SSブログ

新型コロナウイルス感染症退院後60日の予後 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルス退院後60日の経過.jpg
Annals of Internal Medicine誌に、
2020年11月11日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の、
退院後2ヶ月の予後を検証した短報(レター)です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経過は、
多くの事例では軽症で無症状に近いケースも多いのですが、
重症肺炎などを来して集中治療が必要なケースでは、
その予後は決して楽観出来るものではありません。

また、回復後にも後遺症と思われるような症状が続いたり、
持病の悪化に伴って体調が悪化するなど、
病後の体調不良が多いことも指摘されています。

ただ、その実態は必ずしも明確ではありません。

今回の研究ではアメリカ、ミシガン州の38の病院で、
2020年3月から6月に新型コロナウイルス感染症と診断され、
入院となった1648名の患者の予後を、
退院事例ではその60日後まで追跡検証しています。

その結果、
1648名中24.2%に当たる398名が入院中に死亡しており、
残りの75.8%に当たる1250名が退院しています。
この生きて退院した1250名のうち、
78.0%に当たる975名は自宅に戻り、
12.6%に当たる158名は施設などに入所しています。
退院後60日の時点で、
更に84名の患者が退院後に死亡していて、
結果としてその時点での入院患者全体の死亡率は、
29.2%となっています。
退院後の死亡者は退院患者の6.7%で、
入院中集中治療室に入室していた患者の10.4%でした。
結果として集中治療室に入室した患者のうち、
退院後を含めての死亡率は63.5%でした。
また、退院後60日以内に、
退院患者の15.1%に当たる189名は再入院していました。

退院後60日の時点での生存者のうち、
41.8%に当たる488名は問診が可能で、
咳は呼吸困難などの心臓や呼吸器の症状が、
159名には認められていて、
92名の症状は新型コロナの感染後に発症したか悪化していて、
65名は嗅覚もしくは味覚障害が持続していました。
入院前には働いていた195名のうち、
職場に復帰したのは117名で、
そのうちの30名は入院前により勤務時間が健康上の理由により、
短縮されていました。
残りの78名は健康上の理由で退職したか、
解雇されていました。

このように、
通常の新型コロナウイルス感染症の予後は、
回復して退院した時点で終了と見做されますが、
実際には退院後に長期間体調不良が持続したり、
他の病気を併発したり持病が悪化したりして、
退院後に死亡するケースも多いのが実際です。
退院後60日以上生存していても、
職を失ったり、精神的なダメージから復帰出来ない、
というようなケースも少なくありません。

新型コロナウイルス感染症の予後については、
退院の時点でOKではなく、
より長期の観察を行なって、
それを今後のケアや、
経済的な側面を含めた援助に反映させる必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

オメガ3系脂肪酸の心血管疾患予防効果(2020年コーン油との比較) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
オメガ3脂肪酸とコーン油の比較.jpg
JAMA誌に2020年11月15日ウェブ掲載された、
オメガ3系脂肪酸と呼ばれる青身魚などの脂の成分の、
薬としての予防効果を検証した論文です。

EPAやDHAという、
オメガ3系多価不飽和脂肪酸は、
心血管疾患の予防効果のある成分として有名で、
こうした成分を食事で多く摂った方が、
心血管疾患になりにくい、
という点はほぼ間違いのない事実です。

ただ、このEPAやDHAをサプリメントや薬として服用することで、
明確な健康上の効果を示すのか、
という点については、
まだ明確な結論に至っていません。

日本にはエパデール(及びそのジェネリック)というEPA製剤と、
ロトリガというEPAとDHAの合剤があり、
海外の多くの国とは違って、
処方箋薬として流通しているのが大きな特徴です。
国外ではEPAもDHAもほぼ全てサプリメントの扱いだからです。

エパデールについては、
2007年のLancet誌に掲載されたJELISという臨床試験があり、
コレステロール降下剤のスタチンに上乗せでEPAを使用したところ、
心血管疾患のリスクが低下し、
特にサブ解析では脳卒中のリスクが20%低下した、
というものです。

ただ、その後の多くの同様の臨床試験では、
こうしたEPAの効果は確認されませんでした。

しかし、2019年にNew England…誌に掲載された論文では、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを使用している患者に対して、
1日4グラムという高用量のEPA製剤を用いて、
心血管疾患による死亡などのリスクが25%、
有意に低下したという結果が報告されました。
偽薬を使用した厳密な方法による臨床試験で、
こうした結果が得られたのはかなり画期的なことでした。

