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SGLT2阻害剤の実臨床での有用性(カナダのプライマリケアデータ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SGLT2阻害剤と心血管疾患リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2020年9月23日ウェブ掲載された、
最近評価の高い糖尿病の治療薬SGLT2阻害剤の、
心血管疾患予防効果を、
実臨床のレベルで検証した論文です。

SGLT2阻害剤は、
尿に出るブドウ糖を増加させることによって、
血糖値を下げるという、
新しいメカニズムの薬です。

それが近年注目されているのは、
臨床試験において心血管疾患のリスクの低下や、
死亡リスクの低下が報告されているからです。

最初にそうしたデータが発表されたのは、
エンパグリフロジンというSGLT2阻害剤で、
それ以降もエンパグリフロジンと比較するとやや見劣りはするものの、
カナグリフロジン、ダパグリフロジンという、
別個のSGLT2阻害剤の臨床試験において、
同種の傾向があることが報告されています。
ただ、カナグリフロジン使用群での下肢切断リスクの増加など、
個別には気になる有害事象も報告されています。

現在2型糖尿病の実臨床において、
GLP1アナログやDPP4阻害剤のインクレチン関連薬と共に、
SGLT2阻害剤は最も広く使用されている薬です。

ただ、実臨床での使用において、
臨床試験と同じような心血管疾患の予防効果が、
明確に示されている、という訳ではありません。
また、臨床試験は主に偽薬とSGLT2阻害剤が比較されていますが、
実臨床で主に問題となるのは、
インクレチン関連薬との比較です。
また、SGLT2阻害剤の効果はどの薬でも同じなのか、
それとも同様のメカニズムの薬であっても、
個々の薬剤での有効性に違いがあるのかどうか、
というような点についても明らかではありません。

今回の研究はカナダにおいて、
プライマリケアの大規模なデータベースを活用して、
209867名のSGLT2阻害剤の新規使用患者を、
同様の背景を持つ209867名のDPP4阻害剤の新規使用患者と、
マッチングさせて平均で0.9年の経過観察を行っています。

データ数は充分ですが、
比較的短期の使用効果のみを見ている、
という点には注意が必要です。

その結果、
SGLT2阻害剤の使用はDPP4阻害剤と比較して、
心血管疾患の発症リスクを、
24%(95%CI: 0.69から0.84)有意に低下させていました。

内訳では心筋梗塞のリスクを18%(95%CI:0.70から0.96)、
心血管疾患による死亡リスクを40%(95%CI: 0.54から0.67)、
心不全のリスクを57%(95%CI: 0.37から0.51)、
総死亡のリスクも40%(95%CI: 0.54から0.67)、
それぞれ有意に低下させていました。
虚血性脳卒中のリスクについては低下傾向はるものの、
有意ではありませんでした。

このSGLT2阻害剤の心血管疾患予防効果は、
エンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジンの、
3種類の薬剤間で明確は差は認められませんでした。

このように、1年未満という短期間のデータですが、
DPP4阻害剤と比較してSGLT2阻害剤には、
明確な心血管疾患予防効果と生命予後の改善効果が、
実臨床で明確に示された、
という影響は大きく、
今後の薬剤選択に大きな影響を与える可能性がありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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重症新型コロナウイルス感染症における消化器合併症 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの消化器症状.jpg
JAMA誌に2020年9月24日にウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルス感染症の重症事例に併発する、
消化器症状を検証した内容です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、
感染拡大の当初は重症肺炎など肺病変が主体と考えられていました。

その後全身の血栓症や凝固系の異常、
心筋炎や心膜炎などの心臓病変など、
肺以外の臓器病変も伴う全身疾患であることが、
徐々に明らかになって来ました。

新型コロナウイルス感染症の肺外病変として、
無視出来ないのは消化器病変です。
軽症の事例でも下痢や吐き気などの症状が多いことは、
これまでにも報告されていますし、
重症の肺炎や呼吸不全を来した事例において、
入院中に腸閉塞や消化管出血、虚血性腸炎、
急性膵炎などの消化器系の合併症を、
しばしば合併していることが明らかになっています。

