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「行き止まりの世界に生まれて」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
行き止まりの世界に生まれて.jpg
これは2018年にHULUが制作したドキュメンタリーで、
中国系アメリカ人の若者であるビン・リューが、
自分と自分の友人の若者の、
12年に渡る人生を撮影したものです。
オバマ前大統領が絶賛するなど、
アメリカで評価の高かった作品が、
今劇場公開されています。
映画館に足を運びました。

「mid90s」という映画が公開されていますが、
内容はほぼ同じなのですね。
スケボーが青春という若者の人生模様。
「mid90s」はドキュメンタリーっぽいフィクションで、
こちらはとてもパーソナルな感じのドキュメンタリー、
という点は違っていますが、
描かれている内容はほぼ同じですし、
観客の受ける感動の質も、
かなり似通っていると思います。
ひょっとしたらどちらか影響を受けているのかな、
とも思いますが、
ほぼ同じ時期の映画ですし、
実際はよく分かりません。
スケボーの撮り方もね、
わざわざ転倒する場面を撮ったり、
車など無視して道路を走る様を、
延々と長回しで撮るのも同じですね。

「mid90s」も今年屈指の素敵な映画ですが、
このドキュメンタリーもなかなか良いんですね。
自意識過剰のドキュメンタリーの厭らしさ、
みたいなものは濃厚にあるのですが、
それでも本物の人生の持つ重みと価値のようなものを、
とても強く感じますし、
3人の12年の映像を、
バッとラストで早回しで見せられるとね、
ちょっと胸が熱くなりますね。

アメリカの田舎町の貧困と家庭内暴力の連鎖、
人種差別と偏見など、
多くのアメリカの持つ問題とされるものも織り込まれていますが、
それほど押しつけがましく描かれるということではなく、
主人公が義父の白人から受ける暴力については、
インタビューで延々と母親に語らせるなど、
やや個人的情念が先に立つような場面もありますが、
それ以外は比較的淡々と、
実人生のスケッチに、
寄り添うように描かれているのが印象的です。
生きることそのものの価値を、
純粋に描いているのがこの映画の優れた点だと思います。

構成的には語り手がアジア系で、
2人の友達が白人と黒人というバランスが良く、
2人の対象的な友達がそれぞれに個性的なので、
地味な素材が巧みに大きく肉付けされていると感じました。

監督の優等生的なタッチや、
自分の母親に画面で謝らせるというあざとさ、
白人の友人の駄目男ぶりを、
やや誇張して描くような臆面のなさなど、
これがもし100%の事実であるとすれば、
少し引っかかる部分もあるのですが、
おそらくは演出や虚構もあるのでしょうし、
アメリカのある断面を知的にかつ抒情的に切り取った、
パーソナルなドキュメンタリーとして、
一見の価値は間違いなくある映画だと思います。

個人的にはフィクションの「mid90s」の方が好きですが、
こちらもお勧めしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

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「テネット」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
テネット.jpg
クリストファー・ノーラン監督の待望の新作「テネット」が、
9月18日からロードショー公開されています。
その初日にアイマックスで観て来ました。

うーん。

これは「インセプション」と似たスタイルの映画で、
出来も同じくらいかな、という感じです。
確かに一回観ただけでは、
後半良く分からない部分があるのですが、
もう1回観てそれを確認したいかと言うと、
そこまでしなくてもいいかな、
というようには思ってしまいました。

面白いし退屈はしません。
カーチェイスは斬新で迫力がありますし、
時間の逆行の不気味さが明らかになる辺りは、
これまでにない物を見せられた、
というような興奮を感じました。
ただ、あまりに無理筋だな、と思えるような設定や、
ロマンスの部分の魅力のなさ、
「インセプション」と同じく、
クライマックスのゴタゴタする感じがあって、
後半はやや「どうでもいいかな」
というようにも感じてしまいました。
ロシアが悪者というのも、
色々都合があるのでしょうし、
新感覚の007を目指したのかな、
とも思いましたが、
何か古めかしいな、と感じました。