今回の臨床試験もこの2019年論文に似通ったもので、
心血管疾患のリスクが高くスタチンを継続使用している患者、
トータル13078名を、
本人にも主治医にも分からないようにくじ引きで2つに分けると、
一方はオメガ3系脂肪酸を1日4グラム使用し、
もう一方はコーン油を代用して、
心血管疾患の発症リスクを比較検証しています。
患者は欧米やアジアなど世界22か国で登録されています。

試験は当初の予定より早期に終了しました。
これは中間解析によって、
コーン油よりオメガ3系脂肪酸の方が優れているという結果が、
ほぼ否定されたためです。

つまり、今回の試験ではコーン油と比較して、
オメガ3系脂肪酸がより心血管疾患の予防に有効である、
とは認められなかったのです。

この問題はまだ解決はされていませんが、
スタチンに上乗せした際のオメガ3系脂肪酸の有効性は、
それほど明確なものとは言えないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

SGLT2阻害剤のメタ解析(2020年) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤のメタ解析.jpg
Diabetes Obesity and Metabolism誌に、
2020年10月11日ウェブ掲載された、
最近非常に評価の高い糖尿病治療薬の、
予後などへの有効性を検証したメタ解析の論文です。

SGLT2阻害剤は、
尿に出るブドウ糖を増加させることによって、
血糖値を下げるという、
新しいメカニズムの薬です。

それが近年注目されているのは、
臨床試験において心血管疾患のリスクの低下や、
死亡リスクの低下が報告されているからです。

最初にそうしたデータが発表されたのは、
エンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で、
それ以降もエンパグリフロジンと比較するとやや見劣りはするものの、
カナグリフロジン、ダパグリフロジンという、
別個のSGLT2阻害剤の臨床試験において、
同種の傾向があることが報告されています。
ただ、カナグリフロジン使用群での下肢切断リスクの増加など、
個別には気になる有害事象も報告されています。

現在2型糖尿病の実臨床において、
GLP1アナログやDPP4阻害剤のインクレチン関連薬と共に、
SGLT2阻害剤は最も広く使用されている薬です。

ただ、臨床試験においては、
この薬は2型糖尿病の基礎薬であるメトホルミンに、
上乗せの形で使用されていることが殆どです。

一方で実臨床においては、
メトホルミンよりも先行して、
SGLT2阻害剤が使用されるケースも、
増えているようにも思います。

今回の検証はSGLT2阻害剤の、
これまでの主だった臨床試験をまとめて解析したメタ解析ですが、
メトホルミンの使用の有無を分けて検証している点が特徴です。

これまでの4種のSGLT2阻害剤の6つの精度の高い臨床試験を、
まとめて解析した結果として、
SGLT2阻害剤の使用は主要な心血管疾患の発症リスクを、
メトホルミンとの併用で7%(95%CI:0.87から1.00)、
単独使用では18%(95%CI:0.71から0.86)低下させていました。
心不全や心血管疾患による死亡リスクは、
メトホルミンとの併用で21%(95%CI:0.73から0.86)、
単独使用では26%(95%CI:0.63から0.87)、
それぞれ有意に低下させていました。

このように、
個々の薬剤の臨床試験が積み上がってゆくにつれ、
明確になってきたことは、
SGLT2阻害剤の使用により、
2型糖尿病の患者さんの合併症の予後は改善し、
それはメトホルミンの併用の有無によらない、
という知見です。

ただ、こちらも多く指摘されているように、
SGLT2阻害剤は尿路感染や脱水など、
多くの副作用や有害事象のある薬でもあり、
安全性の検証も今後継続される必要はありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(7)  コメント(0) 

新型コロナウイルス感染症回復後の検査陽性をどう考えるか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの再陽性例の検証.jpg
JAMA Internal Medicine誌に2020年11月12日ウェブ掲載された、
臨床でも問題になることが多い、
一旦感染から回復した後に、
時間をおいて遺伝子検査が陽性になる現象についてのレターです。

今では必要条件となっていませんが、
以前は新型コロナウイルス感染症の治癒判定として、
24時間を置いての2回のRT-PCR検査で、
いずれも陰性であること、
という基準がありました。

