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起立性高血圧と降圧剤治療(SPRINT試験サブ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
起立性高血圧と降圧コントロール.jpg
Hypertension誌に2020年11月9日ウェブ掲載された、
起立性高血圧症のリスクについての論文です。

座った姿勢から急に立ち上がると、
血圧はその瞬間には反射的に少し上昇し、
それから速やかに元に戻ります。
心臓の位置が急に変化するので、
循環の動態を維持するために、
反射的に血管の縮まり方などが変化して対応するのです。

この自律神経による調整システムが上手く作動しないと、
立ち上がった時に血圧が大きく変動してしまいます。

良く知られているのは、
立ち上がることによる血圧の低下で、
これを起立性低血圧と呼んでいます。

立ちくらみという表現が一般的には使われるように、
立ち上がった瞬間に頭が真っ白になって、
意識が遠のくような気分になるのは、
この起立性低血圧の典型的な症状です。

この起立性低血圧は、
認知機能の低下や骨折リスクの増加と関連があり、
長期的には心血管疾患のリスクとも関連している、
というデータが存在しています。

一方で立ち上がった時に、
血圧が低下するのではなく異常に上昇する、
という症状もあることが最近注目されています。

これが起立性高血圧です。

上記文献の中にもある一般的な定義としては、
座位から立位を取って1分後に、
収縮期血圧が20㎜Hg以上上昇するか、
拡張期血圧が10㎜Hg以上上昇することが、
起立性高血圧とされています。

やや単純化した区分けとしては、
自律神経の立位に伴う反応が低下していると、
起立性低血圧になる一方で、
自律神経の反応が過剰になっていると、
起立性高血圧症になる、
ということになります。

それでは、起立性高血圧症と心血管疾患リスクとの間には、
どのような関係があるのでしょうか?

今回の研究では、
厳密な血圧コントロールの影響を、
通常の血圧コントロールと比較して、
厳密な血圧コントロールの有効性を示した、
世界的に有名な大規模臨床試験である、
SPRINT試験のデータを二次的に解析して、
血圧コントロールと起立性高血圧症との関連を、
比較検証しています。

その結果、
登録された高血圧の患者さん9329名のうち、
21.2%に当たる1986名は起立性高血圧症の定義を満たしていて、
その9割は拡張期血圧の上昇が認められました。
厳密な血圧コントロール群では、
起立性高血圧がない患者と比較して、
起立性高血圧があると、
心血管疾患リスクは1.44倍(95%CI:1.1から1.87)有意に増加していましたが、
通常コントロール群ではそうした違いはありませんでした。
登録の時点で起立性高血圧がない場合には、
厳密な血圧コントロール群で34%(95%CI:0.56から0.79)、
通常コントロール群に比較して心血管リスクが低下していましたが、
起立性高血圧がある場合には、
厳密な血圧コントロール群で心血管疾患リスクリスクは増加していました。

このように、
SPRINT試験の結果では、
トータルには厳密な血圧コントロールをすることで、
通常のコントロールより心血管疾患リスクは低下していたのですが、
起立性高血圧のある人に限って解析すると、
むしろ厳密なコントロールは心血管疾患リスクを増加させる、
という逆の結果を示していたのです。

この結果は非常に注目すべきものですが、
起立時の変化は拡張期血圧が主だった、
と言う点を考えると、
本当に正確な知見であるのか、
という点に疑問も感じます。

拡張期血圧の測定は収縮期と比べると不安定で、
単純に姿勢により違った値が出る、
という可能性はあるように思うからです。

今後この問題は更なる検証が必要と思いますが、
血圧値に起立性の変化という因子を加えて解析する、
という視点は非常に興味深く、
今後の研究の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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