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新型コロナウイルス感染症治療薬ガイドライン(WHO) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
WHOガイドライン コロナウイルス.jpg
British Medical Journal誌に2020年9月4日ウェブ掲載され、
同年10月15日にアップデイトされた、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、
WHOによる薬物治療ガイドラインです。

現行多くのガイドラインにおいて推奨されているのは、
人口呼吸器管理が必要なような重症事例において、
抗ウイルス剤レムデシビルと、
ステロイド剤(主にデカドロン)の全身投与です。
日本においてもこの2種の薬剤のみが、
新型コロナウイルス感染症の保険治療が認められています。

このうちステロイドの使用については、
RECOVERYという大規模臨床試験において、
重症の事例での36%の死亡リスク低下が確認され、
JAMA誌のメタ解析においても、
治療後28日の時点での34%の総死亡リスクの低下を認めています。
そうした結果を受けて今回のガイドラインにおいても、
酸素飽和度が90%未満となったり、
呼吸数が1分に30回を超えるような呼吸困難の状態では、
ステロイド治療を行うことが比較的強く推奨されています。

この場合のステロイドの使用量は、
デカドロン6ミリグラムを7から10日使用する、
というのが基本的な使用法で、
それ以外にプレドニンを1日40ミリグラムなども、
代用として使用が許可されています。

一方でレムデシビルについては、
最初の中国での臨床試験では明確な効果が確認されず、
その後中国以外の主に欧米での臨床試験において、
入院事例の快復までの期間を短縮する効果が確認され、
治療後29日時点の総死亡のリスクを、
27%低下させる傾向を示しましたが、
有意な差は付いていません。

この結果をどうとらえるのかは微妙なところですが、
WHOの今回の判断は、
トータルに見て有効とは言い難い、というもので、
最初のガイドラインでは弱い否定という判断になり、
10月のアップデイトでは、
明確に推奨しない、という表現になっています。

文面を読むと、
何となく中国の臨床試験の方に、
より重きを置いているというような感じがあり、
WHOの立場を考えると微妙な感じもするのですが、
客観的に見てステロイドは短期の生命予後を有意に改善していますが、
レムデシビルはそうではないので、
そうした観点からは今回の判断にも妥当性がある、
というようには言えるかと思います。

そんな訳で候補薬は多くあるものの、
結果として現時点で推奨しうるのは、
重症の事例におけるステロイドのみ、
というのは心細い感じがありますが、
良くも悪くもそれが今の医療の現状なのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「佐々木、イン、マイマイン」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックはいつもは休診ですが、
本日は区民健診の休日当番日なので、
午前中はこれからクリニックに行きます。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
佐々木、イン、マイマイン.jpg
MVなどでも才気を発揮している、
新進気鋭の内山拓也監督の長編第2作で、
作り手の思いが迸るような青春映画です。

藤原季節さん演じる主人公は26歳のフリーターで、
俳優を目指しているものの目標を失い、
もう別れた恋人と微妙な同棲生活を続けています。
そんな主人公が10年前の高校生の頃に、
異形の個性的なキャラを持つ同級生であった、
「佐々木」を思い出し、
その思い出と現実とが交錯するうちに、
「佐々木」のその後も明らかになるという物語です。

時間は現在(おそらく2019年)と、
高校時代の2009年を往還します。

これね、
主人公と佐々木の2人の人生を俯瞰する、
と言う感じの物語なのですが、
主人公が不愛想でキレやすくて、繊細で、
結構「面倒な奴」にも関わらず、
それほど抵抗なく主人公の視点で、
最後まで物語を見続けることが出来るのは、
作り手の役柄への愛情が、
素直に感じられるからだと思います。

オープニングに2つの人生が交錯するのは、
北野武監督の「キッズリターン」を彷彿とさせます。
MV的に一気に加速して、
編集のリズムとスピード感で見せきった感じのあるラストは、
それほど斬新とは思わないのですが、
印象的で心に残ります。
ただ、あのラストを成立させるためには、
もう少し前半からリアルと幻想とが、
入り交じる感じが欲しいですね。

陰影のある画面は美しく、
会話の時などの切り替えしに、
ハッとするような味があります。
ただ、アップの長回しで、
役者さんの涙を待つ、
というような場面が幾つもあって、
これはくどくて頂けないな、
というように感じました。
こういう演出は、
観客としては却って泣けないのではないでしょうか?