大半の患者さんでは、
発熱や咳などの症状が改善して数日が経過すれば、
検査も陰性になるのですが、
中には一定数、症状はすっかり回復しているのに、
何度検査しても結果は陽性、
ということがあります。

報告によれば、
2から3ヶ月以上RT-PCRの陽性が持続している、
というような事例も報告されています。

ただ、症状の出現から10日以上が経過し、
3日以上無症状であれば、
その時点でウイルスが感染して増殖するという事例は、
報告されていないので、
そうした条件をクリアした時点で、
再度RT-PCR検査をする必要はない、
というのが現状の臨床的な指針となっています。

ただ、実際には検査をして再度陰性が証明されないと、
出社を許さないというような規定を、
社内で決めているような会社もあって、
クリニックでもその対応に苦慮しているところです。

一方で一旦2回のRT-PCR検査で、
いずれも陰性になり治癒が認められたのに、
その数週間後に検査をしたら、
また陽性になった、というような事例も報告されています。

こうした事例が再感染であるのか、
それとも持続感染であるのか、
という点は今でも議論になるところで、
明確な結論が得られているという訳ではありません。

そこで今回の研究ではイタリアにおいて、
新型コロナウイルス感染症と検査で診断され、
症状が回復して3日を経過し、
24時間の間隔で2回行われた鼻腔からのRT-PCR検査で、
2回とも陰性であった176名の患者の経過を追い、
発症から1ヶ月から2ヶ月くらいの時点で、
再度RT-PCR検査を施行して、
陽性となった事例の検証を行っています。

その結果、
検査の行われた176名のうち18.2%に当たる32名で、
RT-PCR検査は再度陽性となっていました。
陽性になった回復患者の血液の抗体価は、
1名を除いてIgG抗体もIgA抗体も陽性化していて、
血清学的には再感染の可能性は否定的でした。
鼻腔のサンプルからウイルスの複製が確認されたのは、
32名のうち1名の検体のみで、
それ以外ではウイルスの周囲への感染可能性は、
否定的と思われました。

このように、
実際に2割近くの患者さんでは、
一旦陰性後に遺伝子検査が陽性化しており、
これは決して稀な現象とは言えないことが確認されました。
おそらく、治癒後もウイルス遺伝子自体は、
鼻腔で検出されることがあるのですが、
抗体は血液中で検出され、
ウイルスの複製は困難であることから考えて、
これは再感染ではなく、
一般的な意味での持続感染でもない可能性が高いと、
そう考えて大きな誤りはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

フルボキサミンの新型コロナウイルス感染症重症化予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
フルボキサミンの新型コロナに対する効果.jpg
JAMA誌に2020年11月12日ウェブ掲載された、
うつ病に使用されるSSRIと呼ばれる薬剤の1つが、
新型コロナウイルス感染症の重症化予防に、
一定の有効性が示唆されたという興味深い報告です。

ただ、症例数が少なく観察期間も少ないことより、
短報と言うべき性質のもので、
まだ結論に飛びつくのは早い、
という点には充分注意が必要です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、
その多くは軽症のまま回復しますが、
一部の事例では急性の臓器不全などを起こして重症化し、
致死的となる場合があります。

こうした重症化は、
病気が発症してから1週間程度してから、
通常8から10日以内で出現することが多く、
それはウイルス自体の増殖にょるより、
身体の免疫系の過剰な反応により、
引き起こされている可能性が高いと考えられています。

従って、抗ウイルス剤の開発と共に、
そうした過剰な免疫反応を抑制するために、
免疫抑制剤の使用などが試みられています。
ただ、その使用のタイミングなどは非常に難しく、
現状一定の有効性が確認されているのは、
ステロイド剤以外にはありません。

2019年のScience誌に、
この点についての興味深い知見が報告されました。
重症感染症の代表である敗血症の実験モデルにおいて、
細胞の小胞体という器官に発現している、
σ1受容体(S1R)が過剰な免疫を調整し抑制するような、
働きを持っていることが明らかにされたのです。
更に興味深いことは、
SSRIと呼ばれる抗うつ剤の1つであるフルボキサミン(商品名ルボックスなど)に、
このS1Rを刺激するような働きがあり、
動物実験のレベルでフルボキサミンの使用により、
ネズミの敗血症の重症化が抑制されることが確認されたのです。

それでは、
フルボキサミンを病初期から使用することにより、
新型コロナウイルス感染症の重症化が予防されるのでしょうか?