ただ、それが新型コロナウイルス感染症の特徴であるのか、
それとも重症の肺疾患に伴う一般的な症状であるのか、
という点については明確なことは分かっていません。

そこで今回の研究では、
アメリカ、マサチューセッツの単独施設において、
新型コロナウイルス感染症と診断され、
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で集中治療室で治療を受けた242名を、
新型コロナウイルス感染症以外の原因で、
2018年から2019年にARDSで同様に集中治療室で治療を受けた244名と、
年齢など他の条件をマッチングさせて比較検証しています。
実際にマッチングして比較された事例は、
各群で92名ずつです。

その結果、
新型コロナウイルス感染症群では、
74%が消化器疾患を合併していたのに対して、
新型コロナウイルス感染症以外のARDS群では37%で、
新型コロナウイルス感染症のARDS事例では、
それ以外の原因と比較して、
消化器疾患の合併が2.33倍(95%CI: 1.52から3.63)、
有意に増加していました。

このように、
新型コロナウイルス感染症の重症事例においては、
腸閉塞や虚血性腸炎などの消化器疾患の合併が、
明らかに多く、
それが予後にも影響している可能性が示唆されました。

腸管には、
新型コロナウイルスの感染に必要なACE2受容体が分布していて、
それが消化器病変に繋がっている可能性がある一方、
重症の肺炎などの際にはモルヒネなどの麻薬が使用されるケースも多く、
それが腸管の動きの低下に繋がっていて、
腸閉塞などのリスクを高めたという可能性も否定は出来ません。

今後そのメカニズムなどについては検証が必要ですが、
重症の新型コロナウイルス感染症で、
消化器系合併症が多いことはほぼ間違いがなく、
その管理において注意が必要と考えられます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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小児下痢症に対する低用量経口亜鉛製剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
小児下痢に対する亜鉛製剤の効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年9月24日ウェブ掲載された、
小児下痢症に対する亜鉛製剤の必要量についての論文です。

小児期特に乳幼児期の急性下痢症状は、
短期間で高度の脱水や電解質異常などが起こり、
重症では点滴など積極的治療を行わないと、
死に至る可能性もある深刻な病態です。

特に医療の整備されていない発展途上国では、
乳幼児の死亡する大きな要因ともなっています。

そこで求められているのは、
安価で家庭でも使用可能な方法による、
急性下痢症の治療法です。

WHOがこの点において推奨している治療が、
OS1のような経口補水液の使用と、
亜鉛のサプリメントの使用です。

亜鉛は貝類などに多く含まれる微量元素で、
その欠乏が味覚障害や下痢を引き起こすことは良く知られています。
亜鉛は発展途上国の小児では不足し易く、
下痢では高度の欠乏状態となるので、
それが小児下痢症の重症化に、
影響しているという可能性が高いのです。
亜鉛自体には抗菌作用や腸管の水分調節作用のあることも分かっているので、
この点からも亜鉛の補充は有効な治療となる可能性があるのです。

これまでの臨床データの蓄積により、
小児の下痢症に亜鉛の補充を行うと、
下痢症状の期間が短縮することがほぼ確認されています。

ただ、WHOが推奨している亜鉛の補充量は、
1日20mgですが、
この量の亜鉛を使用すると、
高率に嘔吐が副作用として起こります。
これは亜鉛の特有の金属としての味と、
胃粘膜の刺激作用がその原因と考えられています。

下痢をしているお子さんは、
当然嘔吐もし易い状態にありますから、
そこで更に嘔吐をし易いサプリメントを飲ませるというのは、
結果として逆効果なのではないかと、
少し疑問にも感じるところです。

それでは、もっと少ない用量で使用することで、
嘔吐を減らして効果を保つことは可能でしょうか?

今回の臨床試験はインドとタンザニアにおいて、
生後6ヶ月から59ヶ月の急性下痢症のお子さん、
トータル4500名をくじ引きで3つの群に分けると、
それぞれ1日5mg、10mg、20mgの亜鉛製剤(硫酸亜鉛)を14日間投与し、
5日を超える下痢症状や排便回数、
使用後30分以内の嘔吐の頻度などを比較検証しています。

その結果、
下痢症状の持続や排便回数は用量を変えた3群で有意な差はなく、
嘔吐については1日5mg群で13.7%、
10mg群で15.6%、20mg群で19.3%で認められ、
5mg群は20mg群と比較して、
嘔吐のリスクは29%(95%CI:0.59から0.86)、
有意に低下していました。

このように今回の検証においては、
1日5mgという低用量の亜鉛の補充も、
従来の20mgと遜色ない治療効果が認められ、
その一方で嘔吐のリスクは3割程度少なくなっていました。