主人公と佐々木のキャラには、
多分下敷きとなる実人生があるのですね。
その思い入れは強く感じるのですが、
良いところもある反面、
主人公と恋人との関係などは、
「どうでもいいよ」というようにも感じました。
夢の話をするのも、何か中途半端でしたね。
また、佐々木の死因についても、
かなり唐突ですし、
無理があるように感じました。
カラオケボックスで1人で歌を歌っていた女性をナンパする、
というのは面白いと思いました。
このようにエピソードにかなりムラがあって、
必ずしも1つに収斂しないという感じなので、
もう少しエピソードを整理して、
フィクションとしての練り上げが欲しい、
というようには感じました。

総じて完成度のそれほど高い映画ではなく、
観る人によっては退屈に思えると思いますが、
作り手の熱量は間違いなく高く、
青春映画のお好きな方には、
観て損はない1本ではあると思います。

この作り手達のこれからの映画も楽しみです。
頑張って下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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佐木隆三「身分帳」 [小説]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
身分帳.jpg
2021年に西川美和監督が、
「すばらしき世界」という題名で公開する新作映画の原作、
佐木隆三さんの「身分帳」を、
この間の連休に読みました。

これは不遇な生い立ちから10代から犯罪を繰り返し、
その半生の殆どを刑務所の中で過ごした、
実在の人物の満期出所後の人生を描いた作品で、
佐木隆三さんは実際にその人物と交流し、
取材を重ねてこの作品を書き、
モデルとなる人物が生きているうちに刊行されているのですが、
主人公の名前は変えられていますし、
実際には主人公に介入していた作者の存在は、
ないものとして書かれています。
つまり、事実を元にしてはいますが、
ノンフィクションではなく小説なのです。

主人公はかなり癖の強い人物ですし、
暴力沙汰や訴訟、恫喝は日常茶飯事ですから、
ある程度は本人を美化する部分がないと、
本を出すことに同意が得られるとは思えません。
従って恣意的に事実は改変された部分はありそうです。
こうした手法は、
現在ではおそらく成立しないもののように思います。

その是非についてはともかくとして、
作品自体は非常に魅力的です。
驚くほど純粋で理論的でもありながら、
直情的で暴力的で抜き身の刀のような部分のある主人公の造形は、
実在の人物ならではの凄みがあります。
周辺の市囲の住民との交流が、
また滋味深く素敵なのです。
清濁併せ飲むというのか、
個々の人物がとても人間的に、
良いところも悪いところもあり、
またその時々の気分によって、
相手に対する対応も変わる人物として、
良い意味でも悪い意味でもいつも態度の一貫している主人公と、
明瞭な対照を見せています。

映画版ではこの主人公を、
役所広司さんが演じるとのことで、
これはもう当代の役者さんの中では、
間違いなくベストのキャスティングなので、
とても愉しみです。

ただ、映画は原作の昭和61年という時代背景を、
現代に移すとしていて、
その点は非常に心配です。

果たしてこの、
如何にも昭和という物語が、
現代で成立するのでしょうか?

