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高齢者のマスク装着と酸素飽和度の変化について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
マスクと酸素濃度.jpg
JAMA誌に2020年10月30日にウェブ掲載されたレターですが、
現在問題になることの多い、
高齢者のマスク装着による呼吸状態の変化についての内容です。

公共の場で漏れなくマスクをすることは、
新型コロナと共存する今の生活にとっては、
ほぼ常識と言って良い習慣となりました。

そこで問題となるのは、
マスクを常に付けていることによる、
息苦しさです。

通常心肺機能が安定している健康な人であれば、
マスクが呼吸状態に影響を与えることはありません。

ただ、呼吸機能が低下しているような高齢者では、
マスクによる影響は否定は出来ません。

そこで今回の小規模な研究では、
安静時に血液の酸素濃度が低下しているような病気のない、
65歳以上の高齢者25名を対象として、
マスク使用前と使用中、そして使用後に、
血液の酸素濃度を反映する動脈血酸素飽和度を測定して、
その変化を検証しています。

その結果、酸素飽和度の平均は、
マスク使用前で96.1%、使用中で96.5%、
使用後で96.3%で有意な変化は認められませんでした。
マスクは3層構造の不織布マスクが使用されています。

心肺機能などに問題を持つ人のマスク使用については、
今後も検証が必要ですが、
健常な高齢者のマスク使用については、
当面大きな問題はないと考えて良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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東野圭吾「危険なビーナス」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診ですが、
終日レセプト作業の予定です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
危険なビーナス.jpg
東野圭吾さんの比較的最近刊行されたミステリーで、
今テレビドラマ化されているものの原作です。

東野圭吾さんの作品は、
「鳥人計画」や「魔球」の頃から、
比較的多く読んでいる方ですが、
最近は意識的に軽いタッチのライトノベル的なものと、
本格的な小説とに、
分けて執筆をされているように思います。

「秘密」や「手紙」、「白夜行」などは、
文学作品としても優れたものだと思いますが、
本格ミステリーについても、
軽いタッチのものから、
重厚なもの、
ミステリーの限界に挑戦したようなマニアックなものなど、
多くの振り幅があります。

湯川博士のシリーズなどは、
開始当初は他の作者の有名シリーズの、
明らかな二番煎じという感じで、
あまり高いレベルを目指したものではなかったように感じましたが、
「容疑者Xの献身」の辺りから作者の本気が見え始め、
今では代表作の1つと言って良い、
本格的な小説の柱の1つに成長しています。

ただ、この「危険なビーナス」については、
「マスカレードホテル」のシリーズと同じように、
肩の凝らない、ミステリー初心者向けの、
ライトノベル的な作風となっています。

トーマの有名な「罠」が、
ベースになっているように感じましたが、
それほど深みのある内容ではなく、
犯人の屈折した造形などは、
さすが東野圭吾という感じも仄見えるのですが、
意図的に古いタイプのミステリーに着地しています。

私見では東野さんはかなり意地悪で、
人間観察には独特の冷たさのようなものがあり、
医療や医者は基本的に嫌っているようです。
この作品もそうした点は現れていて、
医療者としては読んでいてつらい感じもあります。
全体的にはほのぼのした軽いタッチですが、
ラストでは主人公の運命を、
ちょっと突き放したように見ている感じがするのは、
東野さんのダークサイドがのぞいている、
という気がします。

これを読むと、
かなりスカスカの内容に、
とても連続ドラマにはならないように感じますが、
ドラマを見てみると、
それがどうして、
ちょっとした人間の駆け引きを引き延ばして、
結構ドラマとしては成立しているのに驚きます。
何もないものを、
何かあるが如くに引き伸ばし続けるのが、
なるほど連続ドラマの極意なのだなあと、
妙に感心しました。

東野さんの作品としては、
それほど気合の入ったものではありません。
コアなファンのみにお勧めです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

