成分である、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸を多く摂ることは、
血液中の中性脂肪を低下させ、
心血管疾患のリスクを低下させます。

この中性脂肪の高値と心血管疾患リスクの増加は、
同時に2型糖尿病の特徴でもあります。

それでは、多価不飽和脂肪酸を多く摂ることで、
糖尿病の予防に繋がったり、
病尿病のコントロールの改善に繋がる効果が、
期待出来るのでしょうか?

その点については、
あまり明確なことが分かっていません。

糖尿病と心血管疾患との関連は深く、
多価不飽和脂肪酸の摂取が糖尿病の発症リスクの低下に結び付いた、
という報告は存在しています。
その一方で多価不飽和脂肪酸は、
高カロリーの脂質であることも事実であり、
そのため糖代謝を悪化させ、
空腹時血糖を増加させるという報告も、
また存在しているのが実際です。

果たしてどちらが正しいのでしょうか?

今回の研究では、
これまでの臨床データを俯瞰してまとめて解析する、
システマティックレビューとメタ解析という手法で、
この問題の現時点での検証を行っています。

これまでの83の主だった臨床試験のデータを解析した結果として、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸の摂取は、
糖尿病の発症リスクには有意な影響を与えず、
インスリン抵抗性や空腹時血糖などの糖代謝の指標に対しても、
有意な影響を与えていませんでした。
ただ、摂取量が1日4.4グラムを超えると、
血糖上昇のリスクは高まる傾向が認められました。

αリノレン酸、オメガ6系多価不飽和脂肪酸、
トータルの多価不飽和脂肪酸の摂取と糖尿病と診断されるリスクとの間には、
明確な関連は認められませんでしたが、
データの精度はそれほど高いものではなく、
糖代謝との関連については、
αリノレン酸の摂取量の増加が、
空腹時のインスリン濃度の増加と関連が見られる以外は、
明確な関連は認められませんでした。

また、良く指摘されることのあるオメガ3系と6系の脂肪酸の比率と、
糖尿病や糖代謝との関連についても、
明確な相関は認められませんでした。

このように、
多価不飽和脂肪酸の摂取量と、
糖尿病や糖代謝との間には、
少なくとも1日4グラムを超えない範囲においては、
明確な影響は認められないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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脂質異常症に対するオメガ3系脂肪酸の効果(アメリカ心臓病協会の提言) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
AHAのEPAについての提言.jpg
2019年のCirculation誌に掲載された、
高トリグリセリド血症に対してオメガ3系多価不飽和脂肪酸を使用することの、
現状での考え方を示した、
アメリカ心臓病協会の指針です。

これは昨日ご紹介した、
EPAの有効性を実証した論文とも関連するものです。

中性脂肪(トリグリセリド)は、
コレステロールと並ぶ血液中の代表的な脂質で、
150mg/dL以上が異常値として認識されています。
高トリグリセリド血症の治療に対する考え方には、
現状日本と国外では大きな開きがあり、
日本では異常値であれば治療が検討されますが、
国外では概ね500mg/dL以上が治療対象となります。

150mg/dLを超える中性脂肪が、
心血管疾患のリスクになるという知見は多くあります。
ただ、あまり有効な治療薬はなく、
また治療をすることにより、
明確に心血管疾患のリスクやその予後が改善した、
という確証はあまりないので、
コレステロールと比べるとその評価は一致していませんでした。

アメリカ心臓病協会は2002年以降、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸のEPAとDHAを、
高トリグリセリド血症の治療薬として推奨しています。
ただ、その裏付けとなるデータは、
その時点ではそれほど明確なものではありませんでした。

昨日ご紹介した論文では、
EPA製剤により心血管疾患のリスクが低下することが、
かなり明確に示されました。

そこにこれまでのデータをまとめて1つの考え方を示したのが、
今日ご紹介する提言です。

これによると、
EPAの単剤もしくはEPAとDHAの合剤を、
1日4グラム使用することで、
血液の中性脂肪が500mg/dL以上の状態では、
30%以上中性脂肪を低下させる効果が期待出来ます。
ただ、単剤で中性脂肪を正常化することは困難なので、
フィブラートなど他の薬との併用が通常は必要となります。