今回の臨床試験ではアメリカにおいて、
発症7日以内に診断された新型コロナウイルス感染症患者で、
動脈血酸素飽和度が92%以上で自宅管理、
つまり軽症と判断される事例152例を登録し、
くじ引きで2つの群に分けると、
患者にも主治医にも分からないように、
一方は登録時よりフルボキサミンを15日間使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
15日間における重症化の有無を比較検証しています。

重症化というのは、
呼吸状態が悪化して入院などの治療が必要となることです。

フルボキサミンは、
1日目は夕食後のみ50ミリ、
2日目と3日目は1日200ミリ(朝、夕100ミリずつ)に増量し、
4日目以降は1日300ミリ(朝昼夕100ミリずつ)に増量して、
15日間継続します。
副作用や有害事象で増量が困難となった場合は、
増量はしないで維持することになります。

その結果、
109名が最後まで経過観察を行い、
15日間での重症化は、
偽薬群では72名中6名で認められた一方で、
フルボキサミン群では80名中重症化は0名でした。

今回の結果はまだ確定的なものではなく、
今後より事例を増やし、長い経過も見る必要があります。

ただ、通常使用されている薬剤の、
通常の使用量での使用で、
こうした結果が得られたという意義は大きく、
今後の検証の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(6)  コメント(0) 

松尾スズキ「フリムンシスターズ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フリムンシスターズ.jpg
松尾スズキさんの作・演出による新作ミュージカル、
「フリムンシスターズ」が今シアターコクーンで上演されています。

準備中にメインキャストの阿部サダヲさんが、
新型コロナに感染して、
上演が危ぶまれるような事態がありましたが、
結果的には他に感染が広がることはなく、
無事に初日の幕が開きました。

松尾スズキさんのミュージカルと言うと、
「キレイ」という大傑作があって、
何度も再演を繰り返しています。
それ以降コクーンで何度か新作ミュージカルが上演されましたが、
「キレイ」に匹敵するようなヒットはありませんでした。

僕が松尾さんの芝居を初めて観たのは、
本多劇場の「愛の罰」の初演で、
松尾さんの第一期総決算という感じの舞台でしたが、
その過激さと人物造形の魅力と破天荒な凄まじさに、
とてもとても感銘を受けました。
それ以降はほぼ全ての松尾さんの舞台に足を運んでいますが、
どうしてもあの初見の衝撃の再来を求めてしまうので、
脳内のハードルは限りなく上がって、
結構落胆して劇場を後にすることも多いのが実際でした。

最近では松尾さんも明らかに枯れて来ているので、
その創作の軸足も、
小説や映像に移されているような感じもありますし、
過激を求めたところで、
それを許さない正しさを求める社会があるのですから、
仕方がありません。
そんな訳でこちらも最近は、
同世代の希代の才人の精神世界に向き合うように、
淡々とその世界に寄り添うように作品を観ているつもりです。

さて、今回の作品は、
新宿二丁目を舞台にして、
オカマの集団とそれを嫌う集団との抗争を、
ロマネスク的に組み上げ、
そこに関わった沖縄の霊媒の血を引く主人公の女性によって、
抗争に終止符が打たれて新世界が生まれる、
という祝祭的な物語です。

底辺世界の抗争劇が世界を一変させるというのは、
松尾さんの劇作の以前からの世界観ですが、
以前であればもっとフリークス的な登場人物や、
メンヘラ的な人物が過剰なほどに登場したのですが、
登場しても自殺好きの青年程度で穏当なもので、
ラストも以前は、
世界滅亡、人格崩壊で物語も破綻、
という感じでしたが、
今回は穏当にハッピーエンドが訪れ、
キャスト全員が綺麗な衣装で歌って踊って、
とても爽やかに終わります。

少し前ならガッカリして怒ったと思うのですが、
僕の方ももう枯れてきてしまっているので、
これはこれでありかな、
というくらいに思って、
ぼんやりと舞台を観ていました。

もう昇天しているオカマのボスの皆川猿時さんが、
きらびやかな衣装で登場して、
全体の狂言回しを演じ、
そこに色々な人物や場面を召喚するという趣向は、
以前よりこなれた語り口で安定感があり、
作品としては古典的な味わいです。
ちょっとシェイクスピアみたいでしたね。
「夏の夜の夢」みたい。
松尾さんも古典になった、と言うことかも知れません。

