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カナグリフロジンの下肢切断リスク [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
カナグリフロジンの下肢切断リスク.jpg
British Medical Journal誌に、
2020年8月25日ウェブ掲載された、
糖尿病の新薬とその有害事象についての論文です。

2型糖尿病の治療において、
最近注目をされている新薬が、
SGLT2阻害剤です。

この薬は腎臓の近位尿細管において、
ブドウ糖の再吸収を阻害することで、
ブドウ糖の尿への排泄を促進する作用を持つ薬です。

この薬を使用すると、
通常より多くのブドウ糖を含む尿が出て、
それと共にブドウ糖が体外に排出されます。

これまでの糖尿病の治療薬は、
その多くがインスリンの分泌を刺激したり
ブドウ糖の吸収を抑えるような薬でしたから、
それとは全く異なるメカニズムを持っているのです。

確かに余分な糖が尿から排泄されれば、
血糖値は下がると思いますが、
それは2型糖尿病の原因とは別物で、
脱水や尿路感染の原因にもなりますから、
あまり本質的な治療法ではないようにも思います。

しかし、2015年のNew England…誌に掲載された、
エンパグリフロジン(商品名ジャディアンス)というSGLT2阻害剤の、
臨床試験結果をまとめた論文では、
偽薬と比較して総死亡のリスクが32%、
心血管疾患による死亡のリスクが38%、
それぞれ有意に低下していました。

この発表は大きな注目を集めました。
これまでの糖尿病の治療薬で、
単独で総死亡のリスクを低下させたり、
心血管疾患による死亡のリスクを低下させるような薬は、
殆ど存在していなかったからです。

続いて2017年のNew England…誌には、
今度はカナグリフロジン(商品名カナグル)という、
SGLT2阻害剤のCANVASという臨床試験の結果が報告されています。
この臨床試験は、
心血管疾患のリスクが高く比較的高齢の患者さんを対象としていて、
エンパグリフロジンと同じように、
心血管疾患による死亡などのリスクを低下させていましたが、
その一方で糖尿病性壊疽による下肢切断のリスクを、
ほぼ2倍に増加させていました。
(年間患者1000人当たり6.3人対3.4人)

このリスク増加をどのように考えれば良いのでしょうか?

今回の検証では、
アメリカの健康保険の医療データを活用して、
SGLT2阻害剤と共に現在注目されている糖尿病治療薬である、
GLP1-アナログという注射薬との比較で、
糖尿病性壊疽による下肢切断のリスクを、
他の条件をマッチングさせて検証しています。

患者は、
グループ1;65歳未満で心血管疾患なし、
グループ2;65歳未満で心血管疾患あり、
グループ3;65歳以上で心血管疾患なし、
グループ4;65歳以上で心血管疾患あり、
の4つのグループに分けて解析しています。

新規にカナグリフロジン、
もしくはGLP-1アナログを開始した、
トータルで310840名の患者が対象となっています。

その結果、
GLP-1アナログと比較した時の、
カナグリフロジン使用時の下肢切断リスクは、
グループ1から3では有意な増加はなかった一方で、
65歳以上で心血管疾患ありのグループ4では、
1.73倍(95%CI: 1.30から2.29)有意に高く、
その差は6か月の治療で、
556名に1名の下肢切断がそのために発症する、
というレベルと推算されました。

このように、
原因は現時点で明確ではありませんが、
リスクの高い患者においては、
カナグリフロジンの使用は下肢切断リスクを、
若干ながら増加させる可能性が示唆されました。
現状、65歳以上で心血管疾患を持っている糖尿病の患者さんでは、
その使用はより慎重に考えた方が良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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