どの血圧測定が最も有用なのか? [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
血圧の測定法と生命予後や心血管疾患予後との関連を検証した、
国際共同研究の結果をまとめた論文です。
日本からは岩手県の大迫研究という、
住民データが活用されています。
血圧が高いことが、
動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高め、
不整脈や心機能、腎機能にも影響を与えることで、
その患者さんの生命予後にも大きな影響を与えることは、
これまでの多くの疫学データや実験的なデータから、
間違いなく実証された事実です。
ただ、血圧というのは他の血糖値などの検査値とは違って、
その測定法にはかなり大雑把な部分があり、
1日のうちでの変動も大きいので、
どの数値を指標にすれば良いのか、
という点についてはまだ定まった見解がありません。
通常クリニックでは手動の血圧計による測定を、
診察室で行っていますが、
大きな病院では診察前に、
自分で自動血圧計で測定し、
その結果を印字した紙を持って、
診察をする、というパターンが多くなっています。
自動血圧計による測定は、
不正確になることも多く、
特に下の血圧(拡張期血圧)はあまり当てになりませんが、
その一方で診察室で測定する血圧は、
患者さんが緊張することで高くなりやすい、
という欠点もあります。
最近では血圧の1日のうちでの変動を重要視する、
という考え方があり、
自動血圧計を患者さんに購入して頂いて、
それで毎日複数回測定した血圧を、
家庭血圧として診察室の血圧より、
重視するという診療も行われています。
また、1日を通して、決められた間隔で血圧を自動的に測定する、
ホルター血圧計による自由行動下血圧測定も、
昼夜の変動が大きいとそれだけ心血管疾患のリスクが増加したり、
早朝の血圧が急上昇する早朝高血圧のリスクなどの知見により、
注目されています。
ただ、現行のホルター血圧計というのは、
定期的に腕が締め上げられるという、
かなり患者さんにストレスの掛かる器具で、
これを全ての高血圧の患者さんに推奨するというのは、
それ自体かなり無理のある考え方です。
腕時計のようなウェアラブル端末で、
ストレスなく血圧を自動測定するような器具やアプリも、
確かに開発はされ販売もされていますが、
その精度については現行はまだ問題があり、
医療用としてお薦めはし難いのが実際です。
ここで1つ重要なことは、
高血圧の危険性とそれを治療で下げることの有用性の、
裏付けとなっているデータの多くは、
外来での診察室血圧をその指標にして取られている、
ということです。
最近の1つの流行としては、
決められた一定の方法により、
外来受診時に患者さんが自動血圧計で測定したデータを、
活用するという臨床試験も多く行われています。
従って、基本的には診察室で測定した血圧で、
高血圧を評価することの有用性は、
揺らがないものではあるのですが、
実際には非常に1日のうちでの変動が大きく、
診察室では正常血圧という人がいたり、
緊張のために診察室では高血圧になってしまうけれど、
家ではいつも正常血圧、という人もいるので、
何らかの形でそうした患者さんのリスクの評価を、
従来とは別個の方法でする必要があるのです。
それではどのような方法で血圧を測定することが、
そのリスクを最も的確に判断する方法なのでしょうか?