そんな訳で極めて穏当な世界で、
かつての松尾ワールドにのめり込んだ者としては、
複雑な思いはあるのですが、
良くも悪くも今はこうした時代で、
この時代に演劇を上演するとすれば、
こうしたものになるのは仕方のないことだという気がします。
こうした穏当さの鎧に包まれた演劇の上演に、
何か意味があるのかという問いには、
現状答える言葉の持ち合わせはないのですが、
僕は根っから演劇を愛していますし、
松尾さんの脳内世界も大好きなので、
これからも松尾さんの作品世界には、
寄り添ってゆきたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

「さくら」(2020年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
さくら.jpg
西加奈子さんの初期代表作の1つ「さくら」が、
ベテランの矢﨑仁司監督により映画化されました。
主人公の三兄弟には、
吉沢亮さん、北村匠海さん、小松菜奈さんと、
人気者が顔を揃えています。

西加奈子さんの作品は比較的沢山読んでいます。
色々な傾向の作品があるのですが、
最初の「あおい」「さくら」「きいろいぞう」は、
ヒリヒリするようなリアリズムに幻想を織り交ぜた物語を、
饒舌で感情の迸る独特の文体で、
疾走感を持って描いた表現が圧倒的で、
とても感銘を受けました。

「さくら」は家族の崩壊と再生の物語で、
アーヴィングの「ガープの世界」が元ネタと思いますが、
個性的な文体と表現で、
オリジナルとは全く別の肌触りの物語に仕立てています。
1つの家族の物語の中に、
世界が内包されているような大きさがあり、
禁断の愛情から発生した悲劇が、
強く胸を打ちます。

このように原作は間違いなく傑作ですが、
物語自体は突飛な上に、
ある意味グロテスクで悲惨ですし、
その魅力の大きな部分は語り口にあるので、
映像化するのはかなり難しいことが想定されます。

実際に出来上がった映画は、
ほぼ想像の通りと言うのか、
原作への愛情は強く感じられはするものの、
原作の語りの魅力は再現されてはおらず、
それに代わる映像ならではの魅力のようなものは、
あまり感じられる作品にはなっていませんでした。

西加奈子さんの映画化というのは、
ベテラン監督の手をもってしても、
かなり手強いハードルであるようです。

たとえばお兄ちゃんの特殊メイクなど、
とても中途半端ですよね。
やるならもっと徹底してやるべきではないでしょうか。
ラストはさくらが病気になって家族が一丸となるのですが、
これは原作でも「これで終わりなの?」という感じでしたが、
映画ではその弱点がより強調されてしまったようで、
これでは成立していないと感じました。

そんな訳で映画としては不満の残る仕上がりでしたが、
原作の世界がほぼ忠実に再現されているので、
原作のファンであれば、
見てそうガッカリはしないと思います。
逆に原作を未読の方は、
何のこっちゃ、という感じの印象になるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

起立性高血圧と降圧剤治療(SPRINT試験サブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
起立性高血圧と降圧コントロール.jpg
Hypertension誌に2020年11月9日ウェブ掲載された、
起立性高血圧症のリスクについての論文です。

座った姿勢から急に立ち上がると、
血圧はその瞬間には反射的に少し上昇し、
それから速やかに元に戻ります。
心臓の位置が急に変化するので、
循環の動態を維持するために、
反射的に血管の縮まり方などが変化して対応するのです。

この自律神経による調整システムが上手く作動しないと、
立ち上がった時に血圧が大きく変動してしまいます。

良く知られているのは、
立ち上がることによる血圧の低下で、
これを起立性低血圧と呼んでいます。

立ちくらみという表現が一般的には使われるように、
立ち上がった瞬間に頭が真っ白になって、
意識が遠のくような気分になるのは、
この起立性低血圧の典型的な症状です。

この起立性低血圧は、
認知機能の低下や骨折リスクの増加と関連があり、
長期的には心血管疾患のリスクとも関連している、
というデータが存在しています。

一方で立ち上がった時に、
血圧が低下するのではなく異常に上昇する、
という症状もあることが最近注目されています。

これが起立性高血圧です。

上記文献の中にもある一般的な定義としては、
座位から立位を取って1分後に、
収縮期血圧が20㎜Hg以上上昇するか、
拡張期血圧が10㎜Hg以上上昇することが、
起立性高血圧とされています。

やや単純化した区分けとしては、
自律神経の立位に伴う反応が低下していると、
起立性低血圧になる一方で、
自律神経の反応が過剰になっていると、
起立性高血圧症になる、
ということになります。

それでは、起立性高血圧症と心血管疾患リスクとの間には、
どのような関係があるのでしょうか?