中性脂肪が200から499g/dLというより軽症の状態では、
同じくEPAもしくはEPAとDHAの合剤を、
1日4グラム使用することで、
LDLコレステロールを増加させることなく、
20から30%中性脂肪を低下させる効果が期待出来ます。

スタチンによるコレステロール低下療法に上乗せして、
EPAもしくはEPAとDHAの合剤を、
1日4グラム使用することで、
動脈硬化のリスクとなるnon-HDLコレステロールと、
リポ蛋白のアポBは低下し、
これは動脈硬化性疾患の抑制に有効であることを示唆しています。

1日4グラムまでのレベルでは、
大きな問題はありませんが、
EPA製剤単独と比較すると、
EPAとDHAの合剤ではLDLコレステロールは、
やや増加する傾向を示します。
つまり、これを超える用量は推奨されません。

EPAやDHAの製剤は概ね安全ですが、
有害事象としては吐き気などの消化器症状が多く、
この予防には食事と同時の服用が有効です。

2019年に発表されたREDUCE-ITという臨床試験の結果では、
1日4グラムのEPA製剤を、
心血管疾患のリスクのある脂質異常症の患者さんに、
スタチンへの上乗せで使用したところ、
心血管疾患の死亡を含むリスクを、
25%有意に低下させていました。
同様の臨床試験は他にも進行中のものがあり、
今後新たなデータが発表される予定です。

このように、
EPA単剤もしくはDHAとの合剤を、
1日4グラム使用することにより、
中性脂肪高値の患者さんにおいては、
心血管疾患のリスクがトータルに低下する作用が期待されます。

今回の提言はこれまでよりかなり踏み込んだもので、
中性脂肪高値の患者さんにおいては、
EPA製剤は第一選択に近い位置づけになったと、
そう考えても良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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高トリグリセリド血症に対するEPAの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オメガ3系脂肪酸の中性脂肪降下作用..jpg
2019年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
青身魚の脂の成分であるEPA(イコサペント酸エチル)を、
中性脂肪の高い患者さんに使用した、
臨床試験の結果についての論文です。

発表は2019年の1月ですからご紹介が遅れましたが、
EPAの心血管疾患に対する効果が、
久しぶりに明確に確認されたという意味で、
かなり画期的な意義のある論文だと思います。
アメリカの各種ガイドラインにも大きな影響を与えています。

EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分を食事で多く摂った方が、
心血管疾患になりにくい、
という点はほぼ間違いのない事実です。

ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
明確な健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。

日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。

エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
というものです。

ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。

今回の研究では、
心血管疾患を発症しているか、
糖尿病があってそれ以外にも1つ以上の心血管疾患のリスクを持っていて、
血液の中性脂肪が150から499mg/dLと中等度までの高値で、
スタチンを継続使用している、
という条件の脂質異常症の患者さん、
トータル8179名を、
本人にも臨床試験施行者にも分からないように、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は高純度のEPA製剤を1日4グラム使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
中間値で4.9年の経過観察を施行しています。

その結果、EPA製剤使用群は、偽薬と比較して、
心血管疾患による死亡と非致死性心筋梗塞、
非致死性脳卒中、虚血性心疾患の治療や不安定狭心症を併せたリスクを、
25%(95%CI: 0.68から0.83)有意に低下させていました。

一方で心房細動や粗動による入院はやや多く、
出血系の合併症も、
有意差はないもののEPA群でやや多くなっていました。

今回の検証はJELISと同じように、
高純度のEPA製剤を使用している点に特徴があり、
症例を選んで施行すれば、
治療薬としての有用性があることを示したもので、
この論文以降の流れをみても、
EPAは脂質異常症の治療薬として、
明確に復権したと言って良いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ビスフォスフォネートが寿命を延ばす、は本当か?(2019年メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ビスフォスフォネートの寿命延長効果.jpg
2019年のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
骨粗鬆症治療薬の寿命延長効果についての論文です。

骨粗鬆症の治療薬、
特にこれまでのデータが最も豊富に存在している、
ビスフォスフォネートと呼ばれる種類の薬剤は、
閉経後の骨粗鬆症の女性に使用した場合の、
骨折予防効果は科学的に実証されています。

