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思春期のうつ病とSNSとの関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は産業医活動に都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
SNSとうつ病.jpg
JAMA Pediatrics 誌に2020年7月15日ウェブ掲載された、
SNSやテレビなどの使用時間の増加が、
思春期の若者に与える影響についての論文です。

SNSやビデオゲームが、
思春期の精神に悪影響を与えるという考え方は、
その使用が広がり始めた時期から、
根強くあります。

特に指摘されることが多いのは、
うつ病との関連です。

確かにSNSで炎上などすれば、
気分は落ち込んでうつになることは、
当然想定されるところです。
ただ、その一方で落ち込んでいて、
SNSで励まされるようなこともありますから、
その影響は決して単純なものではありません。

これまでにも、
テレビやコンピューター、
ビデオゲームやSNSとうつ病との関係については、
多くの疫学研究が報告されていますが、
一定の関連があったというものがある一方で、
無関係という報告もあって結果は一定していません。

今回の研究では、
カナダのモントリオールで、
7学年から11学年(12から16歳)の学生を対象とした、
ドラッグやアルコール依存予防のための、
介入試験のデータを二次利用して、
1日のうちでモニターを見ている時間を、
ビデオゲーム、テレビの通常の視聴、
SNSの利用、コンピューターの通常の利用、
の4種類に分け、
その時間数とうつ症状との関係を、
主に各個人のデータの推移で検証しています。
ある学生のテレビゲームやSNSの使用時間の増加が、
その後のうつ症状の悪化と、
関係があるのかどうかを検証しているのです。

うつ病の症状については、
Brief Symptoms Inventoryという指標を用いて数値化しています。
これはうつ病の症状の各項目について、
0から4に区分して自己評価して点数化しているもので、
点数が高いほど症状が強いことを示しています。
ただ、簡易的な指標で、
うつ病の診断に使用されるような物ではない点には、
注意が必要です。

これまでの同種のデータは、
主にアンケートなどで得た使用時間数や頻度と、
その時点でのうつ病の罹患頻度を、
単純に比較しただけのものが多かったので、
今回のデータは臨床試験の二次利用ではありますが、
元のデータがしっかりと取られているので、
それだけ厳密で精度の高いものになっているのが特徴です。

3826人の思春期の学生を4年間観察した結果として、
まず個別ではなく全体での比較においては、
SNSを利用している時間が長いほど、
うつ病尺度におけるうつ病の症状は強く認められました。
また、同様の関連はコンピューターの通常使用時間についても、
同様に認められました。

一方で各個人での検証では、
前年と比較したSNSの利用時間の増加が、
同じ年のうつ病症状尺度の上昇と有意に結び付いていて、
テレビの通常視聴でも同様の傾向が認められました。

従って、個別の検証でも全体としての検証でも、
SNSの使用時間の増加は、
うつ病症状の悪化と関連が認められました。

仮にSNSの使用時間増加がうつ病症状悪化の原因であるとすれば、
それはどのようなメカニズムによるものでしょうか?

これまでに提唱された仮説は、
主に3つあります。

その1つ目はDisplacement(置換)と呼ばれるもので、
単純に他の運動や読書、友人との直接の交流、
などに向けられるべき時間が、
SNSに向けられることによって減少してしまうことが、
原因であるという説です。

2つ目はUpword Social Comparison(上方社会的比較)と呼ばれるもので、
SNSで自分より優れている人、自分より幸福な人の情報を、
多く得ることにより、
それと自分を比較して劣等感を強く感じ、
それが自己評価や自尊心の低下に結び付く、
という仮説です。

3つ目はReinforcing Spirals(あまり良い翻訳がありません)と呼ばれるもので、
うつ病傾向のある人は、
自分と似通った思考を見ることを好むので、
SNSのそうした情報に依存するようになり、
それがうつ病の悪化に結び付いてしまうという仮説です。

この3つの仮説のうち、
どれが今回の現象を上手く説明出来るかを検証したところ、
1つ目の置換説は否定的で、
2つ目と3つ目の仮説がよりその説明に有効であると考えられました。

つまり、SNSに時間を費やすこと自体が、
悪いということではないのですが、
それが自尊心を低下させる方向に結び付いていたり、
うつ病の症状を助長させるような可能性のある情報に結び付いていると、
うつ病を悪化させる可能性があるという推論です。

今回の検証は、
これまでのものより厳密である点で信頼性が高く、
こうしたデータを元にして、
SNSのどのような利用が危険であるのか、
安全な利用のためにはどうあるべきなのか、
といった点の議論に結び付くことを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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