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松尾スズキ「フリムンシスターズ」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
フリムンシスターズ.jpg
松尾スズキさんの作・演出による新作ミュージカル、
「フリムンシスターズ」が今シアターコクーンで上演されています。

準備中にメインキャストの阿部サダヲさんが、
新型コロナに感染して、
上演が危ぶまれるような事態がありましたが、
結果的には他に感染が広がることはなく、
無事に初日の幕が開きました。

松尾スズキさんのミュージカルと言うと、
「キレイ」という大傑作があって、
何度も再演を繰り返しています。
それ以降コクーンで何度か新作ミュージカルが上演されましたが、
「キレイ」に匹敵するようなヒットはありませんでした。

僕が松尾さんの芝居を初めて観たのは、
本多劇場の「愛の罰」の初演で、
松尾さんの第一期総決算という感じの舞台でしたが、
その過激さと人物造形の魅力と破天荒な凄まじさに、
とてもとても感銘を受けました。
それ以降はほぼ全ての松尾さんの舞台に足を運んでいますが、
どうしてもあの初見の衝撃の再来を求めてしまうので、
脳内のハードルは限りなく上がって、
結構落胆して劇場を後にすることも多いのが実際でした。

最近では松尾さんも明らかに枯れて来ているので、
その創作の軸足も、
小説や映像に移されているような感じもありますし、
過激を求めたところで、
それを許さない正しさを求める社会があるのですから、
仕方がありません。
そんな訳でこちらも最近は、
同世代の希代の才人の精神世界に向き合うように、
淡々とその世界に寄り添うように作品を観ているつもりです。

さて、今回の作品は、
新宿二丁目を舞台にして、
オカマの集団とそれを嫌う集団との抗争を、
ロマネスク的に組み上げ、
そこに関わった沖縄の霊媒の血を引く主人公の女性によって、
抗争に終止符が打たれて新世界が生まれる、
という祝祭的な物語です。

底辺世界の抗争劇が世界を一変させるというのは、
松尾さんの劇作の以前からの世界観ですが、
以前であればもっとフリークス的な登場人物や、
メンヘラ的な人物が過剰なほどに登場したのですが、
登場しても自殺好きの青年程度で穏当なもので、
ラストも以前は、
世界滅亡、人格崩壊で物語も破綻、
という感じでしたが、
今回は穏当にハッピーエンドが訪れ、
キャスト全員が綺麗な衣装で歌って踊って、
とても爽やかに終わります。

少し前ならガッカリして怒ったと思うのですが、
僕の方ももう枯れてきてしまっているので、
これはこれでありかな、
というくらいに思って、
ぼんやりと舞台を観ていました。

もう昇天しているオカマのボスの皆川猿時さんが、
きらびやかな衣装で登場して、
全体の狂言回しを演じ、
そこに色々な人物や場面を召喚するという趣向は、
以前よりこなれた語り口で安定感があり、
作品としては古典的な味わいです。
ちょっとシェイクスピアみたいでしたね。
「夏の夜の夢」みたい。
松尾さんも古典になった、と言うことかも知れません。

そんな訳で極めて穏当な世界で、
かつての松尾ワールドにのめり込んだ者としては、
複雑な思いはあるのですが、
良くも悪くも今はこうした時代で、
この時代に演劇を上演するとすれば、
こうしたものになるのは仕方のないことだという気がします。
こうした穏当さの鎧に包まれた演劇の上演に、
何か意味があるのかという問いには、
現状答える言葉の持ち合わせはないのですが、
僕は根っから演劇を愛していますし、
松尾さんの脳内世界も大好きなので、
これからも松尾さんの作品世界には、
寄り添ってゆきたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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