ノーラン監督ファン向けの力作で、
一般の映画ファンの方にもれなく訴えかける、
というような映画ではありません。
「インターステラー」みたいな感動とは無縁です。

以下少しネタバレがありますので、
鑑賞予定の方は、
必ず鑑賞後にお読み下さい。

これはね、007のようなスパイ映画の世界に、
時間の逆行というSF的設定を組み込んだ映画で、
雰囲気はかなり最近の007に寄せているんですね。
また、ノーランの作品は以前からディックの感じがありましたが、
これももろ「逆さ回りの世界」ですね。
ただ、未来から来た銃弾に、
時間の逆行性が残っていたり、
時間を逆行することを、
エスカレーターを逆向きに歩くような、
川を逆向きに上るような感覚で描いているのが、
なかなか新鮮で面白いのです。
物語自体も映像の流れに、
後の逆行の情報も同時に含まれているので、
一度観ただけでは良く分からない、
というリピーターを増やすような仕様になっています。
この辺はちょっと悪賢いですね。

ただ、正直物語自体の躍動感や、
キャラの魅力と情感というような部分で言うと、
かなり不満が残ります。

途中でヒロインが瀕死の状態になり、
それを助けるために主人公が過去に危険なダイブをしますよね。
定番の趣向ですし、
「インセプション」でも同じような筋立てがあったと思いますが、
主人公とヒロインとの関係性が不明で、
そうした行為に及ぶ必然性が、
あまり体感されませんよね。
これだと、ヒロインが撃たれるという設定自体が、
何か無駄であるように感じました。
これじゃ駄目なのじゃないかしら。

それから、
9つに分割されたアルゴリズム
(と言っても実際は機械の金属部品のようなもの)を、
全部揃えると世界が滅ぶというのですが、
それがもう分かった時には8つが悪玉の手にあるのですね。
それじゃ、9つもある意味がないじゃん。
1つだけで全然良かったんじゃないの?
というようにも思いました。

また、第三次世界大戦より深刻な世界の消滅、
ということの実態が、
あまりピンと来ないですよね。
悪玉が死ぬと世界が終わる、とかと言いながら、
時空を超えて奥さんと痴話げんかしている感じでしょ。
普通幻想シーンで破滅の実態を説明したり、
アベンジャーズでは一度滅ぼしておいて、
それを見せてから、
時間を戻って今度は救ったりするでしょ。
あれは要するに観客に一度は破滅のスペクタクルを見せておこう、
というサービスであるのですよね。
サービスであるとともに、
「なるほど主役が頑張らないとこうなるのね」
ということを観客に体感させる意味があるのです。
ノーラン監督はそうしたことを一切しないので、
イメージが沸かないので詰まらないのですね。
世界は救われたんですよ、良かったね、と言われても、
どう滅ぶ筈だったのかが観念的なので、
カタルシスがまるでないのです。
これじゃ、駄目なのじゃないかな、
と感じました。

そんな訳で、
概ね「多分こんな感じかな」というような予想を、
あまり超えることのなかった映画で、
ノーラン監督としては通常運転、
と言う感じの作品でした。
少し残念です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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極私的新型コロナウイルス感染症の現在(2020年9月18日) [仕事のこと]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

今日は身辺雑記的話です。

クリニック周辺では先週から、
新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生していて、
その対応に追われている日々です。

8月の中旬くらいに山があり、
その後は確かに鎮静化するように思われたのですが、
9月1週目以降は明らかに増加に転じていて、
昨日(17日)は最近では最も多い11人の、
唾液のRT-PCR検査を施行しました。

インフルエンザのシーズンを見据えて、
鼻腔検体でのインフルエンザと新型コロナウイルスの、
抗原迅速検査も少しずつ試みています。
これは一度で両方のチェックが出来るので、
確かに効率的ではあるのですが、
鼻腔のRT-PCR検査と感染リスクは同じなので、
その都度防護衣とゴーグル、手袋を含めた、
完全防御で検体採取を行なわないといけないので、
人数をこなすことは困難です。

濃厚接触者が増えると、
万一感染が起こった時に厄介なので、
基本的に採取から検査まで僕1人でやっています。

私見では東京だけはもう一度都市封鎖に近いことをしないと、
感染の収束は望めないように思います。
今回の感染拡大は、
間違いなく東京発であるからです。
これで4連休でしょ。
縦割り打破とかデジタル化とか言っていないで、
これ何とかしろよ、と思いますが、
どうにもならないことかも知れません。

先日とてもつらいことがありました。

先週の診療日に保健所から連絡があって、
濃厚接触の家族が親子でRT-PCR検査を受けなければいけないので、
受けてもらえないだろうか、というのです。

その日の午後はそれほど予定は詰まっていなかったので、
受けられます、とお返事をしました。

行政検査の段取りはこういうもので、
まず保健所からクリニックに連絡があり、
それが保健所から本人に伝えられて、
それから本人からクリニックに連絡が入る、
という段取りです。