この問題を検証する目的で今回の世界規模の臨床研究では、
世界13地域の一般住民1135名を対象として、
通常の診察室血圧に加えて、
24時間の血圧測定を複数回施行し、
24時間の平均血圧や夜間血圧、血圧変動などの指標と、
中間値で13.8年という長期の経過観察により記録された、
生命予後および心血管疾患の発症リスクとの関連を、
比較検証しています。
その結果、
総死亡リスクおよび心血管疾患発症リスクとの関連が、
最も高かった血圧指標は、
24時間測定した血圧値とそのうちの夜間のみの血圧値で、
この数値が高いほど総死亡のリスクも心血管疾患の発症リスクも、
いずれも最も増加していました。
この場合の血圧値は、基本的には収縮期血圧が採用されています。
昼間と夜間の区分は国や地域によっても少し異なっています。
勿論診察室血圧を採用しても、
そうした相関自体はある訳ですが、
統計上はその代わりに夜間血圧や24時間血圧を用いた方が、
よりそのリスクを明確化し易い、
という結論になっています。
ただ、これをそのまま適応して、
全て人が24時間血圧や夜間の血圧測定を行うべきなのか、
ということになると、
現状はかなり疑問に感じます。
その手間が本当に意味のあるものであるのか、
ということの担保は、
まだ充分ではないという気がしますし、
仮に夜間血圧が昼間以上に重要であるとして、
それを治療のターゲットにすることが、
患者さんの予後により良い結果をもたらすとは、
まだ誰も言えないからです。
今後ウェアラブル端末による血圧値推定の精度が、
より高いものになれば、
そのデータを解析することで、
新たな健康指標が得られる可能性があると思いますが、
それは従来の血圧というものとは、
また別の指標となるような気がします。
血圧というのは人間の健康管理において、
公衆衛生的にも大きな意義のある指標であったことは、
間違いのない事実ですが、
その測定の曖昧さと測定値の不確かさとは、
科学の進歩した現在の医学の水準とは、
あまりマッチしていないもので、
私達が数値としての「血圧」を捨てる日は、
そう遠くはない、という気がします。
24時間血圧の変動率がどうたら、
収縮期と拡張期の数値の差がどうたらなどと、
物事を不必要に複雑化している専門家の方は、
血圧というものに拘り過ぎなのではないでしょうか?
すいません。
後半は大分個人的な意見が入りました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
2019年のJAMA誌に掲載された、
血圧の測定法と生命予後や心血管疾患予後との関連を検証した、
国際共同研究の結果をまとめた論文です。
日本からは岩手県の大迫研究という、
住民データが活用されています。
血圧が高いことが、
動脈硬化を進行させ、
心筋梗塞や脳卒中などのリスクを高め、
不整脈や心機能、腎機能にも影響を与えることで、
その患者さんの生命予後にも大きな影響を与えることは、
これまでの多くの疫学データや実験的なデータから、
間違いなく実証された事実です。
ただ、血圧というのは他の血糖値などの検査値とは違って、
その測定法にはかなり大雑把な部分があり、
1日のうちでの変動も大きいので、
どの数値を指標にすれば良いのか、
という点についてはまだ定まった見解がありません。
通常クリニックでは手動の血圧計による測定を、
診察室で行っていますが、
大きな病院では診察前に、
自分で自動血圧計で測定し、
その結果を印字した紙を持って、
診察をする、というパターンが多くなっています。
自動血圧計による測定は、
不正確になることも多く、
特に下の血圧(拡張期血圧)はあまり当てになりませんが、
その一方で診察室で測定する血圧は、
患者さんが緊張することで高くなりやすい、
という欠点もあります。
最近では血圧の1日のうちでの変動を重要視する、
という考え方があり、
自動血圧計を患者さんに購入して頂いて、
それで毎日複数回測定した血圧を、
家庭血圧として診察室の血圧より、
重視するという診療も行われています。
また、1日を通して、決められた間隔で血圧を自動的に測定する、
ホルター血圧計による自由行動下血圧測定も、
昼夜の変動が大きいとそれだけ心血管疾患のリスクが増加したり、
早朝の血圧が急上昇する早朝高血圧のリスクなどの知見により、
注目されています。
ただ、現行のホルター血圧計というのは、
定期的に腕が締め上げられるという、
かなり患者さんにストレスの掛かる器具で、
これを全ての高血圧の患者さんに推奨するというのは、
それ自体かなり無理のある考え方です。
腕時計のようなウェアラブル端末で、
ストレスなく血圧を自動測定するような器具やアプリも、
確かに開発はされ販売もされていますが、
その精度については現行はまだ問題があり、
医療用としてお薦めはし難いのが実際です。
ここで1つ重要なことは、
高血圧の危険性とそれを治療で下げることの有用性の、
裏付けとなっているデータの多くは、
外来での診察室血圧をその指標にして取られている、
ということです。
最近の1つの流行としては、
決められた一定の方法により、
外来受診時に患者さんが自動血圧計で測定したデータを、
活用するという臨床試験も多く行われています。
従って、基本的には診察室で測定した血圧で、
高血圧を評価することの有用性は、
揺らがないものではあるのですが、
実際には非常に1日のうちでの変動が大きく、
診察室では正常血圧という人がいたり、
緊張のために診察室では高血圧になってしまうけれど、
家ではいつも正常血圧、という人もいるので、
何らかの形でそうした患者さんのリスクの評価を、
従来とは別個の方法でする必要があるのです。
それではどのような方法で血圧を測定することが、
そのリスクを最も的確に判断する方法なのでしょうか?