追伸;レセプトが終わりません(泣)。
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「罪の声」(2020年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
罪の声.jpg
塩田武士さんの同題の小説を、
「アンナチュラル」などの野木亜紀子さんが台本化し、
「麒麟の翼」などの映画も手掛けている、
TBSのディレクターの土井裕泰さんが監督した映画が、
今公開されています。

これはまあ、スタッフは明らかにテレビドラマなのですが、
内容的にはなかなか堂々たる日本映画に仕上がっていて、
勿論意識はしていると思うのですが、
野村芳太郎監督による松本清張映画を彷彿とさせます。

これは何と言うのかな、
とても立派な映画ですね。

原作を先に読んでいたのですが、
原作も確かになかなか読み応えのある力作なんですね。
でも、映画はある意味原作を越えていると感じました。

主人公の2人の役者さんがとても良くて、
特に星野源さんが素晴らしいですね。
星野源さんの演技が素晴らしいので、
作品の核の部分、
自分の声が知らないうちに犯罪に使われたことに気づいて、
それを一度はないことにしようと思うのだけれど、
同じように声を使われた子供が、
自分とは比べ物にならないくらいに、
そのために不幸になっていることを知って、
家族の秘密を表に出すことを決断するという心理がね、
とてもリアルに説得力を持って表現されているのです。

最後に自分の声を録音した人物と対決するところ、
凄いですよね。
原作でもそこが一番の読みどころなのですが、
その部分の凄味と感動というのは、
間違いなく原作を越えている、
原作が届かない境地に達している、
という気がします。

これね、その部分は原作を少し変えているんですよ。
原作では声を録音した人の意志が、
録音されたテープを見つけるきっかけになっているんですが、
映画はそうではないんですね。
録音した人物には、
過去を清算しようというような意識は全くないんですよ。
この改変が物凄くクレヴァ―で、
野木亜紀子さんの才気を見る思いがします。

構成も非常に巧みで映画的な興趣に満ちています。
主人公2人が手掛かりを追って旅をするところなど、
いいよね、これぞ映画という感じがあります。

唯一不満はラストの処理ですかね。
色々な登場人物のその後を見せるのですが、
ちょっとしつこいですし、
色々やり過ぎて印象がぼけた感じがします。
この部分だけテレビドラマ的なんですね。
ここはもっと映画的に、
ピンポイントで終わって欲しかったと思いました。
後、最後に母子で対面する母親の老けメイクがね、
人工的で駄目でしたね。
感動するところなのに、あれじゃ駄目だよね。
別人を使った方が良かったと思いました。
あそこだけ差し替えたいくらいに感じました。

今年は洋画は公開がなく全滅という感じでしたが、
その代わり邦画は充実していましたね。
「37セカンズ」、「初恋」、「朝が来る」、「浅田家!」、
「宇宙でいちばん明るい屋根」、「ミッドナイトスワン」、
全部良かったですね。
プログラムピクチャーとしては、
「仮面病棟」や「事故物件」も悪くなかったですね。
その中でも堂々たる正攻法という意味では、
「罪の声」が良かったと思います。

お時間のある方は是非劇場に足をお運び下さい。

志のとても高い、
とても立派な日本映画です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス検査65000件拡充、の裏側 [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日で休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

今日は身辺雑記的話です。

新型コロナウイルス感染症は、
未だ国内でも収束の気配を見せていません。
東京は高止まりでかろうじて推移しているという感じで、
急激な増加に向かうリスクも秘めています。
明らかに東京発の感染が、
北海道や大阪で増加を続けています。
仮にこれで東京の感染者が急増して、
旅行の推奨も今のまま続くとすると、
深刻な事態がすぐそこまで迫っている、
という気がします。

もう少し危機感を持つべきではないでしょうか?