時に本人から直接連絡が来る時があり、
そうした場合には、
こちらから保健所に確認の連絡を入れます。

行政検査を請け負っている医療機関では、
新型コロナウイルス感染症を疑わせるような症状があれば、
医療機関のみの判断で唾液のRT-PCR検査を、
行政検査として施行することが出来ますが、
無症状の場合には、
濃厚接触者であるかCOCOAのアプリで接触の連絡が入ったか、
そのどちらかであることの確認が必要です。
これはどちらも医療機関のみでは判断出来ないので、
保健所に確認することが必要となるのです。

その日の午後に、
その濃厚接触者の親子は受診をされました。

濃厚接触者に施行されるRT-PCR検査は、
保健所の指示による行政検査なので、
検査代に本人負担は発生しません。

しかし、それはその人が保険診療をした場合の、
検査の部分のみの自己負担をゼロにするという形で行われるので、
クリニックを受診されたような場合には、
診察料などは通常の保険診療として、
自己負担分は払って頂くような形になります。

品川区にはPCRセンターがあり、
そこでのみ鼻腔からのRT-PCR検査が、
行政検査として認められているのですが、
この場合は医療機関の受診ではないので、
検査受診者の自己負担は一切ありません。

つまり、
同じ濃厚接触者であっても、
何処で検査をするのかによって、
負担は違うということになるのです。

これはそういう決まりになっているので、
別に不正請求とかそういうことではなく、
保健所でも「PCRセンターでの検査は無料ですが、
医療機関を受診しての検査は、
診察料については通常の健康保険での支払いがあります」
という説明がされている筈です。
保健所の担当者とのお話でも、
それは確認しています。

しかし、何度も確認したつもりでも、
これがトラブルになるのです。

その日の午後濃厚接触者の家族は約束通りに受診をされ、
診察の上検査をしてお帰りになりました。

検査の際に確認していることは、
結果は電話では説明は出来ず、
必ずもう一度受診をして頂いて、
その時に結果を説明して、
症状なども確認の上その後の対応についてもお話し、
結果の報告書をお渡しする、ということです。

勿論どうしても来れないというような、
ご事情のある場合には個別に対応していますが、
全くの初診という方が多いので、
電話などでは本人確認が出来ず、
そうした対応をしています。

2日後の朝に連絡をもらうようにお願いをしていて、
当日になり電話があったのですが、
開口一番「陰性ですか?陽性ですか?」
と聞かれました。

それで、
「電話では結果はお伝えしていないので…」と言うと、
「行くのは嫌です」と即答されました。
勿論事情があって来れないこともあると思いますので、
やむを得ない事情のある場合は個別に別個の対応はしています。
検査の際にもそのことは確認していて、
その時には「分かりました」と言われていたのです。
それで「何かご事情がありますか?」とお聞きすると、
「行けば再診料を取られるんでしょ」と言われるので、
「それはそうです」とお話すると、
「ただじゃないといけないんじゃないの?そんなの違反でしょ」
と詰問調で言われました。
それでもう一度仕組みをお話しました。
無料になるのは検査料だけなので、
診察料はかかることになっていて、
それは保健所にも確認している事項なのです。
しかし、聞き入れてはもらえません。
「役所とか保健所とかに通報しますよ。法律違反じゃないの」
とまで言われたので、
これはもう会話にはならないなと思って、
電話は切りました。

すぐに保健所には問い合わせをして、
こうした場合はどうするべきなのかと聞きましたが、
「対応には誤りはありません」と言われました。
「そのくらいはいい方ですよ。私達はもっと罵詈雑言を毎日浴びせられて、
理不尽なことを言われています」
と言われたので、
それで少し気分が落ち着きました。

その後はもうしつこいくらいに、
何度も検査を受けられる方にはご負担を含めた説明をしています。

僕が熱が出たらお終い、
クリニックを閉めるしかない、という日常を、
もう7か月以上続けていて、
一応どうにか綱渡りのように続けられてはいますが、
いつどうなるのか分かりません。

