SSブログ

アルギニンによる血糖依存性インスリン分泌メカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談などで都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルギニンのインスリン分泌機構.jpg
Communications Biology誌に、
2020年9月8日ウェブ掲載された、
インスリン分泌の新しいメカニズムについての論文です。

国立長寿医療研究センターがプレスリリースを出していて、
岐阜大学や東京大学などの共同研究と記載されています。
トップネームは韓国の研究者のようです。

ブドウ糖が膵臓のランゲルハンス島からの、
インスリン分泌を刺激して、
分泌されたインスリンがブドウ糖の筋肉や肝臓での利用を促し、
ブドウ糖をエネルギー源として利用して、
血液の血糖値を正常に保つというのは、
広く知られている血糖の調節メカニズムです。

これが上手く働かない事態が生じると、
ブドウ糖が上手く利用されずに血液中に溜まります。
それが糖尿病ですね。

ただ、インスリン分泌を刺激するのはブドウ糖だけではなく、
アミノ酸の一種であるアルギニンにも、
インスリン分泌を刺激する作用のあることが、
これも比較的古くから知られていました。

アルギニン負荷試験という成長ホルモン分泌刺激試験があり、
これはインスリン分泌を刺激することで、
成長ホルモンの反応をみるという試験です。
これも古くから行われています。

ただ、アルギニンだけでブドウ糖が全くなければ、
インスリンが出ることは低血糖になってしまいますから、
アルギニンによるインスリン分泌の促進は、
ブドウ糖がある時に、
その刺激を上乗せするような形で起こる現象なのです。
ブドウ糖によるインスリン分泌を、
アルギニンは調整するような働きをしているのですね。
このことも以前から分かっていました。

長く不明であったことは、
どのようにしてアルギニンがインスリン分泌を刺激するのか、
そのメカニズムでした。

その解明を行ったのが今回の論文です。

より正確にはこれまでにも幾つかの、
アルギニンによるインスリン分泌のメカニズムは、
提唱されているものがあったのですが、
それとは別個の経路が今回発見された、
というものです。

主にマウスのランゲルハンス島由来の培養細胞を用いた研究によって、
ブドウ糖の分解酵素であるグルコキナーゼとアルギニンが結合することにより、
グルコキナーゼの活性がそれにより亢進して、
より多くの代謝物が産生され、
それがATP感受性Kチャネルを介した、
インスリン分泌の刺激に繋がるという経路のあることが確認されたのです。

これは古典的に知られている、
ブドウ糖によるインスリン分泌刺激経路ですが、
その経路の最初にあるブドウ糖の代謝の部分を、
アルギニンが促進することによって、
インスリン分泌が刺激されるという仕組みです。

単純化して言えば、
ブドウ糖とアミノ酸を同時に摂取することにより、
ブドウ糖をエネルギーとして利用する効率が、
より高まるような仕組みがあるということです。

この知見が重要なのは、
若年発症型成人型糖尿病(MODY)という病気があるからです。

この病気は遺伝性の若年(25歳以下)発症の糖尿病ですが、
通常の1型糖尿病のように、
自己免疫が関与していないという特徴があります。
この若年発症型成人型糖尿病には幾つかのタイプがあり、
そのうちの1つであるMODY2は、
ブドウ糖代謝酵素であるグルコキナーゼの遺伝子変異が、
その原因であることが分かっています。

今回の検証でそのMODY2の患者さんでは、
アルギニンによるインスリン分泌刺激が、
低下していることが確認されました。

現時点でMODYに対する有効な治療法はなく、
今回の発見はその治療に繋がる可能性もまた秘めているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

実年齢56歳、血管・骨年齢30代の名医が実践!  コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?

実年齢56歳、血管・骨年齢30代の名医が実践! コーヒーを飲む人はなぜ健康なのか?

  • 作者: 石原 藤樹
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2020/07/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


nice!(5)  コメント(0)