今回の研究では、
厳密な血圧コントロールの影響を、
通常の血圧コントロールと比較して、
厳密な血圧コントロールの有効性を示した、
世界的に有名な大規模臨床試験である、
SPRINT試験のデータを二次的に解析して、
血圧コントロールと起立性高血圧症との関連を、
比較検証しています。

その結果、
登録された高血圧の患者さん9329名のうち、
21.2%に当たる1986名は起立性高血圧症の定義を満たしていて、
その9割は拡張期血圧の上昇が認められました。
厳密な血圧コントロール群では、
起立性高血圧がない患者と比較して、
起立性高血圧があると、
心血管疾患リスクは1.44倍(95%CI:1.1から1.87)有意に増加していましたが、
通常コントロール群ではそうした違いはありませんでした。
登録の時点で起立性高血圧がない場合には、
厳密な血圧コントロール群で34%(95%CI:0.56から0.79)、
通常コントロール群に比較して心血管リスクが低下していましたが、
起立性高血圧がある場合には、
厳密な血圧コントロール群で心血管疾患リスクリスクは増加していました。

このように、
SPRINT試験の結果では、
トータルには厳密な血圧コントロールをすることで、
通常のコントロールより心血管疾患リスクは低下していたのですが、
起立性高血圧のある人に限って解析すると、
むしろ厳密なコントロールは心血管疾患リスクを増加させる、
という逆の結果を示していたのです。

この結果は非常に注目すべきものですが、
起立時の変化は拡張期血圧が主だった、
と言う点を考えると、
本当に正確な知見であるのか、
という点に疑問も感じます。

拡張期血圧の測定は収縮期と比べると不安定で、
単純に姿勢により違った値が出る、
という可能性はあるように思うからです。

今後この問題は更なる検証が必要と思いますが、
血圧値に起立性の変化という因子を加えて解析する、
という視点は非常に興味深く、
今後の研究の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(0) 

老人ホームの「密」と新型コロナ感染の重症化リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナーシングホームとコロナ感染.jpg
JAMA Internal Medicine誌に2020年11月9日ウェブ掲載された、
老人ホーム(ナーシングホーム)の密集度と、
新型コロナウイルス感染との関連についての論文です。

高齢者が集団生活をしている老人ホームなどの施設では、
新型コロナウイルス感染症のクラスターがしばしば発生して、
問題となっていることは、
国内外を問わず指摘されているところです。

高齢者がマスクを適切に装着することは困難で、
フロアなどでは密集するリスクが常にあります。
介助者は高齢者にとても密接に関わりますから、
介助者を介した感染も起こりやすいという環境にあります。
おまけに持病をもつ高齢者は免疫力も低下していて、
感染には罹り易く、かつ重症化もしやすいのですから、
これはもう感染リスクが高いのは当然で、
1人の感染がクラスター化するのも必然と、
そう言っても言い過ぎではないように思います。

これまでの疫学データにより、
老人ホームなどの高齢者施設では、
新型コロナウイルスのクラスターが発生し易い、
という点はほぼ間違いがありません。

しかし、一口に老人ホームと言っても、
その居住環境は様々です。

居住環境による感染リスクや重症化リスクの差については、
どう考えれば良いのでしょうか?

今回の研究はカナダのオンタリオ州において、
1つの部屋やトイレを、何人の入居者が使用しているのか、
と言う点を高齢者施設の居住環境の1つの基準として、
その密集度と新型コロナウイルス感染との関連を、
比較検証しています。

オンタリオ州にある、
623の老人ホーム(ナーシングホーム)の入居高齢者、
トータル78607名を対象として、
2020年の3月29日から5月20日の経過観察を施行しました。
居住環境の密集度は、
1つの部屋やトイレを、
2人以上で使用している場合を「密」と判断しています。
密集度を2つに分けた場合、
1.3から1.9が低密度で、2.0から4.0が高密度です。