今の時点では、
とても成立しないように思いますが、
そこは手練れの西川美和監督のことですから、
見事に換骨奪胎された「身分帳」の世界を、
まずは期待して公開を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の判定法 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの嗅覚障害の判定法.jpg
査読前の論文を公開しているmedRxiv誌に、
2020年7月6日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の意義を、
その測定法により検証した論文です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、
特徴的な症状の1つとして、
嗅覚障害と味覚障害があります。

これは典型的には急に殆どの嗅覚と味覚が、
なくなるというかなり特異なもので、
勿論他の感冒でも鼻閉などに伴って、
同様の症状が起こることがありますが、
それはもっと軽微なもので、
明確に別の所見として区別の出来るものです。

嗅覚障害と味覚障害とが並列に論じられることもありますが、
これまでの知見により、
おそらく嗅覚障害の方が本質的な所見で、
味覚障害は嗅覚障害に伴って起こる、
自覚障害に過ぎないと思われます。

この症状が新型コロナウイルス感染症で生じる頻度は、
報告によりかなりのばらつきがあります。
それも5%から98%という、
とても同じ所見の解析とは思えないばらつきです。
その大きな要因は、
嗅覚障害の診断が、
臭いの試薬などを用いて客観的に行われている場合と、
患者さんの聞き取りにより、
主観的に行われている場合とが、
混在している点にあるように思われます。

今回の研究では、
これまでの34の臨床データをまとめて解析する、
メタ解析の手法で、
新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度を、
その検出法により比較検証しています。

その結果、
診察により客観的に診断された事例においては、
新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度は、
77%(95%CI: 61.4から89.2)であったのに対して、
患者の聞き取りによる診断では、
45%(95%CI: 31.1から58.5)と大きな差が認められました。

このように、
実際には従来言われていたより、
新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の頻度は高く、
かなり特異的な所見として、
その成因を含めて検証する必要がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症の患者との接触と感染リスク(シンガポールの疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19の関連リスクと行為との関連.jpg
Lancet Infectious Disease誌に2020年11月2日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の感染が、
広がり易いのはどんな状況かを、
具体的に検証したシンガポールの報告です。

家庭内感染や職場での感染拡大が急速に進んでいる現在、
非常に重要な知見を含んでいると思います。

シンガポールにおいては、
新型コロナウイルス感染症の感染者と接触した人や、
その家族は、全てサーベイランスと検査が行われています。
今回のデータはその結果をまとめたものです。

2020年の1月23日から4月3日の間に、
1114名の新型コロナウイルス感染症と診断された感染者の、
濃厚接触者7770名(家庭内1863名、職場内2319名、それ以外の接触者3588名)を、
2週間経過観察し、
二次感染とそのリスクと思われる行為との関連を検証しています。
この場合家族以外の濃厚接触は、
2メートル以内の距離で30分以上接触した場合と定義されています。

濃厚接触者7770名のうち、
96.8%に当たる7518名で解析は成功していて、
家族内で5.9%、職場内で1.3%、それ以外の接触で1.3%の、
二次感染が認められました。
これは相当生活に注意していても、
このくらいの感染リスクはあるという意味です。
症状が出現した時点で遺伝子検査を行うというやり方では、
62%では診断は見落とすと推定され、
36%の感染は無症状でした。

感染リスクを高める行為としては、
家庭の同じ寝室で暮らすことは5.38倍(95%CI:1.82から15.84)、
感染者と30分以上話すことは7.86倍(95%CI: 3.86から16.02)、
それぞれその行為をしない場合と比較して、
家族内感染のリスクを有意に高めていました。
家族以外の感染では、
2人以上の感染者との接触で3.92倍(95%CI2.07から7.40)、
感染者との30分以上の会話で2.67倍(95%CI:1.21から5.88)、
感染者との車の同乗で3.07倍(95%CI:1.55から6.08)、
それぞれ有意に二次感染のリスクを高めていました、
一方で同じ物体への直後の接触や、
食べ物の同皿からのシェア含む一緒の食事、
トイレの共同使用については、
有意な感染リスクの増加は認められませんでした。

