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小児下痢症に対する低用量経口亜鉛製剤の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
小児下痢に対する亜鉛製剤の効果.jpg
the New England Journal of Medicine誌に、
2020年9月24日ウェブ掲載された、
小児下痢症に対する亜鉛製剤の必要量についての論文です。

小児期特に乳幼児期の急性下痢症状は、
短期間で高度の脱水や電解質異常などが起こり、
重症では点滴など積極的治療を行わないと、
死に至る可能性もある深刻な病態です。

特に医療の整備されていない発展途上国では、
乳幼児の死亡する大きな要因ともなっています。

そこで求められているのは、
安価で家庭でも使用可能な方法による、
急性下痢症の治療法です。

WHOがこの点において推奨している治療が、
OS1のような経口補水液の使用と、
亜鉛のサプリメントの使用です。

亜鉛は貝類などに多く含まれる微量元素で、
その欠乏が味覚障害や下痢を引き起こすことは良く知られています。
亜鉛は発展途上国の小児では不足し易く、
下痢では高度の欠乏状態となるので、
それが小児下痢症の重症化に、
影響しているという可能性が高いのです。
亜鉛自体には抗菌作用や腸管の水分調節作用のあることも分かっているので、
この点からも亜鉛の補充は有効な治療となる可能性があるのです。

これまでの臨床データの蓄積により、
小児の下痢症に亜鉛の補充を行うと、
下痢症状の期間が短縮することがほぼ確認されています。

ただ、WHOが推奨している亜鉛の補充量は、
1日20mgですが、
この量の亜鉛を使用すると、
高率に嘔吐が副作用として起こります。
これは亜鉛の特有の金属としての味と、
胃粘膜の刺激作用がその原因と考えられています。

下痢をしているお子さんは、
当然嘔吐もし易い状態にありますから、
そこで更に嘔吐をし易いサプリメントを飲ませるというのは、
結果として逆効果なのではないかと、
少し疑問にも感じるところです。

それでは、もっと少ない用量で使用することで、
嘔吐を減らして効果を保つことは可能でしょうか?

今回の臨床試験はインドとタンザニアにおいて、
生後6ヶ月から59ヶ月の急性下痢症のお子さん、
トータル4500名をくじ引きで3つの群に分けると、
それぞれ1日5mg、10mg、20mgの亜鉛製剤(硫酸亜鉛)を14日間投与し、
5日を超える下痢症状や排便回数、
使用後30分以内の嘔吐の頻度などを比較検証しています。

その結果、
下痢症状の持続や排便回数は用量を変えた3群で有意な差はなく、
嘔吐については1日5mg群で13.7%、
10mg群で15.6%、20mg群で19.3%で認められ、
5mg群は20mg群と比較して、
嘔吐のリスクは29%(95%CI:0.59から0.86)、
有意に低下していました。

このように今回の検証においては、
1日5mgという低用量の亜鉛の補充も、
従来の20mgと遜色ない治療効果が認められ、
その一方で嘔吐のリスクは3割程度少なくなっていました。

今後こうしたデータを元にして、
小児下痢症における亜鉛の投与量については、
再検証が行われることになりそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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