今後こうしたデータを元にして、
小児下痢症における亜鉛の投与量については、
再検証が行われることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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「ベイジルタウンの女神」(ケラの新ユニット) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ベイジルタウンの女神.jpg
ケラさんが緒川たまきとの新ユニット、
ケムリ研究所を立ち上げて、
その第一回公演が今世田谷パブリックシアターで、
上演されています。

キャストは犬山イヌコさんや山内圭哉さんなど、
お馴染みの顔ぶれに、
吉岡里帆さんなどフレッシュなスターも加わります。

ケラさんのお芝居は、
ナンセンスコメディからシチュエーションコメディ、
SFファンタジーから純文学系まで、
非常に幅広く観るまで油断がならないのですが、
今回は名作「キネマと恋人」の系統の、
ハートウォーミングなコメディで、
あこがれに満ちていた時代のアメリカを舞台に、
大金持ちの女社長を緒川たまきさんが演じ、
彼女がスラムの再開発のために、
1ヶ月誰の助けもなくスラムで暮らす、
という無謀な賭けをするという、
如何にもハリウッドの昔のコメディ、
というようなスタイルの物語。
「キネマと恋人」には「カイロの紫のバラ」という、
元ネタがありましたが、
今回のものはオリジナルだと思います。
(おそらく…)

上演時間は休憩の15分を挟んで3時間半。
いつもながら長いなあ、とは思いますが、
話はシンプルでキャストも魅力的なので、
そう肩が凝らずに最後まで観ることが出来ました。

緒川さん演じる女社長と、
かつてその小間使いであった、
高田聖子さん演じる幼なじみのライバル社長との、
過去のいきさつが作品の肝になるこころなどは
如何にもケラさんの世界なのですが、
それ以外にあまり個性的な設定などはなく、
かなり予定調和的な世界が展開されるので、
ストーリーはケラ作品としては弱いな、と感じました。

キャストは座長の緒川たまきさんと、
癖のあるその婚約者を演じた山内圭哉さんが良く、
他のキャストは書き込みも薄めで、
キャラとして弱い印象です。
豪華キャストの割に勿体ないとも感じました。
特に人気者の吉岡里帆さんは、
本当のちょい役でそれもきちんと演じているとは、
言い難い出来でした。

演出は映像の使い方などはさすがのクオリティですが、
それほど目新しさはなく、
舞台効果はトータルにそれほど高いものではありませんでした。

そんな訳でケラさんとしては、
ややコロナ禍の後の肩慣らし的な舞台かな、
という感じでしたが、
徐々に本格始動に移行することを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「宇宙でいちばんあかるい屋根」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも須田医師が担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
宇宙でいちばんあかるい屋根.jpg
2003年に野中ともそさんにより書かれた、
ジュブナイル小説を、
「新聞記者」の藤井道人監督が、
極めて繊細かつ格調高く映画化しました。

まず原作を読んでから映画を観ました。

今どきベタなファンタジーという感じで、
予告を見た時点ではあまり見たいという気がしなかったのですが、
原作を読むとなかなか奥行きのある、
素敵な作品だったので、
これをどのように映像化したのかしら、
と興味が沸いて映画館に足を運びました。

なかなか良かったですよ。
映画館で観られて正解でした。

これね、良い意味でハリウッド映画みたいなんですよ。

スピルバーグかゼメキスが撮った、
アメリカのファミリー層向けの、
ハートウォーミングファンタジーという感じですね。
世界マーケットを狙って、
多分意図的にそうした作りにしているんですね。
パクリと言えばパクリなのですが、
世界水準の映画を作ろう、という、
とても前向きな姿勢を感じます。

画面が物凄く綺麗でしょ。
シネスコの画面を実に精緻に使っていて、
とても画角が美しくて完成度が高いですね。
監督自らが手掛けた台本が非常に完成度高く出来ていて、
相当時間を掛けて練って作ったのだろうな、
ということが推測されます。

原作をとてもリスペクトしていて、
愛していることが伝わって来ます。
日差しや空の描写とか、
ああ、これは原作のこの文章を表現したのだな、
とちゃんと理解出来るように作られています。
それでいて、ある程度原作を変えているのですが、
それもいちいち、なるほど、
という感じの変え方なのですね。
全てが同感出来るという訳ではないのですが、
それでも共感は出来る改変になっていたと思います。

