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「コックと泥棒、その妻と愛人」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
コックと泥棒.jpg
1989年のイギリス・フランス合作映画で、
ピーター・グリーナウェイ監督の代表作です。

グリーナウェイ作品との出会いはこの作品で、
最初にビデオで観たんですね。
オープニングからマイケル・ナイマンの音楽がガンガン掛かって、
あの食事と暴力と性愛が一体化した原色の世界が、
画面にバンと現れるところ、
凄いですよね。

それでこりゃ凄いと一気に惹き付けられて、
物語自体はフィルムノワールと考えれば、
ごくごく普通の展開に過ぎないのですが、
色彩と音楽と構図の魔力でそのまま一気呵成に引きずって、
ラストの決まり具合も凄いです。

これでグリーナウェイに惚れ込んで、
「英国式庭園殺人事件」、「プロスペローの本」、
「ベイビー・オブ・マコン」は映画館で観ました。
申し訳ない。
全部詰まらなかったですね。
単に難解ということじゃなくて、
「こりゃないよ」という感じ。
本当に時間を無駄にした、
自分の不明を恥じるという感じでした。
こんな映画観るために、
生きているんじゃないよな、と本気で思いました。
「プロスペローの本」なんて、
シェイクスピアの「テンペスト」を、
さして工夫もなくそのまま映画にしているんですよね。
何でこんな映画を作ったのか、まるで分かりません。
「ZOO」はビデオで観ました。
趣味的な変態映画で、
同じお話でももう少しどうにかなってもいいのじゃないかしら、
という感じがしました。
ちょっとクローネンバーグみたいでしたよね。

結局「コックと泥棒、その妻と愛人」に匹敵する作品は、
僕の知る限りでは全くなくて、
後は自主製作映画みたいなものが大半でした。

でも、この作品は矢張り凄いと思いますね。
ある意味完全無欠の映画で、
孤高の完成度という感じです。

この人の映画はイメージ勝負なので、
物語は単純で平凡であるほどいいんですね。
もっと他人の原作を、
作り込んだような作品が観たかったという気がしますが、
本人は嫌なのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「バベットの晩餐会」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で午前午後とも石原が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
バベットの晩餐会.jpg
1987年のデンマーク映画でアカデミー外国語映画賞も受賞した、
名作「バベットの晩餐会」です。

これは本当に素晴らしい映画です。
僕は作り手の深い企みに感心し、
とても感動してかなり泣きました。

ただ、ちょっと特殊な設定と思想がベースにあるので、
その点で好みが分かれるところはあると思います。

それでですね、
もしこの映画をまだ観ていない方がいたら、
絶対あらすじなど読まないで、
このブログもここまでしか読まないで、
是非映画を観て下さい。
これね、ちょっと先入観を裏切るんですよ。
それがある意味感動のツボなので、
予備知識はない方が絶対いいんですね。

良かったと思われたら、後を読んで下さい。

面白いと思わなかったら、
そうですね、
1年後くらいにもう一度観て見て下さい。
ひょっとしたら、今度は感動するかも知れません。

これはそんな映画です。

この映画はね、多分年寄り向きなんですよ。
舞台も限界集落で、
老人が年を重ねるばかりで先がないでしょ。
その年寄りがね、
「ああ、無駄に年を重ねてしまった。やりたいことは出来なかった。
本当に好きな人とは一緒になれなかった。
もう身体も自由に動かない。俺って駄目じゃん」
と思うでしょ。
その後悔がね、
別に「コクーン」みたいに若返るのではなく、
何の奇跡も起こらないのに、
すっと一瞬とは言え、消えてしまう。
「ああ、人生って良かったな」と思ってしまう、
そうした出来事を描いた映画なんです。

これ、どういうお話にしますか?

ちょっと想像してみて下さい。
超自然的なことなしでやるんですよ。
とても出来るとは思えないでしょ。

それを易々とやっているのがこの映画です。

凄いですよね。

貴族のおぼっちゃんの軍人の若者がいて、
高名で女たらしのオペラ歌手がいるんですね。
お金持ちで世俗の名声もあるという立場の人。
もう一方にデンマークの海辺の寒村があって、
清貧の中厳格なキリスト教の戒律を守って暮らしている、
美しい姉妹がいるんですね。

2つの世界は全く相容れないし、
2つの世界の住人が、
同じ感情に結ばれるというようなことは、
現実には無理なんですよね。
でも、お互いに相手を求めているようなところ、
いいなあ、と思っているようなところはあるんですね。
丁度肉体と精神のように、
対立しながら惹かれ合っているんですね。
その2つが奇跡的に1つになるのですが、
それを可能にしたのが、
宝くじと高級料理という、
どちらも清貧な世界とは真逆の存在、
というところがこの作品の発想の素晴らしさです。
こんなこと、普通思いつきません。