それでも、
心配をされていた患者さんが、
検査が陰性と知ってほっとされる瞬間だけは、
こちらも少し救われたような気分になるのです。

以上地域医療の現場からお伝えしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症による糖尿病の超過死亡(イギリスの大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
イギリスのコロナと糖尿病.jpg
Lancet Diabetes & Endocrinology誌に2020年8月13日ウェブ掲載された、
イギリスでの大規模データを解析した、
新型コロナウイルス感染症と糖尿病患者の予後についての論文です。

糖尿病が新型コロナウイルス感染症の重症化の、
大きな予測因子であることは、
これまでの多くの疫学データの解析より、
ほぼ明らかとなった知見です。

上記文献に引用されているデータによればイギリスにおいて、
糖尿病のない患者と比較して糖尿病の患者では、
1型糖尿病で3.51倍(95%CI:3.16から3.90)、
2型糖尿病で2.03倍(95%CI:1.97から2.09)、
有意に病院での死亡リスクが高かったと報告されています。

ただ、こうしたデータでは高血圧や心臓病など、
他の併発疾患の影響などが考慮されていません。

今回の研究はイギリスのプライマリケアにおける、
登録された全てのデータを解析したという非常に大規模なもので、
1型糖尿病の患者264390名と、
2型糖尿病の患者2874020名が対象となっています。

まずこちらをご覧下さい。
イギリスのコロナと糖尿病の図.jpg
上の図が1型糖尿病で下の図が2型糖尿病ですが、
2020年の1から19週の、
1週間辺りの死亡数の推移を示しているものです。
新型コロナウイルス感染症の流行と共に、
死亡者数が例年と比較して、
劇的に増加していることが分かります。

2020年の2月16日から5月11日の間に、
1604名の1型糖尿病の患者と36291名の2型糖尿病の患者が死亡し、
そのうち1型糖尿病の464名と2型糖尿病の10525名は、
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡と認定されています。
更にそのうちの289名と5833名は、
心血管疾患もしくは慢性腎臓病を併発していました。

血糖コントールの指標であるHbA1cが、
比較的良好とされる6.5から7.0%と比較して、
コントロール不良の10.0%以上であると、
1型糖尿病で2.23倍(95%CI:1.50から3.30)、
2型糖尿病で1.61倍(95%CI:1.47から1.77)、
それぞれ新型コロナウイルス感染症における死亡リスクが増加していました。

BMIと新型コロナウイルス感染症における死亡リスクは、
1型と2型糖尿病双方において、
25.0から29.9が一番低く、20.0未満でも40.0以上でも、
いずれも有意に死亡リスクは増加していました。

このように、
単純に心血管疾患を合併しているから、
ということではなく、
糖尿病の存在自体が、
新型コロナウイルス感染症の死亡リスクを、
上昇させていることは間違いがないようです。
血糖コントロールの改善と高度の肥満の予防は、
そのリスクの低下に結び付く可能性があるので、
現状はその点に留意することが、
新型コロナウイルス感染症についての、
最善の予防法と言って良いようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日は皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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アルギニンによる血糖依存性インスリン分泌メカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルギニンのインスリン分泌機構.jpg
Communications Biology誌に、
2020年9月8日ウェブ掲載された、
インスリン分泌の新しいメカニズムについての論文です。

国立長寿医療研究センターがプレスリリースを出していて、
岐阜大学や東京大学などの共同研究と記載されています。
トップネームは韓国の研究者のようです。

ブドウ糖が膵臓のランゲルハンス島からの、
インスリン分泌を刺激して、
分泌されたインスリンがブドウ糖の筋肉や肝臓での利用を促し、
ブドウ糖をエネルギー源として利用して、
血液の血糖値を正常に保つというのは、
広く知られている血糖の調節メカニズムです。

これが上手く働かない事態が生じると、
ブドウ糖が上手く利用されずに血液中に溜まります。
それが糖尿病ですね。

ただ、インスリン分泌を刺激するのはブドウ糖だけではなく、
アミノ酸の一種であるアルギニンにも、
インスリン分泌を刺激する作用のあることが、
これも比較的古くから知られていました。

アルギニン負荷試験という成長ホルモン分泌刺激試験があり、
これはインスリン分泌を刺激することで、
成長ホルモンの反応をみるという試験です。
これも古くから行われています。

ただ、アルギニンだけでブドウ糖が全くなければ、
インスリンが出ることは低血糖になってしまいますから、
アルギニンによるインスリン分泌の促進は、
ブドウ糖がある時に、
その刺激を上乗せするような形で起こる現象なのです。
ブドウ糖によるインスリン分泌を、
アルギニンは調整するような働きをしているのですね。
このことも以前から分かっていました。