これ、たとえば大林宜彦監督も、
好きそうな原作でしょ。
彼が監督したら「さびしんぼう」みたいになったのかな、
というように想像出来ますね。
でもそうなったら、
もっとボロボロ泣ける映画になった一方で、
個人的遊びの多い、
趣味的で日本人にしか分からないような、
そんな映画になったという気がします。
藤井監督はもっと抑制的で、
全体の完成度を重要視しているんですね。
どちらがいいとは言い切れないのですが、
意外にこうした才能は、
あまり日本映画にはこれまでなかった、
という気もします。
編集もカット割りも奇をてらわずに滑らかで、
とても堂々としていると思います。

キャストは清原果耶さん、伊藤健太郎さんという、
フレッシュなコンビが素晴らしく、
現在おそらくベストの組み合わせです。
桃井かおりさんと吉岡秀隆さんの芝居については、
好みが分かれるところだと思います。
桃井さんについては雰囲気は抜群と思うのですが、
おぼつかない感じの台詞回しは、
映画のリズムを崩していたようにも思います。
吉岡さんのかなり癖のある役作りは、
原作を先に読んでいると、
何を表現しようとしているのか、
という点は理解出来るのですが、
こちらも他のキャストの自然な雰囲気を、
1人で壊している、というきらいはありました。

勿論映画を先に観てもいいのですが、
この作品の場合原作を知ってこそ、
という演出が多いので、
どちらかと言えば原作を読んでからの鑑賞をお勧めします。

いずれにしても、
藤井道人監督の力量の幅を如実に示した、
原作の魅力を全て絞り出したような愛すべき映画で、
迷われていれば是非にとお勧めします。

控え目に言って悪くないです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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食後高血糖は何故動脈硬化を進行させるのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
食後高血糖と動脈硬化リスク.jpg
Circulation Research誌に2020年9月11日掲載された、
糖尿病における動脈硬化の進行メカニズムについての論文です。

糖尿病では動脈硬化が進行して、
心筋梗塞や脳卒中の原因となることは、
広く知られている事実です。

ただ、そのメカニズムについては、
それほど明確に分かっているという訳ではありません。

血糖値を改善して正常に近づければ、
動脈硬化の進行も予防出来るという考え方があり、
そのために世界中で臨床試験が行われたのですが、
網膜症などの小血管の合併症については、
予防効果が確認されたものの、
動脈硬化性疾患についての予防効果は、
正常に近いレベルにはなりませんでした。

こうした臨床試験は血糖コントロールの指標として、
HbA1cを用いていることが多いのですが、
HbA1cは食後血糖のみが上昇しているような、
間欠的で一時的な血糖上昇のみの状態では、
異常値を示さないことが多く、
その一方でそうした間欠的な血糖上昇でも、
動脈硬化は進行するというデータが存在しています。

それでは、
何故HbA1cが上昇しないような一時的な血糖上昇でも、
動脈硬化は進行するのでしょうか?

今回の研究ではマウスを使用した動物実験によって、
食後血糖の上昇のみで、
身体に起こる変化を検証しています。

その結果、
食後のみの間欠的血糖上昇により、
骨髄での造血が刺激されて特定の単核球の産生が増加。
それが動脈硬化巣(プラーク)に侵入して、
血管の炎症から動脈硬化を進行させることが確認されました。

それを図示したものがこちらです。
食後高血糖と動脈硬化リスクの図.jpg

今回の検証からメカニズムの面からも、
食後血糖の一過性の上昇が、
動脈硬化を進行させることが確認されました。

これが事実であるとすると、
糖尿病における動脈硬化の病気の予防のためには、
HbA1cの管理のみでは充分ではなく、
別個に食後の血糖上昇を評価して、
それに対する有効な対策を、
講じないといけないということになります。

ただ、食後血糖を下げるとされる薬は、
現在でも複数存在していますが、
その使用により明確に動脈硬化の進行が予防された、
というような信頼のおける研究結果は存在していません。

今後生活改善を含めて、
一時的血糖上昇の予防を目的とした、
精度の高い臨床試験の実施が望まれますし、
その結果に基づいた治療法の確立が、
糖尿病患者のトータルな予後改善のためには、
急務であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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イチゴの腸内細菌改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イチゴの腸内細菌改善効果.jpg
2019年のJ Nutr Biochem誌に掲載された、
イチゴの腸内細菌改善効果を検証した論文です。