2つの階層や社会の対立と融和を描きながら、
それを惹かれ合いながら、
結局添い遂げることなく終わった男女の物語に、
重ね合わせている点が感動的で素敵ですよね。
オペラという藝術、高級料理という藝術、
いずれも金持ちの道楽で金持ちに奉仕するという側面がある訳ですが、
その2つの藝術が清貧な生活にある種の価値を与え与え合うという辺りも、
その深い洞察に感心する思いがあります。

映画の最初に描かれる2人の若者、
いずれも俗物でこんな男に姉妹が引っかからなくて良かった、
と観ていて思いますよね。
それが違うんですよね。
この辺りの作劇も絶妙だと思います。

北欧の神秘的なムードも活きていますよね。
食事も古典のフランス料理を再現した本物で、
途中でドン・ジョバンニの二重唱が歌われますが、
これもなかなかいいんですよ。

ラストは色々な捉え方があると思いますが、
もともと最後の晩餐ですし、
「1つの時代」が終わった、
ということでいいのではないでしょうか。

原作は中編というくらいの分量で、
後から読んだのですが、
映画はほぼ忠実に原作を映像化しています。

ただ、受ける印象は少し違います。
原作はもう少し厳しい内容で、
孤高の藝術家の矜持のようなものが強く描かれているのですが、
映画はその点はもっとウェルメイドな感じで、
立場や世界の違う登場人物達が、
一時的には気持ちを通わせているように描かれています。
ただ、小説と映画の立ち位置ということで考えると、
このくらいが丁度良い、という気もします。
台詞はほぼそのまま原作のものが使用されているので、
映画では不明の台詞の意味は、
原作を読むと分かります。

登場する姉妹の父親の牧師は、
キリスト教、プロテスタントのルター派なんですね。
清貧な生活こそ信条なのですが、
有名オペラ歌手が訪ねて来て、
「宗派は?」と訊くと、
「カトリックです」と答えるでしょ。
普通なら、「それなら娘と会うのはお断りだ」と言ってもいいのに、
何も言わずに受け入れてしまうでしょ。
これはね、この人たちは排他的ではないんですよ。
むしろ、カトリックでお金持ち、みたいな人が来ると、
どう接していいのか分からなくて困ってしまうんですね。
「お友達にはなれない人だな。困ったな」
という感じなんですね。
こういう宗教の描き方というのも、面白いですよね。
普通もっと排他的に描きますよね。
そうではない、というところが、
融和的な存在の強さと弱さを同時に描いているというところが、
この作品の1つの肝である、
というようにも思います。

いずれにしても、
好きな方にとっては、
一生の宝物になる映画です。
好き嫌いはあると思いますが、
一度は観る値打ちがあると思いますし、
その人の人生経験によっても、
印象は変わる映画だと思います。

アメリカでリメイクされるそうですが、
ほぼ間違いなく酷いことになると思うので、
封切られても絶対観には行かないつもりです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスの年齢による感染しやすさとACE2遺伝子との関連 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ACEと年齢論文.jpg
JAMA誌に2020年5月20日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルス感染症の年齢分布の謎を、
鼻粘膜のACE2遺伝子発現量で説明した論文です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の感染症は、
小児の感染事例が少ないことが特徴で、
流行の当初は小児の感染事例はないとされていました。
その後感染が全世界に拡大するに至って、
乳幼児を含む小児の感染事例も報告されるようになりましたが、
それでも小児の事例は2%未満(上記文献の記載)という少なさです。

この現象には幾つかの異なった説明があります。

代表的なものは、
小児はこのウイルスに感染しづらいというものと、
感染はするけれども軽症に終わる、
という2つの説明です。

そのどちらが正しいのかについては、
現状正確には分かっていません。

新型コロナウイルスはSARSと同じように、
細胞にあるACE2受容体に結合して、
それを足掛かりに細胞内に侵入して感染します。

これも当初は下気道のACE2にのみ感染して、
肺炎を起こす、というように考えられていましたが、
今では鼻粘膜などの上気道にもACE2が発現していて、
そこにも感染することが分かっています。

今回の研究では、
このACE2の発現に年齢による差があるのでは、
という推測のもとに、
多数例で鼻粘膜のACE2遺伝子の発現を調べ、
その年齢による違いを比較検証しています。