要するに、
30分を超える会話は、
たとえマスクをしていてもしない方が良く、
タクシーに乗り合わせるようなことはするべきではなく、
家族は同じ部屋で寝るのは不可ですが、
気をつけていれば食事や洗面、
トイレのリスクはそこまでではなく、
接触感染にはそこまで神経質になることはなさそうだ、
という辺りが現時点での結論に、
上記データからはなるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症のウイルス拡散期間(メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は事務作業などの予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
COVID-19ウイルス拡散期間.jpg
Lancet誌に2020年11月19日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
ウイルス増殖期間と感染可能性とを検証した、
システマティックレビューとメタ解析の論文です。

第3波と呼ばれるような感染拡大が国内に広がり、
「個々の自覚と感染対策をより厳格に」とは言うものの、
常日頃から気をつけている人は、
「言われるようなことは全てしているし、
これ以上何をどうすればいいの?」
というような気分であると思いますし、
一方で「俺は俺の好きなように生活するんだ!」という人は、
何を言われても言うことは聞かないし、
気をつけることもないのですから、
これはもうどうしようもありません。

そこで矢張り医療従事者の立場としては、
どのような条件で感染が拡大するのか、
どのような状況では感染は広がらないのか、
そうした点についての科学的により正確な知見を、
見つけてゆくしかない、という気がします。

今回の研究では、
これまでの実際の患者データをまとめて解析する手法で、
新型コロナウイルスが感染者の身体でどのくらいの期間検出され、
どのくらいの期間周囲への感染が成立してしまうのかを、
他のコロナウイルスとも比較して検証しています。

新型コロナウイルスについての79の研究の、
トータル5340名のデータを解析した結果として、
上気道における平均のウイルス遺伝子検出期間は、
17.0日(95%CI:15.5から18.6)で、
下気道では14.6日(95%CI:9.3から20.0)、
便中では17.2日(95%CI: 14.4 から20.1)、
血液中では16.6日(95%CI:3.6から29.7)、
となっています。
報告された最も長い遺伝子検出期間は、
上気道では83日、下気道で59日、便中では126日、
血液中で60日となっていました。

この遺伝子検出期間は、
年齢が高くなるほど長くなっていました。

これだけ長期間身体の各所からはウイルス遺伝子が検出される一方で、
発熱などの症状が出現後9日目を超えて、
生きて増殖可能なウイルスが検出された事例はありませんでした。

つまり、ウイルスの遺伝子自体は、
感染後非常に長期間検出されるのですが、
ウイルスの増殖は症状出現後9日以降は検出されず、
そのため感染者からの二次感染の可能性は、
それ以降は成立しないと考えて、
大きな問題はないのです。

新型コロナウイルスのウイルス量は、
症状出現後1週間が最も多く、
SARSウイルスの10から14日、
MERSウイルスの7から10日とは対照的となっていました。

新型コロナウイルのRT-PCR検査の陽性は、
症状のある時点での病気の診断のためには有用ですが、
周囲への感染可能性の指標には全くならず、
陰性になるまで隔離を強要したり、
検査を繰り返すことには科学的意味がないばかりか、
感染者の不安を煽り、周囲の差別感情を惹起する、
という点でむしろ有害です。

現状有症状の場合には、
症状出現後10日以降で無症状であれば、
基本的に周囲への感染リスクはないと、
そう考えて大きな問題はなさそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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癌の治療の遅れと生命予後(コロナ禍の医療の問題) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
がんの治療遅れと死亡リスク.jpg
British Medical Journal誌に2020年11月4日ウェブ掲載された、
癌の診断後の治療の遅れが、
患者さんの生命予後に与える影響についての論文です。
何故かPDFファイルが入手不可だったので、
まとめ画像でのご紹介です。

癌は進行性の病気なので、
癌と診断された場合には、
速やかに治療を行う必要があります。

ただ、たとえば手術が必要であるとして、
病院で手術が可能な件数というものがありますし、
手術を行うのは人間ですから、
当然順番に行うということになり、
それなりの待機時間というものが必要になります。

通常の進行度の癌の場合、
1週間や2週間の違いが生死を分ける、
というようなことは考えにくいのですが、
それが1か月になり2か月になるとどうか、
というように考えると、
問題はそう単純ではありません。

特に今大きな問題となっているのは、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響です。

院内感染が起これば病棟閉鎖や手術中止となりますし、
そうしたことがなくても、
新型コロナの診療を優先する観点から、
患者数が急増すれば、
通常の手術件数は減らさざるを得ない、
というような状況が生じます。

実際にクリニックを受診されて、
腎臓癌と診断されたある患者さんは、
手術予定の病院で新型コロナの院内感染が発生したため、
当初の予定が2か月延期となってしまいました。

こうした延期により、
その患者さんの生命予後には、
どれほどの影響があるのでしょうか?