アントシアニンというのは、
植物由来のフラボノイドの一種で、
イチゴやブルーベリー、ブドウなどに多く含まれ、
イチゴの赤い色やブドウの皮の赤色を発色する色素でもあります。
赤いブドウから作られた赤ワインにも多く含まれています。

このアントシアニンには降圧作用、
抗酸化作用、動脈硬化進行予防効果などの多くの効果が、
疫学研究や観察研究のレベルでは報告されています。

アントシアニンは多くの果実などに含まれていますが、
臨床的に報告の多いのはイチゴです。
イチゴにはアントシアニン以外に、
ビタミンCが豊富に含まれていることも特徴です。

多くの動物実験や一部の臨床データにおいて、
アントシアニンそのものではなく、
イチゴの抽出物が使用されていて、
多くの病気に対する有効性が確認されています。

糖尿病のモデルマウスにおいて、
血管の炎症を抑制して動脈硬化の進行を予防するような効果が、
報告されていますし、
人間においてもイチゴにより心筋梗塞は肥満の予防効果が、
報告されています。

アントシアニンはそのままでは身体に殆ど吸収されず、
腸内細菌や消化酵素の働きで、
複数の代謝物に分解されます。
そのため、大腸における効果がより強いのではないか、
という考え方が最近注目されています。

実際、マウスの実験では、
イチゴの抽出物が炎症性腸疾患を予防し、
大腸癌の発生を抑制する、
という複数の結果が報告されています。

今回の研究では糖尿病のモデルマウスを使用して、
イチゴの抽出物を摂取させることによる、
腸内細菌叢の変化を検証しています。

その結果、
糖尿病マウスにイチゴの抽出物を摂取させることにより、
糖尿病で減少している腸内細菌のビフィズス菌が、
イチゴの摂取により増加に転じることが確認されています。

この知見は単独ではそれほど意味のあるものではありませんが、
これまでの多くの知見と共に考えると、
イチゴが腸内細菌叢を改善して腸の炎症を抑え、
肥満や大腸癌にも予防的に働くことは、
かなり確からしいと考えて良いように思います。

今後このイチゴの健康効果が、
アントシアニンによるものなのか、
それとも他の代謝物やビタミンCなどとの相互作用によるものなのか、
といった点を含めて、
より実証的に検証されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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思春期のうつ病とSNSとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SNSとうつ病.jpg
JAMA Pediatrics 誌に2020年7月15日ウェブ掲載された、
SNSやテレビなどの使用時間の増加が、
思春期の若者に与える影響についての論文です。

SNSやビデオゲームが、
思春期の精神に悪影響を与えるという考え方は、
その使用が広がり始めた時期から、
根強くあります。

特に指摘されることが多いのは、
うつ病との関連です。

確かにSNSで炎上などすれば、
気分は落ち込んでうつになることは、
当然想定されるところです。
ただ、その一方で落ち込んでいて、
SNSで励まされるようなこともありますから、
その影響は決して単純なものではありません。

これまでにも、
テレビやコンピューター、
ビデオゲームやSNSとうつ病との関係については、
多くの疫学研究が報告されていますが、
一定の関連があったというものがある一方で、
無関係という報告もあって結果は一定していません。

今回の研究では、
カナダのモントリオールで、
7学年から11学年(12から16歳)の学生を対象とした、
ドラッグやアルコール依存予防のための、
介入試験のデータを二次利用して、
1日のうちでモニターを見ている時間を、
ビデオゲーム、テレビの通常の視聴、
SNSの利用、コンピューターの通常の利用、
の4種類に分け、
その時間数とうつ症状との関係を、
主に各個人のデータの推移で検証しています。
ある学生のテレビゲームやSNSの使用時間の増加が、
その後のうつ症状の悪化と、
関係があるのかどうかを検証しているのです。

うつ病の症状については、
Brief Symptoms Inventoryという指標を用いて数値化しています。
これはうつ病の症状の各項目について、
0から4に区分して自己評価して点数化しているもので、
点数が高いほど症状が強いことを示しています。
ただ、簡易的な指標で、
うつ病の診断に使用されるような物ではない点には、
注意が必要です。