喘息の関連因子を検証するために採取された、
4歳から60歳の305名の鼻粘膜の検体を、
10歳未満、10から17歳、18から24歳、25歳以上、
という4群に分けて、ACE2遺伝子の発現量を比較したところ、
10歳未満の年齢では、
それ以外の年齢区分と比較して、
有意にACE2遺伝子の発現量が低下していました。
それを図示したものがこちらです。
ACEと年齢の図.jpg
このように鼻粘膜のACE2遺伝子発現量は、
18歳くらいまでは年齢とともに増加することが分かります。
この違いは喘息の有無や性差に影響はされませんでした。

つまり、
小児では上気道のACE2が少なく、
そのために新型コロナウイルス感染症に罹り難いのでは、
ということが推測されます。

ただ、気管支肺胞洗浄液によるACE2活性を調べた以前の報告では、
年齢による差は見られなかったという結果が発表されています。

上気道と下気道で発現が異なっているという可能性はありますが、
それは証明されたものではなく、
今回の研究結果は非常に興味深いものですが、
今後別のデータや研究により、
補強される必要はありそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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SARSの抗体の一部が新型コロナウイルスに有効? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
コロナウイルスの中和抗体の交差免疫.jpg
Nature誌に2020年5月18日にウェブ掲載された、
SARS患者の回復後のリンパ球が産生する抗体の一部が、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の中和抗体でもあるという、
興味深い検査結果についての論文です。

ウイルスなどの病原体が身体に侵入して感染を起こすと、
それを排除しようとする免疫の仕組みが働きます。
そして、病原体が排除された回復期になると、
その病原体を速やかに排除するために、
病原体の特徴的な部分に結合する、
抗体というマーカーのようなタンパク質が、
B細胞というリンパ球によって産生されます。

仮にまた同じウイルスが感染を起こそうとして侵入すると、
その抗体が速やかにそこに結合して、
その侵入を許さないのです。

これが抗体がウイルスを排除して、
同じ病気に2度罹らないようにする仕組みです。

個別のウイルスに対しては、
通常そのウイルスにのみ結合する抗体が産生されます。

ただ、ウイルス自体に似通った性質がある場合、
違うウイルスに対しても同じ抗体が結合し反応する、
ということもありえます。

あるウイルスに対する抗体が、
他のウイルスに対しても有効である場合、
これを交差免疫と呼んでいます。

さて、
今回の新型コロナウイルスはSARSの原因ウイルスと、
高い類似性があります。
分類的にも、
同じβコロナウイルスのサルベコウイルス亜属に属します。

上記文献の著者らは、
SARSから回復した患者の血液より、
メモリーB細胞という抗体産生細胞を取り出し、
SARSに反応する抗体の分析を行なっています。

SARSの原因ウイルスに反応する抗体と言っても、
1種類ではなく多くの抗体が存在しているのですが、
その中に他のコウモリなど動物由来のコロナウイルスに対しても、
中和抗体として働くような抗体があることを発見しているのです。

であるならば、
SARSから回復した患者のリンパ球が産生する抗体の中に、
今回の新型コロナウイルスを中和するような抗体も、
あるのではないでしょうか?

そうした推測のもとに、
25種類の主に感染に関わる突起の部位に結合する抗体を解析。
それが新型コロナウイルスの中和抗体として、
働くかどうかを検証しています。

25種類の抗体のうち8種類は新型コロナウイルスにも結合し、
特にS309とネーミングされた抗体が、
新型コロナウイルスの中和抗体として働くことが、
疑似ウイルス中和アッセイという厳密な手法により確認されました。

これは本物のウイルスではありませんが、
それに非常に近い疑似ウイルスを細胞に感染させ、
それを抗体が阻止するかどうかを見ている検査で、
かなり信頼性の高いものなのです。

このS309というモノクローナル抗体を合成して、
投与すれば理屈の上では新型コロナウイルスには感染しません。

勿論新型コロナウイルス感染症自体から回復した患者によって、
同様の検証を行なえばより確実であるのですが、
その検証の手がかりにもなる訳です。

抗体と簡単に言いますが、
実際にはウイルスの結合部位に対する抗体も、
SARS原因ウイルスにおいて20種類以上も同定されていますから、
どの抗体が確実にウイルスの中和に働くのか、
それともあまり働かないのか、
ワクチンの開発も含めて、
その辺りの検証はそう簡単なものではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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低ナトリウム塩の健康効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は事務作業の予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ナトリウム減少塩と健康.jpg
2020年のBritish Medical Journal誌に掲載された、
低ナトリウム塩の活用効果を数理モデルで検証した論文です。