現状問題とされているのは、
これから季節性インフルエンザの流行期に入り、
発熱する患者が増加することで、
医療体制が逼迫するのではないか、
という懸念です。

そこで東京都の最近の発表では、
検査可能数を従来の4倍の65000件に拡充し、
全医療機関の4割に当たる2800医療機関で、
発熱患者の診療が出来る体制を整えた、
としています。

「体制を整える」ではなく、
もう「整った」と言っているんですよね。

何故こんなことが可能となったのでしょうか?

今日はその裏側をちょっとお話したいと思います。

クリニックに10月初旬に封書が届き、
それと同じ頃に医師会を通じてファックスも届きました。

内容は「季節性インフルエンザ流行に備えた体制整備にご協力ください!」
というもので、
発熱患者の診療を自院で行なう医療機関は、
対応可能な患者の人数や可能な検査を、
専用のサイトから東京都に申請し、
それを元にして東京都が、
「診療・検査医療機関」の指定を行なうというものです。

クリニックでは発熱患者は、
診察場所を完全に分けて診察をしていますし、
インフルエンザの迅速検査や新型コロナウイルスのRT‐PCR検査も、
既に行政検査の契約を結んで検査をしていますから、
別に協力することはやぶさかではないと言うか、
既に対応をしているのですが、
指定を受けて下さい、ということなので、
真面目にネットから指定を行ないました。

この「お願い」には実は抱き合わせに、
「発熱外来診療体制確保支援補助金」の申請について、
という項目が記載されています。

クリニックで発熱患者を診察することには、
当然感染のリスクがあります。
昨年まではマスク1枚か、
時にはマスクもせずにインフルエンザの検査を行なっていたのですが、
仮にその患者さんが新型コロナウイルス感染症であれば、
油断をしていれば施行している医者が感染してしまいます。
そのため、今年のガイドラインでは、
インフルエンザの検査を行なう際にも、
マスクとゴーグル、手袋に防護衣など、
フル装備で行なうことが求められているのです。

毎回こうした時間を掛けて準備をし診察をするので、
患者さん1人にこれまで以上のエネルギーとコストを要します。

その部分を国や都はどのように考えているのでしょうか?

「発熱外来診療体制確保支援補助金」の内容を読んでみると、
たとえば1日で20人の発熱患者を診察出来るという申請を出し、
それが認められた場合に、
その日10人の患者しか受診をしなかった時には、
その差の10人分の医療費相当分を、
この補助金として補填する、と書かれています。

毎日20人の患者を診ると申請すれば、
その20人分の医療費は、
患者が来なくても補填するというのです。

そんな上手い話があるのでしょうか?

明らかにこの補助金は、
今後の発熱者の増加に対応した体制を作るために、
僕のような弱小の医療機関に与えられた餌なのです。

ただ、実はこれには裏があります。

この補助金は期限内に申請すれば、
そのままの金額が振り込まれるのですが、
それは発熱患者対応に使われることを前提としています。
つまり、それ以外の用途に使うことは許されず、
仮にそうした使用がされなかった場合には、
後日返還が要求されるという仕組みになっています。
更に以前給付がされた、
新型コロナによって経営が悪化した医療機関への、
補助金があるのですが、
それと一体のものとして扱われていて、
総額がそれを超えることも不可となっているのです。

つまり、見かけ上は、
発熱患者を診ることにより、
自動的にお金が入るように思われますが、
実際には色々と条件が付けられていて、
殆ど都の会計から拠出されるお金は微々たるもので、
医療機関としてのメリットは殆どない仕組みなのです。

都から送られて来た資料には、
そうしたことは全く記載されていません。

こうした詐欺まがいの手法により、
2800の医療機関が登録の申請を出し、
そこで検査可能な人数として申請された数字を、
足し合わせたのが都が発表した65000件という検査数になるのです。