これまでの同種のデータは、
主にアンケートなどで得た使用時間数や頻度と、
その時点でのうつ病の罹患頻度を、
単純に比較しただけのものが多かったので、
今回のデータは臨床試験の二次利用ではありますが、
元のデータがしっかりと取られているので、
それだけ厳密で精度の高いものになっているのが特徴です。

3826人の思春期の学生を4年間観察した結果として、
まず個別ではなく全体での比較においては、
SNSを利用している時間が長いほど、
うつ病尺度におけるうつ病の症状は強く認められました。
また、同様の関連はコンピューターの通常使用時間についても、
同様に認められました。

一方で各個人での検証では、
前年と比較したSNSの利用時間の増加が、
同じ年のうつ病症状尺度の上昇と有意に結び付いていて、
テレビの通常視聴でも同様の傾向が認められました。

従って、個別の検証でも全体としての検証でも、
SNSの使用時間の増加は、
うつ病症状の悪化と関連が認められました。

仮にSNSの使用時間増加がうつ病症状悪化の原因であるとすれば、
それはどのようなメカニズムによるものでしょうか?

これまでに提唱された仮説は、
主に3つあります。

その1つ目はDisplacement(置換)と呼ばれるもので、
単純に他の運動や読書、友人との直接の交流、
などに向けられるべき時間が、
SNSに向けられることによって減少してしまうことが、
原因であるという説です。

2つ目はUpword Social Comparison(上方社会的比較)と呼ばれるもので、
SNSで自分より優れている人、自分より幸福な人の情報を、
多く得ることにより、
それと自分を比較して劣等感を強く感じ、
それが自己評価や自尊心の低下に結び付く、
という仮説です。

3つ目はReinforcing Spirals(あまり良い翻訳がありません)と呼ばれるもので、
うつ病傾向のある人は、
自分と似通った思考を見ることを好むので、
SNSのそうした情報に依存するようになり、
それがうつ病の悪化に結び付いてしまうという仮説です。

この3つの仮説のうち、
どれが今回の現象を上手く説明出来るかを検証したところ、
1つ目の置換説は否定的で、
2つ目と3つ目の仮説がよりその説明に有効であると考えられました。

つまり、SNSに時間を費やすこと自体が、
悪いということではないのですが、
それが自尊心を低下させる方向に結び付いていたり、
うつ病の症状を助長させるような可能性のある情報に結び付いていると、
うつ病を悪化させる可能性があるという推論です。

今回の検証は、
これまでのものより厳密である点で信頼性が高く、
こうしたデータを元にして、
SNSのどのような利用が危険であるのか、
安全な利用のためにはどうあるべきなのか、
といった点の議論に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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七河迦南「アルバトロスは羽ばたかない」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
明日からはいつも通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アルバトロス.jpg
ミステリーは一時期は取り憑かれたように読んでいて、
ミステリーと心中するような感じすらあったのですが、
今では時々読むというくらいになっています。

この作品は最近読んで中段までは結構興奮しました。

ただ、最後まで読むと、
ちょっとどうかな、と感じました。

そもそも物語として成立していないように思うのですが、
多くの方が絶賛されているので、
僕の見方が間違っているのかしら、
と自信がなくなります。

以下、ネタバレはしませんが、
何となく内容が分かるような表現はありますので、
未読の方はご注意下さい。

養護施設の教員を探偵役にしたシリーズもので、
何より文章が抜群に上手くて、
品がありますよね。
新人の2作目とは思えない完成度です。

文化祭の当日に校舎の屋上から転落した、
という事件があり、
それを調査するパートと、
過去の関連するエピソードが交錯するように展開され、
過去のエピソードは、
それ自体が独立したミステリー短編のようになっています。
ただ、謎はあるのですが、
殺人などは起こりません。
事件と言って良い大掛かりなものも1つあるのですが、
後は「日常や心理の謎」というタイプのものです。

短編エピソードもなかなか巧みなのですね。
伏線の張り巡らし方がなかなかで、
マニア向け本格のような、
論理で頭が痛くなるようなところはありません。
「あっ。何となく読んでても違和感があったけど、
実はそうだったのね。上手いね」
という感じです。