過度な塩分制限には異論もありますが、
現代人が塩分を必要以上に多く摂っていることは事実で、
1日10グラムを超えるような塩分の摂取が、
高血圧や脳卒中、虚血性心疾患、慢性腎臓病、
胃がんなどの病気のリスクを増加させることは、
多くの精度の高い疫学データや臨床データによって、
実証された事実です。

健康な食生活として、
そのため適度な減塩が重要であることは、
これも間違いがありません。

ただ、味覚というのは習慣的な部分が大きく、
また文化的な側面もあります。
昔の人間は今より運動量が多く、
塩分も多く喪失していました。
食事も保存の利くものが重宝されたので、
自ずと塩分濃度の高いものが好まれたのです。

それを変えることはなかなか困難です。

最近無理なく減塩を達成するための方法として、
注目されているのが「低ナトリウム塩」です。

これはどういうものかと言うと、
塩化ナトリウムが主体の通常の塩の、
一部を塩化カリウムに変えてしまいます。

そうすると、
通常の塩より、
ナトリウムは大きく減少して、
カリウムが増加する、
ということになります。

実は塩化カリウムも味としては塩辛く感じるので、
それほど違和感なく、
普通の食塩の代わりに使用することが出来るのですね。

カリウムはナトリウムの排泄を促すので、
ナトリウム自体の含有量が少ないことと、
ナトリウムの排泄が促されることの相乗効果で、
減塩効果がもたらされるということになります。

日本においても複数のメーカーから、
この低ナトリウム塩が販売されています。

それでは、通常の食塩をこの低ナトリウム塩にすることで、
どのくらいの健康効果が期待されるのでしょうか?

1つ危惧されるのは腎機能低下がある場合で、
進行した腎機能低下があるとカリウムの排泄が低下するので、
高カリウム血症になりやすく、
その段階では低ナトリウム塩を使用することで、
むしろ高カリウム血症が増悪する、
という可能性も否定出来ません。

そこで今回の研究では中国において、
慢性腎臓病を持つおよそ1700万人に対して、
通常の食塩を、
その20から30%を塩化カリウムに置き換えた、
低ナトリウム塩に変更することで、
心血管疾患のリスクがどのように変化するのかを、
これまでの疫学データや臨床データを基にした、
数理モデルを使って解析しています。

今流行りの「ビッグデータからAIが予測した」という解析に近いものです。

その結果、
低ナトリウム塩を活用することにより、
総人口を対象とした場合、
年間で461000人の心血管疾患による死亡が予防され、
これは心血管疾患による死亡を、
11%抑制することに匹敵すえると想定されました。
その一方で低ナトリウム塩で誘発される高カリウム血症により、
年間約11000人が死亡するという可能性があります。
これを差し引きして、
年間45万人の死亡が予防され、
慢性腎臓病のある対象者に限ると、
年間で21000人の死亡が予防されます。
これは慢性腎臓病の対象者の心血管疾患による死亡のうち、
8%を抑制したということになります。

このように、
トータルでみて低ナトリウム塩の使用は、
心血管疾患のリスク低下において、
非常に有効な方法である一方、
高カリウム血症のリスクが想定される対象に対しては、
慎重に行う必要があり、
今後どのようにその使用を広げるべきか、
議論が必要であると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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クロロキン製剤治療の新型コロナウイルスに対する有効性(患者レジストリ解析) [医療のトピック]

(注意)本記事で紹介している論文は、 2020年6月4日撤回されています。 (2020年6月7日午後5時記載追加)

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンの実世界での有効性.jpg
Lancet誌に2020年5月22日にウェブ掲載された、
クロロキンとヒドロキシクロロキンによる、
新型コロナウイルス感染症治療の有効性を、
大規模な患者レジストリ解析という手法で、
世界規模で検証した論文です。

患者レジストリ解析というのは、
疾患により登録した通常臨床のの患者データを、
ある治療の有無などで分けて解析する手法で、
主に厳密な介入試験などの実施が困難な場合に、
その代替として施行されるものです。

新型コロナウイルス感染症は、
まだその予防や治療法が確立しておらず、
急激に悪化して死に至る事例もあるので、
偽薬を使うような介入試験を行うことは困難で、
そのため治療の評価としては、
この患者レジストリ解析が主流になるようです。

クロロキンとヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬ですが、
新型コロナウイルスに対する抗ウイルス作用と免疫調整作用が期待され、
単独もしくは免疫調整作用のあるマクロライド系抗菌剤との併用で、
その試験的な使用が世界的に行われています。

