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糖尿病の種類と予後との関連(台湾の疫学データ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
DMの種類と予後.jpg
the Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism誌に、
2020年9月7日掲載された、
糖尿病の分類とその種別毎の予後を比較した論文です。

糖尿病の患者さんの生命予後が、
糖尿病のない人と比較すると悪く、
特に心血管疾患のリスクが高いというのは、
広く知られている知見です。

血糖のコントロールを治療により改善することで、
網膜症などの合併症が予防されることは、
多くの精度の高い臨床試験で実証されている事実ですが、
患者さんの生命予後や心血管疾患リスクについては、
それほどの改善効果が得られていません。
最近SGLT2阻害剤など一部の薬物治療が、
生命予後や心血管疾患リスクの改善に、
一定の有効性があると報告されていますが、
まだ確実と言えるほどの知見ではありません。

ここで1つ問題になるのは、
糖尿病と一口に言っても、
その重症度やタイプは様々だということです。

大きく分けると小児期発症でインスリンの高度の欠乏があり、
早期からインスリンの注射が必要となる1型糖尿病と、
主に中年以降に発症して肥満が先行する2型糖尿病とがあり、
2型糖尿病でもインスリン抵抗性がメインのものから、
インスリン分泌不全を伴うものまで大きな幅があります。

これを一括りにして生命予後や心血管リスクを論じることは、
あまりに大雑把ではないでしょうか?

今回の研究は台湾での大規模な疫学研究のデータを二次利用して、
5つに分類された糖尿病のタイプ毎に、
その疾患毎の死亡リスクを比較しているものです。
トータルな糖尿病の患者数は712名で、
中間値で12.71年という長期間の観察を行っています。

糖尿病の分類はこちらをご覧下さい。
DMの種類と予後の図.jpg
今回の論文おける糖尿病の種類の分類フローチャートです。

糖尿病患者のうち、
まず膵臓のインスリン分泌細胞に対する自己抗体の、
GAD抗体が強陽性のものをSAID(重度自己免疫性糖尿病)と分類します。
まあ1型糖尿病と言うのとほぼ同じ意味合いです。
次にGAD抗体が陰性か弱陽性のものを、
今度はインスリン分泌能の指標で、
インスリン分泌が高度に低下しているSIDD(重度インスリン分泌不全型糖尿病)
に振り分けます。
インスリン分泌の低下がないか軽度のグループは、
今度はインスリン抵抗性の指標を用いて、
インスリン抵抗性が高度のものをSIRD(重度インスリン抵抗性型糖尿病)
に振り分け、インスリン抵抗性が軽度のものは、
BMI30以上という肥満のあるものを、
MOD(軽度肥満型糖尿病)とし、
肥満がないか軽度のものをMARD(軽度加齢型糖尿病)と分類しています。
世界的には2型糖尿病の典型はMODなので、
MODを基準として他のタイプの予後を評価しています。

この5種類の分類毎に、
心血管疾患の死亡リスクをみてみると、
MODと比較して有意にリスクが高かったのは、
MARDのみでした。
肥満型よりそうでない軽症糖尿病の方が、
より心血管疾患の死亡リスクが高かった、
というちょっと不思議な結果です。
それ以外の4つの群では有意な差はありませんでした。

軽症で肥満のないMARDと比較した時に、
典型的1型糖尿病のSAIDと、
2型の中ではインスリン分泌の低下しているSIDDでは、
網膜症の発症リスクがより高く、
腎症についてはそうした関連は有意には認められませんでした。

総死亡のリスクと癌による死亡リスクについては、
5群の間で有意な違いは認められませんでした。

要するに、
網膜症のリスクについては、
インスリンが高度に欠乏した糖尿病において、
高いという傾向が認められましたが、
その生命予後については、
多くの糖尿病のタイプで明確な差はなく、
肥満が高度ではなく軽症の糖尿病の方が、
むしろ心血管疾患による死亡のリスクは高かった、
という意外な結果です。

この議論をするには今回の疫学データは、
その例数が充分とは言えず、
治療による影響など他の要素も検証はされていないので、
軽症糖尿病で心血管疾患による死亡リスクが高かった、
という知見については、
現時点であまり重要視はしない方が良いと思いますが、
糖尿病のタイプにかかわらず、
その生命予後にはあまり大きな差はない、
と言う点については今回の知見は非常に興味深く、
今後のより深い追求に期待をしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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