税理士さんにその辺りのからくりを聞いたので、
発熱医療機関の登録はしましたが、
補助金の申請はしませんでした。

毎日次々と新型コロナについてのファックスが届き、
それによりまた振り回される日々が続いていますが、
気を引き締めて感染防御に留意しつつ、
冬本番に備えたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染におけるニューロピリン1の役割(その2) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ニューロピリンとSARS.jpg
Science誌に2020年10月20日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の、
新しく見出された感染メカニズムについての論文です。

昨日のブログと関連する知見ですが、
別々の論文として発表されたものです。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
SARSウイルスと同様にACE2受容体にウイルスの突起部分が結合し、
細胞表面の酵素TMPRSS2により変化を受けることで、
細胞内への侵入が可能となります。
その一方で新型コロナウイルスのみの特色として、
TMPRSS2以外の酵素であるフーリンによる代謝を受け、
変化した部位が細胞表面にある、
ニューロピリン1という別個の受容体に結合する性質を持っています。

このニューロピリン1との結合こそが、
SARSと違って全身の臓器障害を来す、
今回の新型コロナウイルスの特徴を説明できる可能性があるのです。

今回の論文では、
ACE2やニューロピリン1を発現させた培養細胞に、
こちらも新型コロナウイルスに似せた実験用のウイルス用粒子を感染させ、
どのような条件の組み合わせで、
感染が増強するのかを詳細に検証しています。

その結果、
ACE2とTMPRSS2の組み合わせにニューロピリン1が加わると、
強力に感染感受性が高まります。
ただ、ニューロピリン1単独では、
ウイルスはその細胞に感染することは出来ません。
ACE2とニューロピリン1、
場合によってはニューロピリン1とTMPRSS2との組み合わせによって、
感染が成立するようになるのです。

つまり、フーリンという酵素の存在下で、
ニューロピリン1はウイルスのスパイクと結合しますが、
それだけでは感染は起こらず、
ACE2など他の要素が伴った時に、
その感染をしやすくするような働きをしているのです。

肺などACE2の発現が多い組織以外にも、
今回の新型コロナウイルスの感染が起こっているように思われるのは、
このニューロピリン1による感染増強作用が、
強く働いている可能性がある訳です。

今回のおまけ的なデータとして、
新型コロナウイルスに感染して死亡した患者の解剖所見において、
嗅粘膜上皮細胞に、
ウイルスの感染と共にニューロピリン1が高濃度に存在していることが、
確認されていて、
これは新型コロナウイルス感染症に特徴的な嗅覚障害が、
ニューロピリン1と関連することを示唆しています。

このように、今回の知見により、
これまで謎であったSARSと新型コロナウイルス感染症との違いが、
少し説明可能となったように思います。

今後はこのニューロピリン1の経路を遮断するような治療が、
果たして臨床的にも有効であるかどうかを含めて、
今後の研究の進捗に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染におけるニューロピリン-1の役割 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はインフルエンザワクチン接種と往診で、
都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です
今日はこちら。
ニューロピリンと新型コロナ.jpg
Science誌に2020年10月20日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスの新しい感染経路についての論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
人間の身体の細胞にある、
ACE2という受容体に結合することにより感染します。
その後にもう1つのステップがあり、
コロナウイルスに特徴的な表面の突起(スパイク)が、
感染細胞にあるセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素により、
変化(プライミング)を受け、
それにより細胞内に侵入することが出来ると考えられています。

この感染のメカニズムは、
基本的に以前のSARSウイルスと同じです。

その一方でSARSウイルスと、
今回の新型コロナウイルスとの間には、
スパイク部分のアミノ酸配列に一部異なっている部分があります。
この違いにより人間の細胞表面にある、
TMPRSS2とは異なるセリンプロテアーゼの、
furin(フーリン)にも結合して変化し、
今度は細胞表面にあるneuropillin-1(ニューロピリン-1)というタンパク質に、
結合することが可能となります。

それではこのフーリンによるスパイク蛋白の変化と、
それによるニューロピリン-1との結合は、
新型コロナウイルスの細胞への感染に、
どのような影響を与えるのでしょうか?