ただ、その実際の有効性については、
これまでにも何度か記事にしたように、
あまり明確な有効性が示されていません。
また、特にマクロライドとの併用により、
重篤な不整脈の発生のリスクも危惧されています。

今回の検証では世界6大陸の671の登録施設における。
トータルで96032名の新型コロナウイルス感染症の入院事例を、
患者レジストリ解析の対象としています。
そのうち14888名は治療群で、
その内訳は1868名はクロロキン単独、
3783名はクロロキンとマクロライドの併用、
3016名はヒドロキシクロロキン単独、
6221名はヒドロキシクロロキンとマクロライドの併用です。
クロロキン製剤未使用のコントロール群は81144名です。

性別年齢体格などの因子を補正して解析した結果、
コントロール群の死亡率(9.3%)と比較して、
クロロキン群の死亡率16.4%は1.365倍
(95%CI:1.218から1.531)、
クロロキンとマクロライド併用群の死亡率22.2%は1.368倍
(95%CI:1.273から1.469)、
ヒドロキシクロロキン群の死亡率18.0%は1.335倍
(95%CI:1.223唐1.457)、
ヒドロキシクロロキンとマクロライド併用群の死亡率23.8%は1.447倍
(95%CI:1.368から1.531)、
それぞれ有意に増加していました。

要するに未治療と比較して、
クロロキン製剤を使用する治療を行った方が、
入院中の死亡リスクが高く、
マクロライドとの併用でそのリスクはより増加する、
という結果です。

この原因として想定されるのは、
心臓への影響に伴う致死性の不整脈ですが、
入院中の新規発生の心室性不整脈の発症リスクが、
コントロール群(0.3%)と比較して、
クロロキン群では4.3%で3.561倍
(95%CI:2.760から4.596)、
クロロキンとマクロライド併用群では6.5%で4.011倍
(95%CI:3.344唐4.812)、
ヒドロキシクロロキン群では6.1%で2.369倍
(95%CI:1.935から2.900)、
ヒドロキシクロロキンとマクロライド併用群では8.1%で5.106倍
(95%CI:4.106から5.983)、
それぞれ有意に増加していました。

これをもって、
単純に不整脈の発症と死亡リスクの増加を結び付けることは出来ませんが、
いずれにしてもクロロキン製剤を新型コロナウイルス感染症に使用する試みは、
今後余程肯定的なデータが出ない限り、
今回の発表をもってほぼ完全に治療の選択肢からは除外された、
と言って間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルスに対するアデノウイルス5型ウイルスベクターワクチンの効果 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アデノウイルスベクターの有効性.jpg
Lancet誌に2020年5月22日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対する、
ウイルスベクターワクチンの、
中国での臨床試験結果をまとめた論文です。

査読された雑誌に掲載されるものとしては、
おそらく最初の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験結果です。

世界各国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の、
ワクチン開発が行われています。

今回ご紹介するのは、
中国が国策として推進しているプロジェクトの1つで、
アデノウイルス5型を用いたウイルスベクターワクチンです。
中国政府とカンシノバイオロジクス社というバイオ企業の共同研究です。

ウイルスベクターワクチンというのは、
他の無害なウイルスの遺伝子の一部に、
目標とするウイルスの遺伝子を取り込ませて、
それを人間に感染させることにより、
免疫を誘導しよう、という手法のワクチンです。

アデノウイルス5型というのは、
風邪ウイルスの一種で人間にも感染しますが、
無症状か軽い風邪症状のみで治癒します。
それを利用して新型コロナウイルスの免疫を、
同時に付けてしまおう、という方法なのです。

中国はこの手法を用いたエボラワクチンを開発していて、
臨床試験においても一定の有効性と安全性を得ています。

ただ、エボラに対しては多くのメカニズムによるワクチンが、
世界中で開発され臨床試験が行われていますが、
まだスタンダードに使用出来るようなワクチンはないようです。
かなりリスクが高いようなワクチンや、
成功する可能性も低そうなワクチンが、
アフリカでは次々と臨床試験がされていて、
言葉は悪いですが世界中のワクチンメーカーが、
ワクチン開発の実験場として、
エボラとアフリカを利用しているような側面もあります。

それはともあれ…

中国はエボラで同じタイプのワクチンの製造に成功しているので、
運ぶ遺伝子を新型コロナウイルスの抗原に変えるだけで、
比較的簡単にワクチン製造に着手出来たようです。
使う抗原遺伝子としては、
ワクチンの突起(スパイク)を構成する、
糖蛋白の遺伝子が利用されています。
これはスパイクの細胞との結合部位に対する抗体が、
新型コロナウイルスの中和抗体である可能性が高いからです。