この問題を検証する目的で今回の世界規模の臨床研究では、
世界13地域の一般住民1135名を対象として、
通常の診察室血圧に加えて、
24時間の血圧測定を複数回施行し、
24時間の平均血圧や夜間血圧、血圧変動などの指標と、
中間値で13.8年という長期の経過観察により記録された、
生命予後および心血管疾患の発症リスクとの関連を、
比較検証しています。
その結果、
総死亡リスクおよび心血管疾患発症リスクとの関連が、
最も高かった血圧指標は、
24時間測定した血圧値とそのうちの夜間のみの血圧値で、
この数値が高いほど総死亡のリスクも心血管疾患の発症リスクも、
いずれも最も増加していました。
この場合の血圧値は、基本的には収縮期血圧が採用されています。
昼間と夜間の区分は国や地域によっても少し異なっています。
勿論診察室血圧を採用しても、
そうした相関自体はある訳ですが、
統計上はその代わりに夜間血圧や24時間血圧を用いた方が、
よりそのリスクを明確化し易い、
という結論になっています。
ただ、これをそのまま適応して、
全て人が24時間血圧や夜間の血圧測定を行うべきなのか、
ということになると、
現状はかなり疑問に感じます。
その手間が本当に意味のあるものであるのか、
ということの担保は、
まだ充分ではないという気がしますし、
仮に夜間血圧が昼間以上に重要であるとして、
それを治療のターゲットにすることが、
患者さんの予後により良い結果をもたらすとは、
まだ誰も言えないからです。
今後ウェアラブル端末による血圧値推定の精度が、
より高いものになれば、
そのデータを解析することで、
新たな健康指標が得られる可能性があると思いますが、
それは従来の血圧というものとは、
また別の指標となるような気がします。
血圧というのは人間の健康管理において、
公衆衛生的にも大きな意義のある指標であったことは、
間違いのない事実ですが、
その測定の曖昧さと測定値の不確かさとは、
科学の進歩した現在の医学の水準とは、
あまりマッチしていないもので、
私達が数値としての「血圧」を捨てる日は、
そう遠くはない、という気がします。
24時間血圧の変動率がどうたら、
収縮期と拡張期の数値の差がどうたらなどと、
物事を不必要に複雑化している専門家の方は、
血圧というものに拘り過ぎなのではないでしょうか?
すいません。
後半は大分個人的な意見が入りました。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2019-08-15 06:05
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コメント(1)
家内80歳は2度のCaOPを20年前にしましたが、この5.6年というか気にかけてから深夜の血圧が日中の110前後が150から170位になり覚醒して眠れず日赤も国際医療大でも諸検査を経ても原因がわかりません。開業医は自律神経過敏との診断で、わからないからもう来ないでください、とのことですが、どこでも降圧剤3日分で終わります。何かいい方法はないものでしょうか。睡眠薬サイレース1/4錠とデパス1/4錠で凌ぐ日が月の半分はあります。
by AF患者 (2019-08-15 09:36)