長く不明であったことは、
どのようにしてアルギニンがインスリン分泌を刺激するのか、
そのメカニズムでした。

その解明を行ったのが今回の論文です。

より正確にはこれまでにも幾つかの、
アルギニンによるインスリン分泌のメカニズムは、
提唱されているものがあったのですが、
それとは別個の経路が今回発見された、
というものです。

主にマウスのランゲルハンス島由来の培養細胞を用いた研究によって、
ブドウ糖の分解酵素であるグルコキナーゼとアルギニンが結合することにより、
グルコキナーゼの活性がそれにより亢進して、
より多くの代謝物が産生され、
それがATP感受性Kチャネルを介した、
インスリン分泌の刺激に繋がるという経路のあることが確認されたのです。

これは古典的に知られている、
ブドウ糖によるインスリン分泌刺激経路ですが、
その経路の最初にあるブドウ糖の代謝の部分を、
アルギニンが促進することによって、
インスリン分泌が刺激されるという仕組みです。

単純化して言えば、
ブドウ糖とアミノ酸を同時に摂取することにより、
ブドウ糖をエネルギーとして利用する効率が、
より高まるような仕組みがあるということです。

この知見が重要なのは、
若年発症型成人型糖尿病(MODY)という病気があるからです。

この病気は遺伝性の若年(25歳以下)発症の糖尿病ですが、
通常の1型糖尿病のように、
自己免疫が関与していないという特徴があります。
この若年発症型成人型糖尿病には幾つかのタイプがあり、
そのうちの1つであるMODY2は、
ブドウ糖代謝酵素であるグルコキナーゼの遺伝子変異が、
その原因であることが分かっています。

今回の検証でそのMODY2の患者さんでは、
アルギニンによるインスリン分泌刺激が、
低下していることが確認されました。

現時点でMODYに対する有効な治療法はなく、
今回の発見はその治療に繋がる可能性もまた秘めているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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糖尿病の種類と予後との関連(台湾の疫学データ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DMの種類と予後.jpg
the Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に、
2020年9月7日掲載された、
糖尿病の分類とその種別毎の予後を比較した論文です。

糖尿病の患者さんの生命予後が、
糖尿病のない人と比較すると悪く、
特に心血管疾患のリスクが高いというのは、
広く知られている知見です。

血糖のコントロールを治療により改善することで、
網膜症などの合併症が予防されることは、
多くの精度の高い臨床試験で実証されている事実ですが、
患者さんの生命予後や心血管疾患リスクについては、
それほどの改善効果が得られていません。
最近SGLT2阻害剤など一部の薬物治療が、
生命予後や心血管疾患リスクの改善に、
一定の有効性があると報告されていますが、
まだ確実と言えるほどの知見ではありません。

ここで1つ問題になるのは、
糖尿病と一口に言っても、
その重症度やタイプは様々だということです。

大きく分けると小児期発症でインスリンの高度の欠乏があり、
早期からインスリンの注射が必要となる1型糖尿病と、
主に中年以降に発症して肥満が先行する2型糖尿病とがあり、
2型糖尿病でもインスリン抵抗性がメインのものから、
インスリン分泌不全を伴うものまで大きな幅があります。

これを一括りにして生命予後や心血管リスクを論じることは、
あまりに大雑把ではないでしょうか?

今回の研究は台湾での大規模な疫学研究のデータを二次利用して、
5つに分類された糖尿病のタイプ毎に、
その疾患毎の死亡リスクを比較しているものです。
トータルな糖尿病の患者数は712名で、
中間値で12.71年という長期間の観察を行っています。

糖尿病の分類はこちらをご覧下さい。
DMの種類と予後の図.jpg
今回の論文おける糖尿病の種類の分類フローチャートです。

糖尿病患者のうち、
まず膵臓のインスリン分泌細胞に対する自己抗体の、
GAD抗体が強陽性のものをSAID(重度自己免疫性糖尿病)と分類します。
まあ1型糖尿病と言うのとほぼ同じ意味合いです。
次にGAD抗体が陰性か弱陽性のものを、
今度はインスリン分泌能の指標で、
インスリン分泌が高度に低下しているSIDD(重度インスリン分泌不全型糖尿病)
に振り分けます。
インスリン分泌の低下がないか軽度のグループは、
今度はインスリン抵抗性の指標を用いて、
インスリン抵抗性が高度のものをSIRD(重度インスリン抵抗性型糖尿病)
に振り分け、インスリン抵抗性が軽度のものは、
BMI30以上という肥満のあるものを、
MOD(軽度肥満型糖尿病)とし、
肥満がないか軽度のものをMARD(軽度加齢型糖尿病)と分類しています。
世界的には2型糖尿病の典型はMODなので、
MODを基準として他のタイプの予後を評価しています。

