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七河迦南「アルバトロスは羽ばたかない」 [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は祝日でクリニックは休診です。
明日からはいつも通りの診療になります。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
アルバトロス.jpg
ミステリーは一時期は取り憑かれたように読んでいて、
ミステリーと心中するような感じすらあったのですが、
今では時々読むというくらいになっています。

この作品は最近読んで中段までは結構興奮しました。

ただ、最後まで読むと、
ちょっとどうかな、と感じました。

そもそも物語として成立していないように思うのですが、
多くの方が絶賛されているので、
僕の見方が間違っているのかしら、
と自信がなくなります。

以下、ネタバレはしませんが、
何となく内容が分かるような表現はありますので、
未読の方はご注意下さい。

養護施設の教員を探偵役にしたシリーズもので、
何より文章が抜群に上手くて、
品がありますよね。
新人の2作目とは思えない完成度です。

文化祭の当日に校舎の屋上から転落した、
という事件があり、
それを調査するパートと、
過去の関連するエピソードが交錯するように展開され、
過去のエピソードは、
それ自体が独立したミステリー短編のようになっています。
ただ、謎はあるのですが、
殺人などは起こりません。
事件と言って良い大掛かりなものも1つあるのですが、
後は「日常や心理の謎」というタイプのものです。

短編エピソードもなかなか巧みなのですね。
伏線の張り巡らし方がなかなかで、
マニア向け本格のような、
論理で頭が痛くなるようなところはありません。
「あっ。何となく読んでても違和感があったけど、
実はそうだったのね。上手いね」
という感じです。

そこから次第に、
本筋の事件にフォーカスが当たってゆきます。

ただ、肝心の事件というのが、
屋上から落ちた、というだけのものなので、
登場人物達が持っているほど、
こちらは関心が持てない、というきらいはあります。

そして、ついに事件の真相が分かるということになり、
興奮しながら読み進めると、
「えっ?」
ということになります。

読んだ瞬間は、ビックリしましたし、
凄いな、と思いました。

ただ、良く考えてみると、
それじゃ設定として成立しないのじゃないか、
と思いました。

だって、それが真相だと言うのなら、
それはそもそも事件にならないでしょ。

違うのかなあ、と思って何度か読み返しましたが、
その感想は変わりませんでした。

これをミステリーとして評価するのは、
ちょっとどうかな、と思います。

ただ、それを言い出せば、
中井英夫さんの「虚無への供物」とか、
デタラメで全く辻褄なんて合わないですよね。
それでも、やっぱりあれは傑作なので、
そうしたことで考えれば、
この作品も小説としては充分魅力的なので、
それでいいのかな、とも思いました。

良いミステリーに出逢うというのも、
僕にとってはかけがえのない経験の1つで、
これからも合間を見て、
その世界には浸りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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