この臨床試験はワクチンの容量設定と安全性、
そして接種による免疫反応を確認するためのもので、
偽ワクチンなどによるコントロールはなく、
被験者を3つの用量接種群に分けて、
その比較を行っています。

195名の中国武漢市在住の市民で、
新型コロナウイルス感染症の罹患歴がなく、
抗体検査でも陰性が確認されている108名を、
低用量群、中用量群、高用量群の3群に分け、
1回ずつウイルスベクターワクチンを接種して、
接種後28日の時点での抗体上昇や細胞性免疫の賦活作用を、
比較検証しています。

その結果、受容体結合部位に対する抗体の、
接種前より4倍以上の上昇は、
低用量群でも97%、高用量群では100%に認められました。
中和抗体の上昇について見ると、
接種前より4倍以上の上昇は、
低用量群では50%、中用量群では50%、
高用量群では75%に認められました。

接種に伴うT細胞の活性化は、
接種後14日をピークとして認められました。

有害事象については、
接種部位の疼痛が最も多く54%に認められ、
発熱が46%、倦怠感が44%、頭痛39%、筋肉痛17%と続いていました。
高熱や倦怠感、筋肉痛が出現するのは、
接種後24時間以内で、
48時間以上継続したケースは認められませんでした。

このワクチンはアデノウイルス5型を元にしているので、
接種前のアデノウイルス5型の抗体価が高いかどうかが、
その有効性や安全性に影響するという可能性があります。
今回の臨床試験においては、
高熱などの接種後の有害事象は、
アデノウイルス5型の抗体価が高い事例では少なく、
一方で中和抗体の陽性率は、
アデノウイルス5型抗体が高力価では低くなっていました。
つまり、アデノウイルス5型の感染の既往があると、
このワクチンの有効性は低くなってしまう可能性があります。

このタイプのワクチンは、
有害性の少ないウイルス自体を接種する形式なので、
安全性は高いと想定されます。
ただ、元のウイルスの免疫に影響されるという点が欠点です。
また、新型コロナウイルスの、
一部の抗原遺伝子しか使用していないので、
中和抗体が28日の時点で上昇したとしても、
それが本当にその後の感染予防に有効であるかどうかは、
現時点では分かりません。
中和抗体の陽性率もそれほど高いとは言えません。

今後実際により多くの対象者にワクチンを接種して、
その感染予防効果を検証するような臨床試験に移ると思われるので、
その結果を注意深く見守りたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「北北西に進路をとれ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
北北西に進路をとれ.jpg
ヒッチコックの代表作の1つ「北北西に進路をとれ」です。

ヒッチコックは言わずと知れたサスペンスの巨匠ですが、
その作品のどれが好きか、というのは、
好みが分かれるところだと思います。

1960年に「サイコ」が公開されて、
この映画はサスペンスやホラーの歴史を、
大きく塗り替えた訳ですが、
作品自体はヒッチコックとしては凄い異色作ですね。
ホラーに近いタッチのものですが、
「サイコ」以外にそうしたタッチのものは、
「フレンジー」がそれに近い感じはありますが、
成功はしていませんし、
他にはあまりありません。

また意外性のあるミステリーのようなものを期待しても、
それも「サイコ」以外にはあまり類例がありません。

まあ「めまい」があるのですが、
これも唯一無二といった感じの作品で、
意外性のあるミステリーというのとは違うのですね。
心理的スリラーというのか、
異常心理映画とでも言うべきものです。

「鳥」というのがまだ独自のタッチのパニック映画で、
これも映画界に大きな影響を与えた、
唯一無二の映画ですね。

そう考えると、
「サイコ」も「めまい」も「鳥」も、
他の何にも似ていない、孤高の映画、
という感じです。
そのどれもが多くの模倣作を生み、
間違いなく現在の映画に強い影響を与えています。
この3本がなければ、
今の娯楽映画の殆どは成立していない、
と言っても良いくらいです。

ただし…

ヒッチコックの本領が何処にあるかと言うと、
戦前の「逃走迷路」辺りから始まる、
善良な主人公がなんだか分からないうちに、
悪者に追われるようになり、
それから追いつ追われつの逃避行が繰り返される、
というようなパターンの、
ヒッチコック流活劇娯楽映画です。

こっちは「海外特派員」とか「知り過ぎた男」とか、
ともかく沢山作っているんですよね。

どれも似たり寄ったりと言えなくもないし、
今の感覚から言うと、
まったりのったりとしていて、
スリルとかサスペンスというようなイメージとは、
かなり異なっています。