この5種類の分類毎に、
心血管疾患の死亡リスクをみてみると、
MODと比較して有意にリスクが高かったのは、
MARDのみでした。
肥満型よりそうでない軽症糖尿病の方が、
より心血管疾患の死亡リスクが高かった、
というちょっと不思議な結果です。
それ以外の4つの群では有意な差はありませんでした。

軽症で肥満のないMARDと比較した時に、
典型的1型糖尿病のSAIDと、
2型の中ではインスリン分泌の低下しているSIDDでは、
網膜症の発症リスクがより高く、
腎症についてはそうした関連は有意には認められませんでした。

総死亡のリスクと癌による死亡リスクについては、
5群の間で有意な違いは認められませんでした。

要するに、
網膜症のリスクについては、
インスリンが高度に欠乏した糖尿病において、
高いという傾向が認められましたが、
その生命予後については、
多くの糖尿病のタイプで明確な差はなく、
肥満が高度ではなく軽症の糖尿病の方が、
むしろ心血管疾患による死亡のリスクは高かった、
という意外な結果です。

この議論をするには今回の疫学データは、
その例数が充分とは言えず、
治療による影響など他の要素も検証はされていないので、
軽症糖尿病で心血管疾患による死亡リスクが高かった、
という知見については、
現時点であまり重要視はしない方が良いと思いますが、
糖尿病のタイプにかかわらず、
その生命予後にはあまり大きな差はない、
と言う点については今回の知見は非常に興味深く、
今後のより深い追求に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

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新型コロナウイルス感染症の人種差とセリンプロテアーゼ [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
TMPRS2と人種差.jpg
JAMA誌に2020年9月10日ウェブ掲載されたレターですが、
新型コロナウイルス感染症の人種差の原因を検証した内容です。

アメリカは今では新型コロナウイルス感染症の、
最大の感染国ですが、
他の人種と比較して黒人種では、
2から3倍感染率も死亡率も高いという特徴があります。
(人種をどう記載するのが差別的ではないのか、
よく分かりませんが、
本文ではBlack Individualsと書かれているので、
一応黒人種と記載しました)

この人種差の原因は現時点では不明ですが、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、
人間の身体の細胞にある、
ACE2という受容体に結合することにより感染します。
その後にもう1つのステップがあり、
コロナウイルスに特徴的な表面の突起(スパイク)が、
感染細胞にあるセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素により、
変化(プライミング)を受け、
それにより細胞内に侵入することが出来ると考えられています。

それでは、
このステップの何処かに人種差があり、
それが黒人種における感染リスクの増加に、
繋がっているという可能性はないでしょうか?

今回の研究では鼻腔におけるセリンプロテアーゼ活性に注目し、
ニューヨークで喘息の研究のために採取された、
305名の鼻粘膜の細胞から、
その部位におけるセリンプロテアーゼの遺伝子発現量を、
人種により比較検証しています。

人種の内訳は、
アジア系が8.4%、黒人系が15.4%、
ラテン系が26.6%、
複数の人種の遺伝子が合わさっている人が9.5%、
白人種が40.3%となっています。

解析の結果他の人種と比較して、
黒人種では鼻腔のセリンプロテアーゼ(TMPRSS2)の遺伝子発現が、
有意に増加しているという結果が得られました。

これをもって黒人系の感染と重症化リスクの高さと、
セリンプロテアーゼの発現量との間に関連がある、
とまでは言い切れませんが、
興味深いデータであることは間違いがなく、
セリンプロテアーゼ阻害剤の感染予防としての可能性の検証を含め、
今後の検証に期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

実年齢56歳、血管・骨年齢30代の名医が実践!  コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?

実年齢56歳、血管・骨年齢30代の名医が実践! コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?