今回の論文では本物の新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)を、
培養細胞に感染させて、
感染に対するフーリンとニューロピリン-1の関与を検証しています。

その結果、
実験的にフーリンによって変化したスパイクと、
細胞表面にあるニューロピリン-1が結合することが証明され、
この結合を阻害することで、
新型コロナウイルスの細胞への侵入(感染)が、
抑制されることが確認されました。

この現象がSARSと新型コロナウイルスの感染との違いに、
何処まで関連しているのかは現時点では不明ですが、
これまでの想定とはまた異なる、
新型コロナウイルスの感染メカニズムが解明されたことは、
非常に重要な知見であることは間違いなく、
今後この知見が病気の治療や予防に、
結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
きめつのやいば.jpg
何を今更という感じですが、
社会現象的な大ヒットとなっている「鬼滅の刃」の映画版を、
公開後確か1週間くらいの時点で観て来ました。

原作は一気読みして、
アニメ版は集中放送で補足しました。

これは特徴としては、
アニメは物凄く原作を忠実に再現していて、
台詞もほぼ原作と同一です。
ギャグのパートもそのまま映像化されています。
台詞は結構説明調で長いのですが、
その語り物のような形式を、
崩すことなくアニメ版は組み上げられています。

映画はアニメの最終話からそのまま繋がるように始まり、
原作コミックの2巻分をほぼ忠実に映像化して、
そのまま続き物として終わります。
映画としての独立性を全く考慮していない、
という点が大きな特色で、
映画をいきなり観ると全く補足は出来ず、
もやもやしてしまうと思うのですが、
作品世界としてはそれで統一感が得られているのです。

この映画単独で見ると、
そこまで社会現象的なヒットをする、
というような内容とは思えないのですが、
コロナ禍の映画館の状況などと上手くマッチして、
こうした結果をもたらしたように思います。

個人的には映画のパートはあまり好きではなくて、
浅草編と蜘蛛の山、
吉原編が好きですが、
これは多分好みが分かれるところで、
こうした多彩なエピソードが、
組み上げられているところに、
この作品の魅力があるように思います。

いずれにしても、
原作は完結していても、
アニメはまだ前半戦で、
映画もまだ2本くらいは出来る感じですから、
今後の展開を期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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ダイエットで膵臓の形態異常が改善する [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は月曜日ですが、
クリニックは臨時の休診となります。
ご迷惑をお掛けしますがご了承下さい。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
糖尿病の治療と膵臓の組織.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に、
2020年10月5日ウェブ掲載された、
体重コントロールによる糖尿病の改善が、
膵臓の形態に与える影響についての論文です。

糖尿病の患者さんにおいては、
MRI検査などで計測される膵臓の重量は減少し、
その辺縁の形状も不整となることが知られています。
膵臓のこうした形態的変化が、
インスリン分泌、特に食後の追加分泌に関連がある、
という知見もありますが、
膵臓の形態のこうした変化が、
糖尿病の原因であるのか、
それとも結果であるのかは、
現時点では明らかではありません。

それでは、血糖値を改善し、
体重を正常化することで、
膵臓の形態異常が元に戻るということはあるのでしょうか?

今回の研究ではイギリスにおいて、
別個に行われた糖尿病の臨床研究の対象者を活用することにより、
その問題の検証を行っています。

年齢が20から65歳で、
BMIが27から45と過体重から肥満があり、
2型糖尿病と診断されている90名を、
くじ引きで2つの群に分けると、
一方は通常の糖尿病の治療のみを行い、
もう一方は超低カロリーのダイエット期間から、
体重管理の厳密な治療を継続する、
ダイエット介入をそこに追加して、
2年間の経過観察を行っています。
介入群が64名で、通常治療群が26名、
それ以外に年齢や体重なをマッチングさせた、
糖尿病のない健常コントロール群25名も比較されています。
膵臓の形態は複数回行われたMRI検査で計測されています。