でもヒッチコックならではの技巧があり、
他の誰にも真似出来ない映像表現があって、
一旦その世界に囚われると、
同じ映画を何度観ても面白い、
という感じはあります。

カルト的な癖になる世界なんですね。

その中でも最高傑作と言って、
そう文句が出ないのがこの「北北西に進路をとれ」で、
これはヒッチコック型娯楽映画の総集編的な作品です。
ともかく最初から最後まで、
あれよあれよという感じで絢爛たる映画技巧が繰り出され、
その意味ではマニアにとっては息を吐く暇もありません。
それでいて映画の物語自体は、
さして語るほどのものもないし、
内容ものんびりしていて、
観終われば取り立てて何も残らない、
という感じの映画です。

これで映画として良いのか、
というのは疑問に感じる部分もありますが、
ヒッチコックの代表作として推奨出来る名作で、
内容はほぼないに等しく、
ひたすら映画技巧に酔うという、
ヒッチコックならではの世界が堪能出来ます。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は土曜日で、
午前午後とも須田医師が外来を担当する予定です。

土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ブルジョワジーの秘かな愉しみ.jpg
ルイス・ブニュエルの代表作、
「ブルジョワジーの秘かな楽しみ」です。

ルイス・ブニュエルはスペイン出身の映画監督で、
独特のアクの強さとブラックユーモアに彩られた作風は、
中毒性があり、唯一無二の個性があります。

何度か回顧上映や特集が日本でも行われていて、
そのうち千石の三百人劇場で行われた回顧上映に、
何度か足を運びました。
これも多分高校生の時だったと思います。

「皆殺しの天使」と「銀河」が初上映だったのかな?

両方ともその時に観たのですが、
これはあまりピンと来なかったですね。

キリスト教がベースになった奇想なので、
キリスト教に馴染みがないと、
どうもピンと来ない部分があるんですね。

「皆殺しの天使」というのは、
パーティーの後で何故か屋敷から、
外に出ることが出来なくなってしまう参加者の話で、
ラストは一旦外に出られたものの、
今度は教会から出られなくなってしまう、
というオチでした。

シュールで面白そうでしょ。
でも、実際にはそう面白くはなかったんですね。
割とリアルな描写なので、
不条理に外に出られないという現象が、
映像的に面白くないんですね。
思いつきは面白いんだけど映像的には面白くならなかった、
という感じの作品でした。

「銀河」の方はモロにキリスト教のパロディなので、
これもちょっと駄目でしたね。

ブニュエル駄目かな…と思っていたのですが、
この「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」は面白かったですね。
こんなに面白くていいのかしら、
と思うくらい面白くて、
ブニュエルの真価を感じました。

これね、あるお金持ちの一家が、
食事をしようとすると、結局食べることが出来ない、
というエピソードを連ねた映画なんです。

その都度色々な理由で、色々なものを食べられないのですが、
それを変奏曲のように繰り返してゆくのです。

まあ、発想は「皆殺しの天使」とも同じなんですね。
欲望は常に満たされない、
という人生の本質を描いているのですが、
「皆殺しの天使」の方はシチュエーションが1つしかなくて、
描写もリアルなので面白くならないんですね。

この映画の場合は、
「美味しいものがあるのに食べられない」という状況が、
ビジュアルにも訴え掛けるものがあることと、
オムニバスの形式で演出もバラエティに富んでいるので、
飽きさせないですし、
後半になると相乗効果で物語が膨らんでゆくんですね。
この類稀な面白さは、
是非観て体験して下さい、としか言えません。

モンティ・パイソンのコントにも似たセンスですが、
同じ時代ですし、
おそらくヨーロッパにはその頃、
こうした自虐的に自分達を嗤うような、
そうしたセンスがあったんですね。
モンティ・パイソンに、
ちょっと「藝術」というスパイスを振りかけると、
この映画になる、という感じです。

アイデア自体は誰でも一度は思いつくようなものなのですが、
それを1本の長編映画として成立させるのは、
それはもう生半可な腕では出来ないですね。
映画史を眺めても、
こうした発想の映画が、
これだけ高いレベルで作られたことは、
あまり類がないと思います。

あまりこれまで観たことのない、
不思議で面白い映画が観たいという方には、
とてもお勧めの1本です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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新型コロナウイルス感染症に対するヒドロキシクロロキンの効果(フランスの観察研究) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療には回る予定です。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
ヒドロキシクロロキンの臨床効果(フランス).jpg
British Medical Journal誌に2020年5月14日ウェブ掲載された、
新型コロナウイルスに対するヒドロキシクロロキンの有効性を検証した、
フランスでの観察研究の結果をまとめた論文です。