ただ、必ずしもこのタイプの薬は、
健康な骨を作るという薬ではなく、
人工的に骨をコーティングして、
骨が壊れることを抑えるという効果の薬なので、
一部の病的骨折や顎骨壊死などのリスクは増加して、
その長期使用を危惧するような見解もあります。

最近ビスフォスフォネートの臨床データにおいて、
骨折予防効果のみならず、
生命予後を改善したり、心血管疾患を減少させるといった、
付加的な効果があることを、
示唆するような報告があります。

2007年のNew England…誌に掲載された、
ゾレドロン酸(商品名ゾメタなど)というビスフォスフォネートの臨床試験では、
大腿骨頸部骨折の既往のある患者さんにおいて、
骨折リスクの低下のみならず、
総死亡のリスクを28%有意に低下させる効果が、
ゾレドロン酸に認められています。
一方で同時に行われた骨粗鬆症の患者さんに対するゾレンドロン酸の臨床試験では、
総死亡のリスクに差はついていませんでした。

2018年のNew England…誌に掲載された、
骨粗鬆症の基準には達しないレベルの、
軽症の骨量低下の女性を対象とした臨床研究では、
ゾレドロン酸の使用により心筋梗塞と乳癌のリスクが有意に低下していて、
総死亡のリスクは有意ではないものの、
35%低下する傾向を示していました。

このように、ビスフォスフォネート、
特にゾレンドロン酸には、
骨折予防の効果以外に、
心血管疾患や癌を予防したり、
生命予後を改善する効果があることを、
示唆するようなデータが存在しています。

ただ、この多くが製薬会社が主導する試験であり、
そのメーカーもノバルティス社ということになると、
「そう都合の良い話があるのかしら」と、
どうしても懐疑的にはなってしまいます。

今回の研究では、
これまでの骨粗鬆症の治療薬の効果についての、
主だった精度の高い研究データをまとめて解析するメタ解析の手法で、
この問題の検証を行っています。

これまでの骨粗鬆症の治療についての、
38の臨床試験に含まれるトータル101642名の患者データを、
まとめて解析したところ、
骨粗鬆症の薬による治療と、
総死亡のリスクとの間には、
有意な関連は認められませんでした。

このうちビスフォスフォネートの治療に関わる、
21の臨床データの解析では、
ビスフォスフォネートの使用と総死亡リスクとの間にも、
有意な関連は認められませんでした。

更には、このうちのゾレンドロン酸を対象とした、
6つの臨床データのみを解析しても、
トータルには総死亡リスクとの有意な関連は認められませんでした。

このように、
個別の臨床データでは、
確かにビスフォスフォネートの使用と、
総死亡リスクとの関連があるとするものもあるのですが、
今回のメタ解析では、
トータルにはそうした関連は認められませんでした。

従って、現状はビスフォスフォネートの効果は、
あくまで骨折予防において検討されるべきで、
それ以外の付加的な効果については、
現時点で立証されたものではないと、
そう考えておいた方が良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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歌舞伎座八月納涼歌舞伎(2019年第三部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
2019年8月大歌舞伎.jpg
歌舞伎座の納涼歌舞伎に足を運びました。

年毎に通俗味を増し、
観るのが辛いような演目が増える歌舞伎座ですが、
今回は玉三郎丈が初めて納涼歌舞伎に出演し、
市川中車が5役を演じて雪之丞変化を再構成するという趣向に、
少し興味が湧いたので伺ってみました。

ただ、実際に観てみるとビックリで、
舞台には殆どセットはなく、
登場するのはほぼ4人の役者のみで、
要するに1人の独白か2人の掛け合いが殆どで、
それ以外は映像を流して処理するという、
ディナーショーの余興のような舞台でした。
市川中車丈も確かに5つのお役を演じはしますが、
そのうちの1役は映像のみの出演です。

これが本当に歌舞伎座で上演する必要性のある舞台でしょうか?

こうした物を求めている観客が何処かにいるのかしら?