臨床上では非常に重要な問題ですが、
実際にはこれまでそうした点についての、
精度の高いデータはあまり存在していませんでした。

今回の研究はこれまでの臨床データをまとめて解析した、
システマティックレビューとメタ解析ですが、
この問題についての1つの見方を提供しているものです。

手術の遅れや集学的治療の遅れなど、
様々な条件のデータを解析したところ、
そのうちの13の条件で、
治療の遅れによる有意な死亡率の増加が認められました。

データのあるのは、
膀胱癌、乳癌、大腸癌、頭頚部癌、非小細胞肺癌の、
5種類の癌ですが、その手術が4週遅れる毎に、
死亡リスクは6から8%の幅で増加が認められました。
乳癌が8%と最も高く、
膀胱癌、大腸癌、頭頚部癌が6%、
非小細胞肺癌のみ有意な増加は認められませんでした。

一方で手術以外の放射線治療や集学的治療の遅延については、
データにかなりばらつきが大きく、
中では頭頚部癌に対する放射線治療が、
4週遅れる毎に9%の死亡リスクの増加に繋がっていました。

このように、
特に乳癌の手術や頭頚部癌の放射線治療において、
4週を超えて治療が遅延することで、
その生命予後に与える影響は大きく、
こうしたデータを元にして、
患者さんに大きな不利益が生じないように、
コロナ禍においての適切な治療プランが、
練られることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「medium 霊媒探偵城塚翡翠」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
メディウム.jpg
相沢沙呼さんによる2019年刊行のミステリーで、
ミステリーマニアには非常に評価が高かった作品です。

少し前に読んでみました。

霊媒の美少女と推理作家がタッグを組んで、
色々なタイプの事件を解決するという、
オムニバス形式のミステリーで、
それが中途から意外な展開を見せ、
凝りに凝った解決編に至ります。

確かに凝っているのですが、
全ての事件を2通りの方法で論理的に解決する、
というものなので、
マニア以外には、
「それがどうした、面倒くさいな」という感じがしてしまうのと、
犯人はロジックは異なっていても結局は一緒なので、
何か詰まらなく感じてしまうのです。

これ、予備校で有名教師が数学の問題を、
沢山の解法で解いて、
それに感心するのに似ていますよね。
そういうのを面白いと思う人には向いている作品です。

キャラクターが薄っぺらで一昔前の漫画レベルなのと、
一応意外な犯人として想定されているのが、
結構丸わかりなのも、
マニア以外の一般の読者の印象を悪くしていると思います。

マニアにとっては凝りに凝った趣向と、
エレガントな解法があればそれでいいんですよね。

その意味では傑作なのだと思います。

個人的にはこうした凝り方はあまりツボではありませんでした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「泣く子はいねぇが」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

朝から老人ホームに呼ばれて行って、
今帰って来たところです。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
泣く子はいねいが.jpg
是枝裕和監督に見いだされた俊英、
佐藤快磨監督長編映画デビュー作です。

秋田の「ナマハゲ」がモチーフになり、
仲野太賀さん演じる若者が、
大人としての自覚のなさから妻と子など全てを失い、
失った家族を取り戻そうと、
奮闘する姿を描きます。

これはちょっとつらかったですね。

ラストまでともかく救いの欠片もない物語が続きますし、
主人公にあまり共感出来る感じがないので、
ひたすら傍観者的に、
つらい物語を眺めている、
というような感じに終始します。