  • 作者: 石原 藤樹
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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「青くて痛くて脆い」(2020年映画版) [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
青くて痛くて脆い.jpg
住野よるさんの同題のベストセラーを、
吉沢亮さん、杉咲花さんという、
人気者のキャストで映画化した映画です。
十分主役を張れる松本穂香さん、森七菜さんが、
いずれも小さな脇役を演じるという、
何というか、失礼ですが無駄に豪華、
という感じのキャストです。

これは映画の予告に興味を持って、
先に原作を読みました。
確かに「とても痛い」という感じの小説で、
青春の一時期にありがちな、
後から振り返ると恥ずかしくなるような、
とても青くて痛い感情を、
強い熱量を持って、執拗に描いています。

ただ、小説自体の完成度はそれほど高いものではなく、
作者にとってはおそらく1つ1つに意味があるのでしょうが、
大学生活の凡庸なスケッチなどが、
中段はかなりダラダラと続きます。
ストーリーにちょっとしたひねりがあるのですが、
読んでいてすぐ分かってしまう程度のもので、
意外性を感じるというレベルではありません。

多分この熱量のようなものに魅せられて、
映画化に至ったのだと思いますが、
内容は如何にも地味なので、
これを映画化して面白くなるのだろうか、
というのは正直疑問に感じました。

映画版を観てみると、
内容はかなり原作に忠実で、
原作をリスペクトした映画になっていました。
森七菜さんの役柄は映画の創作ですが、
それ以外はほぼ原作通りです。
ちょっと恥ずかしい感じのするラストも、
原作通りです。

映像はスタイリッシュで、
過去と現在の場面で微妙に映像の質感を変えたり、
パラパラ漫画をCGで入れたりするのは、
如何にも今の映画の演出という感じです。

キャストは演技派の杉咲花さんが抜群で、
特に前半の空気の読めない感じなど、
原作のイメージがそのままリアルに立ち上がる感じがあって、
さすがと思いました。
対する痛い男子の吉沢亮さんは、
もちろんそんなことは分かった上でのキャスティングなのですが、
如何にも格好が良すぎて、
「痛い男子」のようには見えませんでした。

総じて与えられた条件の中では、
かなり頑張った作品だったと思うのですが、
この地味な原作を映画として面白くするのは、
かなりハードルの高い作業であったようです。

特定のキャストのファンの方には良いと思いますが、
予告を見て「意外な展開のサスペンス」のように思われた方は、
そんな映画ではないので騙されたと感じるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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KAKUTA「ひとよ」(2020年再演版) [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ひとよ2.jpg
桑原裕子さんが2011年に初演した、
KAKUTAの代表作の1つ「ひとよ」が、
5年ぶりに本多劇場で再演されました。

主役の母親には渡辺えりさんを迎え、
作品の肝となるタクシー運転手堂下には、
まいど豊さんが扮しています。

この作品は2019年に白石和彌監督、
佐藤健さん、鈴木亮平さん、松岡茉優さん、田中裕子さん、
佐々木蔵之介さんという、
豪華キャストで映画化されました。

KAKUTAの作品は幾つか観ていますが、
この「ひとよ」については映画版を先に観て、
舞台を生で観るのは今回が初めてです。

劇場は新型コロナ仕様で、
客席は前の2列は使わず、
それ以外の客席も1つおきに使用され、
黒いパーテーションが2席毎に置かれています。
チケットのもぎりも観客自身にさせるという、
かなり物々しい体制です。
途中では換気のための休憩が用意されています。

舞台は地方の小さなタクシー会社で、
渡辺えり扮する母親が、
3人の子供に暴力を振るう夫を、
タクシーでひき殺してしまう、
というショッキングな場面から始まります。
母親はその殺しを全く後悔はしておらず、
15年後にここに戻って来ると宣言して自首します。
そして、舞台は15年後に移り、
それぞれに年を重ねた3兄弟が、
突然帰って来た刑期を終えた母親と向き合う、
という物語です。

これね、罪と罰と家族の物語として、
色々な処理が可能なテーマでしょ。

それを桑原さんはこのテーマに真面目に向き合いながら、
あまり正攻法で攻めるという感じではないのですね。
色々な人物が絡み合いながら展開して、
「ある人にとって特別な夜でも、他の人にはただの夜に過ぎない」
というテーマが最後に浮上するでしょ。
ちょっと普通の発想ではないというか、
大袈裟に言えば桑原さんの天才を感じますね。
それも最初から一切登場しない殺された父親が、
息子に裏切られた堂下というタクシー運転手の姿を借りて、
舞台上に現れるという趣向が凄いですよね。