かれこれ30年以上は歌舞伎座に足を運んでいますが、
ここまでの手抜きの舞台を観たことは、
未だかつてありませんでした。

色々予算的な問題や企画上のゴタゴタもあったのかしらと、
推測は出来なくもありませんが、
歌舞伎座に足を運ぶ以上、
歌舞伎座でしか観られないものを観たいと思いますし、
こうした低予算の自主公演のようなことが行われるのであれば、
事前に「これはいつものお芝居とは違いますよ」という、
アナウンスはして欲しかったと思いました。

よく宣伝文句などを読むと、
確かにそれらしい怪しげなことは書かれていたので、
行間を読まないお前が悪いのだと、そう言われればそれまでですが、
玉三郎丈の演出と主演で、
中車を相手役に「雪之丞変化」と言われれば、
それなりの本格的な歌舞伎劇を想像するでしょ。
玉三郎丈も確かに自主公演では、
こうしたディナーショーもどきの演出もあったと思いますが、
歌舞伎座の舞台は特別、という認識は、
以前から持たれていたように思いますし、
その美意識には絶大の信頼を置いていたので、
今回の裏切られ感は大きかったのです。

ちょっとダメージが大きくて、
しばらくは歌舞伎を観る元気はなくなりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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谷賢一「2011年:語られたがる言葉たち」(福島三部作・第三部) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2011語られたがる言葉達.jpg
福島原発事故に至った時代を描いた、
谷賢一さんの福島三部作が、
今池袋で一挙上演されています。

この作品は緻密な取材を元に、
福島の出身でもある谷賢一さんが、
3つの時代の物語として、
福島原発事故を3つの連作の芝居にしたもので、
僕は以前第一部の「1961年:夜に昇る太陽」は観ていて、
今回は第三部の「2011年:語られたがる言葉たち」に足を運びました。

本当は第二部の「1986年:メビウスの輪」も観たかったのですが、
ちょっと時間が取れませんでした。

ただ、今回第三部を鑑賞して、
とてもとても素晴らしかったので、
無理しても第二部も観ておきたかったな、
とそれだけでは残念でなりません。

帰りにはパンフレットと3作品全ての台本を買いました。

この連作はまず構成の勝利という感じがします。

福島原発事故を福島の悲劇として描くのに、
原発導入のきっかけとなった1961年と、
チェルノブイリ原発事故が起き、政治も揺れていた1986年、
そして原発事故の2011年の3つの時代で描く、
という発想が秀逸です。
今回の第三部も原発事故の年を舞台にしながら、
その年の12月に時間を取っています。
これもとてもクレヴァーな設定だと思います。
事故が少し距離を持って語られるようになり、
それでいて当事者にとっては生々しい現実でもあるという、
最も複雑な思いの交錯する時間であったからです。

そして、現実に谷さんが取材された、
双葉町の元町長をモデルとした一家を主軸に据え、
一種の家族年代記としての設定も付加しています。

この辺りとても古典的な歴史ロマンの設定を、
組み入れている点も面白く、
それが古典的な風格をこの作品に与えています。

第一部もとても面白かったのですが、
犬を擬人化してミュージカル仕立てにしたりと、
ちょっと小劇場テイストの趣向が、
せっかくの作品のリアルな重厚さを、
減殺しているようなきらいはありました。
(初演時の感想です。今回は観ていません)

その点今回の第三部は題材のせいもあるでしょうが、
ぐっとシリアスで、
一部に死人を戯画的に出したりという、
小劇場の諧謔的趣向があるのですが、
それほど鼻につくようなことはなく、
実際に取材された現地の生の声を主体にして、
メディアのありかたに切り込んだ台本の完成度は素晴らしく、
役者も熱量のある芝居で舞台をもり立てていました。

特にずっと語ることを拒んでいた男が、
震災当日の出来事を語る場面と、
主人公である元双葉町町長の弟の独白は、
とても感動的で心に残りました。
最近涙腺が緩いのでグズグズに泣いてしまいました。

とても感動的で考えさせる素晴らしい舞台で、
濃密で目を離せない2時間の、
最近では希有な演劇体験が皆さんを待っています。
是非にとお薦めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コーヒーは片頭痛の引き金なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カフェインと片頭痛.jpg
2019年のAmerican Journal of Medicine誌に掲載された、
カフェインの摂取と片頭痛との関連についての論文です。

片頭痛は頭の片側に強いズキズキとした頭痛で、
その本態は脳の一時的な興奮状態であると考えられています。

片頭痛にはそれを誘発するきっかけが、
見られることが多く、
睡眠不足や食事を抜くことなど、
多くの片頭痛の患者さんに共通するきっかけがある一方、
特定の人しか当て嵌らないようなものもあります。