そこから次第に、
本筋の事件にフォーカスが当たってゆきます。

ただ、肝心の事件というのが、
屋上から落ちた、というだけのものなので、
登場人物達が持っているほど、
こちらは関心が持てない、というきらいはあります。

そして、ついに事件の真相が分かるということになり、
興奮しながら読み進めると、
「えっ?」
ということになります。

読んだ瞬間は、ビックリしましたし、
凄いな、と思いました。

ただ、良く考えてみると、
それじゃ設定として成立しないのじゃないか、
と思いました。

だって、それが真相だと言うのなら、
それはそもそも事件にならないでしょ。

違うのかなあ、と思って何度か読み返しましたが、
その感想は変わりませんでした。

これをミステリーとして評価するのは、
ちょっとどうかな、と思います。

ただ、それを言い出せば、
中井英夫さんの「虚無への供物」とか、
デタラメで全く辻褄なんて合わないですよね。
それでも、やっぱりあれは傑作なので、
そうしたことで考えれば、
この作品も小説としては充分魅力的なので、
それでいいのかな、とも思いました。

良いミステリーに出逢うというのも、
僕にとってはかけがえのない経験の1つで、
これからも合間を見て、
その世界には浸りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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シェーファー「わたしの耳」(マギー演出版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
わたしの耳.jpg
新型コロナはまだ東京では収束とはとても言えませんが、
その一方で舞台劇の上演も少しずつ開始されています。

シス・カンパニーが、
「エクウス」や「アマデウス」のピーター・シェーファーの初期作を、
「わたしの耳」と「あなたの目」という2本立てで、
連続上演しています。

その「わたしの耳」の上演に足を運びました。

これは1時間25分程度の短い1幕劇の3人芝居で、
クラシックマニアの孤独な青年と社交的な会社の同僚、
正体不明の少女との1夜の交流を描いた、
苦くて痛い小品です。

作品は如何にもイギリス戯曲という感じで、
情報が共有されない人間関係の切なさを描いています。
ただまあ、極めて地味な内容なので、
日本で上演するには娯楽作としてはちょっとなあ、
という感じはします。
これでお金を払って劇場に行って、
観て、それで満足するかと言うと、
そこはちょっと難しいかな、と思います。

演出はマギーさんで、
上演台本にもかかわっています。
ケラさんの一連のお仕事のように、
このお芝居を日本でも笑えるような喜劇にしよう、
という企画側の意図が感じられる起用です。
ただ、実際には堅実な演出で作品の意図自体は、
しっかりと客席に伝わる仕上がりになっていましたが、
笑えるかと言うと、
特にそうした内容ではありませんでした。

ソーシャルディスタンシングを意識した演出になっていて、
不自然でない範囲で役者同士はなるべく距離を取り、
その距離が内容にも反映するように工夫がされていました。
ただ、医療者としての立場から言うと、
格別それで感染リスクが減少しているとは言えないので、
役者個人の健康管理と、日常生活上の注意、
症状が少しでもあれば申告して上演を中止する、
というような対応が重要で、
舞台上での位置関係に留意することは、
あまり本質的ではないように思いました。
マスクをせずに同じ舞台に立って芝居をしていれば、
気を付けていても感染するときは感染する、
というように思えるからです。

キャストは孤独な青年にウエンツ瑛士さん、
社交的な男に岩崎う大さん、少女に趣里さん、という布陣で、
中ではウエンツさんが、
イギリスの孤独な青年を違和感なく、
かつ暗くなりすぎることなく演じていて出色でした。
色々な意味でこうした翻訳劇にはもってこいの逸材だと思います。
岩崎さんは軽妙な反応や動きなどは悪くないのですが、
少し長めの台詞になると言葉が流れてしまって、
聞きづらくなってしまうきらいがあり、
舞台役者としての技量には疑問が残りました。
趣里さんはもうベテランと言って良い舞台経験で、
安定感のあるお芝居でしたが、
彼女のやりようによっては、
もっと盛り上がる作品にもなったと思うので、
アンサンブル的には疑問は残りました。
何故冴えない青年のいきなりのデートの誘いに、
初対面でOKしたのか、というのが、
この物語の一番の謎だと思うので、
そこにもっとフォーカスを当てた役作りが、
あっても良かったように思いますし、
演技の振幅ももっと大きくなった方が、
つまり多面性を表現した方が、
良かったように思いました。

総じて堅実な演技と演出で、
悪くないお芝居でしたが、
もっと面白くする方法はあったのではないかな、
というようには感じました。

連続して上演されるのは、
「あなたの目」で、
これは映画「フォローミー」の原作ですね。
こっちの方も観たいな、と後から思ったのですが、
時すでに遅しでチケットは完売でした。
とても残念です。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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