普通安易な作家であれば、
幽霊を出したくなるところでしょ。
それをしないで、
2つの物語を同時に進行させて、
親子の思いのようなものが一致したという一点で、
その奇跡を舞台上に出現させるのですね。
日本人の劇作家として、
こうした発想の人はあまりいなかったのじゃないかしら。
それで、最後に夫殺しを全く後悔していなかった母親の心に、
一瞬の揺らぎが生じて、
最後の慟哭に繋がるというのも凄いですね。

トータルな完成度は決して高くはないですし、
肝心の兄弟3人の彫り込みがやや甘いという感じはするのですが、
このラスト近くの展開は素晴らしいし凄いと思います。

良い芝居ですね。

この舞台を観てから映画を考えると、
映画版は舞台の良さは、
あまり活かしていなかったという気がします。
映画は豪華キャストですし、
3人兄弟のキャラは原作の舞台より、
立っていたし掘り下げられていました。
佐々木蔵之介が息子と対峙する場面などは迫力がありましたし、
ラストにはカーチェイスを入れるようなサービスもありました。

ただ、その一方で、
原作の一番素晴らしい部分であった、
ラストの部分は、
演劇的な趣向が活かされていませんでしたし、
オープニングも夫殺しを実際に見せてしまったために、
15年後に戻って来るという母親の宣言が、
分かりにくくなってしまったきらいがありました。
何より、原作の全く父親は登場させずに、
最後でタクシー運転手と父親をダブらせる、
という絶妙な趣向がなくなってしまいました。

キャストでは堂下役のまいど豊さんが良く、
KAKUTAの役者陣も堅実な芝居を見せていました。
母親役の渡辺えりさんはさすがの風格でしたが、
演技はやや誇張された感じで細部は粗さもあり、
もう少し繊細なニュアンスがあれば、
より良かったようには感じました。

総じてこの困難な中で上演した、
意気込みや気迫が強く感じられる、
熱の籠もったお芝居で、
原作戯曲の素晴らしさも十全に感じられる、
優れた上演であったと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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男性ホルモン濃度と気管支喘息リスク(イギリス大規模データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
テストステロンと喘息.jpg
Thorax誌に2020年8月31日ウェブ掲載された、
気管支喘息のリスクと男性ホルモンとの関連についての論文です。

気管支喘息は小児では女児より男児に多いのですが、
成人では男性より女性に多いという特徴があります。

女性ホルモンであるエストロゲンは、
抗炎症作用を持つとされていますが、
その一方でエストロゲンやプロゲステロンの高値で、
喘息の原因であるアレルギー性の炎症が活発化する、
というような知見もあります。
一方で男性ホルモンのテストステロンや、
その誘導体である5αDHTは、
自然免疫と獲得免疫の双方において、
免疫系を抑制して炎症を抑える、
というような報告があります。

ただ、これまでの観察研究などの知見では、
血液のテストステロンの高値が、
明確に喘息リスクの低下に結び付いている、
というような結果は得られていませんでした。

今回のデータは大規模医療データとして有名な、
イギリスのUKバイオバンクのデータを活用して、
年齢が40から69歳の256419名を対象に、
血液のテストステロン濃度と、
喘息の発症リスクや喘息患者の予後との関連を比較検証しています。

その結果、
血液のテストステロン濃度を4分割して解析すると、
最も濃度の高い群は低い群と比較して、
男性で13%(95%CI:0.82から0.91)、
女性で33%(95%CI: 0.64から0.71)、
経過中の気管支喘息発症リスクが有意に低下していました。

要するにテストステロンに喘息の予防効果のあることを、
示唆させる結果です。

次に喘息患者の予後を解析すると、
男性の喘息患者は血液のテストステロン濃度が高いほど、
その呼吸機能の数値も高く、
女性の喘息患者では血液のテストステロン濃度が高いほど、
急性増悪で入院になるリスクも低下していました。

このように、
血液のテストステロン濃度は、
男女ともに喘息の発症に予防的に働いていて、
その予後についても改善する可能性のあることが、
これまでで最も大規模なデータにより確認されました。

一部に男性ホルモンのサプリメントが、
喘息の予後を改善したとするデータもあり、
今後その治療や予防目的の使用も含めて、
男性ホルモンやその誘導体の、
新たな使用が検討されるようになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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