ラストは確かにちょっと面白いセンスで、
「卒業」のラストのダーク・ヴァージョンという感じがあるのですが、
もう一押し突き抜けた感じが欲しかった、
というように思いました。

オープニングで既に太賀さんと吉岡さんの夫婦は、
仲が悪く険悪な雰囲気なのですが、
「もう限界」とか「なんで笑うの?」みたいな台詞があるだけで、
具体的に何故この2人が上手くいかなくなったのか、
という描写が何もないので、
最初から嫌な気分になるだけで釈然としません。
それ以降も同じような感じで、
「嫌な雰囲気」というものだけが延々とあって、
その展開も説明も描写としては何もないので、
物語としての膨らみを感じません。

太賀さんは熱演で代表作と言って良いと思います。
妻役の吉岡理帆さんはほぼノーメイクで、
かなりこれまでのイメージとは異質な感じを出しています。
ただ、この役は吉岡さんでなくて良いのに、
という感じは拭えませんでした。

そんな訳で結構個人的には苦痛な観賞だったのですが、
師匠の是枝監督のデビュー作「幻の光」も、
ロードショーで観て、
ともかく詰まらなくて苦痛で苦痛で仕方がなかったので、
佐藤監督もこれから大化けして、
僕はまたその不明を恥じる結果になるかも知れません。
確かに「幻の光」も、
嫌な感じの雰囲気だけが延々とあって、
台詞はボソボソと少しあるだけで、
後は自然描写だけ、という感じの映画でした。
そう思うと似ていますね。

映画は難しいと感じました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドクターデス.jpg
中山七里さんの「ドクター・デスの遺産」という、
刑事もののシリーズ小説が、
綾野剛さんと北川景子さんという人気者のキャストで映画化されました。

これは、どうなんでしょうかね、
独立した映画という感じがあまりなくて、
テレビドラマのシリーズ終了後の映画化か、
そうでなければ、
ドラマ開始前のスペシャル編、
という感じの作品です。

オープニングタイトルもね、
テレビドラマみたいなんですよね。
ラストもそんな感じで終わります。
特別どぎつい場面もなく、
テレビでも全然OKという感じの作りです。

実際にそうなのかも知れませんし、
ドラマの企画があったのだけれど、
コロナのためか何かで流れてしまって、
それで映画版のみが残った、
ということなのかも知れません。

詰まらなくはないのですが、
独立した映画として観ると、
かなり物足りないですし、
あまり評価は出来ないなあ、という感じの仕上がりです。

原作も読みましたが、
まああまり大したことはないんですよね。
量産品の警察小説という感じで、
あまり意外性もワクワク感もないですし、
テーマが安楽死で、
作者の主張が結構煩く書かれているのですが、
医療従事者としては、
とてもとても同意出来るような見解ではありません。
嫌になるな、という感じです。
カリウムを注射して殺すのですが、
死体の採血でそんなこと分からないでしょ。
その辺もかなりいい加減だなと感じました。

映画版は原作の作者の主張みたいなものは、
あまり取り上げてはいなくて、
少しゴタゴタしたミステリー的な趣向も、
かなりバッサリ、カットしてしまっています。
犯人の設定のみ残して、
それ以外はシンプルにしてしまった感じです。
そのこと自体は悪くないと思うのですね。
ただ、映画的な興趣みたいなものがあまりないので、
せっかくシンプルにしてムードで見せようという趣向なのに、
ムードはあまり高まらなかった、
という印象でした。

綾野剛演じる刑事が事件に巻き込まれる感じは、
明らかに「セブン」を意識していて、
それを匂わせるような場面もあるのですが、
結果的にそうした展開にはならないので、
ちょっと騙されたような感じもあるのです。

そんな訳で暇つぶし程度の気持ちであれば、
まあまあ時間つぶしにはなりますが、
1本の映画として意気込んで観に行くと、
多分相当落胆されるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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