その結果、
登録時における平均の膵臓容積は、
糖尿病患者群トータルで61.7㎠、健常群で79.8㎠で、
糖尿病では有意に膵臓容積が縮小していました。

介入後2年が経過した時点で、
血糖の正常化に成功した介入群では、
膵臓容積が9.4㎠(95%CI:6.1から12.8)増加したのに対して、
血糖が正常化しなかった介入群では、
膵臓容積の増加は6.4㎠(95%CI: 2.5から10.3)に留まっていました。
登録時点で膵臓の辺縁の不整は、
糖尿病群で多く認められ、
介入後に血糖が正常化した群のみで改善していました。

このように、
積極的介入でダイエットを行い、
血糖値が正常化すると、
インスリン分泌が正常化するのみならず、
形態的な膵臓の異常も、
正常化に向かうことが確認されました。

糖尿病は治らない病気と考えられ、
確かにそうした事例も少なからずあるのですが、
その一方で食事や運動の管理を行うことで、
血糖値のみならず膵臓の状態も元に戻る可能性がある、
という今回の知見は大変有意義なもので、
今後どういう患者さんでそうした改善が見込めるのか、
といった検証を含め、
知見が積み重ねられることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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唐十郎「さすらいのジェニー」(唐組・第65回公演) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
さすらいのジェニー.jpg
唐組の第65回公演として、
1988年に下町唐座で初演された「さすらいのジェニー」が、
唐組版として上演されました。

元々は2020年春に上演の予定でチケットも買っていたのですが、
新型コロナの影響で延期となり、
日程も縮小して秋の下北沢での上演となりました。
チケットは振り替えです。

初演は2回観ています。
上演期間は結構長かったのですが、
急遽追加公演があって、
柄本明さんが演じたベロ丸を、
麿赤児さんが演じるという趣向でした。
状況劇場の退団後に、
麿さんが唐先生と一緒に舞台に立つことは、
それまで一度もなかったので、
これは絶対行かないと、と思い、
二度目の観劇となったのです。

ただ、舞台成果はそれほど充実したものではありませんでした。

端的に言えば、
下町唐座という安藤忠雄さんによる仮設大劇場が、
唐先生のお芝居には、
あまり合っていなかったのですね。
何より大きすぎて、客席から舞台を見下ろすような、
普通の劇場だったので、
劇の雰囲気との間に大きな乖離がありました。

舞台設定もね、
保健所の前の道路が水没している、
というト書きなのですが、
初演の舞台は大きなプールになっていて、
とてもそんなイメージじゃないのですね。
3幕で本の巨大化した背表紙が書き割りのように出て来るのですが、
舞台の高さが埋まらないので、
とても間抜けに感じました。

その点今回の久保井研さん演出の舞台は、
とても等身大に作られていて、
ラストなどはもう少しスケール感が欲しいな、
というようには思うのですが、
初演より作品世界は遙かに明確になっていて、
とてもとても分かり易い、
唐先生の下町大冒険の世界観が体現されていました。

天井は初代の状況劇場の紅テントがそのまま使われていて、
両サイドは換気のためにふさがず、
周囲をボードで仕切っていました。
いつものテントより野外に近い雰囲気が、
またミニマルでとても良い感じです
雨天は最悪であったようですが、
幸い観劇当日は雨は降らず、
唐先生の世界にどっぷりと浸ることが出来ました。

音効は一部初演のものが使われていました。
初演は五輪真弓の「恋人よ」の前奏が、
何度も流れるのですが、
それは使われていませんでした。

そんな訳でいつもながらとても充実した、
今ではもうアングラ文化財として、
未来永劫守りたいような素敵な世界で、
勿論そうした保守的な観点は、
アングラの本来とは相容れないものなのですが、
唐先生と共に青春を過ごしたかつての演劇青年としては、
この甘美な郷愁に抗いがたいものを感じているのです。

素敵でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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