これは5月18日にご紹介した中国の多施設臨床試験と、
セットで同じ紙面に載ったものです。
本当は同時に紹介した方が良かったのですが、
事情あってバラでのご紹介となります。
ただ、ほぼほぼ結論は一緒です。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療には、
多くの薬剤が試みられていますが、
その中でも世界的にその有効性が期待され、
一定の臨床データも存在している薬の1つが、
リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキン硫酸塩です。

アメリカのトランプ大統領はこの薬を何故か気に入っていて、
自らも「予防のため(?)」に内服している、
という報道がありました。

クロロキンはマラリアの治療薬として合成されたもので、
マラリアに有効性がある一方、
心臓への毒性やクロロキン網膜症と呼ばれる、
失明に結び付くこともある目の有害事象があり、
その使用は慎重に行う必要のある薬です。

ヒドロキシクロロキンはクロロキンの代謝産物で、
マラリアの診療に使用されると共に、
関節リウマチやSLEなどの膠原病の治療にもその有効性が確認され、
使用が行われています。
日本ではもっぱらこのヒドロキシクロロキンが、
膠原病の治療薬として保険適応されて使用されています。
その有害事象は基本的にはクロロキンと同一ですが、
その用量設定はマラリア治療よりずっと少なく、
有害事象も用量を守って適応のある患者さんが使用する範囲において、
クロロキン網膜症以外の有害事象は少ない、
というように判断されています。

クロロキンが膠原病に効果があるのは、
免疫系の活性化を抑えて、
免疫を調整するような作用と、
ウイルスの細胞との膜融合と取り込みを阻害する、
抗ウイルス作用によると考えられています。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)と言う抗菌剤と、
併用されることがあるのは、
アジスロマイシンにも免疫調整作用があるので、
その相乗効果を期待している、ということのようです。

この治療が注目されたのはフランスで、
少人数の臨床試験において画期的な治療効果があった、
という報告があったからです。
ただ、別個に行われた臨床試験においては、
同様の結果は再現されていません。

またヒドロキシクロロキン単独の効果については、
以前査読前の論文をご紹介しましたが、
そこでは62名の患者さんを2つの群に分けて、
一方にヒドロキシクロロキンの投与を行ない、
症状改善までの期間が2日程度短縮した、
という結果が報告されています。
ただ、単独施設の結果ですし、
長期の予後や治癒を見たものではないので、
それでクロロキンの有効性が認められた、
とは言い難いものでした。

先日ご紹介した中国の複数施設の報告は、
偽薬を使用したような厳密な方法ではありませんが、
くじ引きで患者を分け、
PCR検査の陰性化を指標としているので、
これまでの研究の中では最も厳密な方法によるものでした。
対象は中国国内の16の病院に入院した、
新型コロナウイルス感染症の軽症から中等症の患者150名です。

軽症というのは発熱や咳などの症状はあるものの肺炎はない事例で、
中等症というのは肺炎があるものの、
呼吸不全のような状態ではなく、
動脈血酸素飽和度は94%以上に保たれているものです。
これまでの臨床試験は、
ほぼ肺炎患者のみを対象としていましたから、
より軽症の患者を対象としているのがこの研究のポイントです。
新型コロナウイルス感染症の診断はPCR検査で確認されています。
その結果はPCRでの陰性化率においても、
症状改善までの時間においても、
両群で明確な差は認められませんでした。

つまり、ヒドロキシクロロキンの有効性は、
実証はされませんでした。

今日ご紹介する臨床データはフランスの4か所の病院のもので、
患者を最初に登録するような試験ではなく、
後からデータを確認して、
新型コロナウイルス肺炎と診断されて入院した患者のうち、
酸素療法が必要な状態であった、
入院から48時間以内に1日600㎎のヒドロキシクロロキンが使用された84名を、
使用されなかった89名と比較し、
入院後21日の時点での予後を比較検証しています。

その結果21日の時点の患者の予後には、
ヒドロキシクロロキンの使用と未使用による違いはなく、
心電図変化などの循環器系の有害事象は、
ヒドロキシクロロキンの使用群で多く認められました。

このように、ヒドロキシクロロキンの有効性を、
いち早く主張したフランスにおいても、
観察研究としてデータを取ってみると、
どうもあまり思わしい結果が得られていません。

偽薬を使用するような厳密な臨床試験はまだ行われていないので、
真の意味での有効性が今後明らかになる、
という可能性はゼロとは言えませんが、
現状積極的に治療薬として使用する根拠は、
科学的なものはあまりないと、
そう考えて大きな間違いはないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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