その結果、
観察期間中に全体の6.6%に当たる5218名が新型コロナウイルスに感染、
1.8%に当たる1452名が死亡されています。

これを施設の密集度で比較すると、
低密度でも罹患率が4.5%に対して、
高密度の罹患率は9.7%で、
死亡率についても低密度が1.3%に対して、
高密度では2.7%の高率になっていました。

このように1つの部屋を2人以上で使用するような環境では、
個室に近い形と比較して、
明確に新型コロナウイルスに感染するリスクも、
死亡するリスクも高くなっていました。

この現象は当たり前のようにも思えますが、
これだけ大規模な検証により、
明確に実証された意義は大きく、
老人ホームや学生寮などでのクラスターを予防するには、
何より相部屋やトイレの共有を避けることが、
一番の対策であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(5)  コメント(0) 

久しぶりに「レセプト」で地獄を見る [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は雑用に追われる予定です。

昨日は更新できませんでした。

保険診療の医療機関は、
毎月10日までに前月の診療報酬の明細(レセプト)を、
支払基金などに提出します。
以前は紙で記載をして印刷したものを、
期限までに医師会を通じてか、
もしくは直接国保連合会や支払基金に提出していたのですが、
最近は電算化が進行して、
殆どの医療機関で電子カルテを導入し、
電算でレセプトを作成して、
それをネットで送る手続きを行ないます。

月の6日から10日までがその提出で、
1日から2日前には提出を済ませたいのですが、
ギリギリになることも多く、
今月は祝日などもあって、
10日の夕方までにレセプトを作成して、
それから夜に送ろうと段取りをしていたのです。

レセプトを送る前には、
レセプトチェッカーに掛けて、
レセプトの様式に誤りがないかどうかをチェックします。
1枚ごとのレセプトでそうした作業が出来ると便利なのですが、
クリニックで導入している電子カルテでは、
そうしたことは出来ず、
全てのレセプトが出来上がってから、
それをまとめてチェックすることになります。

記載のミスや抜けなどで、
10から20件くらいのエラーが表示されるのはいつものことです。

ところが、
今回やけにチェックに時間が掛かり、
何と100件以上のエラーが巻物のように出て来ました。

それが10日の午後9時のことです。

期限はその日の午前0時までです。

見た瞬間に呆然としました。

間に合わないじゃん!
ということです。

何故このように大量のエラーが出たのかと言うと、
「適切な医事コメントが選択されていない」
という記載でした。

たとえば療養費同意書の交付を行なうと、
その点数を入力してから、
医事コメントとして交付の年月日を入力する必要があります。

それは通常カルテ記載と同時に、
コメントを一覧から選んでセットにしたものが登録してあるので、
それを選べば済む話でした。

ところが、
今年の10月1日施行分より、
そのコメントが自由入力ではなく、
厚労省の指定するコメントに変更になりました。
どのコメントを使用する必要があるのかは、
膨大な一覧表が存在していて、
そこから手入力で選択する必要があります。

更にややこしいのは、
電子カルテの場合、
9月30日までは有効であったコメントと、
10月1日以降に必要なコメントが、
全てちゃんぽんでデタラメに並んでいるのです。
その中から正しいものをより分けて入力しなければなりません。

その作業をいきなり100件以上、
1から2時間の間にやらなければならないことになったのです。

出来るのかしら…
呆然となりました。

勿論こうしたことがある、という話は聞いてはいたのです。
電子カルテのメーカーの人にも連絡はしていました。
ただ、コメントは膨大でどれが変更になり、
どれがそのままで良いのか、
という点が確認出来ません。
湿布のコメントが新しくなるよ、
薬剤血液濃度のコメントや腹部エコーのコメントも変わるよ、
という辺りは聞いていて、
実際に9月の提出の時には、
そのコメントがないと警告表示が出ていました。
そのために、9月の時点で警告のないものについては、
問題ないのではないか、
というように思っていたのです。

しかし、それは全くの誤りで、
カルテメーカーの移行の問題もあるのでしょうが、
10月のチェックの時に、
ごっそりとエラーが積み上げられてしまったのです。

突貫工事のようにコメントを切り替え、
どうにかこうにかギリギリで提出に至りました。

そんな訳で今も呆然とつつ、
それでも今日もこれからCOVID-19陽性者に、
結果も説明をして、
それから保健所の届け出をしないといけないので、
書類を整理しつつ待っているところです。

あっ、今お出でになりました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(4)  コメント(1)