比較的多くの方が片頭痛のきっかけと認識にしているのが、
コーヒーなどのカフェインを含む、
刺激性のある飲み物です。

ただ、一般には、
「コーヒーを飲むと頭痛がする」
という意見があるのですが、
これまであまりそれを実証したような臨床データはありませんでした。

今回の研究では、
アメリカの3つの専門医療機関において、
習慣性の片頭痛の患者さんトータル98名に生活記録を付けてもらい、
観察期間中の片頭痛の発生と、
コーヒーなどのカフェイン含有飲料の使用との関連を検証しています。

その結果、
1日1から2杯のカフェイン含有飲料では、
当日翌日を含め片頭痛の発生リスクは増加せず、
1日3杯以上の摂取ではやや増加する傾向はみとめたものの、
5杯以上でも有意なリスクの増加は見られませんでした。

これは勿論アルコール摂取など、
他のリスク因子は補正した結果のデータです。

このように、
カフェイン含有飲料を1日3杯以上飲むことで、
片頭痛のリスクが増加するという可能性は否定出来ませんが、
その影響は概ね軽微で、
少なくとも1日1から2杯のコーヒーに関しては、
片頭痛でも問題はない、
と判断して良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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手術はランキング上位の病院で受けるのが良いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ランキングと手術成績.jpg
2019年のJAMA Surgery誌に掲載された、
雑誌の病院ランキングと実際の手術成績を比較した、
面白い内容の報告です。

名医や病院のランキングが、
テレビや雑誌、ネットでも盛んに行なわれています。

テレビの神通力も、
昔と比べれば随分と小さなものになりましたが、
それでも一度バラエティ番組や情報番組などで、
「名医」や「名病院」として取り上げられると、
しばらくは「予約の取れない医師や病院」に、
なってしまうのは今でも普通のことです。

医療というのは公的な側面のあるもので、
誰にも等しく供給される体制になっているというのが、
皆保険制度における国の建前ですから、
本来はこうした人気による順位付け自体、
問題があるように思いますが、
誰も表立って文句を付けるということはないようです。

本に関して言えば、
名医を紹介するようなグラビア本の大部分は、
紙面の大きさによって法外な掲載料を取られるという仕組みのもので、
僕も何度か掲載のお薦めを受けたことがありますが、
丁重にお断りをしています。

ランキングというのは、
勿論それが公正かどうかはともかくとして、
何らかの基準によって選ばれていることは確かです。

ただ、たとえば手術数や患者数のようなものであれば、
一定の客観性はありますが、
それがあまりに少なければ良い病院とは言えないにしても、
多ければ多いほど良い病院、
というのもちょっと違うのではないか、
という気がします。

アメリカのUSニューズ&ワールド・レポートという雑誌は、
今ではネットのみの刊行ですが、
1983年から行っている大学ランキングが有名で、
最近ではこれも毎年行っている病院ランキングが人気です。

今回の研究はこの雑誌のランキングにおいて、
消化器内科と消化器外科におけるトップランクの病院と、
ランク外との病院をリストアップして、
腹腔鏡を活用した消化器手術の例数や予後を、
Vizient社という、医療施設と医療メーカーとの間で、
価格調整などを行うGPOと呼ばれるアメリカ特有の企業形態の、
トップ企業の1つのデータを活用して検証しています。

その結果、
有名雑誌のランキングでトップランクの病院は、
ランク外の病院と比較して、
年間症例件数は平均で3倍以上と多かったのですが、
院内死亡率や手術の合併症の頻度については、
有意な差は認められませんでした。
一方でトップランクの病院はランク外の病院と比較して、
入院期間は有意に長く、
掛かった医療費も有意に高くなっていました。

要するに人気のある病院では患者さんは多く集まり、
そのため症例数は多くなるのですが、
少なくともデータ上はランク外の病院と比較して、
良い手術が行われたとする根拠は乏しく、
入院も長くむしろ割高である可能性が高い、
ということになります。

これは医療の1つの側面を見ているだけのものですが、
ランキング自体トータルな評価とは言い難く、
僕の経験から言っても、
こうしたランキングに振り回されることは、
百害あって一利なし、
と言って過言ではないように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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